黒夜行

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「37seconds」を観に行ってきました

なんか、映画じゃないみたいだった。
自分でも、これが褒め言葉なのかそうでないのか、よく掴めていないが、純粋にそう思った。

今までも、物語じゃなくて、なんかリアルなものを観ているような気になる映画はあった。でも、そういう映画には2つ特徴があった。

一つは、カメラワーク。カット割りが少なくて、手持ちのカメラのワンショットで撮っているような映画は、リアルを切り取ってるような雰囲気になる。

もう一つは、役者の知名度。知っている役者がいなければいないほど、リアルさが増すように思う。

しかし、この映画は、どちらの点も当てはまらない。カット割りは、物語であることが明らかだし、役者も、名前までは知らないけど見たことある人が出ている。

それでも、なんか凄く、本物っぽかった。

たぶんその要因の一つは、主人公が実際の車椅子生活者だった、ということもあるように思う。

最初から、なんというか、本当に障害を持っている人がこの役を演じているんだ、ということが分かった。なんで分かったのか分からないけど、たぶんどこかに、健常者には絶対に出せないような何かがあったんだろうという気がした。映画を観終えて、調べてみると、やはりそうだった。健常者が障害を持つ人を演じるのには違和感がある、という考えから、オーディションをして見つけ出した人だそうだ。

物語なのだけど、物語を構築する最も重要な柱となる部分に嘘がない。たぶんそのことが、この映画の本物感みたいなものを押し上げているのだと思う。

本当に、主人公の言動が、物語の世界のものとは思えなかった。貴田ユマという人物がどこかに存在していて、その彼女が、動いて、考えて、喋っているんだ、という風に感じた。僕が、「障害を持つ人のリアルな世界」にそこまで詳しくない、ということもあっただろうとは思う。映画の中では、なんとなく非リアルに思えるような描写もある。けど、「障害を持つ人の世界」に詳しくない僕には、その非リアルさを断定的に判断できるわけではなかったし、実際に映画を観た後で公式HPを見てみると、かなり取材した上で、現実を反映させた映画になっているそうだ。例えば、映画の中に出てくる、一般的にイメージする「介護士」とはかけ離れた人物には、実在のモデルがいるそうだ。

最後の最後まで、「フィクションを観ているんだ」という感覚にならず、「実在する”貴田ユマ”という人物の密着ドキュメンタリー」みたいな見方をしていた。繰り返すが、カット割りなどから、ドキュメンタリーと勘違いするわけがない作りになっている。でも、映画全体の雰囲気が、「これはドキュメンタリーだぞ」と訴えかけてくるのだ。

その力強さが、何よりも印象的な映画だった。

内容に入ろうと思います。
出生時の脳性マヒによって下半身不随となってしまった貴田ユマは、母親と二人暮らし。生活の全般は自分ひとりでなんとかできるが、母親の手を借りなければできないこともある。
ユマは、親友で漫画家でユーチューバーのサヤカのゴーストライターとして生活をしている。表に出るのは、可愛らしい容姿を持つサヤカだが、実際に絵を描いているのはユマだ。サヤカは、編集者にも「ユマはアシスタントだ」と伝えており、ユマがゴーストライターである事実を伏せている。ユマはそんな扱われ方に不満がありつつも、仕方ないと諦めている部分もある。
ユマは、自身も漫画家として独り立ちしたいと思い、公園で拾ったエロ漫画雑誌に電話を掛け、原稿の持ち込みをすることにした。対応してくれた女性編集長は、絵やストーリーの出来を褒めたが、ユマにSEXの経験がないと聞き、未経験者の妄想なんかつまらないから、SEXしたらまた原稿を持ってきて、と告げる。
そこから彼女は、いかにしてSEXをするかを考えるようになるが…。
というような話です。

僕がこの映画を観て感じたことは主に2つ。

1つは、「障害を持つ人は、優等生であり続ける限りきちんと生きられる」ということだ。

僕自身、そこまで詳しくないが、恐らく日本における、障害を持つ人向けの社会福祉みたいなものは、それなりには充実しているんだと思う。映画の中で詳しく描かれるわけではないが、ユマの母親は、シングルマザーとして、障害を持つ娘を育てている。女性が一人で子供を育てるのもなかなか大変だろうが、さらに障害を持っているとなると、その困難さは格段に上がるだろうと思う。しかしそれでも、なんとかそれなりには生活が回っていくような仕組みが、恐らくこの国にはあるのだろうと思う。

しかしそれは、優等生である限りは、なのだ。

健常者であれば、親や教師などに隠れて、ちょっと悪いことをしてみることは出来る。それは、時に誰かを傷つけたり、時に自分を害したりするが、とはいえ大体の場合、不可逆的なダメージになることは少ないし、そういう「ちょっと悪いこと」が、何らかの成長に繋がっていくこともある。特にSEXなどの性的な部分に関しては、日本では学校での教育が明らかに遅れている(国によっては、学校教育でかなり踏み込んだ性教育が行われる)ので、性的な部分に関しては、自分で調べて学んで実践する以外に方法がない。そしてそれも、親には内緒でやりたいことである以上、僕がここで指摘している「ちょっと悪いこと」に含まれる。

そして、障害を持つ場合、この「ちょっと悪いこと」になかなか踏み出せない。優等生である限り存在も生存も保証されるけど、その範囲から出ようとすると認められない。そこのハードルが凄く高いんだろうな、ということを強く感じた。

障害を持つ人にとって、もちろん生活上の問題やトラブルは多々あるだろうけど、この映画では、「ちょっと悪いこと」に足を踏み出せない、という点に焦点を当てて物語が展開されていく。障害を持つ人自身、声を挙げにくい部分の話だろうし、健常者はなかなか気づきにくい。そこにかなり踏み込んで、真正面から描ききっている部分が良いと思う。

印象的だった場面がある。対比的な、2つのシーンだ。

1つは、ユマが出会い系サイトを通じて男性と会う場面。ある男性に「私みたいな障害を持つ人と付き合うのって抵抗あります?」と聞いた時、男性は「ないよ」と即答。その後、映画を見る約束をするのだけど、ユマはすっぽかされてしまう。男性的には最初から答えは「No」だったのだろうが、”優しさ”のつもりでそれを口にしなかったのだろう。

もう1つは、女性編集長だ。先程も書いたが、SEXをしたらもう一回持っておいで、という。これは、見方によっては、体よく断っているだけに思えるだろう。しかしこの女性編集長の言葉は、ユマを一人の人間として扱うものだ、という風に感じた。障害があろうがなかろうが、彼女は同じことをユマに言っただろう。一見、厳しく思えるけど、実はこの女性編集長の言動は”優しさ”に満ちている、と僕には見えた。

こういう部分についても、健常者はなかなか想像が及ばない。確かにこうして、フィクションとはいえ、映像で目の当たりにすると、なるほどなぁ、と思うのだけど、やはり、そういう状況を知らなければ、僕らが意識することはない。全然意識したことのなかった世界を垣間見ることができた、という感じがする。

感じたもう1つのことは、ちょっと書くのに勇気がいる話だが、「障害が目に見えるかどうか」という話だ。

ユマは、見た目から明らかに障害を持っていることは分かる。車椅子で生活しているからだ。そしてもちろん、その事実が、彼女の生活や恋愛やSEXに大きな障害をもたらしている。

しかし、身体的な障害がなくても、生活や恋愛やSEXに障害を感じる人はいる。僕が今念頭に置いているのは、いわゆる「心の病」だ。

僕は、身体的には超健康だけど、心はそれほど強くない。昔と比べれば圧倒的に大丈夫になったけど、未だに、人との関わりにおいて躊躇したり怖がったりする部分は残っている。また、程度の問題はともかく、何らかの形で精神的なしんどさみたいなものを感じてしまう人に、僕は結構会ってきた。

どちらが良い悪いという話をしたいわけではないのだけど、障害が目に見えるということには、もちろん悪い点もあるが、良い点もあるように思う。この「良い点」というのは、「心も身体も健康な健常者と比べて」という意味ではなく、「身体は健康だが心が不健康な健常者と比べて」という意味だ。

この物語においても、ユマ自身が持つ、「自分は障害を持つ者として見られている」という自覚が、変化のきっかけの一つになっていると感じられる。だからなんだ、という話だが、観ながらなんとなく、そういうことを考えていた。

とにかく、圧倒的なリアル感が漂う映画です。冒頭から、「僕は何を観させられているんだろう」という感覚になりました。それはやはり、健常者が勝手に線引きをしている「触れちゃいけないライン」みたいなものを、強烈に意識させるからではないかと感じました。

「37seconds」を観に行ってきました
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7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
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9位 速水健朗「ラーメンと愛国
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