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「朝が来る」を観に行ってきました

めちゃくちゃ良い映画だった。さすが河瀬直美、という感じでしょうか。


こういう言い方をすると語弊があるかもしれないが、「日常的」という言葉は相応しくないけど、とはいえ、どこにでもあるのだろうと思わせる物語だ。それは、僕自身が観ている映画ともちょっと関係する。戦争を背景にしたものだったり、あるいは「実話を元にした」という、実話だと言われなかったらちょっと嘘臭く感じられてしまうような映画を割と好んで観ているので、そういう映画と比べると、どの家庭にも起こりうることが描かれている、と感じた。

この物語はまず、その「当たり前の密度」みたいなものがメチャクチャ強いと感じさせられた。なんというのか、どの家庭にも起こりうるという意味では「当たり前」なんだけど、でも、その状況に直面した誰もが「当たり前」だなんて思えないような、そんな現実が描かれる。

当たり前なのに当たり前じゃない。いつでもどこにでもその可能性があるのに、誰もがその可能性を普段無視しているという意味で、地震みたいなものだと言えるかもしれないが、地震よりも全然頻繁に起こっているだろうから、あまり良い喩えではないな。

突然地震がやってきた、みたいな衝撃に、多くの家族が様々な立ち向かい方をする。どれが正解である、というようなことは、僕自身意見を持たないし、この映画もそんなことは問いかけていないが、どの選択を取っても、そこには一抹の悲しみみたいなものが溶け込んでしまうという意味では、どれも正解ではないとも言える。

すべてが不正解、という選択肢の中から、それでも何かを選ばなければならないという時、選択肢が複数あるというのは、きっと救いだろう。この映画では、特別養子縁組がメインで描かれるが、そこに至るまでに、夫婦にはいくつかの決断があった。その、どの決断をしても、希望と後悔がないまぜになったようなしこりみたいなものが残るだろうし、特別養子縁組でもそれは変わらない。

冒頭で、息子の朝斗が、幼稚園で友達をジャングルジムから突き飛ばした、という疑惑が描かれる。怪我をしたその友達は、朝斗に押されたと主張しているといい、朝斗自身は、僕はやってないと主張する。母親は、朝斗の主張を完全には信じきれず、どうしたらいいか分からないという感じになる。

映画の中ではっきりそうと描かれるわけではないが、恐らく母親が息子のことを完全に信じきれないでいるのは、息子が養子だという点にあるのだと思う。正直、僕としては、血が繋がっているから信じられる、という感覚はよく分からないが、一般的にそういう発想になるだろう。あるいは、朝斗が養子であるとみんなが知っている、という事実にこそ理由があるのかもしれない。いずれにしても、朝斗が血の繋がった子であれば、母親の振る舞いはもう少し違ったものになったのではないか、と想像する。

「自分の子を産むこと」というのは、正直僕には、過度に大きなものとして捉えられすぎではないか、と思ってしまう。どうして、子供を産んでいないということが、特に女性にとってあたかも非であるかのように受け取られうる世の中なのか、僕にはイマイチ理解しきれない。

しかし、時代は変わりつつあるとは言え、未だにそういう風潮が残る世の中であることには変わりないし、その中で生きていく上での不合理さみたいなものは、残念ながらまだ、個人がある程度以上背負っていかざるを得ない。

確かフランスでは、婚外子に対して法律も結構寛容だと聞いたことがあるし、詳しくは知らないが、日本は世界的に見ても、特に女性が子育てをする環境としてはお粗末だと思っている。「子供を産めない」だけでなく、「子供を産む」ことも、もっと当たり前で変哲もないことになった方がいいんじゃないか、と感じさせられた。

内容に入ろうと思います。
夫の無精子症によって自然妊娠が難しいことが判明した栗原清和と佐都子夫妻。不妊治療を始めたが、やがてそれも諦め、夫婦二人で生きていこうと、旅行など満喫するようになった。しかし、その旅先で見た、特別養子縁組を紹介する番組が、夫婦の未来を変えた。彼ら夫婦は、ベビーバトンという団体の仲介により、男の子を養子に迎えた。「朝斗」と名付けた子は、もうすぐ小学校へと上がる年齢まで育ち、夫婦は幸せに暮らしていた。
しかしある日、そんな夫婦の自宅に、一本の電話が掛かってくる。「子どもを返してほしいんです」というものだった。朝斗の生みの母親である片倉ひかりを名乗る人物からのものだった。彼らは、特別養子縁組に際して、中学生だったひかりと対面していた。それ以後、当然連絡は取っていなかったが、佐都子は会って話すことを了承し、彼女を自宅に招いた。
しかし…。

というような話です。

この映画は、前半は栗原夫妻の話がメインになっていくのだけど、後半は生みの母である片倉ひかりの話がメインになっていく。自分たちの子を持つことは出来なかったとは言え、養子を迎え、タワーマンションの上階で何不自由のない生活をしている栗原夫妻と、中学生で大好きな同級生の子どもを妊娠してしまったことで、あり得ただろう人生とは違うレースをひた進むことになってしまったひかりとの明と暗の対比が非常に印象的で、個人的には特に、ひかりのパートの方に惹かれた。

印象的な、こんなシーンがあった。ひかりが、みんなに隠れて出産をするために、ベビーバトンの施設に向かう時のこと。ベビーバトンの代表である女性から、「安産のために散歩しましょうね」と声を掛けられる。それに対してひかりは、少し怪訝そうな顔で「安産?」と返すのだ。代表が不思議そうな顔を返すと、「そんなこと、誰にも言われなかったから」とひかりが返すシーンだ。

「子どもを産むこと」は一般的には祝福されることだろうけど、この映画では、様々な事情から子どもを産むことが祝福されない(あるいは自分で祝福できない)人たちが描かれる。

ひかりの妊娠が発覚した後の母親の振る舞いは、酷いもんだなぁ、と思う。もちろん、僕には子どもはいないし、そんな人間から非難されたくはないかもしれないが、ひかりの母親はとにかく、自分(と家族)の世間体のことしか考えていない。口では、「その方がひかりの将来のためだ」と言うし、恐らく母親自身も心からそう信じているのだろうけど、だからと言ってあの母親の振る舞いが許されるとは僕は思いたくない。

現実的には、ひかりが自分の子を手放すという選択肢しかないのだとしても、それを本人が納得できる形で決断を促してあげるべきだろうし、世間体なんかよりもひかり自身のことを一番に考えてあげるべきだろう。母親がそうしていれば、ひかりのその後の人生はまた違ったものになったはずだと思う。

物語のラストは、正直驚いた。まさかそういう展開になるとは思ってなかったから、さすがに泣いてしまった。物語そのものも良いのだけど、この映画に関しては、役者が凄く良かったなぁ、と思う(演技云々のことは詳しく分からないけど)。特に、永作博美が絶妙に良かった。正直、栗原佐都子という人物は、普通には成立しないと思う。かなり微妙なバランスで成り立っているキャラクターで、ちょっと踏み間違えると、途端にリアルさを欠く存在になってしまうような気がする。特に、ラストシーンでの佐都子の振る舞いは、普通だったらあり得ないと思う。でも、あそこでああいう選択・決断をするということが、映画全体の中では違和感なく成立していると思ったし、それが成立しているのは永作博美だったからだという感じが強くした。

あと、片倉ひかり役の女優さん(名前は初めて知ったけど、蒔田彩珠さんだそう)も凄く良かった。清純な感じとやさぐれた感じがどっちも違和感がないし、笑ってる感じはとても可愛らしいのに、作品全体としては凄く不幸感をまとっていて、そこにも違和感がなくて凄いなと思いました。セリフがないシーンだったり、あってもボソッとちょっと喋るみたいな感じが多い、なかなか感情の表現が難しい役だったんじゃないかなと思うんだけど、目の感じだけで弱さも強さも滲み出る感じの雰囲気が絶妙だなと思いました。

予想を遥かに超えてメチャクチャいい映画でした。

「朝が来る」を観に行ってきました
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