黒夜行

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物理学はいかに創られたか(アインシュタイン+インフェルト)

本書は、世界的なベストセラーになったという、アインシュタインとインフェルトによる、物理学に関する本です。主に「相対性理論」について書かれていて、最後の方で「量子論」が少し扱われる、というような構成になっています。

内容に入る前に、本書について昔僕がなにかの本で読んだエピソードについて書いてみたいと思います。調べてないので正確かどうか自身がありませんが、本書が生まれたきっかけは、インフェルトを亡命させるためだった、という話を読んだ記憶があります。ポーランド出身のインフェルトは、第二次世界大戦の最中、ヨーロッパで厳しい状況下に置かれていて(それがポーランドという国に関係するだったか、あるいは、インフェルトは実はユダヤ人で、ホロコーストに関係するんだったかは忘れてしまいましたが)、アインシュタインはインフェルトをアメリカに亡命させるために一計を案じた、と。それが、共同で本を書くというもので、これがうまく言って、インフェルトはアメリカに亡命できた、というような話を読んだことがありますが、正確な情報かどうかは自信ないです。

さて本書は、先程も少し触れましたが、相対性理論が主に扱われています。ただ、相対性理論の教科書、という感じの本ではありません。その辺りについて、著者連名の巻頭言から引用してみましょう。

【私たちは物理学の教科書を書いたのではありません。ここには初歩的な物理学上の事実や理論を系統立てて述べてはありません。私たちの目的とするところは、むしろ人間の心が観念の世界と現象の世界との関係を見つけ出そうと企てたことについて、その大要を述べてゆこうとする点にあるのでした】

まあこれも、スパッと理解できる文章ではありませんが(笑)、要するに、「生み出されてきた物理理論と、人間がどう折り合いをつけてきたのかという歴史」について書かれている、と考えていいでしょう。

本書では、相対性理論について触れる過程で、まずガリレオの話から始まります。ガリレオやニュートンがどんな風に物理理論を組み上げていったのか、という過程を描き出していきます。そしてそれらは、「物事を力学的な側面から描像していくものだ」ということを明らかにしていくわけです。これはどういうことかというと、「ある時刻にボールがある地点に存在しているとして、初期条件、つまり、ボールを打ち出す方向や速度、空気抵抗などがすべて分かれば、その後のボールの軌道はすべて予測できます」というような考え方です。まさにこれは、古典的物理学の特徴と言えます。個々の物質が、どの方向からどういう力を受けることでどういう運動をするのか、という力学的な描写によって世界を捉えよう、という発想です。

しかし、物理学が進んでいく過程で、この捉え方が徐々に難しくなっていきます。例えばニュートンは、万有引力の法則を導き出しましたが、この万有引力の法則というものは、どれだけ遠く距離が離れたもの同士でも一瞬で力が伝わる、と想定されていました。また、古典物理学の世界観においては、僕自身もちゃんと理解していないんで説明が難しいんですけど、「力学的な物理法則が成り立つ座標系」を「慣性系」と呼ぶそうですが、「力学的な物理法則が成り立つかどうか」を検証することによって、自分がいる座標系が、ある絶対的な基準の座標系に対して静止しているか運動しているかを判断できる、という風にされていました。しかし、実験や理論などにより、そういった考え方に対する不具合が出てきてしまいます。

そこで登場したのが「場の理論」と呼ばれるものです。これは、マクスウェルの方程式が初めて導入した考え方で、この「場」というものを考えることによって、一瞬の遠隔作用を考える必要がなくなります。また、アインシュタインが相対性理論を生み出したことで、「基準となる座標系(絶対空間)」が存在するという考え方が捨て去られ、座標系はどれも相対的な関係性を持つ、という認識に改まったわけです。

こんな風に、物理法則の変遷によって、人間の認識がどう変わっていったのか、ということについて、少しずつ確認しながら進んでいくので、面白いです。

ただ、やっぱり簡単ではありません。なかなか難しい。冒頭で著者二人は、

【この書物を書く間に、私たちはこれをどんな人たちに読んでもらうべきかについてかなり論じ合い、またわかりやすくすることについて苦心しました。読者は物理学や数学の具体的な知識を何ももっていなくとも、適当な思考力をもってさえいればよいと思います】

と書いていて、まあ確かにその主張に嘘があるわけではありませんが、ただやはり、相対性理論というものが、イメージで捉えるだけでもなかなか困難なものなので、記述はどうしても簡単ではありません。また本書は、相対性理論の一般向けの解説書があまり出ていないだろう時代に出版された本だと思うので、他の本に比べれば当時は圧倒的に易しかったと思いますが、一般向けの相対性理論の本がたくさん出版されている現在においては、本書よりも易しくイメージさせてくれる作品は他にもあると思います。

ただ本書は、アインシュタイン(とインフェルト)の、物理学というものに対する信念みたいなものが垣間見えるという点で非常に面白いと思います。

【物理学の概念は人間の心の自由な創作です。そしてそれは外界によって一義的に決定せられるように見えても、実はそうではないのです。真実を理解しようとするのは、あたかも閉じられた時計の内部の装置を知ろうとするのに似ています。時計の面や動く針が見え、その音も聞こえて来ますが、それを開く術はないのです。だからもし才能のある人ならば、自分の観察する限りの事柄に矛盾しない構造を心に描くことは出来ましょう。しかし自分の想像が、観察を説明することの出来る唯一のものだとは言えません。自分の想像を、真の構造と比べることは出来ないし、そんな比較が出来るかどうか、またはその比較がどういう意味をもつかをさえ考えるわけにはゆかないのです。けれども、その知識が進むにつれて、自分の想像が段々に簡単なものになり、次第に広い範囲の感覚的印象を説明し得るようになると信ずるに違いありません。また知識には理想的な極限があり、これは人間の頭脳によって近づくことのできるのを信じてよいでしょう。この極限を客観的真理と呼んでもよいのです】

【たとえて言えば、新しい理論をつくるのは、古い納屋を取りこわして、その跡に摩天楼を建てるというのとは違います。それよりもむしろ、山に登ってゆくと、だんだんに新しい広々とした展望が開けて来て、最初の出発点からはまるで思いもよらなかった周囲のたくさんの眺めを見つけ出すというのと、よく似ています。それでもしかし出発点は依然として存在し、かつそれを見ることができるにちがいないので、ただ私たちが冒険的な路をたどっていろいろな障害物を踏み越えて来たことによって、この出発点はやがてだんだんに小さく見え、私たちの広い眺めの些細な部分をなすのに過ぎなくなるのです】

【科学はまさに法則の集積でもなければ、まとまりのない事実のカタログでもありません。それは人間精神の一つの創造物であって、それが自由に発明した思想や観念を含んでいます】

こういった、物理学や物理理論というものをどう捉えているのか、という視点が、ところどころに組み込まれていくので、興味深いです。

あと、どうでもいい、でも個人的には興味深かった話を取り上げようと思います。量子論に関する文章で、こんなものがあります。

【私たちは銃から弾丸を射ち出すように、与えられた時刻に単一の光子や電子を射ち出すというようなことはできないのですから、もちろん、こんな事は理想化された実験であって、実際には行うことができませんけれども、しかしそう考えることは一向に差支えはないでしょう】

さて、この文章では、現在においては間違いです。なぜなら、「与えられた時刻に単一の光子や電子を射ち出すというようなこと」は出来るからです。実験物理学の進歩というのは凄いものです。本書では、実際に行われたことがないこの実験を思考実験として捉えて、正しい結論を導いていますが、さすが思考実験が得意だったアインシュタインなだけのことはあるな、と感じました。

アインシュタイン+インフェルト「物理学はいかに創られたか」



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感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

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