黒夜行

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「TENET テネット」の回転扉は「世界の時間を反転させる装置」ではない(はず…という考察)

二度目を観たわけではなく、一度目に観た「TENET テネット」を思い出しながらあれこれ考えたことがあるので、ちょっと記録に残しておこうと思う。

まず、一度目に観た感想を再度掲載しておく。

「TENET テネット」を観に行ってきました
http://blacknightgo.blog.fc2.com/blog-entry-4042.html

この記事の中で僕は、劇中に登場する回転扉は、「物質⇔反物質の反転装置」と書いた。これを起点に、改めて映画全体の設定について再考してみた。

ちなみに、前述の記事の中で「反物質」についてはあれこれ書いているので読んでほしいが、要点だけかいつまんで書くと、「反物質は時間を遡る」ということである。とりあえず、現実的な話かということは一旦置いておいて、物理学的には「反物質は時間を遡る」というのは正しい。

当初は、あの回転扉が「物質⇔反物質の反転装置」という理解で納得できていたのだけど、あれ?それだとおかしくないか、と考えるようになった。

まず、僕の理解を書いておく。あの回転扉は「物質⇔反物質の反転装置」であり、あの回転扉を通り抜けると、物質は反物質に、反物質は物質に変換される。そして、物質は時間を順行に進み、反物質は時間を逆行に進む。これが僕の当初の理解だった。

ちなみに、色んな考察サイトを読んだけど、基本的にほとんどが、「反転装置を通ると、世界の時間が反転する」という表現をしている。確かに、映画を理解する上でその方が易しいし理解しやすいのだけど、ただそうだとすると、「自分自身に接触すると対消滅する」や「陽電子は時間を遡る」という発言に意味が無くなってしまう。クリストファー・ノーランは、設定上のこういう部分には結構こだわるんじゃないかと思って、僕はあの回転扉が「物質⇔反物質の反転装置」であるという前提で映画全体の設定を理解しようと試みている。

でも、僕のこの理解だとちょっとおかしなことになる。回転扉を通ったものが反物質に変換される、ということであれば、回転扉を通っていない空気・車などは反物質にはならない(=物質のまま)だし、だとすると時間を逆行するはずがないのだ。

しかし、色々考えた結果、こういうことではないかと考えた。つまり、「目に入る光の向きが変わる」という理解だ。

回転扉を通った人間が反物質に変わるということは、当然、目も反物質になるということだ。ということは、反物質になったら時間を遡るのだから、物質の目なら「外から光が目に入る」が、反物質の目の場合は「目の内側から外に光が出る」という流れになるだろう。まあ、実際にそういう現象が起こるとすれば、現実的には目には何も映らないだろうが、そこはフィクションということで、この映画では、「目の内側から外に光が出る」=「時間が逆転しているように見える」という設定になっているのではないかと思う。

ここの理解のために重要なのは、「世界には『時間の流れ』などというものは存在しない」ということだ。

僕らは普段、「時間の流れ」を感じている。何をもってそれを感じていると言えるのか、表現は難しいけど、確かに時間は過去から未来に流れているように感じているだろう。しかしそれは、人間の主観的な判断に過ぎない。

これだと少し理解しにくいかもしれないが、別の例を出そう。例えば「温度」というものがある。僕らは日々、様々な形で「温度」を感じているだろう。気温や体温やなんやかんやで「温度」というのは馴染み深いものだし、だから「『温度』というものが存在する」と思っているだろう。

しかし、物理学的に言えば、「温度」というものは存在しない。それは単なる「分子の運動エネルギー」のことである。分子がたくさん集まっている「マクロな世界」では、分子の個々の運動は関係なくなり、その総体としての「温度」しか見えなくなるが、分子一つ一つが関係してくる「ミクロな世界」になると「温度」というものは存在せず、そこにはただ「分子の運動」があるだけである。

これと同じように、「時間」も、人間がただそれを主観的に感じているだけで、実際には存在しないものだ、という捉え方もできる。

そしてこの映画では、そういう捉え方をしていると解釈すれば、先程の理屈が成り立つ。つまり、「世界の時間が順行/逆行している」という表現は正確ではなくて、実際には、

「世界には時間など存在せず、それはただの人間の主観的な指標であって、外から目に光が入ってくる時は順行に、目から外に光が出ていく時は逆行に”見える”」

という風に捉えれば納得しやすい。

「反転装置を通ると、世界の時間が反転する」という、多くの人が捉えている考え方だと、矛盾が生じてしまう可能性がある。「TENET」の世界では、「起こったことは起こる」という基本原則がある。これは、並行世界みたいなものを考えると成り立たなくなるだろう。つまり、「TENET」では、世界は一つしかないのだ。これは、真っ白なキャンバスに油絵具を重ね塗りしていくみたいな捉え方でいいと思う。キャンバスに塗られた絵の具は消えないけど、新たに塗り重ねることはできる。そんな風にして成り立っているキャンバス(世界)が一つだけある、というのが、この映画の前提にあるはずだと思う。

しかし、世界がたった一つしかないとしたら、その一つしかない世界に”備わっている時間”が人によって順行になったり逆行になったりするのは無理があるだろう。しかし、僕の解釈のように、「世界には時間など存在せず、それはただの人間の主観的な指標であって、外から目に光が入ってくる時は順行に、目から外に光が出ていく時は逆行に”見える”」ということであれば、「時間の流れ」は人それぞれの主観的なものなのだから、世界が一つでも矛盾しない、ということになると思うんだけど、どうだろう。

とにかく、正しいかは分からないけど、「目の内側から外に光が出る」=「時間が逆転しているように見える」という解釈をすれば、回転扉を通っていない(つまり、反物質になっていない)ものも時間が反転しているように“見える”理屈は成り立つと思う。

ただ、その理屈では解明できないことがある。それが冒頭の研究所みたいなところでの「逆行弾」の存在だ。主人公が手をかざすと、銃弾が主人公の手に収まる、というあの場面である。

正直、この「逆行弾」の存在は、映画を全部観終えて、後から思い出して振り返った時から、ずっと謎だった。特に、「反転装置を通ると、世界の時間が反転する」という解釈では、この「逆行弾」の存在はまったく説明不可能ではないかと思うのだけど、どうだろう。何故ならこの時には、女性研究員も主人公も、反転装置を通っていないのだから。僕の理屈では、あの「逆行弾」は反転装置を通ってきた反物質製、ということになる。それはいいのだけど、だからと言ってあの動きをする理屈についてはちゃんと理解できていなかった。

でもあれこれ考えた結果、こういうことではないかと思う。つまり、

「その世界で”初めて起こること”が反物質製のものに起こる場合は、エントロピーが減少する現象として出現する」

というものだ。この説明のために、「エントロピー」の話をしなければならない。冒頭に挙げた感想の中でも「エントロピー」の説明はしているのだけど、またざっとしよう。

「エントロピー」というのはよく「乱雑さ」と表現される。そして物理学の世界では有名な「熱力学第二法則」と呼ばれるものによれば、「エントロピーは増大する」ということになる。これは言い換えれば、「エントロピーは、勝手には減少しない」ということだ。

これを説明するために、子供部屋の掃除について考えよう。最初は綺麗にしていた子供部屋も、子供がおもちゃをぶちまけたりして当然汚くなる。これが「エントロピーが増大する」ということだ。しかし、母親が子供部屋を片付けると、「エントロピーは減少する」。だから、「エントロピーが減少する」ことももちろんあるのだけど、重要なのは、”勝手には”減少しない、ということだ。乱雑になった子供部屋が、ある日勝手に片付いたりはしない。基本的には、”何か”しないとエントロピーは減少しないのだ。

そして、この「エントロピー」が、「時間の流れ」と関係がある、と考えられている。“勝手には”エントロピーは減少しないのだから、基本的に、「時間経過と共に」「エントロピーは増大する」ということになる。つまり逆に言えば、「エントロピーが増大すること」=「時間が過去から未来へ進んでいる」ということになるのだ。さらにこれを逆転させると、「エントロピーが減少すること」=「時間が未来から過去へ進んでいる」ということになる。

さてでは今度は、コップに入った牛乳を考えよう。コップに入った牛乳を床にこぼすとする。そして普通に考えれば、こぼした牛乳がコップに”勝手に”戻ることはない。つまり、「牛乳がコップに入った状態」が「エントロピーが低い状態」であり、「牛乳が床にこぼれた状態」が「エントロピーが高い状態」であると分かるだろう。

ではここで、「反物質で出来たコップ」と「反物質で出来た牛乳」があるとしよう。そして、反物質牛乳を床にこぼすとする(これが、「エントロピーが高い状態」である)。この状態で、こぼした牛乳の上の方で反物質コップを持つとしよう。すると、この反物質牛乳は、反物質コップに”勝手に”戻っていくだろう。何故なら、「エントロピーが高い状態から低い状態に移行することが、時間を逆行すること」であり、「反物質は時間を逆行する」からだ。

これと同じことが、「逆行弾」にも起こったと考えられる。つまり、反物質で出来た銃弾が床に置かれている状態よりも、主人公の手の中に”勝手に”戻っていく状態の方がエントロピーが低いから、反物質銃弾にはそれが”自然”な動きだ、ということになる。

さて、ここまでの話をまとめよう。僕はとりあえず、「反転装置を通ると、世界の時間が反転する」という解釈は、この「TENET」の設定を正確に言い表していないと思うので、「反物質」を軸により正確な理屈を考えたいと思った。そして、ここまでの議論から、こういう法則に支配されているのではないかと思う。

①回転扉は「物質⇔反物質の反転装置」である(世界の時間を反転させるわけではない)
②「反物質」に変換されたものは、時間を逆行する。
③人間が回転扉を通ると、当然「目」も反物質製となる。反物質目は、「目の内側から外に光が出ていく」ことになり、これによって世界の時間が主観的に逆行して”見える”(そのため、回転扉を通っていない物も、反物質目を通して見ると逆行しているように”見える”)
④世界そのものに「時間」という属性が付随しているのではなく、あくまでも「時間の流れ」は人間が主観的に感じているだけ
⑤その世界で“既に起こったこと”は起こる(反物質目で見ると、逆再生しているように見える)
⑥その世界で”初めて起こること”が反物質製のものに起こる場合は、エントロピーが減少する現象として出現する(「逆行弾」が主人公の手に戻るのはこのため)

たぶんこの理解でそんなに外してないと思うんだけど、でもこの理屈だと説明できないこともあるんだよなぁ。一番理解できないのは、「ガソリン爆発による低体温症」の件。この現象は、「反転装置を通ると、世界の時間が反転する」と捉える場合、何の疑問も生じない。ただ僕の考えた理屈だと、問題が出てくる。

何故なら、セイターが撒いたガソリンは「反物質」ではないはずだからだ。あのガソリンが「反物質」製なら、「その世界で”初めて起こること”が反物質製のものに起こる場合は、エントロピーが減少する現象として出現する」というルールに則って低体温症が起こるとことになるけど、たぶん「反物質」製じゃないんだよなぁ。他にも、結局一回しか観てないから、この理屈では矛盾する部分も出てくるんだろうけど、それはまた二度目以降に考えよう。

とりあえず、今日の時点で考察出来るのはここまで。また考えます。
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