黒夜行

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お願いおむらいす(中澤日菜子)

内容に入ろうと思います。
本書は、5編の短編が収録された連作短編集です。

舞台は、年に2回、春と秋に東京郊外の広大な公園の一角を借りて開かれる<ぐるめフェスタ>(略して<ぐるフェス>)。そのとある1日の出来事を中心に、5人の人間の葛藤を描く物語だ。

「お願いおむらいす」
太一は、ギタリストを目指して上京して6年。アルバイトを続けながら活動を頑張ってきたが、これといって芽は出ない。そんな折、5歳歳上の妻・綾香が妊娠した。そこで太一は、ギタリストの夢を諦めきれないながらも、たまたま潜り込めた、老舗のロック系雑誌出版社の正社員となった…が、そこでの太一の仕事は、<ぐるフェス>での清掃部門の仕事だった。会社をリストラされたおじさんや、やる気のない若いバイトなどと一緒に、会場内を掃除して回る太一。俺は一体こんなところで何をしてるんだ…。

「キャロライナ・リーパー」
4歳歳上の姉・香子と久々に会った歩子は、いつものように父にイライラしながら、超売れっ子漫画家である香子との久々の再会を楽しんでいた。しかし、死ぬほど忙しいはずの姉が、「会って話したいことがある」とは何があったのだろう?父も、いつもイライラさせる存在であるとはいえ、いつも以上におかしい。ご飯を、近くで開催されていた<ぐるフェス>で食べようとなって会場をウロウロしていたのだが…。

「老若麺」
軽度のうつ病と診断された崇は、妻と子を福井に残して、環境を変えようと東京に出てきた。そして今、評判のラーメン屋である<中華そば紅葉>でアルバイトを始めた。いずれ暖簾分けしてもらい、福井に戻って店を出すために。しかし今は、<中華そば紅葉>として、<ぐるフェス>に出店している。お客さんは、全然来ない。それもそのはず、作っているのは、先輩である天翔さんだ。天翔さんは、食べることに関しては天賦の才と言っていいほどだが、作る方はからきしダメ。しかし大将が、<ぐるフェス>で1位になったら暖簾分けしてやる、と天翔さんに言い、その手伝いとして崇がつくことになったのだ…。

「ミュータントおじや」
大和美優は15歳の時に5人組のアイドルグループとしてデビューしたが、25歳の今、一人でアイドル活動をしている。日に日にファンが減っているのが目に見えて分かる。辛いが、しかしそんな素振りを見せずに笑顔を振りまく。どうしてもなりたかったアイドル。もう少し、続けていたい。栃木県でライブをした日、中学生ぐらいの女の子が握手会に並んでくれた。翌日からまた<ぐるフェス>でライブを日々続けるが、そこに毎日その子がやってくる。どう考えても、家に帰ってない…。瑠輝亜と名乗ったその女の子を、成り行きで家に連れて帰ることになったが…。

「フチモチの唄」
会社をリストラされ、再就職がうまく行かずに、清掃のアルバイトをしている中村浩は、なかなか大変な状況に置かれている。娘は受験を控えているし、妻は更年期障害のために横になっていることが増えた。さらに、同居している浩の母は、徘徊するようになり、以前のような明るさもなくなってしまった。ローンもまだ残っている。こういう状況でリストラされた浩は、バイトでもなんでもして当面の生活費を稼ぐしかない。さらに追い打ちをかけるように、母が倒れたと連絡があり…。

というような話です。
軽いタッチで、スイスイと読みたい気分の時にはなかなかいいかもしれません。

どの主人公も、それぞれなりの苦労を抱えていて、状況としては決して明るくはないんだけど、物語のトーンは決して暗くはない。もちろん、物語が希望を描くような形で終わっている、という部分も大きいとは思うけど、それぞれの話の中に、空気を読まなかったり、ちょっと感覚がズレてる人物が出てくることで、物語全体として湿っぽくならないようにしている感じがしました。

物語のテーマとしては、「居場所」です。「自分はここにいていいんだろうか?」「自分はここにいなきゃいけないんだろうか?」「どうしてこんな場所まで追いやられてしまったのか?」などなど、「どう生きるか」を考える過程でどうしても「居場所」の問題というのは大きく関わってきます。「まさにここが自分の居場所だ!」という確信を持てる機会そのものが少ないですが、しかし、そういう機会を持てるとしても、決してそれは永遠ではない。常に僕たちは生きていく中で、今いる「居場所」が脅かされる可能性がある。そういう状況に直面した時、どういう心構えを持つべきか、という意識の準備が出来る本かもしれません。

とはいえその一方で、僕としてはやはり、どの物語も「その先」を描いてほしいなぁ、と感じてしまいました。それはやはり、(ネタバレですが)どの物語も「希望」的な着地をしているからだな、と思います。もちろん、世の中の需要として、「ハッピーエンドであってほしい」という要望の方が強いだろうから、ある程度仕方ないとはいえ、やはり「希望」の物語は、僕は、ちょっと嘘っぽいなぁ、と感じてしまう部分があるんですね。

どの登場人物も、とりあえず物語の中で、とりあえず「希望」を一区切りにすることが出来ている。でも決して、問題そのものが解決しているわけではない。問題はそのまま残っているが、気持ちの上では前向きになれる、というような描き方をしているわけですね。

で、僕としては、「じゃあその先は?」と思ってしまいました。キレイなところで終わっちゃうんだなぁ、というのは、若干不満ではありました。

個人的に好きな話は、「ミュータントおじや」です。僕は、ストーリーが破綻気味の物語が好きなんですけど、「ミュータントおじや」は割とそういう感じの物語です。瑠輝亜のキャラクターがなかなかぶっ飛んでて面白いし、「ミュータントおじや」が登場する展開もなかなか謎。そして、「アイドル」という、ある意味で特殊な状況に置かれているはずの「孤独」が、僕の中では近い感情に感じられた、というのもあります。というのも、僕は「家族」的なものがあまり得意ではなくて、夫婦とか姉妹とか老親とか、そういうものに心が動かされないからです。そういう中で、「ミュータントおじや」だけが、「家族」的なものから遠い物語だったので、そういう意味でも良かったんだなぁ、と思いました。

瑠輝亜は、近くにいたらたぶんメッチャめんどくさいけど(笑)、ただ遠くから見てる分には結構好きなキャラクターだなぁと、読みながら思ってました。

中澤日菜子「お願いおむらいす」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)