黒夜行

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「リチャード・ジュエル」を観に行ってきました

こんなことは、現代ではきっと起こらないだろう。
「まったく同じことは」という意味だ。
同じようなことは、現代では毎日のように起こっていることだろう。
ネット上で。

この物語は、「過ちを犯してはいなかった」という物語だ。
しかし、仮に過ちを犯していたとして、公然と批難することは、何故”許容”されているのだろうか、といつも思う。

別に、過ちの内容はなんでもいい。殺人でも不倫でも薬物でもなんでも。直接の被害者や、その被害者の関係者が存在するなら、そういう人たちが批難することは当然だ、と思う。しかし、昔も今も、関係のない外野の人間が、正義を振りかざすようにして誰かを批難する。

社会はなんとなくそれを”許容”しているように思う。積極的に許容しているかどうかはともかくとして、「悪いことしたんでしょ。じゃあ叩かれてもしょうがないよね」という感覚の人は、結構いるだろう。でも、本当にそれは”しょうがない”と言えることだろうか?

かつてある事件記者が、こう言っていた。痛ましい事件を報道することの価値は一つしかない。それは「再発防止」だ、と。僕も、その意見には賛同する。

もし、有象無象の集団が、「再発防止」を主たる目的として誰かを批難している、主張するのであれば、その主張に耳を貸してもいい、とは思う。しかし、そんな人、ほとんどいないだろう。表向き「再発防止」のためというフリはできるかもしれないが、実際は憂さ晴らしでしかないだろう。

マスコミも、どれだけ「再発防止」を意識して報道出来ているだろうか?例えば、殺人事件が起こった時、容疑者の子供時代の文集なんかを引っ張り出してくることに、果たして「再発防止」の意味付けが出来るのだろうか?もちろん、心あるマスコミ人もたくさんいるだろう。しかし同じくらい、視聴率や自らの出世のために報道しているという人だっていてもおかしくはない。

ある場面での、主人公のセリフが、この物語全体が提示する「正義が失われる可能性」を如実に示唆する。

【ジュエルの二の舞はごめんだ。逃げよう】

このセリフについて具体的な説明はしないが、ジュエルの一件は、「再発防止」どころか、同じようなことが起こった時に正義が行使されない可能性を生みさえするのだ。

そのことに、一体どんな意味があるというのだ。

もちろん、薬物の使用などについて、社会が厳しい目を向けることで、結果的に新たな使用者を減らすことが出来るかもしれない。そうだとすれば、無関係なのに批難する人たちの行動が結果的に「再発防止」に役立った、ということになるかもしれない。しかし、「厳しい目」を向ける以上、過ちは可能な限り排除されなければならない。それだけの努力を、個人がやれるだろうか。また、厳しい目を向けた自分自身が間違えていた場合、謝らなければならない。その覚悟を、個人が持つことは出来るだろうか?

この映画の舞台は、20年ほど前だ。その時代は、いわゆるマスメディアや公的機関しか本当の意味で「厳しい目」を向けることは出来なかったし、だからこそ、マスメディアや公的機関だけが間違える可能性があったと言えるだろう。しかし現代では、名もなき個人が同じぐらいの力を持つことが出来るような時代になっている。

この物語で提示される「過ち」を、誰もが犯しうる。そのことを、誰もが自覚しなければならないだろう。

内容に入ろうと思います。
リチャード・ジュエルは、様々な職を渡り歩いている。時には、中小企業庁で備品係を。時には大学の警備員を。しかし、持ち前の正義感が真っ当な報告に作用することが少なく、なかなか仕事ぶりを評価されないでいた。常に刑法について勉強し、法執行官として正義を全うしたいと願っているが、トラブルも多く、望んだ通りの人生になっていない。
1996年、アトランタオリンピックを目前に控え、記念公園で有名アーティストたちのライブが行われることになった。その音響タワーの警備の職に就いたリチャードは、その夜、タワー付近でおかしなバッグを見つけた。爆弾のはずがないとたかをくくる警察官をたしなめるように、手続きに則って処理しようと周囲を説き伏せるリチャード。警察が確認してみると、果たしてそれは爆弾だった。処理班が来る前に爆発したものの、リチャードのお陰で甚大な被害を出さずに済み、リチャードは一躍時の人となった。
CNNなどのメディアが殺到し、街ではみんなに写真を撮られたり感謝の声を掛けられたりする。ニューヨークから出版社の人間が飛んできて、本を出版しようとまで言ってきた。出版契約などまったく分からない彼は、その相談をするため、中小企業庁で働いていた時にリチャードに優しくしてくれたワトソン・ブライアントに連絡を取り、弁護士として契約を手伝ってもらえると承諾を得た。
しかし、栄光は長くは続かなかった。地元紙であるアトランタ・ジャーナルが、FBIがリチャードを容疑者を見ているとすっぱ抜いたのだ。その一報を受けたマスコミはリチャード宅へと大挙し、またFBIも、非公式に彼を取り調べた。逮捕できる証拠など一切なかったFBIは、リチャードを騙して書類にサインさせようとするが、怪しんだ彼は、ワトソンに連絡を取る。
そこから彼らの闘いが始まった。逮捕もされていない、容疑者ですらないリチャードの生活を取り戻すため、ワトソンの奮闘が始まる。
というような話です。

この映画は、実話を元にしている。映画の中にも、当時のニュース映像の一部として、ほんの僅かだけど、実際のリチャードの姿がテレビ画面に映った。

しかし、実話だととても信じられないような状況だ。

現代では、逮捕もされていない一般市民の名前を新聞が報じる、なんてことはあり得ないだろう。週刊誌だって、仮名で記事は書くかもしれないが、実名までは載せないだろう。しかしこの件においては、「リチャードがFBIの捜査対象になっている」ということが記事となった。びっくりだ。

そんな報道が出たのには、いろんな要素がある。オリンピックという国を挙げた一大イベントでの爆弾事件であること。オリンピック開催の地元新聞がはりきったこと。記者が功名心に駆られていたことなどだ。恐らく当時のアメリカであっても、逮捕前の市民の名前が出るというのは、相当異例のことであり、いくつもの要因が重ならなければありえなかったことだろうとは思う。

しかしそうだとしてもありえないよな、と思う。第一報を報じたアトランタ・ジャーナルが、外部から、あるいは内部でどんな処分をしたのか、この映画の中では触れられていないから分からないが、もし何のお咎めもなし、ということだと、ちょっと納得できないな、と思う。先程も書いたように、厳しい目を向けた時、それが間違いであったら謝罪すべきだ。それがもしなされていなかったら、個人的には許しがたいなと思う。

しかし、リチャードは、なかなか凄い男だし、一方でちょっとそれは受け入れられないなという部分もある。それは、同じ要素の裏表であって、ダメだなと思う部分だけ取り除くことは出来ないのだけど。

リチャードはとにかく、正義を全うしたいと常に思っている。正しいことのためなら、自分が犠牲になっても構わない、というスタンスの持ち主だ。それは、良い方向に働けば素晴らしいものになる。例えば、「爆弾のわけないだろ」という周囲の反応に対して彼は、「ミスをするより、変な方がいい」と返す。自分の行動がキテレツだと思われても、爆弾だった場合のダメージをなくす方が先決だ、ということだ。それは非常に真っ当な考え方で、しかし誰にでも実行できるものではないだろう。こういう部分は、リチャードの本当に誇るべき部分だと思う。

しかし、同じ性質が悪い方に働いてしまうこともある。それをワトソンは何度も苦々しく感じる。

リチャードは、自分を疑うFBIの捜査に対して、実に協力的だ。逮捕もされていないし、容疑者でもないのだから、Noと断れば済むことは多い。しかしそれでもリチャードは、自分が正しいと思うことをしたいし、「同じ法執行官」として、彼らに協力すべきだ、と考えてしまう。その行動によって、自分の身が危うくなるかもしれないのに、である。これも、もしかしたら称賛されるべきポイントかもしれないが、しかし、映画を観ながら、リチャードのこういう部分については、ワトソン同様、ずっと苦々しく感じてしまった。ンなことするなよ、みたいな感じに何度も思った。

ワトソンは、そんなリチャードに対して「なぜ俺のように怒らない?」と強く聞くが、それに対するリチャードの反応は、なんか凄く良かった。確かに、そういう風にしか振る舞えないんだから仕方ないじゃないか、と言われたら、そうだよなと思う。人間というのは、他の部分を変えずに、悪い一部分だけ外科手術で取り除くようにはいかない。いろんな要素が全体的に繋がっているから、一部を変えただけで全体が変わってしまいうる。「リチャード・ジュエル」という全体の存在を保つために、ダメだって分かってるけど変えられないんだ、という自覚は、切に訴えるものがあった。

誰もが加害者になり得る。そのことを忘れてはいけないし、この一件が、なかったことのように忘れ去られてはいけないと思う。

「リチャード・ジュエル」を観に行ってきました
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