黒夜行

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「ボーダー 二つの世界」を観に行ってきました

凄い映画だったなぁ。とにかく、最後の最後までザワザワさせられる感覚が続いたし、そもそも、冒頭から物語がどうなっていくんだかまったく想像出来なかった。途中から物語全体の設定が理解できるようになるんだけど、それがまた異次元の展開というか。とにかく、まだ映画を観ていないという方は、この感想を読まない方がいいと思います。この映画、まったく何の情報もないまま見に行く方が面白いと思うので(僕も、まったく何も知らない状態で観ました)



主人公は、空港の手荷物検査場で働くティーナという女性。決して良いとは言えない容姿で、表情にも乏しく、不快感さえ与えるような存在感であるが、彼女は手荷物検査場で非常に重宝されている。
それは、持ち込んではいけないものを所持している人間をあっさりと見極めるのだ。彼女は、羞恥心や罪悪感を匂いで嗅ぎ取れるのだ、と説明している。未成年が酒を持ち込んだり、ビジネスマンがポルノ動画を持ち込んだりするのを食い止めている。
ティーナは、中心部から離れた群島の辺りで、恋人のローランドと暮らしている。しかし恋人と言っても、相手はティーナの金が目当て。しかし、ティーナもそれが分かっていて、それでも誰かと一緒にいたい、と思ってしまうほどの孤独を抱えて生きている。
ある日ティーナは、手荷物検査場で、怪しげな男と出会う。ティーナの嗅覚が働く相手だったが、しかし、手荷物からは不審なものは何も発見できなかった。男はヴォーレと名乗り、会話の流れの中で自分の宿をティーナ伝えた。そしてティーナは彼に会いに行くのだ。
ヴォーレも、一般的には、他人に不快感を与えがちな存在だ。しかしティーナは、何故かヴォーレに惹かれるものを感じている。理由が分からないまま、ヴォーレとの関わりを深めていくティーナだが…。
というような話です。

もう一回書くけど、メチャクチャざわざわさせられる物語だった。とにかく、映画を観ていて、最初の1時間ぐらい、何がなんだかさっぱり分からない。いや、そんな奇妙奇天烈な物語が展開されるわけではない。しかし、ティーナとヴォーレの物語がどう繋がっていくのか、まったく理解できないのだ。ティーナが何故ヴォーレに惹かれたのか、という点がまったく不明なまま物語が進んでいって、それが映画全体に不穏な雰囲気をもたらしていると感じる。

そして何が凄いって、その理解できない映像の中で「キレイな描写」が少ない、ということだ。虫を食べるシーンがあったり、食事のくちゃくちゃした音が強調されていたり、主人公たちの外見(特にヴォーレ)が汚らしい感じにされていたりと、映像という観点から見て美しさがない。ストーリーや設定が理解できない上に、映像的にも美しくないという、「つかみ」という意味でまったくセオリーの逆を行くような映画でした。

それでも、(これは何かあるな…)という、「不穏さ見たさ」みたいな好奇心で、最初の1時間ぐらい見ていたと思います。

で、ティーナとヴォーレの2人の”秘密”が理解できてからもむちゃくちゃっていうか、むしろ分かってからの方がむちゃくちゃというか、そんな感じでした。

この”秘密”が分かったことで、ティーナが置かれている非常に複雑な立ち位置がようやく理解できることになります。この映画には「二つの世界」っていう副題がついてますけど、まさにティーナは、二つの世界の狭間にいる人物です。そして、とある事情から、彼女はどちらか一方の世界を選択せざるを得ない状況に陥ることになります。

これは相当にハードな選択です。ティーナの過去については、父親との会話の中でちょっと話に出るぐらいでそこまで詳しく描写されませんが、かなり苦労したんだろう、ということは推察されます。で、その苦労が、帳消しになる、とまで言わないけど、なるほどこのためだったのか!と思えるような状況がまず一方であるわけです。しかし同時に、これまで長い時間過ごしてきて、辛いこともしんどいこともたくさんあったけど、それでも愛着のある世界が一方にある。さぁ、どっちを選ぶ?という、なかなかハードな選択を迫られます。

そしてその葛藤の中で、「正しさとは何か」という問いが突きつけられます。ティーナの行動を、あるいはヴォーレの行動を、「正しい」か「正しくない」かという捉え方で理解するのは、ほぼ不可能ではあります。でも僕らは、社会という集団の中で生きる者として、どうしてもそういう判断をベースにした行動を取らざるを得ない。そしてそうなれば、ティーナが「正しい」、ヴォーレが「間違っている」とするしかありません。

でも、それは「社会」という、人類が合理的に生きていくために採用した集団を維持する必要があるからで、生来的に、本来的に、それが「正しい」判断なわけではない。もちろん僕らはもう、「社会」というものと切り離された生活というのを明確にイメージできないだろうから、生来的に、本来的に「正しい」と思ってしまうだろうけど、いやそんなことはないんだ、ということを強く訴えかけてくる作品だと感じました。

正直、観ていて”気持ちのいい作品ではない”ので、ちょっと人に勧めにくい作品ではあるんですけど、「当たり前ってなんだろう?」っていう、ありがちな問いだけど、普通に生きているとなかなか深堀りしにくい問いについて、かなり考えさせてくれる作品だと感じました。

「ボーダー 二つの世界」を観に行ってきました

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
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7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)