黒夜行

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「はりぼて」を観に行ってきました

ドキュメンタリー映画を見て、吹き出すように笑っちゃうっていうのは、なかなかない経験だったなぁ。扱われている事件自体は、確かに、数年前にニュースで目にした記憶があるけど、その舞台裏はこんな感じになってたのか、と非常に興味深く見た。

一連の騒動の発端になったのが、富山市議会議員の議員報酬引き上げだった、ということが、あまりに皮肉が決まりすぎていて最高だった。市民から反対を受けていた、月額10万円の増額を推し進めなければ、彼らは議員辞職したり、逮捕されたりすることにならなかったかもしれない。議員の視点に立てば、年間120万円を得る代わりに、莫大なものを失った、といえるだろう。

議員報酬引き上げを画策しまとめ上げたのは、議席の7割を占める、自民党系の最大会派のドンのような存在である中川勇。そもそも富山県というのは、有権者に占める自民党員の割合が3.44%で、10年年連続で1位だという。自民党である、ということがこの事件にどれだけ影響を及ぼしたのか分からないが、ともかく、富山県議会の最大派閥を舞台にしている、ということが、問題を大きくしたことは間違いないだろう。

中川勇は、他の会派の議員の意見もまとめ、月額10万円の増額を答申する。その理由を、この映画の制作元で、富山県議会の腐敗を暴いたチューリップテレビが取材するも、よく分からないことを言って丸め込む。とにかく、理由らしい理由はない。

しかし県は、「外部の有識者による報酬審議会」を招集し、この件を検討し、2回計3時間の会合で、10万円の増額が決定したという。後にチューリップテレビが、報酬審議会の議事録を情報公開請求してみると、「議員たちは除雪作業もしているから」などという委員の発言があったりした。まあ、客観的に見れば、明らかに馴れ合いで、事実、委員の半数以上が、自民党と何らかの関係がある人物だったという。

いずれにせよ、議員報酬の増額は決定した。これらの決定に対して市長に「受け止め」を聞くと、「議会のことに関して、私はコメントする立場にない」と発言する。この映画の各所で市長は登場するが、市長のコメントはほぼ一貫しており、「コメントする立場にない」というものだった。この市長も、なかなかヤバい。

まあ、市長はともかく、市民からの反対がある中での増額で、理由らしい理由も見当たらない。そこでチューリップテレビの記者は、富山市議の政務活動費の支出に関する、1200ページに及ぶ情報公開請求を行うことにする。

政務活動費というのは、政治に関係した経費の支出に使えるお金である。資料の印刷代や、何かの会合の場所代や、出張費などだ。富山市議会では、議員一人につき月額15万円が各会派に支給されており、”余った分は返還しなければならない”と決まっている。

しかし、実は富山市議会は、20万都市において唯一、政務活動費を毎年”全額使い切っている”のである。毎年きっちり100%使い切っているのは、デカい都市だと富山市だけ、ということだ。怪しい臭いがぷんぷんする。

というわけで調べてみると、出るわ出るわ。不正のオンパレード。最初にやり玉に上がったのは、議員報酬の引き上げを取りまとめた中川勇。行っていない「市政報告会」を行ったことにして、会場代や資料の印刷代を請求していた。

とにかく面白いのは、不正のやり方が杜撰すぎるということだ。どうせ誰も調べやしないと高を括っていたのだろう。ちょっと調べればすぐバレるようなことを平然とやっている。領収書の記載について、まずチューリップテレビの記者は中川氏に話を聞く。すると彼は、「場所が変わっただけだ」と、料亭で行ったと主張。その後、その”料亭での市政報告会”に出席した人物に話を聞くと、「市政報告会なんかやってたら酒なんか飲めないわな」なんてするっと言っちゃう。杜撰にも程がある。これでバレないわけがない。記者も拍子抜けだろう。この映画は、ドキュメンタリー映画によくあるような重厚な音楽ではなく、間の抜けた音楽が随所に使われている。これはたぶん、チューリップテレビ側が「調査報道感」を出すことを恥ずかしいと思ったからじゃないかと勝手に推測している。調査報道と呼べるほど、調査調査していない。1200ページの領収書をチェックする部分はメチャクチャ大変だったと思うが、疑惑が浮かべば、あとは中学生だって裏取り出来るんじゃないかと思うくらいの稚拙さである。

ともかく、中川氏は着服を認め、議員辞職。後に詐欺罪で起訴されることとなる。国政選挙の候補者の選定にも関わる大物からずっこける形となった。

その後も、中川氏と同じ自民党会派からも続々、そして他会派からも不正が見つかり、結局1ヶ月で12人が議員辞職した。この時点でもう笑ってしまう。

しかし、ここで終わらないところが凄い。なんと、まったく別軸の疑惑が浮上することになる。

チューリップテレビの記者は議会事務局に、政務活動費の情報公開請求を行った。そして、その事実、つまり「チューリップテレビが政務活動費の情報公開請求を行った」ことが、中川勇氏に筒抜けになっていた、というのだ。

当然のことながら、その話を聞いた中川氏は、資料の印刷を頼んだ業者などに口止めを依頼していたという。いや、そうなるっしょ。実際にその事実を漏らした議会事務局の職員は、「私どもの上司ですから」という意味不明な弁明をしていた。教育長に、「これは守秘義務違反ではないのか?」と問いただすと、「まあ、同じ公務員内のことですからねぇ」というこれまた謎の回答。記者がさらに、「じゃあ、誰それが情報公開請求をしましたみたいな情報は、公務員であれば誰でも知りうる、ということになるってことですか?」と質問をすると、「まあ、そういう可能性もあるってことだろうね」と答える。

で、翌日記者会見をし、守秘義務違反を認め、謝罪した。もうコントかよって展開である。

その後もコントかよっていう展開は続く。議員辞職をした中川勇氏は、議長を務めていたので、代わりの議長を決める必要があった。その後なんと、「議長が決定する→その議長の不正が発覚→さらに議長が決まる→その議長の不正が発覚」という展開になる。つまり、「脛に傷がある」という自覚すらない、っていうことなんだろうなぁ。不正が発覚して議員が辞職しまくってる中で議長になれば、そりゃあ徹底的に調べられるでしょうよ。それなのに、議長になるって、アホなんかと。まあ、「この状況なら、議長は◯◯さんだよなぁ」みたいな流れがあって、そこで断るとむしろ怪しいから、バレないことを祈って議長職を受けている、ということなのかもしれないけど。

しかし、一番面白かったのは、五本幸正って人だなぁ。この人も、不正な領収書が見つかったんだけど、たぶん額が他の人ほどじゃなかったのと、その金額を返金したってことで、とりあえず「議員辞職はしない」っていう主張を押し通してた人。で、そのあと選挙がやってくる。彼は、演説の会場とかで土下座したりなんかして、「これから皆さんには一切ご迷惑をお掛けしません!」とか言って選挙に当選したんだけど、その2ヶ月後に不正発覚。まあそれは、選挙前のものなんだけど、でも普通さ、「皆さんにはご迷惑をお掛けしません」って言ってるならさ、自分のヤバそうな部分は全部出しとかないとダメじゃんね。

この人がある場面で「えー??」って言うんだけど、そこは会場の人が全員爆笑してた。いや、最高だったなぁ。政治家としてどうかは知らんけど、キャラクターは非常に優等生だった。

2020年1月1日時点では、以下のような状況だそうだ。

政務活動費の返還金額:
自民党会派 4528万円
全会派 6523万円

返還した議員のその後
辞職 14名
引退 1名
在職 10名

観ていて強く感じたことは、やっぱりチェック機能ってのは必要だよなぁ、ということだ。必ずしもそれがマスコミである必要はないのだけど(詳しく知らないけど、政治を監視する「オンブズマン」みたいな人たちもいるんじゃなかったっけ?)、やはりマスコミがチェック機能として適切に機能するのが良いのだと思う。

日本は、報道の自由度では先進国でかなり下位に位置する国だ。誰もチェックしなくなれば、ますます不正は横行するだろう。マスコミだけに押し付けてはいけないが(そもそも僕らが関心を持たないとマスコミが動く理由が生まれない)、マスコミの人、頑張ってくれ、と思った。

映画の最後に、正直ちょっとよく分からない、それまでの流れとは異質な展開があって、その部分はイマイチ理解できなかった。「マスコミ」というものが、様々な立場からの見方によってあるべき姿が微妙に異なる、ということなのだろうか。「正々報道」という、見事なキャッチコピーを掲げていたチューリップテレビだったが、そのポスターを剥がしてしまっていた。あれはなんだったんだろう?

「はりぼて」を観に行ってきました
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小説・新書以外

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3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

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6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
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4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

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