黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

カエルの小指(道尾秀介)

嘘つきばっかり出てくる小説なのに、凄く優しい物語だ。

自分のためにつく嘘は、いつだって醜い。
もちろん、嘘をつかなければ乗り越えられない状況もあるし、耐えられない現実もある。そのことは分かっていても、やはり、なるべく自分のために嘘はつきたくない、と思う。

ただ、誰かのことを思った嘘は、時に優しい。もちろん、その嘘がすれ違いを生むこともあるし、的外れな親切だったりすることもあるだろう。しかし、そうであったとしても僕は、誰かのためを思ってつく嘘は、許容したいと思ってしまう。

【詐欺師なんて、人間の屑です】

確かに、そう吐き捨てるように言われても仕方のない人生を歩んできた面々ではある。それぞれに、切実な事情があったとはいえ、まっとうに日向を歩くことが叶わず、這いつくばるようにして生きなければならない現実の中で、他人を陥れてでも金を奪う人生を、なかなか許容することは出来ない。

ただそれが、誰かを救うためのものなら話は別だ。

【俺たちは泥棒じゃねえんだぞ】

なんのために嘘をつくのか明確に意識し、その意識を共有し、慎重に行動し、己の欲望をきちんと切り離すことが出来れば、その大嘘は「勇気」や「挑戦」と呼ばれもするだろう。

【自分のことも、生かしてほしいと思っただけです】

現実は、知れば知るほど辛い。どこまでもどこまでも辛い現実がある。そして、その現実を生きなければならない者がいる。そこに想像が及ぶ時、「嘘をつく」ということが新たな価値を持つだろう。

まあ、この作品では、色んな人間が様々な理由から嘘に嘘を重ねすぎて、些細なすれ違いが大きなズレになってしまうんだけど。

内容に入ろうと思います。
武沢竹夫は、十数年前のあの一件以来、詐欺稼業から足を洗った。真っ当に生きてみせると誓ったものの、肉体労働はなかなか続かない。そんな時に見つけたのが、実演販売の仕事だ。専門の派遣業者に登録し、スーパーなどの一角で実演販売をする。口先は得意、というか、口先ぐらいしか得意なものがない武沢にとって、ある意味天職のようなものであり、仕事以外に特に何もない日常ではあるが、以前と比べれば明らかに真っ当な生活を送れるようになっていた。
そんなある日のこと。武沢の実演販売を見ている中学生が気になった。どこかで見たことがある顔な気がするが、思い出せない。するとその中学生が、ここぞというタイミングで邪魔をしてきて、その日の販売は散々だった。その後、その中学生の話を聞くことになった。ふと思い出した15年前の記憶から、気まぐれになぞなぞを出したせいだった。キョウと名乗ったその中学生は、そのなぞなぞに一瞬で正解した。
キョウの望みは、武沢から実演販売を教わることだった。人気タレントの瀬谷ワタルが司会を務める「発掘!天才キッズ」という番組に出場したいのだ、という。よくよく話を聞いてみると、恋愛詐欺に引っかかり、結果的に実家の呉服屋を倒産に追い込んでしまったキョウの母親は、ある日フードコートから飛び降りたのだという。キョウは、恐らく偽名だろう「ナガミネマサト」という男を探し出すために金が必要で、そのために「発掘!天才キッズ」の賞金がほしいのだという。
普段なら、こんなややこしい話に首を突っ込みはしないが、武沢は既に確信していた。キョウは、15年前自殺しようとしていたあの女の子供だ。仕方無しにキョウの頼みを聞いてやる武沢だが…。
というような話です。

本書は、「カラスの親指」の続編で、「カラスの親指」に登場した、貫太郎・まひろ・やひろなんかも出てきます。ただ、もちろん「カラスの親指」を読んでいる方がより楽しめるだろうが、ストーリーだけで言えば本書だけで十分に理解できるし、本書を読んだ後で、彼らにどんな過去があったのか?という関心から「カラスの親指」を読んでもいい、と思う。

物語の初めから、完全に読者を騙しに掛かっているので、油断のならない作品だけど、ストーリー全体の構成としてはシンプルだ。要するに、キョウという明らかな被害者がいて、その被害者をペテンで救済しよう、ということだ。その救済の過程で、不法侵入したり金を盗ったりしてるんで、そういう意味で真っ当ではないのだけど、それらの行動を貫く彼らの想いみたいなものは非常に純粋だと言っていい。

僕は前作「カラスの親指」を読んだ際、「他人同士でも家族になれるのか?」という問題提起を受け取ったのだけど、同じことは本書を読んでいても感じた。

「家族」という括りは、時代によって様々に変化してきたと思うが、そんな長い歴史を持つ「家族」という括りは、どんどんと対象とする範囲が狭まっているように僕には感じられる。僕は、自分の子供がいるわけではないので、あくまでも勝手な印象に過ぎないが、DNA鑑定によって親子であることを証明する、ということに意味を感じない。血が繋がってなかったら、家族じゃないんだろうか?「家族」という言葉はどんどんと、「そうではない人を排除する言葉」になってしまっていると思う。もっと広く、どんな立場の人とだって「家族」になれるんだ、と思うことが出来れば、「家族」に関わる色んな問題が解消されるんじゃないか、と思っている。

本書においては、色んな場面で「家族」というものの在り方が問われる。捨てた親、捨てられた子供、血の繋がりのない関係性。ある意味で「家族」という言葉が呪縛のようになってしまっている中で、その呪縛から逃れるために必死になっている面々が描かれていく。

本書に出てくる、ヤドクガエルの話が印象的だった。

【いつだったか、深夜につけたドキュメンタリー番組でやっていた。たしかヤドクガエルの仲間で、なかなかカラフルなやつだったが、オタマジャクシはやはり黒かった。そのカエルは、卵が孵ると、父ガエルがオタマジャクシたちを背中に乗せ、水たまりを探しに出かけるのだという。一つの水たまりに一匹といった感じで、父ガエルはオタマジャクシを水中に放っていくのだが、たまに、どういうわけかすべての子供が1ヶ所に放たれることがある。水たまりの食べ物はみるみるなくなってしまい、そうなると、オタマジャクシたちは一斉に共食いをはじめる。その光景をとらえたVTRは、なかなか強烈だった。
しかし、そこへカエルを一匹入れてみるとどうなるか。
オタマジャクシたちは我先にカエルを目指して泳ぎ、必死でその背中へ逃げようとする。面白いことに、このカエルはどんな種類でも構わないらしい。たとえ赤の他人の背中であっても、オタマジャクシはそこへ乗って逃げようとするのだ】

カエルと人間を単純に比較するわけにはいかないが、血が繋がっているかどうかなんてどうでもよくなる状況というのはあるはずだと思う。もっとそれが、当たり前になってもいいんじゃないか、と僕は思っている。血の繋がりでしか「家族」を確定できないとしたら、それはなんか、敗北な気さえする。

まあこんなことは、子育てをしたことがない人間の戯言だと言われてしまえばその通りだし、僕だって自分の子供が出来ればまったく考え方が変わるかもしれない。ただ、永遠に変えることが出来ないことを判断基準に据えるより、未来において変えうる要素を基準にした方がいいんじゃないか、とは思うのだ。

【人間、どこから来たかより、どこへ行くのかが大事ですから】

ホントその通りだよな、と思う。

内容に触れると、ネタバレを避けるのが非常に難しい作品なのでそうはしなかった。ここまでの文章を読んでも、ほとんど内容が理解できないだろう。それでいい。よくわからないまま、なんなら「カラスの親指」を読まないまま、本書に手を伸ばしてみるのは面白いと思う。自分だったらこの場でどう行動するだろうか、という難しい選択肢をいくつも越えながら、同時に、伏線の嵐を通り抜けて驚かされる読書体験を、ぜひ試してみてください。

道尾秀介「カエルの小指」

関連記事

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/3827-0613943e

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
9位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
6位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)