黒夜行

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「誰がハマーショルドを殺したか」を観に行ってきました

「ハマーショルド」が誰なのかも知らない状態で観に行ったけど、凄い映画だったな。

さて、感想を書く前に2つ、書いておこうと思うことがある。

まず一つ目は、この映画は、「事実を暴く」という観点からすれば「ドキュメンタリー」ではない、ということだ。こう書いてしまうことは、この映画の「ネタバレ」には当たらない、と僕は判断したが、「ネタバレ」だと感じる人がいたら申し訳ない。

この映画では、監督自身が記者となって、ハマーショルドの死の謎を追いかけるが、その監督自身が劇中でも語っている通り、彼らが調べ上げたことは「フィクションの域を出ない」。この映画で描像される「事実」は、真に驚くべきものだが、しかしそれは、物証によって確定したものではない。証言は存在するが、それを客観的に証明する証拠はない。もちろん、監督自身、この「事実」は本当にあったことだという心証を持ったからこそ、こうして映画として公開するに至ったのだろうが、あくまでも、様々な状況証拠を総合して、「こういう絵が描ける」と言っている映画だ。いずれ、何らかの形で真相が明確になる時が来るかもしれないが、この映画単体でそれが成し遂げられているわけではない。

もちろん、だからと言って、この映画がダメだというわけではない。6年以上を調査に費やし、60年近く前に起こった、ほぼ手がかりの存在しない出来事について、思わぬ形ではあったが、真相らしきものにたどり着き、しかも、それ以上のものを掘り当てた、というのは驚くべきことだと思う。

さて書いておきたいことの二つ目は、この感想では、その「真に驚くべき事実」について書く、ということだ。

普段僕は、自分が書く感想においては、僕が「致命的」と判断する「ネタバレ」はしないようにしている。一応僕のスタンスとしては、まだ映画を観ていない人が読んでも興を削がれないように、書く内容を調整しているつもりだ。

ただ今回は、普段なら書かない部分までまるっと書こうと思う。文中に、「これ以降は、致命的なネタバレになるので、映画を観る前の方は読まない方がいいと思います」と表記しておくので、注意してください。

さて、ではまず、「ハマーショルド」って誰だよ、という話から書こう。ハマーショルドとは、当時の国連事務総長である。彼の死は、世界中に衝撃を与えたようだ。国連の場でも、「本当の意味で世に尽くした人」と追悼される映像が挿入されていた。熱烈な理想主義者であり、当時植民地支配から独立を成し遂げていたアフリカ諸国を守ることが、国際社会の使命であると訴えている人物であった。

さて、だからこそ彼は、植民地支配をしている大国から嫌われていた。自国の利益のために、アフリカから搾取し続けたいと思っている大国にとっては、ハマーショルドは邪魔な存在だったのだ。

1961年9月17日、ハマーショルドはコンゴにいた。彼は、カタンガを率いていたモイーズ・チョンベと和平交渉を目論んでいた。カタンガは、コンゴから分離して独立し、コンゴとの紛争に突入していた。カタンガを掌握していたのはベルギーの鉱山会社で、彼がチョンベを担ぎ出しトップに据えていたのだ。ハマーショルドは、コンゴとカタンガの紛争に国連軍を投入し強硬に鎮圧しようとするも、カタンガの傭兵軍は非常に強く、国連軍と一般市民に多数の死者を出した。アメリカやイギリスは、ハマーショルドに解決を迫り、彼はチョンベとの和平交渉に乗り出すことに決めたのだ。

翌9月18日。ハマーショルドを載せたチャーター機は、コンゴの小さな炭鉱町・ンドラに深夜未明に墜落。ハマーショルドを含む乗員全員が死亡するという「事故」が起こった。この事故の調査は何故か詳しく行われることなく、「爆弾などによる暗殺の可能性もある」という報告書が提出されながらも、憶測に過ぎないとして未解決のままとなっている。ワシントン・ポスト紙は「冷戦期最大の謎のひとつ」と評している。

この事故に興味を持ったデンマーク人ジャーナリストであり本映画の監督であるマッツ·ブリュガーは、手がかりらしい手がかりもない中、調査を開始する。

さて彼には、調査仲間がいる。ヨーラン·ビョークダールである。彼がハマーショルド事件に関わるようになったきっかけは父にある。なんとヨーランの父は、墜落したチャーター機の破片の一部である金属板を所有していたのだ。父がだいぶ老いてから、その金属板にまつわる話を聞いたヨーランは、以来7年もの歳月を掛けてこの事故を追っている。

そのヨーランは、非常に重要な仕事をした。ンドラの町の当時の目撃者たちの証言を集めたのだ。事故当時、黒人の証言はまったく重視されなかった。アフリカではアパルトヘイト政策が行われている時であり、黒人に人権があるとは考えられていなかったのだ。ヨーランは、そんな黒人たちの証言を集めていった。

すると、おかしな話が様々に出てくる。「墜落の直前、空港の灯りがすべて消えた」「墜落したのとは別の飛行機が銃撃した」などなど、明らかに事故ではないことを示唆する証言が集まったのだ。

また彼らは、僅かに残された記録も精査した。そもそも、遺体が発見されたのは、墜落から15時間後のことだという。これはおかしい。墜落現場は空港のすぐ近くであり、しかも黒人の証言によれば、朝まで燃えていたというのだ。墜落場所が分からなかったはずがない。しかも、ハマーショルド以外の15人の乗客の死体は、焼け焦げ、バラバラになっていたのに、ハマーショルドの死体だけは驚くほど無傷だったのだ。何故か、ハマーショルドが亡くなっていた状態の写真は残されていない。残っているのは、ハマーショルドが担架に載せられている写真だけだ。何故かその写真の襟元に、謎のカードが写っている。実はこのカード、ラストの方で明らかになるが、事故ではなかったことを間接的に示している証拠だった。

他にも彼らは、死体の写真を撮影したという地元の写真家や、国家安全保障局の元職員などからも証言を得つつ、ハマーショルドの死がただの事故ではないという印象を強めていく。

しかし実は、2013年の9月に、驚くべき調査報告がなされていた。それは、「南アフリカ海洋研究所(通称:サイマー)」と呼ばれる謎の機関の文書が存在し、そこに、ハマーショルドの暗殺計画について記されているというのだ。

なんだ、それならもう解決じゃないか、とはならない。何故なら、そもそもそのサイマーという機関が存在するのかどうか、確証がないからだ。2013年9月の調査報告の時点で、サイマーに関してわかっていたことは、ハマーショルドの暗殺について書かれた文書の存在だけ。誰も知らない、何をしているかも分からない、というか存在するかどうかも分からない機関の機密文書が出てきた、というだけでは、一件落着とはならなかったのだ。

普通ならここで、この調査報告を聞いた記者たちは、サイマーについて調べ始めるだろう。しかしそうはならなかった。サイマーの情報が出たのと時を同じくして、「サイマーというのは、ソ連による情報操作だ」というような情報が出たという。恐らく、CIA辺りの諜報機関がそういう情報を流したのではないか、とされているようだが、そういうこともあって、サイマーについて調べる者はいなかったという。

ここから焦点は、この「サイマー」という謎の機関に当たることになる。サイマーは実在するのか。実在するとするなら、本当にサイマーがハマーショルドを暗殺したのか。もし存在しないとするなら、ハマーショルドの暗殺が記されたこの文書はなんなのか。しかし、サイマーに関する情報はあまりに少なく、なかなか調査は進展しない。

一方で彼らは、もっと直接的な方法も取っている。墜落したチャーター機の残骸は、墜落場所にそのまま埋められている。だったらそれを掘り起こして、最新技術で調べようじゃないか、というのだ。とはいえ、こちらもなかなかうまくいかないのである。

さて、ここまでが、僕の感触では、まだ映画を観ていない人にも伝えて大丈夫だろう、という情報だ。

★★<これ以降は、致命的なネタバレになるので、映画を観る前の方は読まない方がいいと思います>★★




さて、彼らの調査は思いもかけない方向に転がっていく。その前に、サイマーに関する彼らの調査の進展について書こう。

彼らはサイマーについて調べ始めるが、ほとんど手がかりはない。マクスウェルという人物が創設者であるらしい、という事実を掴み、彼の写真も手に入れた。しかしマクスウェルは既に他界している。ハマーショルドの暗殺について記されていた文書には、様々な人物の名前が記されていた。その人物を特定し、探し出し、話を聞こうとするが、「サイマーという組織を知らない」とか、「このサインは私のもので間違いないが、なぜこのサインがこの文書にあるのかは分からない」というような返答が返ってくる始末。ハマーショルドの暗殺云々の前に、やはり、サイマーという機関が存在していたかどうかの確定にすら手間取っている。

一方、ちょっと違う角度からの話として、彼らは1988年の南アフリカの雑誌を見つけ出してきた。そこに、デビーという女性のインタビューが載っていた。その中で彼女は、サイマーで働いているという話をしているのだ。しかしその後デビーは突如地球上から姿を消す。後に登場する人物が、デビーはもう亡くなっているだろう、と話をしていた。

さてそんな中彼らは、サイマーの募集に応募した人物のリストを手に入れる。そこに書かれている人物に電話をしたり、探し当てて直接話を聞きに行くが、とにかく皆、サイマーについては話したがらない。

そんな中、リストに載っていたジョーンズという人物に行き当たる。彼こそ、彼らが6年間探し続けた人物と言っていい。彼は、身の危険も顧みず、サイマーに関して自分が知っていることを顔出しで打ち明けたのだ。何故危険だと分かっていて話をするのかと聞くと、彼は、「終止符を打たなければならないからだ」と答えた。

そして、彼の口から、衝撃的な話が語られる。確かに、サイマーという機関がこういうことをやっていたとしたら、そりゃあ誰だって口を噤みたくもなるだろうと思うような、とんでもない話だ。

ジョーンズはまず、サイマーという組織について語った。サイマーは、秘密の傭兵組織で、その目的は、敵国を揺るがすことだという。5000人以上が働く巨大な組織だ。サイマーは英国機関の下部組織だっただろう、とジョーンズは認識しているという(とはいえ、ジョーンズにも確証はなさそうだった)。とにかく、外国政府からの資金で成り立っている機関だった。

様々なことを行っていたが、その内の一つが、もしこれが事実だとしたら世界がひっくり返るような話だ。それは、「アフリカにHIV(エイズ)を蔓延させる」というものだ。

アパルトヘイトが横行し、白人至上主義そのものだったアフリカにおいては、とにかく、黒人の存在が「邪魔」だった。黒人を根絶させるために、エイズを蔓延させようというのだ。しかしどうやって?なんとそれは、ワクチン接種を装ってだという。マクスウェルは、無料の診療所をアフリカ各地に作る計画を立てていて、そこで予防接種と称してHIVウイルスを注射する、という計画だったという。

さて、少し話は飛ぶが、監督らはたまたま、アフリカのある広告を見つけた。それは、サイマーがダグマーという女性を暗殺してくれる殺し屋を募集するものだった。

さて、このダグマーという女性、サイマーで研究職をしていたという。しかし、殺されてしまった。ジョーンズは、「ダグマーがサイマーに殺されたことは誰でも知っていること」と証言していた。彼女は、診療所で打つワクチンが汚染されていることに気づいてしまい、それを告発しようとしていたという。当時サイマーでは、「ダグマーが告発しようとしている」という噂が流れていたそうだ。だから殺されてしまった。監督が、「サイマーは何故殺し屋の広告を出したのか?」とジョーンズに聞くと、「カムフラージュでしょうね」と答えていた。自分たちでダグマーを殺したわけではない、という風に装うためだという。

さて、ジョーンズはこのインタビューの後、国連に調査の協力をするようになったという。一方で、科学者から「ワクチン接種を装ってHIVを広めることは困難」という回答があった、ということも映画の最後で触れている。しかし、仮に効果がないのだとしても、「効果がある」と考えた人物が存在していて、実際にそれを行ったかもしれない、と考えることまで否定されるわけではないだろう。

最後にジョーンズは、こんな風に語っていた。

【白人は、アフリカの大部分を自由に操りたいと思っていた。それに抵抗する者を、サイマーは排除しようとした。そういう意味で、ハマーショルドは脅威だった。
今アフリカは、大国に抵抗を示している。もしハマーショルドが生きていて、主義を貫き通していたとしたら、その抵抗は30年も40年も前に起こっただろう。アフリカは、様変わりしていたはずだ】

国連からの調査協力に、英国と南アフリカは未だに応じていないという。

「誰がハマーショルドを殺したか」を観に行ってきました
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