黒夜行

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「新聞記者」を観に行ってきました

何で僕はこの映画、公開時に観なかったんだろうなぁ。
こんなに泣ける映画だったとは。
いや、お涙頂戴という物語なわけではないのだけど。


誤解されるだろうし、賛同されないだろうことは承知で書くと、僕は、「国民の半分ぐらいが賛成しているビジョン」のためなら「独裁」でも良いと思っている。

もちろん僕は、明確な意味での「独裁」を経験したことはない。独裁国家の歴史や現状についても詳しいわけではない。だから軽々しくこういうことを言うべきではないだろう。しかし、その辺りのことについては程度問題だと考えている。「どの程度の独裁なのか」ということだ。もちろん、自由がほとんどないような独裁は辛い。実際、独裁というのは常に、そういう究極のところまで行き着いてしまうものなのかもしれない。けど、「ソフトな独裁」みたいなものがもし実現できるなら、それは悪くないと思っている。もちろん、誰かの人生を破滅させたり、不可逆的な傷やダメージを与えたり、人の生死を左右するようなやり方には絶対反対だが、過半数ぐらいの人が望むビジョンの達成を目指しているなら、多少の不正や横暴は仕方ない、と思っている。

ここで僕が言いたいことは、「独裁という状態そのものを否定するつもりは僕にはない」ということだ。過半数程度に支持されるビジョンがあり、その達成のために独裁を敷くしかないというのであれば、まあ仕方ないかと思う部分はある。自由を差し出すことなく、何かを手に入れることは、なかなか難しいと思うからだ。

さて、その前提に立った上で、僕は現状に疑問がある。それは、「そもそも国はビジョンを持っているのか」、そして「ビジョンがあるとしてそれは過半数程度に支持されているものなのか」という点だ。

僕は、この点はクリア出来ていないと感じる。だから、今の日本の方針・進み方には抵抗したいと思う。

今、国が目指しているビジョンはなんだろう?表向き、色々言ってはいるのだと思う。ただ、僕が感じることは一つ。「国民の少数派の利益になることを目指す」ということだ。少数派というのは、政治家と仲の良い人や金持ちなどをイメージしている。少なくとも、多数派の方を向いて何かをしているようには思えない。

僕が「過半数ぐらい」という表現をしたのは、国民全員が賛同できるビジョンは存在し得ないと思うからだ。だから、過半数ぐらいで僕は納得するしかないと思う。僕は、自分が過半数側に含まれていなくても、たぶん納得する。それが間違いなく、過半数ぐらいの人たちに支持されているものであると確信が持てるなら、そのビジョンの達成が僕の利益にならなくても、まあ仕方ないと感じられるだろう。

しかし、国がそもそも、多数派どころか過半数ぐらいの人たちの希望さえ見ていないとすれば、やはりそれには納得が出来ない。

【安定した政権の維持は、この国の安定と平和に繋がる】

【この国の民主主義は形だけでいいんだ】

これらのセリフに対しては、国が過半数ぐらいの人の希望を満たすビジョンを追っているのであれば、僕は頷く用意がある。しかし、そう思えない現状においては、唾棄すべきものだ。

そう思えない現状に対しては、常に唾棄する側でいたいと、この映画を観て改めて感じた。

内容に入ろうと思います。
映画は、現実とリンクするような形で展開する。
東都新聞の社会部の記者である吉岡は、韓国人とのハーフ。ジャーナリストだった父とアメリカで育ったが、父の死後、日本で新聞記者として正義を追っている。「真のジャーナリスト」と呼ばれた父の遺志を継ぐ意味でも。
世の中では、様々な問題が起こる。文科省のトップの不倫疑惑が報じられ、また、女性ジャーナリストをレイプしたとして逮捕されるはずだった総理と親しい記者の逮捕が取りやめとなる。それらの情報操作に、内閣情報調査室(内調)が関わっている。内調は、各省庁の官僚からの寄せ集めで構成されており、多田という難物が束ねている。その内調に配属となった、外務省官僚である杉原は、週刊誌記者のようなスキャンダル探しや、SNSへの情報バラマキなどの仕事をやらされる。外務省時代の仕事とはまったく違い戸惑うが、多田から「これも国を守るための重要な仕事だ」と言われ、もうすぐ子どもが生まれる身でもある杉原は割り切ろうとする。しかし、明らかに虚偽の情報を流すように命じられ、拒絶反応を示すと、「ウソかホントかを決めるのはお前じゃない。国民だ」と、有無を言わさないやり方を強要される。
一方、東都新聞の社会部には、奇妙なFAXが届いた。サングラスを掛けた羊の絵が一枚目に付けられた、「新設大学院大学設置計画書」と名付けられた文書だった。差出人は不明だが、本来であれば文科省の所管のはずの大学新設が、何故か内閣府主導で行われることを示すものだった。内閣府は最近、内調を私物化して情報操作をしていると噂され、その圧力は新聞などメディアにまで及んでいた。とりあえず、この文書が本物なのか、そうだとしたら差出人は誰なのかということも含め、吉岡が取材を担当することになった。
自分の仕事の意義にゆらぎ始めていた杉原は、外務省時代、北京大使館で一緒だった信頼する上司・神埼から連絡をもらう。久々に食事をすることになった。その席で杉原は、「官僚の仕事は誠心誠意国民のために尽くすことだ」と昔神埼に怒られたという思い出話をするが、神埼は「キツイね。過去の自分から叱られるというのは」と様子がおかしい。その数日後、直前に杉原に電話を掛けて「ごめんな」と言った神埼は、ビルの屋上から身を投げてしまう。
大学新設の裏事情を取材する吉岡と、神埼の死を訝しむ杉原。新聞記者と内調という、真逆の立場の二人の人生が交錯し、巨悪が明らかになる…。
というような話です。

凄い映画だったなぁ。
こんなに凄い映画だったとは。

とにかく、映画を観ながら、なんかずっと泣いてた気がする。
たぶん、悔しかったんだろうな、と思う。
「何が」というわけではなく、この映画で切り取られる現実や、この映画に登場する人物に、とにかく悔しさを感じていたように思う。

冒頭でも少し書いたように、僕は、正義や理想の実現のためなら、多少の不正や横暴には目を瞑ってもいいと思っている。そこまで清廉潔白には、政治は動かせないと思うからだ。
でもやっぱり、誰かの人生を破滅させたり、誰かを死に追いやったりしてはいけないと思う。

「正しさ」や「正義」は常に複数存在して、それらは対立する。だから、正しいのに、あるいは正義を目指しているのに、それが叶わない、ということは仕方がないことだと思う。いつだって、複数ある内のたった一つの正しさ・正義しか選ばれないのだから、他が敗北するのは仕方ない。

しかし、正しいのに、あるいは正義を目指しているのに、そのことによって不可逆的なマイナスが与えられるという現実は、納得出来ない。敗北は敗北で受け入れざるを得ないが、しかし、敗北に不可逆的なマイナスが付随する必然性はない。しかし現実には、敗北には取り返しのつかないマイナスが付与されるのだ。

そのことが悔しい。正しさが認められない現実は、諦めて受け入れられるかもしれない。しかし、正しさが受け入れられないだけでなく、不名誉を着せられたり、自殺するほど追い込まれたり、虚偽の情報をばらまかれたりするのは、やっぱりおかしい。

敗北すれば不可逆的なマイナスを課せられる世の中では、誰も立ち上がれなくなる。負けた時の代償が、あまりに大きいからだ。そして、正しさを主張することに躊躇するようになってしまう。そうなれば益々、特権的な地位にいる人間の正しさだけが社会を作り上げていくことになる。

もちろん、特権的な地位にいる人たちが目指していることは、そういうことだ。「安定」というのはつまり、「文句を言えなくする」ということだろう。そしてそれはつまり、「独裁」と大差ない。そういう意味で今日本は、「ソフトな独裁国家」なのだと思う。

この現状を、僕は受け入れたくはない。

映画を観ながら、そういう悔しさみたいなものが身体を支配したように思う。そしてその悔しさが、僕に涙を流させたのだろうと思う。

僕は、映画でも本でも、権力や巨大組織とは反対の立場にいたいと感じる。権力側に取り込まれず、弱い側の立場に立てる人間でありたいと、いつも思う。

でも、この映画を観て、本当にそんな風に振る舞えるだろうか、とも思ってしまった。特に、自分に守るべき存在がある場合、自分の決断によって守るべきものまで危険にさらすことができるだろうか、と考えてしまうだろう。

一方、「行動できなかった」という後悔を抱えながら生きていくのも、辛い。

その葛藤に苦しむだろう。杉原が、まさにその葛藤を体現する存在として描かれる。

この作品は、よくこれを映画にしたな、と感じるほど、リアルに斬り込んでいる。映画で扱われるのは、見れば誰もが、実際のあの事件だと連想出来るものばかりだ。また、手ブレを抑えないカメラワークも、リアル感を演出する。

この映画では、「官邸権力と報道メディア」という、実際の討論番組の映像も組み込まれている。元文科省の官僚である前川喜平や、東京新聞の望月衣塑子などが討論している番組で、発言内容もそのまま使われている。それが、映画の世界の中で違和感なく収まっている。いかにこの映画が、明確に現実を下敷きにしているかということが分かるだろう。

「ソフトな独裁国家」である日本において、こういう内容の映画を撮ることは相当リスキーだろう。非常に回りくどい形で、映画製作に関わった人間が不利益を被るような何かが行われても不思議ではない。日本アカデミー賞を受賞した今となっては、さすがにあからさまな圧力を掛けることは不可能だろうが、それでも、分かりにくい形で何らかの悪影響が出る可能性は今後もありうるだろう。

こういう、リアルタイムの政治的な現実を明白に取り込みながら、その是非を問うような映画が撮られている、という事実が、問題の根の深さ、そして解決の困難さを物語っているように思う。今のままの「ソフトな独裁国家」を継続させてしまえば、遠くない将来、僕らのような一般市民にも目に見える形で不利益が現出してくるだろうと僕は思う。そうならないためには、少なくとも、多くの人がこういう現実を知り、関心を持つしかないだろう。政治の関心が少数派に向いている、という事実を捉え、それに意を唱えなければ、現実が変わる可能性は低いだろう。

こんな国に生きているのだな、という悔しさと絶望を味わうための映画です。

余談だが、つい最近「架空OL日記」を観た。しばらく気づかなかったが、主演の女性が、「架空OL日記」にも出ていた人だった。雰囲気が全然違っていて、驚いた。

「新聞記者」を観に行ってきました
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