黒夜行

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弁護士が勝つために考えていること(木山泰嗣)

内容に入ろうと思います。
本書は、税務訴訟を主に担当する弁護士である著者が、一般の人も関わる可能性がある「民事訴訟」についてわかり易く説明する一冊です。

「民事訴訟」というのは、なかなか話が多岐に渡るようで、それを新書にまとめるのはなかなか難しかったようですが、学術的な部分はあまり重視せず、「民事訴訟に巻き込まれた一般人」にとって有益であるような情報を中心に書いてくれているように感じたので、とても良くまとまっていると思いました。

また本書のあとがきにはこんな風に書かれています。

【とはいえ、民事訴訟入門というテーマでは、一般の読者を中心とする新書では、なかなか手にとってもらえないだろう、ということで、裏のテーマとして「弁護士の思考法」にスポットをあてたいというお考えを聞きました。】

【本書がどれだけお役に立てたかはわかりませんが、単なる民事訴訟入門としての側面だけでなく、論理的な思考法としての側面をできるかぎり入れながら書きました】

著者は本文中で、こんな風に書いています。

【ときどき、この法的三段論法がもっと一般にも応用されればいいのに、と思うこともあります】

これは、裁判官がどのような思考で判決を導き出すのかという中で、「法的三段論法」というやり方について触れた箇所ですが、このように本書には、「思考法を伝える」という目的もあるわけです。

裁判というのは、自分が起こすにしても起こされるにしても、正直一生に一度あるかないか、ぐらいでしょう。しかし、本書にも書かれていましたけど、そうなってしまってから知識を蓄えるのではだいぶ遅いんです。ある程度「裁判」や「民事訴訟」というものについて理解しておくことで、もしもの時のために備えておく、ということはとても大事だろうと思います。

さてそんなわけでここでは、本書の中から「これは絶対知っといた方がいいよなぁ」というようなことについて書いてみたいと思います。個人的に、「ほぉ、そうなんだ!」と思ったことについて書いていこうと思います。

【民事訴訟で勝つか負けるか。それは弁護士の腕によります。(中略)
その最大の理由は、
民事訴訟が「ゲーム」だからです。
一方、刑事訴訟はゲームではありません。刑事訴訟はすなわち、真実発見を目的とする訴訟だからです。】

これは強く認識しておいた方がいいことでしょう。民事訴訟が「ゲーム」であるということについては、本書を読んでいけば理解出来ますが、「ゲーム」であり、刑事訴訟のような真実発見のための闘いではない、ということを理解しておかなければ色々間違えてしまうでしょう。

【あまりの本人訴訟(※弁護士をつけない訴訟)の多さに驚いたことをよく覚えています。
最新の統計データによれば、2012年の民事訴訟で原告と被告の双方に代理人―すなわち弁護士がついた事件は、38%に過ぎません。双方ともに代理人なしの事件は、なんと19%もあるのです(最高裁判所事務総局『裁判所データブック2013』37頁)】

本書を読めば、「民事訴訟になったら、弁護士に頼もう」と思うでしょう。それぐらい、勝つための戦略(心理戦や、裁判所選びなど多岐に渡る)が様々にあるからです。

だから、こんな文章も納得です。

【またサービス業は目にみえない商品を売るものですが、依頼者の方が思っている以上に資料の読み込みや検討、書面の作成に時間を要します。少しでも値切りたい、という気持ちは理解できますが、そういった意図がみえてしまったとき、それで弁護士が本当に気持ちよくその仕事をしてくれるのか、ということについては考えられたほうがよいと思います。できる弁護士はとにかく仕事量が多く、仕事を選ばなければ、全体をまわすことができない環境に間違いなくあるからです】

もちろん世の中には、悪徳弁護士的な人もいるでしょうが、ある程度信頼できる弁護士や弁護士事務所であれば、値切ったりせずに、相手の提示した金額で検討する、というのがいいんだろうと思います。本書を読んでたら、めっちゃ大変だな弁護士さん、って思いますもんね。

また、「和解」は実は悪い選択肢ではない、という話も非常に興味深いと感じました。

【しかし、和解は判決ではないため、当事者の合意で内容を決めることになります。和解は判例と違って内容を柔軟に決められます。多少譲歩することによって、依頼者が納得できる結果を残すことができる可能性もあります。
法律を杓子定規にあてはめると妥当な結論が導けない場合に、当事者の合意である和解を活用することで、まずまずの成果を得ることができるのは、和解の大きなメリットのひとつです。】

【また、判決になれば全額勝てることは明らかなときでも、和解をしたほうがいい場合もあります。判決で勝っても、相手に支払能力がないために、強制執行をしても回収ができないと想定されるケースがあるからです。
和解であれば、支払いの条件まで定めることができます。相手の支払い能力に応じて、分割払いにすることもできるのです。
判決の場合、回収まで考えた、こうしたきめ細かな対応はしてもらえません。判決は、勝つか負けるか、オール・オア・ナッシングの世界だからです】

【ほかにも、謝罪条項を入れる和解もあります。謝罪は、判決を得ることで実現できることではないため、謝罪が当事者にとって重要なニーズである場合には、和解にメリットが発生します。】

この点は、本書を読んで一番良かったと感じる話でした。なんとなく「和解」って、「勝訴に持っていけないから妥協した」という悪い印象がありましたけど、なるほど、見方にとっては「和解」っていうのも検討に値する選択肢なんだなぁ、と感じました。これはホント知っておいてよかったなと思います。

また、一般人が知っておいた方がいいことかどうかは判断できませんが、この点も非常に興味深いと感じました。

【そこで裁判官は何を軸に価値判断をするか。それはさきほども書いた「常識」です。
驚かれるかもしれませんが、裁判官に聞くとみなさん声をそろえて「最後は常識です」といいます。「結論は常識で出します。理由はあとから考えます」と】

これはなかなか驚きではないでしょうか?もちろんここでいう「常識」というのは、「『国民の常識』だと裁判官が思っている常識」のことであって、世間とズレる可能性は常にあるわけですが、それにしても「常識」から結論を出すとは。法律はどこへ行った?と思いませんか?

もちろん、法律から離れて結論を出すわけではありません。先程紹介した「法的三段論法」を使って、判決を書くことには変わりありません。しかし、裁判官というのは特殊な能力の持ち主なわけです。

【机上の空論と思われるかもしれませんが、同じ訴訟記録を前提にしたとしても、極端な話、「無罪で書け」といわれれば、裁判官は無罪になる判決理由を書けます。逆に「有罪で書け」といわれれば、裁判官は有罪になる判決理由を書けます。
どちらの結論で書いても、それなりの理屈はつけられる。ある意味、裁判官はそういう特殊技能の持ち主なのです】

「法律がこうであり、こういう事実認定がなされたから、判決はこう」という流れではないわけです。実際は、「常識から考えて判決はこう、どうしてそういう結論に至るのかは、法律と事実認定からこうやって導き出す」という流れなんだそうです。これもまた、「裁判」というもののイメージを変える話ではないでしょうか?

こんな感じで、本書には、「民事訴訟」について様々な知識が書かれています。実際に、人生において裁判に巻き込まれることはないかもしれませんが、それでも、知っておいた方がいいんじゃないかと思える話です。

しかし最後に、「ここまで民事訴訟について色々書いてきたけど、でも避けられるなら民事訴訟は避けた方がいい」と書かれています。民事訴訟は最終手段であって、そこに至るまでに解決の手段は様々にあると。仮に勝っても、民事訴訟になることで様々なリスクやデメリットがあるわけで、そうならないに越したことはない、と著者は力説します。

その最も説得力のある話が、著者の祖母が民事調停に巻き込まれ、著者が代理人を務めたエピソードにあります。著者は、仕事で民事訴訟に関わっているわけですが、いざ民事調停(ここで決着がつかないと民事訴訟になる)で揉めて、このままだと民事訴訟になってしまう、と思った著者は、調停の段階で金銭を支払って出ていってもらう決断をしたと言います。

【なにがいいたいのか。それは、弁護士のわたしですら、身内のことになれば、訴訟はできるかぎり回避しようとする、ということです】

それぐらい、民事訴訟は避けた方がベターだ、という話でした。説得力がありますね。

些細なこと(自分ではそう思っていること)でも訴えられる可能性がある世の中において、どうしたら民事訴訟は避けられるか、そして、もし巻き込まれてしまった場合にどうしたらいいかを、本書から学んでみてください。

木山泰嗣「弁護士が勝つために考えていること」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
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小説以外
1位 「死のテレビ実験
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8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)