黒夜行

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「ファヒム パリが見た奇跡」を観に行ってきました

思ってた感じの話と全然違ったし、っていうかメチャクチャ良かった!予想外にすげぇ良かったなぁ。


こういう映画を観ると、ついうっかり、「才能のある人間は認められるべきだ」とか「努力した人間は報われるべきだ」とか言いたくなってしまう。

でもそうじゃないんだよなぁ、と自分を諌める。大事なことは、才能がなくても、努力していなくても、最低限の安全ぐらいは誰だって確保されるべきだということだ。

そりゃあ、仕事を見つける努力もしないとか、仕事に就いても不真面目だとか、そういうのはまた別だ。でも、この世に生まれたからには、「安全を確保するために努力やお金が必要」というのは、やっぱりおかしいよなと思う。

例えば僕は、生まれてこの方、「安全」のために努力したことは一度もないと思う。護身術を習う必要もなかったし、ひったくりに遭わないように気をつける必要もなかったし、突然逮捕されたりする不安を抱くこともなかった。日本は、世界的に見ても異様に安全で、ちょっと参考にならないけれども、でも、生まれてからずっと砲弾が飛び交ってるとか、地雷がそこかしこに埋まってるとか、安全な水を確保するのに10kmは歩かないといけないとか、そんな環境にはない。「安全」のための努力なんか、一切することなく、ここまで生きてこられた。

そういう人間に、「安全」のための努力をせざるを得ない人たちの人生を批判的に捉える権利はないだろう。

しかも、そういう不安定な生活をせざるを得ない人たちの生活というのは、直接的にせよ間接的にせよ、先進国の責任であることが多いだろう。僕らが直接的に何かしたわけではないのかもしれないけど、僕らよりも上の世代がしたことに対して僕らが「何もしなかったこと」や、あるいは今の便利な生活を享受していることそのものが、そういう国の困難さを招いているということは十分にあり得る。

僕自身は、自分が「安全」な場所にいながら、「安全」のための努力をせざるを得ない人たちに何も手を差し伸べないどころか、僕らが当たり前の生活をしているだけで彼らにとってマイナスになっているかもしれない、という事実に、恥ずかしい気持ちになることが時々ある。まあ、時々だけど。それこそ、こういう映画を観ると感じる。

僕は、僕一人を生き延びさせるのでも精一杯なので、誰かのために積極的に何か出来るとは思っていないし、まあそれは仕方ないかと思う。でもこれからも、前述したような「恥ずかしさ」はずっと感じ続けていたいし、「安全」のために努力をせざるを得ない人たちの生活を嘲笑したり貶めたりするような人のことを、心の中で軽蔑しようと思う。

内容に入ろうと思います。
バングラデシュに住むムハンマド一家は、政変に揺れる環境下で日常を送っていた。息子のファヒムは、周辺でも有名なチェス強者で、大人が相手でも負けない強さを持っていた。ある日、ファヒムの両親は相談をし、ある決断をする。ファヒムに「チェスのグランドマスターに会いに行こう」と乗り気にさせ、父・ヌラと二人でパリに足を踏み入れる(もちろんこの行動には差し迫った理由があるのだが、初めの内観客はその理由が分からない)。
二人とも、フランス語が喋れないところからの生活だったが、ファヒムはすぐに言葉を覚えた。しかし父親はなかなかフランス語を覚えられず、仕事も見つけられず、結局彼らは難民センターに身を寄せることに。ここで難民申請が通れば、フランスに家族を移住させられる。しかし、難民申請を1年以上も待っている人がいるなど、道のりは簡単ではない。
ファヒムは学校に通い始め、同時に、近くのチェス教室にも通うようになる。そこのコーチであるシルヴァンは、かつて強豪を誇ったチェスプレイヤーだったが、今では子供相手にチェスを教える生活だ。当初は、シルヴァンの教え方に不満を抱いていたファヒムだったが、同じ教室の仲間たちと少しずつ打ち解けるようになり、チェスプレイヤーとしても頭角を現すようになっていく。
しかし、ファヒムが国内大会に出場するには、ある問題があった。フランス国籍を取得していなければいけないのだ。父親は難民申請にも職探しにも手間取っている。このまま難民申請が通らなければ、父子は引き剥がされてしまうことになるが…。
というような話です。

冒頭で「実話に基づく話」と出てきます。どこまで事実なのか分からないけど、「バングラデシュから来た難民の子がフランスのチェス大会で優勝した」という部分はきっと事実でしょう。また、映画の最後には、ファヒムがチェスで優勝したことで、バングラデシュに残してきた家族もフランスに移住出来るようになった、と字幕で表示されていました。

僕は普段、これから観ようと思っている映画についてあらかじめ調べたりしないので、タイトルとポスター写真のイメージから、もっとポップで楽しげな作品なんだと思ってました。いや、確かにそういう要素も確かにあって、映画を見ながら随所で観客は笑い声を上げていました。なんというのか、ところどころ、つい笑っちゃうような楽しい場面があるんですよね。特にそれは、フランス語を全然覚えられなかった父親に周りで起こることが多いです。ちょっとした勘違いとか(例えば冒頭で、チェス教室を教えてもらう場面。難民センターの担当者が”ショボい”教室と言ったのを教室の固有名詞だと思って、シルヴァンに言ってしまったりします)、息子から聞いたことを悪気なく言っちゃうとか、そういうシーンが結構あります。ただ、そういう食い違いの部分には、笑って見過ごせない部分もあったりするんですね。難民申請についての聞き取り調査の場面での通訳の振る舞いなんかは、なるほどこんなことが実際にあるんだろうなぁ、なんて思わされる場面でした。

まあそんなわけで、割と楽しげ部分ももちろんあるし、っていうか全体の雰囲気としては楽しく進んでいくんだけど、背景的な部分は結構シビアでした。ファヒムは、チェスの実力者なら誰が見ても分かるほどの力量を備えた少年ですが、国籍の問題が大きく立ちはだかる。これは、普通に考えれば個人に太刀打ちできるようなレベルの話じゃない。もっともっと大きな枠組みの話だ。でも、ファヒムのコーチであるシルヴァンや、シルヴァンの友人(関係性がよく分からないけど)のマチルダが、個人として出来ることを精一杯やり続けた結果、普通ならありえない奇跡を手繰り寄せることに成功します。なんというのか、こういう感動は、なんとなく自分の中で予想外だったので、ちょっとビックリしたし、予想外に良かったと感じる映画でした。

最後の最後、マチルダが繰り出した”秘策”が、実際に行われたことなのかは分からないけど、本当にこの映画の通りのことがあったとしたら、劇的だなぁ、と思います。特に、マチルダのセリフが、素晴らしいなと思いました。

【フランスは、人権の国なのですか?
それとも、人権を宣言しただけの国なのですか?】

歴史には詳しくないけど、おそらくこれはフランス革命と関係があることでしょう。フランスというのは、人権を自分たちの手で勝ち取って、それを訴えてきた国なのに、こういう現状が放置されてていいのか?と突きつけるわけです。良いシーンだったなぁ。

シルヴァンについては、最初はメチャクチャ嫌いだなと思いました。僕がものすごく嫌いなタイプの人というか、「自分が正しいと思って疑わない人」という感じです。個人的な意見では、シルヴァンのようなやり方は、チェスに限らずだけど、何かを教育するという点であまり適していない感じがします。ただ、シルヴァンに対する印象は、映画の展開とともにどんどんと変わっていきます。「なんだ、メッチャいい奴じゃん!」みたいに変わっていくんですよね。シルヴァンの行動もまた、ファヒムが奇跡を掴み取るための重要な役割を果たすことになります。

チェスがモチーフになっていますけど、チェスのことはまったく分からなくて大丈夫です。僕も、将棋は分かるんで、チェスもなんとなく分かりますが、ただ知ってても知らなくても関係ないという感じがします。まあ、チェスについて詳しい人なら、「なるほど、あそこでああ動かすのか」「あれは誰々の棋譜だな」みたいなことが分かって、より面白いのかもしれませんけど。

個人的には、メチャクチャ良い映画でした。

「ファヒム パリが見た奇跡」を観に行ってきました
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