黒夜行

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「Fukushima50」を観に行ってきました

原作である「死の淵を見た男」を読んだ時は、衝撃を受けた。
本当に、日本は、壊滅一歩手前まで行っていたのだ、と。

震災当時、僕は、東京から避難しよう、という言説を、冷ややかに見ていた。
「怖がりすぎだろ」と思っていた。

僕は、性格的にどうしても、全体の動きとは逆に行きたくなる。
全体に流されたくない、流されまい、と思ってしまう。
今も、コロナウイルスが日本を混乱させている。
1年後、今の日本の状況を振り返ってみた時、どういう判断が下されるか、まだ誰にも分からないだろう。
ただ僕は、コロナウイルスで混乱している今も、「怖がりすぎだろ」と思ってしまう。

しかし。
原作を読んで理解した。
避難しようと言っていた人、そして、実際に避難した人の方が正解だったのだ、と。
福島第一原発がもたらした混乱が一応の収束を見せるまでの数日間、日本はまさに、「死の淵」まで行っていた。

福島第一原発は、最終的に2号機が問題になった。格納庫の圧力が最大で765キロヘクトパスカルに達していた。これは、2号機の格納庫の設計限界の2倍を越えているという。
普通なら、格納庫が内圧に耐えられずに爆発していてもおかしくない数字だ。
しかし、2号機の圧力は、「なんらかの理由」で下がった。
下がった理由は、今も分かっていないという。

2号機の格納庫がもし爆発していた場合、
被害はチェルノブイリ原発事故の10倍以上と想定されていた。
原発を中心に、半径250キロ圏内の人間は全員避難。
もちろん、東京もほぼすっぽりと覆われる範囲だ。
日本は、壊滅していただろう。

つい最近テレビで、台湾は東日本大震災を契機に原発廃止を目指すことに決めた、というニュースを見た。まあ、ごく一般的な感覚を持っていればそうなるだろう。それでも日本が、原発を手放そうとしないのは、凄いと思う。もちろん、国が原発を手放せないのは分かる。色んなグチャグチャした背景ももちろんあるだろうけど、単純に、原発を手放した場合、電力需要を100%完全に賄えるか、という点は、やはり慎重にならざるを得ないだろうと思う。

しかし、あの福島第一原発事故を経験した当の国民(もちろん僕もその一人だが)の間で、「原発反対」の機運が高まらないのは、凄い。僕も、たしかに実際、「原発反対」のために、特別何かをしているわけではない。だから、「機運が高まらない」という意味で、他の人と同罪だ。

でも。
知らないだけなのではないか、という気もするのだ。
僕も、原作を読むまでは知らなかった。
あの時、あの場所で、一体何が起こっていたのかを。
日本がどれだけ、「死の淵」に接近していたのかを。
そして、原発を手放さない限り、同じことが絶対に起こらないとは言えない、ということを。

福島第一原発事故の際には、最後の最後、最小限の人員だけを残して、他の職員は避難させた。
おそらく歴史上、最も危険な場所の一つだったと言えるかもしれない福島第一原発に残り、命を掛けて事態の収束に当たった面々を、海外メディアは「Fukushima50」と呼んだという。
彼らには、敬意しかない。
もちろん、避難した職員も含めて、現場にいた人間はすべて、称賛に値すると思う。

そしてだからこそ、彼らには、率先して、原発無しで電力の安定供給が可能な世界を目指してほしいと願ってしまう。

それは、酷な願いだ。

【「原発は機械じゃないんだよな。イチエフで一番手が掛かるのは、この1号だ」
「この手であいつを、助けてやりたいんです」】

技術者たちのやり取りだ。

以前、『紙つなげ』という本を読んだ。同じく東日本大震災で壊滅的な被害を被った製紙工場の話だ。そこでも技術者たちは、機械を、我が子のように扱っていた。

自分たちが育ててきたという誇りは失ってほしくない。

日本は、現場の力が圧倒的に高い、と聞いたことがある。上がどれだけダメでも、どんなアホみたいな指示が来ても、結局現場でどうにかしてしまう。かつて大学教授だった内田樹が、文部科学省から来るどう処理していいんだか分からないような指示や通達を、現場レベルの努力でシステムとして定着させてしまう、というようなことを何かの本で書いていた。日本の技術者も、自分たちの技術やこれまでやってきた経験に自信と誇りを持っているからこそ、凄まじい現場力を生み出すことができる。

その自信や誇りを失わせずに、一方で、原発ではない選択肢に舵を切る。福島第一原発事故で命を掛けて立ち向かった彼らに報いるためにも、そういう決断が成されてほしいものだと思う。

内容に入ろうと思います。
本書は、東日本大震災当時、福島第一原発の所長だった吉田昌郎を中心に、原発事故当時何が起こっていたのかを明らかにする『死の淵を見た男』を原作とする映画です。
地震発生時、中央制御室にいたのは、当直長だった伊崎利夫。彼は吉田昌郎と同い年であり、気心の知れた仲だ。伊崎ら技術者たちは、原発により近い場所にある中央制御室に詰めたまま状況に対処し、吉田は免震重要棟に設けられた緊急時対策室に詰めて、現場への指示と、本店(東京電力本社)とのやり取りを続ける。
1号機の格納庫の圧力が上がる。格納庫内の空気(放射能に汚染されている)を逃がすベントを行わなければならない。しかし、津波によって全電源喪失に陥っている福島第一原発では、線量が恐ろしく高い建屋に人間が入り、自力でバルブを開けるしかない。
水素爆発により1号機の建屋が崩壊。3号機の建屋も爆発し、屋外で作業していた職員が多数怪我をする。
自衛隊から借りた消防車を連結して、格納庫の冷却材としての水を送り続ける。総理が現場の視察にやってきて、現場を混乱させる。本店は、官邸に忖度した意味不明な指示を出し、必要な物を用意し送り届ける能力もない。
状況は、刻一刻と悪化していく。吉田は、中央制御室のメンバーを緊急時対策室に戻し、さらに状況が悪化した後、ごく一部のメンバーを除いて職員を避難させた。
歴史上、誰も経験したことのない闘いに身を投じざるを得なかった者たちの、奮闘の記録だ。

ニュースで、あるいは本で、字面だけは見た記憶がある。「ベント」「メルトダウン」「水素爆発」などだ。しかしやはり、映像で見ると、圧倒的だ。実際、福島第一原発の内部を見たことがあるわけではないが、映画では、津波発生から事態の収束まで、起こった出来事が非常にリアルに描かれていく。真っ暗な中、異常値を叩き出す線量を感知した線量計がアラートを鳴らす中、バルブを閉めに突入する姿。水素爆発によって負傷者が大量に出てしまった状況。真っ暗な中央制御室で、絶望的な数値を叩き出すメーターを見る姿。どれも、リアルだ。映像で描かれたことで、あの時のヤバさが、より迫って理解できる。

そういう、状況をリアルに描き出す一方で、この映画は、人間の物語になっている。

線量が高すぎて、ベントのために開けるバルブまで近づけなかった2人が、「すいませんでした」「もう一度行かせてください」と涙ながらに訴える姿。

若手を緊急時対策室へと戻し、ガスマスクをつけたおじさんたちしかいなくなった中央制御室で、陽気な写真撮影会が行われている様子。

「腹減ったな、なんか食うか」と所長が言い、あちこちから食べ物をかき集めている時、所長はようかんを見つける。「えー、賞味期限はー」と目を細めて表示を見ていると、伊崎に「この期に及んで身体の心配かよ」と茶化される場面。

避難所で父親からのメールを受け取った伊崎家が、その”異様さ”に、初めて深刻な状況を理解する姿。

最後、ギリギリの状況で残った面々の一人が、家族ともう会えないだろうと覚悟して、座り込んで号泣する場面。

映画館では、鼻をすする音がずっとしていた。

その中でも、印象的だったのが、中央制御室で若手の一人が、「俺たちがここにいる意味ってあるんですかね?」と発言したのをきっかけに、入り乱れての大混乱となった場面で、伊崎がこう発言する場面だ。

【俺たちはここを離れるわけにはいかない。今避難している人たちだって、ここにいる俺たちが何とかしてくれると思って、家に背を向けたんじゃないのか?】

別の場面でも、こんな言葉が出てくる。

【現場の人間を守れない人間が、地元の人間を守れるはずがない】

吉田も伊崎も、自分の部下に、「死にに行ってくれ」と言ってるのと大差な指示を出さなければならないことが多々あった。実際に現場に向かう人間も大変だが、それをやらせなければならない人間も大変だ。自分の決断一つで誰かの命を左右してしまうかもしれない、という状況に、しばらくずっと置かれた2人の覚悟みたいなものが、様々な場面で現れていた。

その一方で。
本店は、最悪だ。

原作を読んでいる時も思った。
こいつら、アホなんじゃないか、と。

映画の中では、そういうエピソードはそこまで多く描かれない。しかし、官邸や総理の都合で決断を先送りにしたり、一度GOサインを出したことを取りやめたりすることを繰り返す。現場の人間は、命を掛けて戦っているのだ。しかし本店は、まるで駒のように、思った通りに動くものであるかのように扱う。

最悪だ。

【そうやって言ってるだけの奴は気楽でいいよな!(「全責任は取るから」という発言に対して)だったら一回現場に来いよバカヤロー!】

僕は、原子力発電という「技術」については、それなり以上に信頼している。日本の現場力や技術者も信頼している。しかし、日本の組織の上層部については、信用していない。だから、全体として、原子力発電には反対だ。こんなアホみたいな連中が、何かを決断し実行させるのであれば、原子力発電なんか無い方がいい。

【俺たちは、何か間違ったのか?】

どこまで遡るかによるが、やはり人類は、「原子力という技術を文明に組み込む」という「間違い」を犯してしまったのだろう。恐らく、原子力発電が無ければ、今のような文明社会は維持出来ていないのだろう。ようやく自然エネルギーによる発電技術が、実用的な大規模発電に対応できるレベルになってきただろうが、そうなる前、火力・水力しか発電方法が存在しなかった時代に、原子力発電という選択肢を封じていれば、今と同じような生活は出来なかったはずだ。地球上の多くの人間が、原子力発電による恩恵を何らかの形で受け続けている。

その、受け続けてきた恩恵を無かったことにして、原子力発電を廃止しようと言うのは、簡単だが現実的ではない。

人類は、原子力を手放すべきだと思う。簡単なことではないと思う。実現のためには、100年単位の時間が必要だと思う。けど、どれだけ時間が掛かっても、みんなでその地平を目指すという覚悟を決めて舵を切り替えなければ、人類はそう遠くない将来滅びるんじゃないかな。

どうせ自分が死ぬまでの間にそんなことにはならない、と考えるのは合理的だと思うし、批判出来るほど僕だって現実的に何かしているわけではない。

けど、地球上に人類が住めなくなってしまう未来の責任の一端を自分も担っている、と感じられることは、やっぱ、寝覚めが悪いなと思う。

「Fukushima50」を観に行ってきました
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