黒夜行

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ロボットが日本を救う(岸宣仁)

内容に入ろうと思います。
本書は、徐々に社会的な需要が高まってきており、日本のみならず世界各国で熾烈な開発競争が進んでいる『ロボット』について、日本の現状や大きな課題、今後の展望、また諸外国の動きや日本のからくり人形からの流れなど、様々な方面からアプローチしている作品です。
序盤から中盤に掛けては、ロボット先進国と呼ばれる日本におけるロボット作りの最先端に触れられるような内容になっています。福島原発内で作業をした、階段も50度以上の傾斜も登ることが出来る作業ロボット、避難所で活躍した癒しロボット「パロ」、鉄腕アトムをつくれと言われて開発に着手した「アシモ」、その他、介護や手術、娯楽と言った分野で最先端を走る日本のロボット技術について、どういう部分が日本のオリジナルであり、他国のロボット事情とどう違うのか、また日本のロボットが国内だけではなく海外で(時には日本以上に海外で)評価されているという事実なんかにも触れつつ、からくり人形からの流れを汲む、他国とは違った設計思想を持つロボット事情を追って行きます。
そして中盤以降は、日本のモノづくりがさらされている国際的な脅威、というものが中心になって語られます。
それは、『知能化』と『国際標準』という二つの側面から語ることが出来る。
『知能化』というのは、エアコンが部屋の中の人の存在を能動的に感知して設定温度を変えるとか、美味しいご飯が炊ける炊飯器とか、そういうただの家電ではないプラスアルファの性能を持った機械たち。『知能化』というのはそういうものを指します。
そしてこの『知能化』を実現するのは、ハードではなくソフトです。そして日本は、ハード作りは上手いのだけど、ソフト開発ではまだまだ欧米から(特にアメリカから)大きく立ち遅れてしまっている、というのが現状です。国内のロボット研究者に聞いても、若干の意見の相違はあれど、やはりみな、ロボットはハードの戦いではなくソフトの戦いになっていく、という認識を持っているようです。
そしてもう一つの『国際標準』。こちらの方がより深刻です。
モノづくりがハイテク化していく中で、国際的に規格を合わせようという動きが必然となっていき、モノづくりの現場では今、国際的な規格を勝ち取ることが出来るか、というのが最大の問題になりつつあります。
これは、携帯電話を例に取ると非常に分かりやすい。一時は、世界の携帯電話市場のほとんどを独占していた日本企業は、しかし国際標準の戦いに敗れ、今では市場の3%を占めるばかり。ガラパゴスと呼ばれて久しいけれども、あれは国際標準獲得の失敗による衰退だったのだそうです。
この二つが、モノづくりの根本を変えてしまった。その中で日本はいかにして戦っていくのか。そのモノづくりの最前線について書かれています。
というような内容です。
なかなか面白い作品だなと思いました。日本のロボットといえば「アシモ」ぐらいしか知らなかった僕だけど(欧米では、癒しロボットの「パロ」が凄く高い評価を受けていて、ギネスにも載ったりしているらしいんだけど、ちゃんとは知らなかったなぁ)、本書を一冊読むと、ロボット開発の現状についてかなり詳しく知れるのではないかと思います(あくまで現状だけで、ロボット開発の歴史みたいなものんはほとんど触れられていませんが)。
冒頭でいきなり、福島原発内で作業した「クインス」というロボットの話が出てくるんだけど、この開発にまつわる話は非常に興味深い。クインスは、米国製の作業ロボットより遥かに高性能であるにもかかわらず、米国製の作業ロボットが事故から一ヶ月後から内部での作業を開始したにも関わらず、「クインス」はそれに遅れること三ヶ月後に実戦投入となったのでした。
その最大の理由が、放射線に対する備えがクインスにはなかったからです。日本はたくさんの原発を抱える国であるにも関わらず、放射線に対する備えのあるロボットが作られていなかった。
そしてその背景には、政治的な問題がある。実は日本でも原発用ロボットの開発が検討されたことが二回あったのだけど、企業が超特急で基礎開発を終えた時点で、東京電力らからなる「実用化評価検討会」が、原発は安全だから原発用ロボットを作る必要はない、と言ってこの計画は打ち切りになってしまったんだそうです。ロボット開発に於いても、東京電力の罪は重いのでした。
ホンダが開発した「アシモ」と、江戸時代のからくり人形「弓曳童子」の話は非常に面白いと思いました。弓曳童子は、4本の矢を射るからくり人形だけど、かならず一本は失敗する。欧米で作られてきたからくり人形は、いかに正確に動作するかを競うものが多かったのだけど、日本のからくり人形は、失敗をさせることで大衆に受け入れられるように進化してきた歴史があり、その違いこそが、家庭内でのサービスロボットという分野の開発に関して、日本が最も有利と言えるDNAなのではないかという話が出てきます。アシモの開発者もその弓曳童子の思想からヒントを得て、アシモの開発に活かしているわけです。
ところでアシモ開発についてはこんな話も。ホンダの幹部はなんと、バチカンのローマ教皇庁を訪問し、人型ロボット開発の是非を尋ねたことがあるんだそうです。風の便りに、「ここまで人間に近いロボットを作るのは神への冒涜」という批判が聞こえてきたためらしいけど、凄いですね。結局ローマ教皇庁は、ホンダがそのロボットを作るのは神のご意向に沿うものだ、との回答を得て安心したんだとか。
具体的なロボットについての話を読んでいて僕が感じたことは、
『便利さに慣れてしまうより、不便さに慣れる生活の方が僕は好きだな』
ということです。
例えば本書には、頭の中で考えるだけでロボットを制御出来る、「ブレイン・マシン・インターフェース」という技術についての話が載っています。まだ基礎研究の段階とはいえ、脳内の血流の変化を読み取ることで要望を理解しロボットが動かせるような技術ができはじめているんだそうです。
その開発者が、「エアコンの温度設定をする時、巧く言葉には表現しにくいけどこれぐらいの温度、みたいな微妙な要求が伝わるようなものを作りたい」というようなことを言っている部分を読んで、そう思ってしまいました。
やっぱり、微妙な部分が伝わりにくかったとしても言葉で表現する努力をするべきだと僕は思うし、やろうと思えば出来ることをどんどん便利にして言ってしまう方向性というのは僕はちょっと怖いなと思ってしまうんですね。
僕は、ロボットというのは、人間には出来ないそのロボットにしか出来ないことをやる存在であって欲しいな、と思ってしまいます。例えば福島原発内で作業した「クインス」みたいなものですね。人型ロボットの存在を否定するつもりはまったくないのだけど、人がやれることをロボットに代替させる必要があるとは僕にはどうしても思えないのです。これから日本は少子高齢化で、労働人口が圧倒的に減るから、今の日本の豊かさを維持していくには、外国人の移民を受け入れるかロボットに労働力を肩代わりしてもらうしかない、って話も出てくるんだけど、僕はそもそも、『今の日本の豊かさを維持していくためには』っていう前提を放棄すればいいんじゃないかな、と思ってしまう人間でして、別にロボットで労働力を補填しなくてもいいんじゃないかなぁという気はしてしまいます。まあ僕としては、介護とか娯楽の分野でロボットが活躍してくれたらいいんじゃないかな、と思います。
後半の、『知能化』と『国際標準』の話も非常に興味深かったです。僕は、国際的なモノづくりの現場が、まさかそれほど激変しているとは知らなかったんで、携帯電話なんかも、なんでそんなガラパゴスになっちゃったのかなぁ、と思っていたりしました(まあ携帯電話に関しては、日本企業がひたすら高機能化に特化し続けたというのも大きな原因の一つみたいだけど)。
これについては、国際標準の重要性がまだ日本でそこまで重視されていなかった頃、その重要性を折に触れて力説していたという、当時三菱電機の社長・会長であった野間口有の言葉を引用してみます。

『日本人は戦後、モノづくりで成功した経験があるせいか、QC(品質管理)に自信を持ちすぎる傾向があります。われわれは標準以上のQC力を持っているから、権威あるところが標準規格を決めてくれれば、もう一段上の信頼性をもって製品をつくってみせますと考えがちです。でも、九五年にWTOがTBT協定を結んで以降は、空いてに国際標準を取られたら日本にいくらいい製品があっても市場で勝負できない。ISOなどで合意された国際標準ができると、その分野は国際標準が市場を先導してしまう時代になったのです。』

WTOのTBT協定というのは、ざっくり説明すると、どれだけいい技術・規格があっても、国際標準が決まれば各国その基準に従いなさいねという取り決め、のことで、この存在が、日本のモノづくりの環境をかなり激変させたのだそうです。韓国なんかが国を挙げて色んな分野で国際標準を取りに行こうと全力で動いているのに比べると、まだまだ日本の動きは遅いというのが現状なんだそうです。
また『知能化』の流れによる、ハードよりソフトという動きも、ロボットの分野に限ってみても、グーグルやマイクロソフトなんかがソフト覇権に乗り出してきて、ロボット大国日本という部分にあぐらを書いているとすぐひっくり返されてしまうような、そういう状況だそうです。そういう、大きく変わってしまったモノづくりの現状の話も、非常に面白かったです。
日本がロボット開発においてどれだけ一日の長があるのか、そしてその一方で、国際的なモノづくりの潮流がどうなってしまっているのか、ということについてなかなか面白く描かれている作品だと思いました。是非読んでみてください。

岸宣仁「ロボットが日本を救う」



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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
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2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
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5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
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3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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