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「ソニア ナチスの女スパイ」を観に行ってきました

アラン・チューリングという天才の話を思い出した。

アラン・チューリングは、コンピューターの概念を生み出した人物としても知られているが、もう一つ有名な業績がある。それは、ドイツ軍の暗号機「エニグマ」の解読だ。解読不可能と言われたその暗号機を、まさにコンピューターの原型のようなものを作り出し、様々な手段を駆使して解読した。正確な数字は覚えていないが、そのお陰で1000万人もの人が命を救われたのではないか、とも言われている。

しかし、彼の最期は悲惨だった。当時ゲイは激しい差別の中にあり、それもあって彼は逮捕されてしまう。その後、青酸カリで自殺。彼が戦時中、多大なる貢献をしたことが知られるようになったのは、割と最近のことだ。

機密情報だったから仕方ない、と言われれば確かにそれまでだが、しかし、もし彼の功績が世に知られていたとしたら、こんな悲しい最期を迎える必要はなかったのではないかと思う。

映画の冒頭に、非常に印象的なナレーションが入った。

【人は思う。自分は戦争に関わらない、と。(中略)
だが、どちらにつくか選択を強いるのが戦争だ】

「戦争」というものを、リアルにイメージすることは出来ない。そしてだからこそ、僕も、「自分は戦争に関わらない」と思っている。自分が不本意なことをせざるを得ない状況になれば逃げればいいと思っているし、高みの見物をしたいわけではないけど、「戦争」というものと一定の距離を置き続けられるんじゃないか、と思っている。

しかし、やっぱりそうは行かないんだろうな。確かに、この映画の主人公であるソニアは、有名な女優だった。名が知られている、ということで、避けられない事態もあるだろう。名が知られていない人間なら、特段の面倒を背負うこともないかもしれない。とはいえ、戦争というのはやはり、何が起こるか分からない。

スパイというのは、称賛という意味では報われない仕事だ。確かに、

【これは一つの国家の未来の問題なのだ】

というのも、理解できなくはない。国家の趨勢に関わる、というモチベーションは、まあ存在しうるのだろう。けれど、やはり、進んでスパイの仕事を引き受けよう、という人間の気持ちは、よく分からない。

ソニアは、スパイにならざるを得なかった。戦争という時代に生まれなければ避けられたはずの不幸を、そして、戦争という時代に生まれたからこそ得られなかった幸福を、この映画では描き出している。

内容に入ろうと思います。
ナチス占領下のノルウェーで女優として活躍していたソニア・ヴィーゲットは、ナチスの国家弁務官であるテアボーフェンの晩餐会に招待される。友人で、「エルサ」という作品を撮りたがっている映画監督から、是非行ってくれと頼まれたのだ。乗り気ではなかったソニアの元に、スェーデンの諜報部を名乗るアクレルという男からも、テアボーフェンに会うよう言われる。しかし、ナチスと積極的に関わりたいわけではなかったソニアは、結局晩餐会には行かなかった。しかしその後、ソニアの両親が逮捕されてしまう。明らかに、ナチスの嫌がらせだ。ソニアは再びアクレルと接触し、父親を助け出すために何をすればいいのか問うと、テアボーフェンと接触し、”マリア”という名のスパイの情報を探れ、と言われる。渋々ながらスウェーデンの諜報部のスパイとしてテアボーフェンへの接触を試みるが、その過程で、外交官のアンドルと知り合い、恋仲になる。
ソニアは、テアボーフェンと仲良くなり、機密情報を盗み出し、女優としても活動をし、アンドルとの逢瀬も楽しむが、徐々に彼女を取り巻く状況は変化していき…。
というような話です。

公式HPにも書いてあるのでいいと思うが、ソニアの戦時中のスパイ活動に関する文書は2005年に公開されたという。ソニアは1980年に亡くなった。彼女は生前、「ナチスのスパイ」という汚名を拭うことが出来なかったという。確かにナチスのスパイでもあったと言えばそうだが、元々はスウェーデンのスパイとしてテアボーフェンに近づいたのだ。そのことは、2005年に文書が公開されるまで世間に知られることはなかった。死後に名誉が回復されることにどれほど意味があるのかは分からないが、されないよりはマシだろう。

映画を観ていて強く実感したことは、「戦争をしたいと思う人間(特に男)がいる理由」についてだ。たぶん、表立って権力を行使できるからなのだろう。なにせ、ナチスの高官という立場を利用して、トップ女優と良い仲になれたりするのだ。まあそれはともかくとしても、特段罪があるわけではない人物を電話一つで逮捕出来たりする。「権力のある立場にいる人」であっても、平時であればここまで露骨に権力の行使は難しいだろう。それが、戦時中なら許される、かどうかは分からないが、少なくとも権力者は「許される」と思うのだろう。だから、戦争したいと思う人間が一定数いるのではないか、という気がする。

「戦争」というものが非常に遠く感じられるから、正直、色んなことが自分の中で「戦時中だからなぁ」という感覚で処理されてしまうという部分はある。けど、それじゃいけないよなぁ、とこういう作品を観ると思う。「戦争は悲惨だ」とか「戦争反対」みたいなお題目は、確かに声に出して言うことに意味があるという側面はあるのだけど、それにはあんまり効果はないと思ってしまう。やはり、「こんなのマズイ/おかしい/イカれてる」という感覚を、どれだけ自分の内側に持つことが出来るか、という話になってくると思う。

ソニアは、時代に振り回されることなく、「女優として生きる」「映画制作に携わる」という生き方を貫こうとしただけの女性だ。しかし、時代に振り回されまいと思っていても、望んだ通りにはうまくいかない。彼女の行為は、国家の助けになったのかもしれないけど、なかなかそう実感を得ることも難しい。それでも、ソニアの場合は、遠く時代を隔てた異国の人間にも真実が伝わるという、”幸運”と言えなくもない状況がある。実際には、未だに誤解されたままの名もなき勇者がたくさん存在するのだと思う。

ヒーローが、ちゃんとヒーローとして称賛される世の中であるために、やはり戦争からは遠ざかっていたいものだ。

「ソニア ナチスの女スパイ」を観に行ってきました
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