黒夜行

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「エジソンズ・ゲーム」を観に行ってきました

エジソンについての歴史を知っている人であれば、当然知っている話だろうが、僕はこの映画で描かれている「電流戦争」のことをちゃんとは知らなかった。「エジソンズ・ゲーム」という邦題だから、なんとなく、エジソン側に立った描かれ方がなされるのかと思っていたけど、決してそういうわけではなかった。欧米では恐らく「電流戦争(The Current War)」という単語がよく知られているだろうけど、日本では「エジソン」の名前の方が圧倒的に有名だからこういう邦題になったのだろう。エジソンに毀誉褒貶あることは知っていたが、この映画では、かなり全般的にエジソンが悪い側として描かれているのが面白いと思う。

内容に入ろうと思います。
メインとなる登場人物は二人。一人は、言わずとしれたエジソン。この「電流戦争」の時には、エジソンの名はアメリカで轟いていて、ニコラ・テスラという天才は投資家から、「エジソンは一人しかいないが、お前のような奴は山程いる」と言われてしまうほどだ。もう一人は、蒸気機関全盛の時代に「空気ブレーキ」を開発し、「ウェスティングハウス・エア・ブレーキ社」を率いる大富豪であるウェスティングハウスである。彼は、電球を発明したエジソンが、全米に電気網を整備し「夜を葬り去る」と主張しているのを耳にし、エジソンの覇権を奪うために闘いを挑む…
というような単純な図式ではない。史実はどうか知らないけど、少なくともこの映画では違う(この映画は、「史実に着想を得た作品」とあるので、どこまで真実か分からないが、とはいえ、大部分は真実だろう)。
ウェスティングハウスには、エジソンを駆逐しようという意図は、少なくとも初めはなかった。彼は、エジソンの電球と自分の電流方式を組み合わせ、全米に送電網を広げようと考えていたのだ。
しかし、ウェスティングハウスのその思惑は望んだ通りには進まない。理由の一つは、エジソンの野心にある。エジソンは、それまでも様々な発明をしてきて、そしてその度にアイデアを盗まれてきている(少なくともエジソンはそう感じている)。だから、自分の発明を自分のやり方で押し通さなければ、また何があるか分からない、と考えているのだ。
しかしより根本的な問題があった。彼らが採用していた方式がまったく違ったのだ。
エジソンは、直流電流によるシステムの構築を考えていた。直流電流は電圧が高くならず安全だが、送電距離が短くなってしまうので、発電所をたくさん作らなければならずコストがかさむ。一方ウェスティングハウスは、交流電流を採用していた。交流電流は、長距離の送電も可能でその分コストを抑えられるが、高電圧になるため危険性もあった。
ウェスティングハウスは、エジソンの電球と、自身の電流方式を組み合わせ、一緒に電気を全米に広めるつもりだった。しかしそんな思惑をよそに、エジソンは自身の直流電流のシステムに固執し、あまつさえ、「交流電流は危険で人を殺しうる」と記者に宣伝して回ったりもしていた。それを証明するため、エジソンは、猫や馬を「交流電流」で殺す実験を行なったりもしている。ウェスティングハウスの評判を下げるため、「交流電流で感電死すること」を「ウェスティングハウスする」と表現するほどだ。
しかしある意味で、このパフォーマンスが彼の首を締めることになる。この実験を見た人物から、「非人道的な絞首刑の代わりに、電気による死刑を実現できないか?」と相談され…。
というような話です。

全体的には、非常に面白かったのだけど、僕が映画の感想でよく書くことを先に書いておこう。それは、展開がスピーディで、ついていくのが結構大変だ、ということだ。おそらくこれは、「電流戦争」の基本的な物語が、アメリカ人には基礎知識として共有されているからだと思う。細部を描かなくても、基本的に彼らの物語についてはよく知られているだろうから伝わる、と判断され、かなりのテンポの物語になっているのだと思う。「電流戦争」に関する基礎知識がない人(僕もほぼ無かった)が見ると、物語を追うのが結構大変かもしれない。

これは歴史を基にした物語であり、勝敗については既に史実となっているから、最後の結論を書いてもネタバレにはならないだろう。一応予告しておくと、以下では、物語の結末まで含めて感想を書くので、読みたくない人はここまでにしてほしい。

そもそも、僕らが普段使っている電気(コンセントなどからやってくる電気)は交流電流だ。だから、それさえ知っていれば、エジソンが負けるのだ、ということは理解できる。しかし、この映画だけ見ていると正直、何故エジソンが負けたのか、ということは分かりにくい。

なぜなら、ウェスティングハウスの交流電流にしても問題があったからだ。

当時、交流電流で電球を点けることは出来た。でも、ミシンは動かなかった。ウェスティングハウス社の技師(ウェスティングハウスの相棒のような存在)が、この問題を解決しようと奮闘するのだけど、全然上手くいかないのだ。全米の各州では、電気の方式をウェスティングハウス方式にするかエジソン方式にするか分かれた。しかしそれは、当時はまだ、「電球を点ける」という用途にしか電気が使われなかったからだろう。エジソンは、電球の開発に膨大な時間を費やしたから(日本の竹が使われた、というのは有名な話だろう)、「電球を点けるだけなら簡単」と言ってしまうのはエジソンに申し訳ないが、電球を点けるだけなら直流でも交流でもどっちでもいいし、どっちでもいいなら安い交流に軍配が上がる。

ただ、「何か機械を動かす」となると話は別だ。この映画ではあまり描かれなかったが、「機械を動かす」という意味では、直流の方が先を言っていた。ただ、ミシンが動かないという描写があったように、交流で機械を動かすのは超困難だったのだ。交流にはこういう、かなり致命的な問題があった。

じゃあそれがどう解消されたのか、というのはちょっと後回しにするとして、先にエジソンが何で苦労していたのかを書こう。電球も点くし、機械も動くなら、直流が広まらない理由はないと思うが、しかし、先ほど触れたように、直流の場合、発電所をたくさん作らなければならず金が掛かる。エジソンは、モルガンという人物とひたすら金の話をしていて、しかも何故かエジソンは超強気である。一度など、「私は奇跡を生む。あなたは必要な金を出せばいい」などと言っていた。傲慢だ。映画を見る限り、エジソン側には技術的な問題はなさそうに思えた。エジソン側の問題は、「金が足りないこと」と「ウェスティングハウスの交流電流が安価なので州ごとの獲得戦争で負けがち」という2点にあったと思われる。前者については、とにかくモルガンに可能な限り出させる、という方針しかない。そして後者については、「ウェスティングハウス側を可能な限りディスる」というやり方をすることになるのだ。エジソンはとにかく、「交流電流は人を殺す」と散々言って回る。ウェスティングハウスは、それが言いがかりのようなものだと分かっていたが、ウェスティングハウスはフェアに闘いたい男のようで、相手がいくらルール無用の闘いを仕掛けてきても、フェアなスタンスを変えない。

この辺りの泥仕合が散々描かれた挙げ句、映画の中ではあっさりとある描写がなされる。そしてそれに絡むのが、冒頭で少し名前を出したニコラ・テスラだ。テスラは初め、エジソンの会社にやってきて雇われたが、エジソンから不快な扱いしかされず辞めてしまう。その後、投資を得て自身の会社を設立するが、騙されてしまう。そして結局、ウェスティングハウスのところにたどり着くのだ。

彼が作り上げたのは要するに、「交流電流でも機械が動くようにする電動機」である。テスラは、エジソン社にいた時から、交流電流を訴えていたし、その時点で彼の頭の中には完璧な設計図があったのだが、エジソンは聞く耳を持たなかった。結局、その電動機をウェスティングハウスの元で完成させ、電流戦争に終止符が打たれることになるのだ。電球も点き、機械も動き、結局人は死なず(例外はあるが)、コストも安いなら、交流電流が勝つに決まっている。

彼らの描き方で面白かったのが、エジソンもウェスティングハウスも、結局は金じゃない、という部分が見えたところだ。

ある人物がエジソンについて、「世界一の金持ちになれるはずなのに、金には興味がない」と言う場面がある。確かにエジソンは、金儲けのために発明をしているのではまったくない。映画のラストで、電球を開発した時の気持ちを聞かれて、エジソンはその時の様子を話すが、それを聞いていても、「何かを生み出すこと」に圧倒的な情熱を注がずにはいられない人なのだ、と感じた。彼は家族を愛していたが、しかしやはり研究の手は止められず、妻から「今日は散歩に行く約束よ」と言われても、「明日3回散歩に行こう。約束する」と言って研究に戻ってしまうのだ。

ウェスティングハウスも、金ではないと感じた。ウェスティングハウスの方はわかりにくかったが、強欲さは感じず、「より良い世界を生み出すこと」に情熱を注いでいる印象があった。まあ、「歴史に名を残したいなら大統領を撃てばいい。だが、名誉を得たいなら、より良いものを生み出すしかない」みたいなことを言っていたから、名誉欲なのかもしれないけど、だとしても、それによって世界がより良くなるなら良いことだ。

しかし、この電流戦争の副産物として電気椅子が生まれ、またこの電気椅子が結果的に、エジソンの評判を落とす結果に繋がる、というのは、非常に興味深かった。

エジソンが亡くなった際、アメリカは敬意を表し、1分間照明を落としたという。確かにそれだけの功績を成し遂げたよなぁ、と。なにせ、まさに「映画」を発明したのも、エジソンなのだから。

「エジソンズ・ゲーム」を観に行ってきました
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