「屍人荘の殺人」を観に行ってきました
面白かった!
僕は、原作の小説を読んでいる(感想はこちら→http://blacknightgo.blog.fc2.com/blog-entry-3417.html)。だから、トリックはなんとなく覚えていたし、犯人もなんとなく覚えていた(ただし、ちゃんと覚えてたわけではない)。
そういう状態で観ても、非常に面白かった。
設定やストーリーは、原作とほぼほぼ同じだと感じたので(もちろん省略されている部分もあるが)、その辺りのことは原作の感想を読んでもらうとして、映画の面白かった部分を重点的に書こう。
やはりそのキーとなるのは、浜辺美波だ。剣崎比留子という主役の一人を演じているのだけど、この浜辺美波がやはり面白さのキーだなぁ、と思う。
僕は、浜辺美波を、「君の膵臓をたべたい」で初めて観た。でもそれから、映像作品で浜辺美波を観ることは、僕はあまりなかった。色んな作品に出ていることは知っているけど、僕は観る機会がなかったのだ。
しかし、「役柄を喰う」というような評価を、ネットニュースで見かけたことがある。「怪演」というような表現も。可愛らしい感じの女の子でありながら、ぶっ飛んだ役柄をナチュラルにこなす様を、そう評価されているようだ。
ぶっ飛んだ、という意味では、本作の剣崎比留子もなかなかのキャラクターだ。原作で剣崎がどんな風に描かれていたか、ちゃんとは覚えていないのだけど、確かに変なキャラクターとして登場していたような記憶はある。しかし、原作を読んだ時には、剣崎に対して強い印象を抱かなかったのだと思う。
映画の中の剣崎は、強烈なキャラクターだ。冒頭から、「なんかズレた感じの子」という登場の仕方をするのだけど、物語を追うに従って、その印象は益々強くなっていく。
そしてその振る舞いが、あの可愛らしい感じの見た目と絶妙なギャップとなって、個人的には凄く好みの佇まいになる。浜辺美波が、完全に振り切って剣崎を演じているということも、凄くプラスに働いていると思う。白目とか、寝姿とか、躊躇せずに「変な感じ」を曝け出し、些細な振る舞いにも、小さすぎて誰も突っ込まないが、明らかな違和感を残す。でもそれを、当たり前のことだが、剣崎は笑いを取ろうとしてやっているわけでもなく、彼女にとってはごくごく自然な、当たり前の振る舞いである、ということが伝わるように、浜辺美波は演じている。
ストーリーの大枠を知っていた僕としては、最初から最後まで剣崎比留子という異形の存在の振る舞いを見続けていたようなものだ。で、それでも十分に楽しめてしまう、というのが、この映画の凄いところだ。
とはいえ、この事実は裏を返せば、剣崎(と、その相棒のような存在である葉村)以外のメンバーについては、そこまで深く描かれない、ということでもある。これは、映画という、ある程度の時間制約のあるエンタメ作品である以上仕方のないことではあるが、やはりその点だけ切り取ってみれば、原作に軍配が上がる。
どうしても、映画という枠内では、剣崎と葉村以外の面々は、「状況に右往左往する人たち」という以上の描かれ方がなされない。それに彼らは、クローズドサークル内における「容疑者」である。映画内での描かれ方に差異があると、それだけで「容疑者」である可能性は高まってしまう(少なくとも観客はそう感じるだろう)。だから、彼らについて描写するとすれば、その扱いはある程度均等にする必要がある。そうなると、登場人物が多ければ多いほど、描くのが難しくなるのは道理だ。
だから、映画では、剣崎と葉村に焦点を当てて物語を展開させたのは成功だと思う。そういう意味でも、剣崎の面白さで観客を引っ張っていく、というのは、正しい方向だ。
とはいえ。これが男性視点だということも分かっている。浜辺美波はたぶん、女性からの人気も低くはないはず(というか、高いんじゃないか?)と思うけど、だとしても、女性も僕と同じように、剣崎のキャラクターの面白さでこの映画を観るだろうか?
もちろん、原作を読んでいない人であれば、そもそも設定やストーリーの展開で十分に楽しめる作品だと思うので、剣崎が面白いかどうかなんてのはプラスアルファに過ぎないだろうが。やはり女性的には、葉村を演じた神木隆之介にキュンキュンするんだろうか?
原作の方の感想でも書いたことではあるが、この物語の、ミステリ的な部分での凄さについて改めて書いてみたい。
この作品は、いわゆる「クローズドサークル」ものだ。これは「雪山の山荘」や「絶海の孤島」など、警察が介入できず、外部との連絡も取れない状況で殺人事件が起こる、というものだ。その場にいる人間しか容疑者ではありえず、かつ、警察が介入しないので探偵(または探偵役)が大手を振って事件に介入できる、という、物語的に非常に都合のいい状況を与えてくれるので、ミステリの世界ではよく出てくるモチーフだ。
しかし、この作品の「クローズドサークル」は、他のミステリ作品とは一線を画する。
何が違うのか。
たぶんこれぐらいの記述であればネタバレにはならないと思うが、この作品では、「クローズドサークルであることがトリックにも関わってくる」のである。この物語の設定を知れば、ある程度このことは予測出来るはずだ。館に閉じ込められる、という状況を作るだけなら、「雪山の山荘」でいいのだ。わざわざあんな常軌を逸した状況を持ち込む必要はない。つまり、彼らが閉じ込められてしまっているとある事情そのものが、トリックになんらかの関係がある、ということは、ある程度想像の範囲内と言える。
そしてこの点が、このミステリを稀有なものにしている。
普通、「クローズドサークル」というのは、「容疑者が絞れる」「警察の介入を防げる」と言った、ある意味では「作者に都合のいい状況」を生み出すツールだった。もちろん、物語の中で、そうなってしまう必然性はきちんと与えられるし、「作者の都合」という要素はうまく隠されるのだが、結局のところは「作者の都合」である。
しかしこの作品では、「クローズドサークルであることそのもの」がトリックに関わってくる。つまり、この物語の設定は「犯人に都合のいい状況」と言えるのだ。僕は、ミステリをそこまで多く読んでいるわけではないが、僕がこれまで触れてきたミステリ作品の中で、そんな大それたことをやったものはなかったと思う。原作を読んだ時、そのことに、本当に驚いた。そして、よくもまあこんなことを思いついたもんだよなぁ、と作者に感心した。
映画では、解決に至るまでに、視覚的に様々な伏線を張っている。原作をなんとなく覚えていた僕も、解決のシーンで、「あれがああだった」「あの時こうだった」という説明を聞いて、なるほど、と何度も思ったものだ。この点はやはり、映画ならではだと思う。小説では、どんな描写も意図を持つものと捉えられるが、映像の場合、画面の中の主となる動き以外の部分は、背景として意識の外に出てしまう。だからこそ、そういう背景として忘れ去られてしまう部分に伏線を隠しておくことが、小説よりも容易になるのだ。
僕は、原作の感想の方でも、映画の感想でも、館の外部で一体何が起こるのかについて一切触れていない。まだ、原作も映画も観ていないという人は、具体的な情報を仕入れないままの方がいい。確か、映画の予告編でも、それについては触れられていなかったはずだ。この物語が仕掛ける、究極の「クローズドサークル」を、是非体感してほしい。
「屍人荘の殺人」を観に行ってきました
僕は、原作の小説を読んでいる(感想はこちら→http://blacknightgo.blog.fc2.com/blog-entry-3417.html)。だから、トリックはなんとなく覚えていたし、犯人もなんとなく覚えていた(ただし、ちゃんと覚えてたわけではない)。
そういう状態で観ても、非常に面白かった。
設定やストーリーは、原作とほぼほぼ同じだと感じたので(もちろん省略されている部分もあるが)、その辺りのことは原作の感想を読んでもらうとして、映画の面白かった部分を重点的に書こう。
やはりそのキーとなるのは、浜辺美波だ。剣崎比留子という主役の一人を演じているのだけど、この浜辺美波がやはり面白さのキーだなぁ、と思う。
僕は、浜辺美波を、「君の膵臓をたべたい」で初めて観た。でもそれから、映像作品で浜辺美波を観ることは、僕はあまりなかった。色んな作品に出ていることは知っているけど、僕は観る機会がなかったのだ。
しかし、「役柄を喰う」というような評価を、ネットニュースで見かけたことがある。「怪演」というような表現も。可愛らしい感じの女の子でありながら、ぶっ飛んだ役柄をナチュラルにこなす様を、そう評価されているようだ。
ぶっ飛んだ、という意味では、本作の剣崎比留子もなかなかのキャラクターだ。原作で剣崎がどんな風に描かれていたか、ちゃんとは覚えていないのだけど、確かに変なキャラクターとして登場していたような記憶はある。しかし、原作を読んだ時には、剣崎に対して強い印象を抱かなかったのだと思う。
映画の中の剣崎は、強烈なキャラクターだ。冒頭から、「なんかズレた感じの子」という登場の仕方をするのだけど、物語を追うに従って、その印象は益々強くなっていく。
そしてその振る舞いが、あの可愛らしい感じの見た目と絶妙なギャップとなって、個人的には凄く好みの佇まいになる。浜辺美波が、完全に振り切って剣崎を演じているということも、凄くプラスに働いていると思う。白目とか、寝姿とか、躊躇せずに「変な感じ」を曝け出し、些細な振る舞いにも、小さすぎて誰も突っ込まないが、明らかな違和感を残す。でもそれを、当たり前のことだが、剣崎は笑いを取ろうとしてやっているわけでもなく、彼女にとってはごくごく自然な、当たり前の振る舞いである、ということが伝わるように、浜辺美波は演じている。
ストーリーの大枠を知っていた僕としては、最初から最後まで剣崎比留子という異形の存在の振る舞いを見続けていたようなものだ。で、それでも十分に楽しめてしまう、というのが、この映画の凄いところだ。
とはいえ、この事実は裏を返せば、剣崎(と、その相棒のような存在である葉村)以外のメンバーについては、そこまで深く描かれない、ということでもある。これは、映画という、ある程度の時間制約のあるエンタメ作品である以上仕方のないことではあるが、やはりその点だけ切り取ってみれば、原作に軍配が上がる。
どうしても、映画という枠内では、剣崎と葉村以外の面々は、「状況に右往左往する人たち」という以上の描かれ方がなされない。それに彼らは、クローズドサークル内における「容疑者」である。映画内での描かれ方に差異があると、それだけで「容疑者」である可能性は高まってしまう(少なくとも観客はそう感じるだろう)。だから、彼らについて描写するとすれば、その扱いはある程度均等にする必要がある。そうなると、登場人物が多ければ多いほど、描くのが難しくなるのは道理だ。
だから、映画では、剣崎と葉村に焦点を当てて物語を展開させたのは成功だと思う。そういう意味でも、剣崎の面白さで観客を引っ張っていく、というのは、正しい方向だ。
とはいえ。これが男性視点だということも分かっている。浜辺美波はたぶん、女性からの人気も低くはないはず(というか、高いんじゃないか?)と思うけど、だとしても、女性も僕と同じように、剣崎のキャラクターの面白さでこの映画を観るだろうか?
もちろん、原作を読んでいない人であれば、そもそも設定やストーリーの展開で十分に楽しめる作品だと思うので、剣崎が面白いかどうかなんてのはプラスアルファに過ぎないだろうが。やはり女性的には、葉村を演じた神木隆之介にキュンキュンするんだろうか?
原作の方の感想でも書いたことではあるが、この物語の、ミステリ的な部分での凄さについて改めて書いてみたい。
この作品は、いわゆる「クローズドサークル」ものだ。これは「雪山の山荘」や「絶海の孤島」など、警察が介入できず、外部との連絡も取れない状況で殺人事件が起こる、というものだ。その場にいる人間しか容疑者ではありえず、かつ、警察が介入しないので探偵(または探偵役)が大手を振って事件に介入できる、という、物語的に非常に都合のいい状況を与えてくれるので、ミステリの世界ではよく出てくるモチーフだ。
しかし、この作品の「クローズドサークル」は、他のミステリ作品とは一線を画する。
何が違うのか。
たぶんこれぐらいの記述であればネタバレにはならないと思うが、この作品では、「クローズドサークルであることがトリックにも関わってくる」のである。この物語の設定を知れば、ある程度このことは予測出来るはずだ。館に閉じ込められる、という状況を作るだけなら、「雪山の山荘」でいいのだ。わざわざあんな常軌を逸した状況を持ち込む必要はない。つまり、彼らが閉じ込められてしまっているとある事情そのものが、トリックになんらかの関係がある、ということは、ある程度想像の範囲内と言える。
そしてこの点が、このミステリを稀有なものにしている。
普通、「クローズドサークル」というのは、「容疑者が絞れる」「警察の介入を防げる」と言った、ある意味では「作者に都合のいい状況」を生み出すツールだった。もちろん、物語の中で、そうなってしまう必然性はきちんと与えられるし、「作者の都合」という要素はうまく隠されるのだが、結局のところは「作者の都合」である。
しかしこの作品では、「クローズドサークルであることそのもの」がトリックに関わってくる。つまり、この物語の設定は「犯人に都合のいい状況」と言えるのだ。僕は、ミステリをそこまで多く読んでいるわけではないが、僕がこれまで触れてきたミステリ作品の中で、そんな大それたことをやったものはなかったと思う。原作を読んだ時、そのことに、本当に驚いた。そして、よくもまあこんなことを思いついたもんだよなぁ、と作者に感心した。
映画では、解決に至るまでに、視覚的に様々な伏線を張っている。原作をなんとなく覚えていた僕も、解決のシーンで、「あれがああだった」「あの時こうだった」という説明を聞いて、なるほど、と何度も思ったものだ。この点はやはり、映画ならではだと思う。小説では、どんな描写も意図を持つものと捉えられるが、映像の場合、画面の中の主となる動き以外の部分は、背景として意識の外に出てしまう。だからこそ、そういう背景として忘れ去られてしまう部分に伏線を隠しておくことが、小説よりも容易になるのだ。
僕は、原作の感想の方でも、映画の感想でも、館の外部で一体何が起こるのかについて一切触れていない。まだ、原作も映画も観ていないという人は、具体的な情報を仕入れないままの方がいい。確か、映画の予告編でも、それについては触れられていなかったはずだ。この物語が仕掛ける、究極の「クローズドサークル」を、是非体感してほしい。
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