黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

「あのこは貴族」を観に行ってきました

良い映画だった。でもどうしてか、凄く良い、というところまでいかなかった。不思議だ。結構好きな感じの映画なのに。

一番好きなシーンは、華子と美紀が初めて会うシーン。あの空気感は、ちょっと凄いなぁ、と思う。

華子の友人である逸子がその席で、こんなことを言う。

【世の中って、女同士で対立するように仕向けられるじゃないですか。私、あれが嫌いで】

そしてその言葉通り、よくある物語では対立構造として描かれるだろう二人が、対立でも、しかし融和でも無い、絶妙な空気感を出している。あのシーンは、凄くいいなぁ、と思う。

このシーンを良いなぁ、と思った理由には、華子と美紀それぞれのスタンスがある。それまでの過程なしでは、良いシーンだと思えないような場面なのだけど、そこに至るまでの二人の生きてきた道が、その空気感を良いものに変換している。

華子は、世間一般的には「恵まれている」としか言いようがない生まれ育ちだ。渋谷の松濤に実家があり、東京から出たことがない。有名子女が通う大学を出て、今は実家で暮らしている。しかし、話はそう簡単じゃない。冒頭いきなり、婚約者に逃げられる。本人に結婚したいという意思があるのか分からないけれど、親から結婚を急かされる。大学時代の友人たちもほとんど結婚している。焦ってお見合いをしたり、色んな人に男性を紹介してもらったりするけど、生きている世界が違いすぎてそもそもスタートラインに立てない。

一方の美紀は、シャッター街となっている地元・富山を出て有名私立大学に入学するも、父親が失業したために実家にお金がなく、夜の仕事などして学費を工面しようとするも断念。中退してしまう。一緒に同じ大学に入った高校時代の友人は、地元に戻って地元の有名企業に就職しているが、美紀は東京に残り、何をしていると誇れるわけではないような生活をしている。

そんな美紀がある場面で発した、【残念だよ。ここ10年、一番の友達だったんだから】というセリフは凄く良かったし、美紀という人間の内側に溜め込まれた「寂しさ」みたいなものが一気に放出された感じがあって良かった。

そして、そんな美紀に対して華子は、【どんな人なんですか?】と聞く。逸子が、【それどんな質問?】と呆れてしまうような、まあ普通はしないだろう質問だ。それこそ普通なら、こんな質問をすれば、女同士の対立を誘発しそうだが、華子の振る舞いがそうさせない。美紀は華子に初めて会うわけで、華子がどんな人生を歩んでいるのかさして知らないだろうが、しかし華子の些細な振る舞いや発言から、華子のその発言に悪意が籠もっていないことが分かっただろう。

そんな二人の邂逅だったからこそ成立した空気感だと感じた。あのシーンが違和感なくちゃんと成立している、ということが、この映画の凄さだなぁ、と思う。

ただ、それでもやっぱり「凄く良い」まで行かなかったのは、分かんないけど、華子が属するハイソサエティな世界に、僕が1ミクロンも興味がないからかなぁ、と思う。僕は、共感できるかどうかで物語を判断したいとは思わないのだけど、それが作品判断にまったく絡まない、ということもない。物語は、美紀側というよりは華子側から描かれることの方が多かったので、全体として「ハイソサエティ」の世界の描写が多かった。たぶん、そういう世界に対する僕のあまりの興味の無さみたいなのが、映画全体の受け取り方に影響しているのかなぁ、という気がする。もちろん、この作品は実際は、華子がいる「ハイソサエティ」の世界を当て馬にして、美紀がいる「普通」の世界を描き出すというのが主眼のはずだと思うのだけど、そうなのだとしたら、「ハイソサエティ」の世界の描写の配分が多かったなぁ、という感じがしてしまいました。

内容に入ろうと思います。
箱入り娘の華子は、婚約者に振られ、お見合いや知人からの紹介で男性と会うもまったくの空振り。そんなある日、義兄から紹介された弁護士の青木幸一郎に恋をする。人柄に惚れたのだけど、友人のバイオリニストで華子と同じく結婚していない逸子に話をすると、どうやらとんでもない家柄だということが分かってきた。彼女たちも良家出身なのだけど、学年に一人はいたような凄い家柄、という表現で逸子は華子に伝えていた。二人の交際は順調に進み、婚約に至る。
一方、富山から大学進学のために東京に出るも、思っていたような生活を送れずに搾取され続けている美紀は、正月に実家に戻り、高校の同窓会で久しぶりに里英と再会した。大学を中退してから、全然連絡を取っていなかった。大学入学当時を振り返り、同級生にお茶に誘われて5000円も掛かったことも思い出す。「彼女たちは、貴族だよ」。
同じ東京に住んでいながら、まったく違う階層に生きており、交わるはずのない二人の人生が、ひょんなことから交錯する…。
というような話です。

書きたいことはもう大体書いてしまったんだけど、あと一つ。この映画が好きだなと思うポイントは、登場人物の多くが温度を感じさせないようなテンションで会話をする、ということ。美紀は、パーティーなどの席ではスイッチを入れてテンションを上げるけど、普段はそうじゃない。そして、華子も青木も、普段の会話に温度がない。僕は結構、こういう感じのやり取りが好きなんですよね。テンションが高いのがあんまり得意じゃない。口調や表情の変化を大きくせずに感情を表現していくのは結構難しいと思うんだけど、その辺りの表現が絶妙に上手いなぁ、と思いました。

あと、印象的だったセリフが、青木のこの言葉。

【俺はただ家をまともに継ぎたいだけだよ。それは別に、夢でも展望でもなくて、ただそういう風に育ったってだけのこと。】

客観的に捉えられる事実から「羨ましい」と感じられるような境遇の人はいる。金持ちの家に生まれるとか、カッコイイ/カワイイとか、芸術的なセンスに優れているとか。僕も、そういう風に感じてしまうことがないでもない。ただ一方、当たり前のように付随しているものは、ある種の足枷でもある。どれだけそれが他者から羨まれるものであっても、自分にとってそれがマイナスをもたらすものであると感じられてしまえば、それはただの足枷でしかない。

青木は最後の最後まで、感情があるんだかないんだかよく分からない人物だったが、その理由の一端が、前述のセリフで少し分かったような気がする。青木もまた、何もかも羨ましがられるような境遇の持ち主だが、倦んだような雰囲気もある。彼にとって人生とは、「やりたいことをやる」ものではなく、「なさねばならぬことをなす」ものでしかないのだと思う。たぶんそういう雰囲気を感じたから、華子はああいう決断をしたのだろうと思う。

恵まれた境遇を「恵まれている」と感じられることもまた、恵まれているといえるだろう。恵まれた境遇に対して「恵まれている」と感じられないとしたら、その不幸は、恵まれた境遇を持たないものより深いかもしれない。

「あのこは貴族」を観に行ってきました
関連記事

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/4125-49f472c1

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
10位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
7位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

最新記事

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)