「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」を観に行ってきました
基本的にいつもそうだが、この映画に関しても僕は、「斎藤工が撮った映画」という以上の前情報を持たずに観に行った。だから、オムニバス的に複数の映像がくっついたものだということも理解していなかった。だから映画を観ながら、割と混乱した。この、バラバラにしか思えない映像群が、最後に一つのまとまりに収束するのか?と。エンドロールを観て初めて、なるほど複数の映像を同時に上映するオムニバス映画なのだ、ということを理解した。
ここでは、冒頭の映画と、最後の映画だけに触れよう。それぞれ「冒頭」「最後」と呼ぶことにする。
「冒頭」は、なんか凄く気になる構成の映画で、惹き込まれた。ドキュメンタリータッチの映画なのだけど、構成が凝っている。「とある映画の撮影に参加した女優とスタッフの話し合いの様子を撮影した映像」「女優の一人に撮影前にインタビューしている映像」「同じ女優に撮影後にインタビューしている映像」「撮影された映画の映像」という、4種類の映像を組み合わせて作られているという構成だ。全体の設定としては、映画の撮影後、女優たちが「この映画を上映しないでほしい」と訴え、監督たちと話し合っている、というものだ。正直、状況の全容をちゃんと掴めるほどの情報が盛り込まれない映画なので、全体像は分からないのだけど、その中で、女優の一人への撮影前・撮影後のインタビューが印象的だった。
「ともちゃん」と呼ばれるその女優に対して、監督は撮影前に、「ともちゃんが生きてきた、その人生すべてを、この映画が肯定するような、そんな映画にしたい」と強く訴える。そんな監督の訴えに、ともちゃんもまんざらでもなさそうに楽しそうに答えている。
しかし、撮影後のインタビューでは、一転、重苦しい空気が流れる。状況ははっきり理解できないが、ともちゃんがしきりに訴えるのは、「自分はこれからどうしたらいいのか」ということだ。何があったのか、はっきり捉えきれないという部分と、ざらついた映像から綺麗な映像まで、様々な質感の映像が混在する構成が、なんだか目くらましのような感じで、そういう中で、何があったか分からないけど女優が自分自身を見失っていくような独白をしていく、という不穏さが、なんか凄く良かった。
「最後」は、とにかくメチャクチャ面白かった。始まりの方はさほどでもなかったが、後半では、観客は笑いっぱなしという感じだった。
設定としては、芸人がやるコントのような感じだったが、しかし、ドキュメンタリーっぽく撮っているのと、「そういうこと言う人いそう!」という絶妙なセリフや言い方が見事で、「あり得ない設定」と切り捨てることができないリアルさがあった。
状況は、喫茶店の一角で、秋山ゆずきという女優のインタビューを行う、というものだ。仕事の合間にちょっと時間を作ってマネージャーと共にやってきた秋山に、カメラマンとインタビューアーが様々な質問をする。
インタビューは、初めこそ順調に進むが、次第に歯車が噛み合わなくなっていく。その理由が、「コンプライアンス」だ。秋山の返答一つ一つに対して、「それはこういうクレームがくるかもしれないから」「これはこういうイメージが秋山さんについちゃうかもしれないから」と、重箱の隅をほじくるようなツッコミが入っていく。
一つだけ例を挙げよう。「好きな動物は?」と聞かれて、秋山は「ウサギ」と応えるが、「ウサギって性欲が強いんですよねぇ。イメージがちょっと悪くなっちゃう」という理由でダメ。「じゃあタヌキ」と言うと、「タヌキはほら、キ◯タマが…」と言われる。という具合に、「どう考えてもそんなこと考える必要ないでしょ」というような部分に待ったをかけ、インタビューはいちいち止まる。
さらに、「コンプライアンス」は、秋山の発言以外にも向けられる。何に向けられるのかという詳しい話はここでは書かないが、あまりにもバカバカしくて、秋山とそのマネージャーが苛立ちを隠せなくなっていく、という展開が非常にリアルに描かれる。
凄くバカバカしくて、ある面では「あり得ない!」と感じる非リアリティ満載なんだけど、ある面では「確かにこうなっていってもおかしくないよなぁ」と感じさせるリアリティもあって、そのミックスの具合がとても絶妙で良かった。
「表現」というのは、常に、時代時代の「規制」と闘ってきたわけだけど、誰もが「表現」を生み出す側でもあり「規制」を生み出す側でもある。「表現」する者が、自らで「規制」を始めてしまうと、どんどんと狭く窮屈になっていってしまう。
現代では、発言一つ、映像一つで、社会的地位を剥奪されてしまうことが現実に日々おきている。そこに、誰もが加担していない気分で、つまり、自分は関係ないけど社会が厳しいんだよね、というスタンスでいる。でも実際のところ誰もが、そんな社会の空気を作っている一員である。そういうことを強く自覚させる作品だと感じる。
とはいえ、「規制」を乗り越えようという運動の中から、面白い「表現」が生まれることもある。なんというか、「表現」と「規制」が絶妙なバランスを保てる世の中であってほしい、と思う。
「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」を観に行ってきました
ここでは、冒頭の映画と、最後の映画だけに触れよう。それぞれ「冒頭」「最後」と呼ぶことにする。
「冒頭」は、なんか凄く気になる構成の映画で、惹き込まれた。ドキュメンタリータッチの映画なのだけど、構成が凝っている。「とある映画の撮影に参加した女優とスタッフの話し合いの様子を撮影した映像」「女優の一人に撮影前にインタビューしている映像」「同じ女優に撮影後にインタビューしている映像」「撮影された映画の映像」という、4種類の映像を組み合わせて作られているという構成だ。全体の設定としては、映画の撮影後、女優たちが「この映画を上映しないでほしい」と訴え、監督たちと話し合っている、というものだ。正直、状況の全容をちゃんと掴めるほどの情報が盛り込まれない映画なので、全体像は分からないのだけど、その中で、女優の一人への撮影前・撮影後のインタビューが印象的だった。
「ともちゃん」と呼ばれるその女優に対して、監督は撮影前に、「ともちゃんが生きてきた、その人生すべてを、この映画が肯定するような、そんな映画にしたい」と強く訴える。そんな監督の訴えに、ともちゃんもまんざらでもなさそうに楽しそうに答えている。
しかし、撮影後のインタビューでは、一転、重苦しい空気が流れる。状況ははっきり理解できないが、ともちゃんがしきりに訴えるのは、「自分はこれからどうしたらいいのか」ということだ。何があったのか、はっきり捉えきれないという部分と、ざらついた映像から綺麗な映像まで、様々な質感の映像が混在する構成が、なんだか目くらましのような感じで、そういう中で、何があったか分からないけど女優が自分自身を見失っていくような独白をしていく、という不穏さが、なんか凄く良かった。
「最後」は、とにかくメチャクチャ面白かった。始まりの方はさほどでもなかったが、後半では、観客は笑いっぱなしという感じだった。
設定としては、芸人がやるコントのような感じだったが、しかし、ドキュメンタリーっぽく撮っているのと、「そういうこと言う人いそう!」という絶妙なセリフや言い方が見事で、「あり得ない設定」と切り捨てることができないリアルさがあった。
状況は、喫茶店の一角で、秋山ゆずきという女優のインタビューを行う、というものだ。仕事の合間にちょっと時間を作ってマネージャーと共にやってきた秋山に、カメラマンとインタビューアーが様々な質問をする。
インタビューは、初めこそ順調に進むが、次第に歯車が噛み合わなくなっていく。その理由が、「コンプライアンス」だ。秋山の返答一つ一つに対して、「それはこういうクレームがくるかもしれないから」「これはこういうイメージが秋山さんについちゃうかもしれないから」と、重箱の隅をほじくるようなツッコミが入っていく。
一つだけ例を挙げよう。「好きな動物は?」と聞かれて、秋山は「ウサギ」と応えるが、「ウサギって性欲が強いんですよねぇ。イメージがちょっと悪くなっちゃう」という理由でダメ。「じゃあタヌキ」と言うと、「タヌキはほら、キ◯タマが…」と言われる。という具合に、「どう考えてもそんなこと考える必要ないでしょ」というような部分に待ったをかけ、インタビューはいちいち止まる。
さらに、「コンプライアンス」は、秋山の発言以外にも向けられる。何に向けられるのかという詳しい話はここでは書かないが、あまりにもバカバカしくて、秋山とそのマネージャーが苛立ちを隠せなくなっていく、という展開が非常にリアルに描かれる。
凄くバカバカしくて、ある面では「あり得ない!」と感じる非リアリティ満載なんだけど、ある面では「確かにこうなっていってもおかしくないよなぁ」と感じさせるリアリティもあって、そのミックスの具合がとても絶妙で良かった。
「表現」というのは、常に、時代時代の「規制」と闘ってきたわけだけど、誰もが「表現」を生み出す側でもあり「規制」を生み出す側でもある。「表現」する者が、自らで「規制」を始めてしまうと、どんどんと狭く窮屈になっていってしまう。
現代では、発言一つ、映像一つで、社会的地位を剥奪されてしまうことが現実に日々おきている。そこに、誰もが加担していない気分で、つまり、自分は関係ないけど社会が厳しいんだよね、というスタンスでいる。でも実際のところ誰もが、そんな社会の空気を作っている一員である。そういうことを強く自覚させる作品だと感じる。
とはいえ、「規制」を乗り越えようという運動の中から、面白い「表現」が生まれることもある。なんというか、「表現」と「規制」が絶妙なバランスを保てる世の中であってほしい、と思う。
「COMPLY+-ANCE コンプライアンス」を観に行ってきました
- 関連記事
-
- 「こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話」を観に行ってきました (2018/12/31)
- 「アリー/スター誕生」を観に行ってきました (2018/12/24)
- 「ルーム」を観に行ってきました (2016/05/29)
- 【今日考えたこと】~本売る関連①~ (2014年4月~2015年3月) (2015/04/11)
- 「去年の冬、きみと別れ」を観に行ってきました (2018/03/26)
- 「キーパー ある兵士の奇跡」を観に行ってきました (2020/10/31)
- 「この世の果て、数多の終焉」を観に行ってきました (2020/08/25)
- 「天空の蜂」を観に行きました (2015/09/12)
- 「新聞記者」を観に行ってきました (2020/03/22)
- 「ソニア ナチスの女スパイ」を観に行ってきました (2020/09/27)
Comment
コメントの投稿
Trackback
http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/3903-c1edc14f