黒夜行

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「NETFLIX 世界征服の野望」を観に行ってきました

この映画で一番驚かされたのは、「レンタルDVDの郵送事業」としてスタートしたNETFLIXが、ある決断をする場面だ。

創業当時は、ブロックバスターというレンタルビデオ店が業界トップを走っていて、レンタルはブロックバスターというイメージが強かった。そういう背景もあって、レンタルDVDの郵送事業として立ち上げたにも関わらず、収益の99%がDVDの販売によるものだった(レンタルと販売を同じサイトで行っていた)。

とりあえずしばらくそのまま事業を続けた彼らは、「やっぱり、レンタルと販売を同じサイトでやってると混乱するし、経営資源はどっちかに集中させた方がいい」という決断をすべきだと判断する。そこで彼らは、収益の1%しか生み出していなかったレンタルの方に全精力をつぎ込む、という決断をしたのだ。

これはなかなかイカれた判断だなぁ、と思った。

いや、彼らには当然理屈はあった。当時、まだ生まれたばかりの「インターネット」は、「モノの売買をする」という使われ方がメインだった。既にその時点で、Amazonやウォルマートが、ネットでのモノの販売によって勢力を広げていたのだ。

スタートアップ企業であり、体力のないNETFLIXにとって、販売事業に舵を切るということは、Amazonやウォルマートという巨人と戦うことを意味していた。それは無理だろう。いずれ駆逐されて終わりだ。

だから、レンタルに舵を切った。

理屈は明快だし、分かりやすい。理屈だけ聞けば、納得できる。とはいえじゃあ、その時その場にいて、「収益の1%しか生み出していないレンタル事業に全精力を傾ける」という決断が出来るかというと、普通は出来ないだろう。

NETFLIXは、リードとマークという二人の人物が創業した。この映画は多くの人のインタビューによって構成せれていて、マークは主要な回答者として登場するが、リード自身は登場しない(過去にテレビなどに出演した映像は流れるけど)。というかこの映画、NETFLIXの現社員は誰も出演していないんだと思う。リードは、今でもNETFLIXの経営に関わっているから、この映画には出演していないのだろう。マークがNETFLIXから離れたのは、そうせざるを得なかったからだ。当初NETFLIXは、マークが率いていた。リードは役員かつエンジェル投資家という立場だったようだ。しかし、常に資金難に見舞われていたNETFLIXは、「経営をリードに託すならお金を出す」という人物を見つけ、それによってどうにか経営を続けられる状態を維持出来たのだという。

映画に登場する誰もが、リードの先見の明を称賛する。レンタル事業のみに注力すると決めた際、共同経営者であるマークには3つほど試したいアイデアがあったそうだ。「観終わったら返すのではなく、次に借りる際に返す(お客さんの自宅を倉庫代わりにする)」「あらかじめ観たい映画リストを送ってもらい、DVDを返却すると自動的にそのリストの作品が送られてくる」「一枚いくらではなく、月額制にする」。これを聞いたリードは、3つを順番に試している時間的余裕はない、として、3つすべてを同時にスタートさせることにした。これによって、それまでレンタルで悩まされていた「DVDをなかなか返却しない」「クレジットカードでの支払いをしない」という問題が解消され、登録顧客が固定客として定着することになったという。

また、NETFLIXはマークが離れた後にも、大きな決断をする。既に配信事業に乗り出し、大きな収益を上げるようになっていたNETFLIXは、「DVDレンタル事業と配信事業を分け、DVDレンタル事業は社名も別にする」という決断をした。この決断は、大きく報じられた。ただし、悪いイメージを伴って。「DVDを切り捨てた」というイメージが先行し、NETFLIXは88万人の顧客を失い、発表の3ヶ月後には時価総額が70%も下がったという。この決断をしたのもリードだったが、彼はかなり先の未来を見て、大局から判断する。現在のNETFLIXの姿を見れば、リードの決断が成功だったと分かるだろう。というかこの映画を観るまで、NETFLIXがDVDレンタル事業からスタートしたなんてことも知らなかった。

この映画には、NETFLIXからバトルを仕掛けられる形となった、レンタルビデオチェーン大手のブロックバスターの話も結構多く描かれる。元社長や、NETFLIXへの対抗としてオンライン事業を立ち上げることになった人物などへのインタビューが行われている。

この映画を観ていると、NETFLIXが生き残ったのは、ブロックバスター側のゴタゴタに支えられていたという面もあったかもしれない、と思う。もしブロックバスターの方にゴタゴタがなかったら、圧倒的な資金力を持っていたブロックバスターが、オンライン事業でNETFLIXを駆逐していたかもしれない。

一時期は、全世界で8000店ものレンタルビデオ店をチェーン展開していたブロックバスターは、次第に存在感を増すNETFLIXへの対抗策を考えなければならないと決断する。そして、小規模なチームに2500万ドルという資金を与え、NETFLIXが何年も掛けて100万人を超える顧客を獲得してきたオンライン事業に乗り出すことになった。

面白かったのは、ブロックバスターの社員が一般人を装って、NETFLIXの仕分け工場の見学をしたこと。何度か工場見学をしたことでバレたようで、以後工場の公開はしなくなったようだ。ブロックバスター側は工場内部の観察から相手のシステムを盗み、自社に取り入れていった。しかしNETFLIXも、取材などに多く対応することがあったため、情報漏えいには気をつけていた。工場の機械などに貼られているラベルはすべてダミーで、それを見られても機械の製造会社が分からないようにしていたそうだ。

ブロックバスターもシステムを整え、ようやくサービスをローンチする。その直前、NETFLIXは月額料金を21ドルぐらいに引き上げていたので、ブロックバスター的には追い風だと思ったそうだ。彼らは当初、月額19ドル99セントにするつもりでいた。しかしそれを受け、NETFLIXは17ドル99セントにした。意識している証拠だ。だったらと、ブロックバスターは17ドル49セントで…と考えたそうだが、それじゃあインパクトがない。そこで当時の社長が、思い切って14ドル99セントで行こう、と決めたそうだ。他にも、実店舗を持つ強みを生かしたサービスを展開し、ブロックバスターは着実に顧客を増やしていくことになる。

しかし、親会社であるバイアコムがブロックバスターを売却、経営再建のために送り込まれてきた人物が自分の利益のために株価を上げることしか考えていなかったために、現場は混乱。さらに、その人物が社長へのボーナスを認めなかったことも一つのきっかけとなり社長が会社を離れる決断をした。NETFLIXとしては、ブロックバスターが実店舗込みで打ち出したトータルアクセスというサービスをかなり脅威に感じていたので、結果的にブロックバスターが自滅してくれてよかったというところだろう。ブロックバスターは2010年9月23日に経営破綻した。

その後は、僕らが知っているNETFLIX、つまり、映画の配信をし、また、オリジナル作品を作る会社になっていく。この映画では描かれていないが、昔僕が何かの記事で読んで驚いた話がある。アカデミー賞にNETFLIX作品がノミネートされない時期があったようで、ハリウッドはそれを「映画館で上映していない作品は対象ではない」という表向きの理由で突っぱねていたらしい。まあ普通なら、このルールを変えようとするだろう。しかしNETFLIXはそうはせず、NETFLIXの資本で映画館を作り、そこで実際に上映することにしたのだという。ハリウッド側は、自分で自分の首を締めたようなものだろう。上映しているのだから、候補作として検討しないわけにはいかなくなったのだから。

映画では、NETFLIXの時価総額についても触れていた。ワーナー・ブラザースが850億ドル。フォックスが900億ドル。そしてNETFLIXは、この2社にHBOの時価総額を加えたよりもさらに上をいくだろう、というような表現だった。HBOはアメリカの老舗ケーブルテレビ局だが、NETFLIXは初のオリジナル作品の制作のためにデイヴィッド・フィンチャーを口説き、対抗馬だったHBOを差し置いて権利を獲得した。

とここまでNETFLIXについて書いてきたけど、僕はNETFLIXを観ていない。時々、映画館でやっているNETFLIX制作の作品を観に行くぐらいだ。この映画に出てきたある監督が、「今では世界中の素晴らしい映画がNETFLIXで観れる。時間が足りないぐらいだ」と言っていて、まさにそれが理由で僕はNETFLIXを敬遠している。登録したら、無限に時間が必要だろうなぁ、と。まあ、いずれ登録するかもしれないけど、今はいいかな。

最後に。NETFLIX創業当初の面白いお話。彼らは認知度を高めるために、その時々の話題に乗っかることにした。その時は、モニカ・ルインスキーとの不倫の釈明にクリントン大統領が追われていた。そしてこの映像をDVDにして売ろうと思いつく。彼らは映像をマスター制作会社に送り、その後せっせとダビングしたんだけど、制作会社での制作中に何故か中身が中国のポルノと入れ替わってしまったらしい。顧客に配送した後、変な反応が返ってきて、ようやく自分たちのミスを知ったそう。そこですぐさま謝罪して適切に対応したことで、ブランドイメージを上げることが出来たみたいだけど

「NETFLIX 世界征服の野望」を観に行ってきました
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