黒夜行

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ニライカナイの空で(上野哲也)

内容に入ろうと思います。
舞台は1963年、東京オリンピックを間近に控えた日本。東京の青山に住んでいた立花新一は、父親が事業を失敗したのを機に、東京を離れることになった。向かったのは、福岡県の田川。炭鉱町だ。そこに、野上源一郎という、兵隊時代の父親の友人が住んでおり、彼にしばらく預かってもらう手筈になっている、という。
小倉駅まで一人で行き、そこで野上と初めて会った。【前から人が来ても自分からよけようとはせず、肩で風を切って一直線に進んでいく。ぶつかってきそうな者がいると、容赦なく睨みつける】という野上に対して、新一は、【本当に僕はこれから一年ものあいだ、目の前にいる男の厄介にならなければならないのだろうか】と不安に感じている。
大都会で、何不自由なく生活していた新一が、いきなり、田舎の勝手の分からない炭鉱町へとやってきたのだ。見るものやること、すべてがおっかなびっくり。大人が次々と新一をからかう様を見て、この町に信頼できる人は誰もいない、と思っていたところに、野上家の子どもである竹雄と出会った。
あることをきっかけに竹雄(竹ちゃん)の信頼を得た新一は、【俺がおるき心配なかぞ。なんかあったら俺が新ちゃんを助けてやるき、心配なかぞ】と、同級生に言われている自分に不甲斐なさを感じつつも、大いに安心する。
とはいえ、やはり慣れない生活は苦労も多い。丸坊主にさせられ、銭湯でからかわれ、大人とのトラブルに巻き込まれたりする日々で、新一は、

【あの空が東京と繋がっていると思うと、たまらなかった】

と、空を見上げながら嘆く。
しかし、竹ちゃんが新聞配達を懸命に頑張っていたその理由を知ると、竹ちゃんの計画にのめり込んでいく。小学生離れしたその行動力と勇気に、新一もどんどんと感化されていき…。
というような話です。

なかなか面白い話でした。ストーリーとしては、「東京育ちの小学生が田舎で暮らすことになり、8ヶ月で大いに成長する」という言葉でまとめられる感じで、物語としては非常に分かりやすいと思います。

登場人物たちが、なかなか魅力的です。
主人公の新一は、何事にも臆病で、自信がなくて、恐る恐るだ。今もそうかもしれないけど、今から50年以上ともなると、東京と地方の差というのはさらに圧倒的だっただろう。環境や設備の差が、そのまま、人の差になる。インターネットなど当然ない時代、自分たちが住む世界の外側で何が起こっているのかを、個人が個人レベルで知れる方法はほぼなかったはずだ。だからこそ、地域地域毎に、かなり違った文化圏が形成されていたのだろう。

しかもこの物語の舞台は、炭鉱町だ。現代からすればあまりにも馴染みの薄い世界だろうけど、当時は日本中至るところにあったのだろう。炭鉱町独特の雰囲気みたいなものはあっただろうし、それは、東京とは極端に差があるものだっただろう。

そういう中に放り込まれた新一が、オドオドしてしまうのは、そりゃあ仕方がない。しかも、野上源一郎なんていう、なんか超怖いオッサンがいきなり出てきたら、そりゃあビビる。よく頑張ったなと思う。

新一と同級生ながら、対極に位置するのが、竹ちゃんだ。これも、実にいいキャラクターをしている。色んな場面で、自らの力量で生き抜いてこなければならなかった者の強みを発揮する場面があって、カッコイイなぁ、と思うんだけど、竹ちゃんの描写で一番好きなのがこれだ。

【こん国じゃ遊びは、仕事にくらべたらクソみたいなもんなんや。そんくせ、オリンピックには熱あげよる。あれも遊びやろ。それやとに一人の男が小さな舟で海渡っただけで文句言いよる。なら、オリンピックにも文句言えちいうんや。あげん金ば遣うてする遊びには、万歳万歳ばっかし言うくせに、一人の人間がすることには口はさむ。それにな、オリンピックもいいけんど、ちったあ閉山になる炭坑のことも考えろち言うんたい。東京におる政治家や役人はほんとバカばっかしや】

小学生にして、自分なりの哲学をちゃんと持ってるなぁ、と感じさせるセリフで、凄くいいなぁ、と思う。この調子で、自分で色んな決断をし、自分の行動力で道を切り開いていく姿が見事だし、その姿に感化されるようにして新一が変わっていく様も面白い。

また、細々とは挙げないけど、ちょくちょく登場する面々も、個性豊かで良い。同級生たちは、小学生らしいアホさ満載ではあるんだけど、やはり、父親が炭坑という危険な場所で働いているということも関係しているのか、ピリッとする時には子どもでもすぐにピリッとする。銭湯の場面なんかはまさにそうで、小学生の生活にも、炭坑というものがこびりついていく、というのが印象的だった。

他にも、竹ちゃんの兄・姉や、親戚の爺さん、とある職人など、なかなかに魅力溢れる人物が登場するので、ストーリー自体はシンプルでも、読ませる作品に仕上がっていると思う。

また、この物語は、家族と離れ離れにさせられた新一を軸とした物語なんだけど、やはりそこには、炭鉱町ならではの家族の物語というのも存在する。新一の父親と竹ちゃんの父親と、大分極端なタイプを描きながら、「家族」というものについても考えさせるような内容になっている。ただ、僕としては、描かれている「家族観」がちょっと古いかなぁ、という感じもあって、その辺りは、やはりちょっと前の作品だから仕方ないか、と思ったりした。

またこの流れで書くと、僕は、本書の解決にはちょっとがっかりした。解説の冒頭の文章は、こんな感じに始まる。

【どんなに時代が変わろうと、少年らしさの象徴は素直なやさしさや悲しみに耐える明るさではなく、挑戦的で野性的な男ぶりにあります。にもかかわらず近頃の少年たちの軟弱ぶりは目をおおいたくなるばかりです。ファッションはもとより弛緩し切った精神からは男らしさの片鱗も見ることができません。
したがって小説に登場する少年たちも、やたらと元気な少女たちに比べて、どこかひ弱で、勉強ができても女の子に翻弄されたり、現実に背を向け、空想の世界に遊ぶといった子どもが少なくありません。そんな少年の内面がうじうじと書かれた小説を読んでいると、いかに繊細な筆づかいであっても「甘ったれるのもいいかげんにしろ!」といいたくなります】

本書は、単行本が2000年、文庫2003年に発売されていますが、この解説の文章は、今だとなんとかハラスメントに該当してもおかしくないレベルだなぁ、と個人的には思います。「男らしさ」という謎の指標を持ち出して、それがないという理由で嘆く、というのは、僕には意味不明な芸当で、正直この解説は、この物語の価値を貶めているような気もします。著者がこの解説に納得しているのであれば、外野がとやかく言う話ではないのですけど。

解説は、ちょっともったいないなぁ、と感じさせられました。

上野哲也「ニライカナイの空で」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)