黒夜行

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「バニシング」を観に行ってきました

【罪は償わなきゃならない。誰だってな】

「償う」ということについて、日々生きている中でも、考えさせられることはある。

例えばニュースなどでよくある例としては、会社が不祥事を起こした場合のことがある。

日本では、社長なり責任者なりが辞任することが多い。全員がそう思っているわけではないだろうが、しかし日本では、「責任者が辞めればとりあえず一段落」という捉え方が全体的にはされる傾向がある。これが、日本的な「償い」ということなのだと思う。

一方諸外国では、「責任者は辞めずに、トラブルに対して率先して対応すること」が求められると聞いたことがある。欧米やアジアなど、日本以外の国がすべてそうなのか、あるいは地域性があるのかなどは詳しく知らないが、確かに、トラブル処理を責任を持って行うということもまた「償い」の形だろう。

どちらが正しいという話をしたいのではない。同じ一つの事象に対しても、複数の「償い」を想定できる、ということを示したかっただけだ。

さてでは、どの「償い」を選び取るべきだろうか?これが非常に難しい。

「償い」の対象が明確な場合は、ある意味で分かりやすい。例えば、怪我をさせたとかお金を盗んだというような場合だ。こういう場合は、最終的には、「相手が望む償いをする」というのが正解だろうと思う。当の本人が何を望むかを理解し、それに応えることが、「償い」としては最も正しいものだろうと思う。

では、「償い」の対象が明確ではない場合はどうだろうか?例えば、誰かを死なせてしまった場合、実務上はその遺族への償いを行うべきだが、本来的には死なせてしまった本人への「償い」こそが最も重要だろう。しかし、それは実現できない。あるいは組織による不祥事のような、不特定多数に「償い」をしなければならない、ということもあるだろう。

その場合、西洋世界では「神」が登場するイメージが僕にはある。僕の勘違いかもしれないが、何らかの「罪」があり、その「償い」を真っ当に行うことが難しい場合、その視点は「神」に向くのではないか。実際的に「償い」というのは、何らかの害悪を与えてしまった人に対する行いだろうけど、実質的には自分の気持ちを納得させるためのものでもあるのだと思う。自分の気持ちを納得させるために「償い」をしたいのに、それが真っ当に出来ない場合、「神」を持ち出して「償い」、納得へと気持ちを持っていくのではないか。

しかし「神」を持たない場合はどうすればいいだろう?

犯罪被害者が裁判などで、「赦されることを望むべきではないし、一生苦しんでほしい」というような趣旨のことを言うことがある。もちろん、被害者としてはその通りだと思う。しかし、実際的には、一生苦しみ続けたまま生きていくのは、難しすぎる。被害者が、一生苦しんでほしいと望む気持ちは当然のこととして、一方で、加害者は生きるために自分の気持ちを落ち着かせなければならない。

「神」を持たない場合、「償い」を相手が何らかの形で受け入れてくれない限り、自分の心が休まることはない。もちろん、それは「神」がいる場合でも大きくは変わらないかもしれないが、しかし「神」がいれば、「神に赦された」と思える可能性がある。

僕は宗教的なものはあまり得意ではないが、この「償い」という意味においては、宗教はうまく機能するのかもしれないと思う。

内容に入ろうと思います。
この映画は「事実に基づく」とクレジットされる。しかし、事実に基づくのは、状況設定だけだろう。
その「事実」は、1900年、スコットランドのフラナン諸島にあるアイリーン・モア島で起こった(島名などは映画では詳しく描かれず、ウィキペディアを見ながらこれを書いている)。かつては、灯台を見張るための「灯台守」という仕事があった。アイリーン・モア島の付近の海は難所として知られており、付近を航行する船の安全を確保するために灯台が設置され、3人の男たちが交代で灯台守をしていた。しかし1900年の年の暮れ、その3人が忽然と姿を消していたのだ。
この事件の状況設定だけを借りて、創作されたのがこの映画だ。
灯台守として25年のキャリアを持つトマス、家族を養っているジェームズ、「父なし子」と蔑まれている新人灯台守であるドナルドの三人は、灯台守としての役割を交代するために島へと向かった。6週間毎の交代で、これから1ヶ月半、この島で3人だけで暮らさなければならない。前任者からいくつか引き継ぎを受けるが、無線が故障しているという。本島と連絡を取ることは不可能だ。
何事もなく、穏やかに過ぎていくはずだった勤務は、突如破られる。新米ドナルドが、崖下に倒れている男を発見したのだ。近くには破損したボートと大きな木箱があった。様子を見るために降りたドナルドは、死んでいるかと思われた男に襲われ、身を守るためにその男を殺してしまう。木箱を回収した3人だったが、年長者であるトマスの指示で箱は開けないことにした。良くない予感がしたのだ。
しかし、人を殺してしまった罪の意識にさいなまれるドナルドは、殺してしまった男の手がかりがあるかもしれないと箱を開けることを主張。トマスは反対するが、結果的には開けてしまう。中身は金塊だった。彼らは、金塊を持って逃げることを計画する。しかしその矢先、恐らくその金塊の持ち主だっただろう連中が船で島にやってきて…。
というような話です。

割と淡々と進んでいく物語です。なんとなく予告を見ていた印象では、金塊の持ち主たちがやってきてから、彼らと色んなことが起こるんだろう、と思っていたのだけど、実はそうではなく、彼ら三人の物語が様々な形で展開されていく、という物語でした。

この映画では、殊更にキリスト教のことは描かれていないと思ったけど(小さな礼拝堂みたいなところで祈るシーンはあったけど)、やはりキリスト教的な意味での「償い」というのが一つのテーマになっているのかな、と感じました。

当然と言えば当然ですが、彼らは、正当防衛とはいえ、人を殺してしまった、ということに対する自責の念を強く感じます。そして、もちろん「人を殺してしまったことそのもの」に対する自責の念、つまり、被害者に対する申し訳無さ、みたいなものも当然あるのだけど、一方で、「予期せぬ形で殺人者になってしまった」という、自分に加わってしまった属性を嘆いている、という面もあると感じました。

トマスは妻子を亡くしており、ジェームズは可愛い妻と子供がいて、ドナルドは昔から「父なし子」として蔑まれてきた。彼らにはこういうバックボーンがあるために、「亡き妻に顔向けできない」「家族に合わせる顔がない」「父なし子だけでも蔑まれるのに」というような想いがあるように感じます。そして、そういう属性を背負ったまま生きざるを得ない、ということをどう回避しうるか、あるいは、回避できないのであればどういう決断をするか、という葛藤に、彼らは身を置くことになります。

彼らが直面しているのは、「償い」の対象が明確ではない場合といえるでしょう。相手は当然死んでいるわけで、直接の「償い」はできない。しかも彼らは、6週間も誰もやってこない孤島にいるという点で、やろうと思えば事件そのものを無かったことに出来るかもしれない、という誘惑にも駆られてしまうわけです。色々不自然なところは残るかもしれないけど、3人が力を合わせて努力し、口をつぐめば、何も起こらなかったことに出来るんじゃないか。そういう可能性に引きずられてしまうことも、彼らの「償い」に対する気持ちを揺らしていくと言えるでしょう。

そんな中で彼らは、「人を殺してしまったこと」「人殺しという属性を持ってしまったこと」「事件を無かったことに出来るかもしれないという誘惑」でごちゃごちゃになりながら、目の前の出来事に対処していくことになります。

凄く面白かったかというとなかなか難しいけど、静謐な中に人間の醜さと理解しがたさみたいなものをじわじわと描き出すところは見事だと思います。

「バニシング」を観に行ってきました
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9位 松家仁之「火山のふもとで
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15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
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6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
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3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
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7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)