黒夜行

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少女病(吉川トリコ)

内容に入ろうと思います。
本書は、母親と三姉妹を描いた連作短編集。かつて一世を風靡した少女小説家で、今ではノベライズなんかを時々手がけるだけの母親・織子。父親がいなく、母親の織子が家事一切を放棄する家で、家族の面倒を取り仕切ることで人生の大半を過ごしてきた長女・都。売れない漫画家を恋人に持ち、自身は特に働くでもないまま30歳まで生きてきた次女・司。美しい容姿を持ちながらどうしようもなく普通で、一人だけ年の離れた子供である三女・紫。

「長女・都」
病院に行くと、「少女病」に掛かっていますね、と診断される。少女病?そんな病気あったんだっけ?先生曰く、男と付き合うとすぐに治るらしいんだけど。
これまで男性と付き合ったことがない。というか、男の人は苦手だ。都の中では男というのは少女小説の中の登場人物のようでしかなく、現実の男というのはよくわからないのであった。普通三十も超えれば、みんなそういうことは普通に分かるものなのかしら?
ぎっくり腰をやって、たまたま行った治療院で、若い(と言っても自分と同年代)男に触れられ、なんだかその耳障りのいい声に惹かれている自分に気づく。でも、だからって、どうしたらいいんだろう?

「次女・司」
真山のところに行っても、どうにも休まらない。どうも真山はピリピリとしているようだ。うっかりとは近づけない。何かあった?って聞いても、特に答えてくれるわけでもない。でも真山は、司が初めて惚れた男だ。付き合ったことも、セックスしたことも、ないわけじゃない。でもそれまでは、適当にくっついてすぐ分かれるような、そういう恋愛ばかりだった。
周りがどんどん結婚していって、久美子まで結婚するらしい。織子に招待状を隠されていて、返信が欲しいって電話があってそれに気づいた。みぃちゃん(都)も、見合いの日からなんだか変わった。結婚することが女の幸せなんだろうか、本当に。

「三女・紫」
自分がどうしようもなく普通だっていうことには、もうずっと前から気づいている。キレイなのに残念、と言われていることも知っている。自分の容姿に気を遣うことにあまり興味を持てないのだ。
みぃちゃんがお見合いの日以来変わってしまって、なんだか残念。紫は、まだ恋をしたことがない。でも、織子の話を聞いて、なんだかそういうものに強い何かを感じられないでいる。図書館で声を掛けられた丸地のような男はこれまでもたくさんいたけど、なんだかよくわからない。
太郎だけは別だ。
太郎が他の男と違うのは、紫が太郎に会いたいと思っている、ということだ。紫が会いたいと思う時に、何故か太郎はそこにいる。
太郎は、たらしだ。それに気づけない紫ではない。太郎が色んな女性にその笑顔を向けていることも知っている。それでも紫は、太郎のことがずっと気になっている…。

「母・織子」
家事全般を担っていた都が結婚することになって、家を出てしまう都の代わりに、家事をみんなで分担しよう、と言い出したのは紫だ。面倒くさい。それに、学級会みたいに多数決なんて取り出すもんだから、やってられない。
今まで付き合いのなかった出版社の編集者から、自伝風の小説を書いてもらえないか、と依頼がある。確かに織子の人生は、小説に出来るだけのネタに溢れている。それでも、どうにも織子は乗り気になれない。小説を書くことは織子にとって、現実を見ないでいる手段の一つなのだから…。

というような話です。
なかなか面白い作品でした。僕が読みながら連想したのが、江國香織の「思いわずらうことなく愉しく生きよ」です。そっちの内容ははっきりとは覚えていないんだけど、確かそっちも三姉妹の作品だったような記憶があります。しかも本書と同じく、結構トリッキーな三姉妹の。
女って面白いなぁ、と個人的には思ってます(普段僕は、特に文章で書く時は『女性』って単語を使う方が多いんだけど、今回は作品的に『女』って表記の方がしっくりくるんでこっちを使います)。女って、一人でいる時と複数集まった時で全然違う。複数の女が集まることで、なんか男には理解出来ない化学反応が起こるみたいなんですね。だから女は、誰と一緒にいるかで本当に違う姿を見せる。
もちろん女は、男の前でも違った姿を見せるのでしょう。でも、男に見せる面ってのは、ただの一面だと思うんですね。それがどんな男であっても、自分の中の『これが男に見せる面』っていう、ただ一種類の面だけが表に出てくる、というのが僕の印象です。
でも、女同士が集まると違う。意識的なのか無意識的なのかそれは判断できないけど、女はどの女と同じ空間にいるかで、見せる面が全然違う。僕には化学反応としか表現しようのないその変化は、それぞれの個性が強ければ強いほど、余計に大きな変化を見せる。
本書は、そんな個性の強い女同士が同じ空間にいる時、どこでどんな面が現れるのか、そんなカタログのような小説なんじゃないか、と僕は思いました。都・司・紫・織子の組み合わせって11通りあるんだけど(場合の数とか苦手なんだけど合ってるよなぁ)、その11通りそれぞれについて、誰がどんな面を見せるのか。くるくると変わる万華鏡のように移ろうその姿がめまぐるしく描かれているような感じがあって、やっぱりどうしても男の僕には追いつけない部分があるものの、なかなか面白いなぁ、と思いました。
個人的に一番惹かれるのは紫ですね。物凄く整った容姿なのに、図書館に部屋着同然の格好で行き、首に新聞社のロゴが入ったタオルを掛けている、とかマジ最高過ぎますね。そういう、自分がどう見られるのか自覚的でありながらそれを自分の中で無視出来るっていうのは、僕は強く惹かれるんでありますなぁ。
都もなかなかいいですね。恋をしたことがない、男がどういう存在かっていうのは少女小説からのイメージしかない、っていうのはちょっと恐ろしい気もするんだけど(笑)、その状況を特別焦るわけでもなく(まあ、家族の世話があるから、という都なりに強い言い訳があったから焦らずにいられた、ということかもしれないけど)、ゆるりと過ごしているのもいいですね。僕は本作中で一番好きな場面は、紫の章で描かれていた『みぃちゃん、あたし今日徹夜なの』ってシーンなんだけど、あの場面での紫と都は良かったなぁ。
司については、あまり強く何かを感じられる対象ではないんだけど、司の章の冒頭で書かれている、司が編集者に迸出したマンガのネームのうだうだした文章が凄く好きですね。『なんでしあわせになんなきゃいけないの?』っていうのは、僕もホントそうだよなぁ、といつも思っています。『しあわせじゃなきゃ人間じゃないって必死すぎ。悪いけど、ぜんぜんしあわせそうに見えないよあんたたち。』うんうん、その通りだと思うんだよなぁ。
母親の織子については、ちょっとなんともいえないのだけど、まあ織子の存在があったからこそ、これほどまでに謎めいた空間(三姉妹+母親が住む城)が生まれたのだなぁと思うと、まあそれだけで充分かな、という気はします。織子についてじゃ、最後の方に出てきたこのフレーズ、
『でもしょうがないじゃないか、とも思うのだった。居直るわけじゃなけど、最初からなんでもうまくできる人間などいないように、母になるのも妻になるのも――それどころか生きるのも女をやるのも、私たち、これがはじめてなんだもの。うまくできなくてあたりまえなのだ。』
って言い訳は、僕も常に使いたいなぁと思っているところなのでありました。
やっぱりどうしても女性向けの作品だろうとは思います。冒頭の都の章の初めがチェックシートになっていて、それに当てはまると少女病なんだそうですよ。まあ、みんながみんな大人になる必要もないんじゃないかなと、昔から思っていたようなことを再確認出来た作品だなという感じがします。女性のみなさん、是非読んでみてください。




吉川トリコ「少女病」
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6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
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9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
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19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
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2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
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10位 「量子力学の哲学

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1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)