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コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった(マルク・レビンソン)

内容に入ろうと思います。
本書は、まさにタイトルの通りで、「コンテナがいかに生まれ、いかに広まったのか」について書かれた本です。

【1956年4月26日、ニュージャージー州ニューアーク港。クレーンが奇妙な荷物を老朽タンカー、アイデアルX号に積み込んだ。58個のアルミ製の「箱」である。五日後、アイデアルX号がヒューストンに入港すると、そこには58台のトレーラートラックが待ち構えていた。「箱」を載せて目的地へ向かう。これは、革命の始まりだった】

本書の冒頭の文章だ。そう、まさにコンテナは「革命」をもたらしたのだ。その「革命」は、現代を生きる僕らにとっては当たり前のものだ。

【頭の先からつま先までアメリカそのもののような女の子、バービーちゃん。だがこの人形は、アメリカ製ではない。玩具大手のマテルは企画を立てた段階からすでに、生産は日本の工場で行うことにしていた。1959年のことである。やがてそこに台湾の工場が加わって、着せ替え用の服を縫製するようになった。90年代も半ばになると、人形は一段と「多国籍」になる。中国の工場が日本やヨーロッパの機械、アメリカから送られてきた型を使って人形のボディを生産するようになった。ナイロンの髪の毛は日本製、ボディに使う樹脂は台湾製、染料はアメリカ製、木綿の服は中国製…という具合である。バービーちゃんは、自分専用のサプライチェーンをグローバルに展開しているのだ】

僕らにとってはもう当たり前のようになっているこの現実は、コンテナの発明なしには考えられなかった。

【コンテナが出現する前の世界では、モノを輸送するのはじつにカネのかかることだったのである。輸送費があまりに高くつくせいで、地球の裏側に送ることはもちろん、アメリカの東海岸から中西部に送るだけでも経費倒れになりかねなかった】

しかしそんな革命をもたらしたコンテナだが、生み出されてからすぐに社会を激変させたわけではない。その歩みは、非常に遅々としたものだった。

【本書では、1870年代に発明された電球が広く普及するまで数十年を要したように、コンテナの普及にも時間がかかった経緯を紹介する。コンテナの導入で埠頭での荷役コストが大幅に削減されたにもかかわらず、輸送コスト全体の大幅削減にはすぐにはつながらなかった。】

【効率改善のおかげで船会社の利益は急上昇するが、この頃はまだコンテナは太平洋沿岸ではほんのよちよち歩きを始めたところだった。太平洋岸全港の貨物取扱量の中でコンテナが占める比率は、60年に1.5%、63年でも5%足らずである】

【こうした環境で成功を手にしてきた経営者たち、潮の香りを愛し船を「彼女」と呼ぶ男たちにとって、マルコム・マクリーンが発明したロマンのないただの「箱」には何の魅力もなかった。空想癖のある連中がコンテナの重要性を触れ回っているようだが、なに放っておけばよい。コンテナの比率が10%を上回ることなどあるはずがない―海運業界の大物たちは、まじめにそう考えていた】

【マクリーンが引き起こす変化のインパクトには、コンテナの普及を後押しした国際コンテナ協会の専門家でさえ驚いたものである。彼らの一人はのちに、「あのときはアメリカで革命が起ころうとしていることをわかっていなかった」と告白している】

【とはいえ、この変化はただちに起きたのではない。コンテナ船が国際航路で定期運航されるようになってから10年が過ぎた1975年の時点でさえ、国際貿易開発会議(UNCTAD)が「長期的にみると定期運航コストは削減され、少数の船会社に利益をもたらした」と報告している程度である。】

なぜコンテナはすぐには広まらなかったのか。そこには様々な要因があるのだが、まずは誰がコンテナを生み出したのか、ということに触れよう。

それは、トレーラー一台から巨大な海運会社を作り上げたマルコム・バーセル・マクリーンだ。彼は、海運業のことなどまったく知らない時に、コンテナに繋がる発想を着想した。トレーラーで混雑した沿岸道路を走るなら、トレーラーごと船に載せてしまえばいいじゃないか、と考えたのだ。これが、マクリーンの躍進のきっかけだった。ここから、めんどうだから車輪も取ってしまえ、というところから「コンテナ」という形に行きつくのだ。

さて一応、本書のこんな文章を引用しておこう。

【厳密な意味では、海上コンテナを発明したのはマルコム・マクリーンではない。貨物を収める金属製の箱なら、いろいろなサイズ、いろいろな形のものが何十年も前からあった。それにさまざまな研究からも、アイデアルX号の前にすでに貨物輸送の実例があったことが確かめられている。(中略)こうした例を挙げて、マクリーンの業績をさほど評価しない研究者もいる】

しかし著者は、マクリーンこそがコンテナ発明の立役者であるとする。その理由はこうだ。

【マルコム・マクリーンがすぐれて先験的だったのは、海運業とは船を運航する産業ではなく貨物を運ぶ産業だと見抜いたことである。今日では当たり前のことだが、1950年代にはじつに大胆な見方だった。(中略)輸送コストの圧縮に必要なのは単に金属製の箱ではなく、貨物を扱う新しいシステムなのだということを、マクリーンは理解していた】

なるほど、この違いは非常に大きいだろう。本書を読めば理解できるが、「コンテナ」という「箱」だけがあっても、コストが下がるわけではない。長い長い時間を掛けて、「コンテナ」を中心としたシステムが精緻に組み上がることで、輸送コストは劇的に減少したのだ。本書には、コンテナの普及の一助としてベトナム戦争が取り上げられるが、「ロジスティックス」という、元々戦争における兵站を意味していた単語が、そのまま輸送システムを指す言葉として使われるようになったほどだ。

【「コンテナは単に輸送手段の一種と考えるべきではない」とベッソンは1970年に議会で力説している。「コンテナリゼーションはシステムである。コンテナの前面活用を念頭において設計されたロジスティックス・システムで使われてはじめて、コンテナの効果は最大化される」。】

さてでは、コンテナの普及の障害となったものは何か。大きく分けると、「人」「港」「規格」「コスト」に分けることが出来る。

その中でも、やはりかなり大きな問題だったのが「人」だ。そしてこの部分を知ることは、僕らの未来にも大きな関わりを持つ。今後、AIが社会構造を激変させていくだろう。そうなった時、コンテナの時と同じ状況に直面するだろう。結論から先に書いておくと、こういうことだ。

【それでも機械化に対する港湾労働者組合の執拗な抵抗は、一つの原則を確立したように思われる。それは、仕事を奪うようなイノベーションを産業界が導入する場合には、労働者を人間的に扱うという原則である】

コンテナは、港湾労働者(沖仲士と呼ばれる)の仕事を奪った。沖仲士は、【苛酷な労働条件。不安定な収入。血縁関係でつながった排他的な共同社会。そこには固有の習慣や独特の考え方も根づいていた】と書かれているような仕事であり、キツイが金になるし働き方も自由、という雰囲気だった。そして当然、沖仲士たちは、自分たちの仕事が奪われることに大きな抵抗をした。

そのことがコンテナの普及に歯止めをかけることになってしまう。これは非常に大きな問題で、恐らく今後も様々な場面でこの問題が出てくるだろうから、教訓にするべき部分だなと感じた。

「港」の問題というのは、要するに、「コンテナ輸送に対応した港に変わらなければならない」という問題だった。コンテナというのは、メチャクチャでかい船で一度に大量に送るからこそコスト削減が見込める。そのためには、メチャクチャでかい船が立ち寄れ、さらに巨大なクレーンのある港でなければならない。当然、巨大なクレーンなどどこにもなかったし、地理的にでかい船が立ち寄れない港もあった。どの港も、設備投資に相当のお金を掛けて港自体を改修しなければならず、その判断によって大きく差が出た。コンテナに未来を感じていち早く港の大規模改修に乗り出したところもあれば、軽視して改修に本腰をいれられなかったところ、また地理的条件や他の条件によって、改修しても使われない港があったりと、悲喜こもごも様々だった。とにかく、港自体が変わらなければならない、という大きな問題もあった。

「規格」というのは、非常に厄介な問題だ。コンテナというのは、一度にどれだけ運べるかが勝負になるから、当然、海運業界、あるいは鉄道業界やトラック業界などで大きさや金具などが統一されている方が便利だ。しかし、「統一の規格を決めよう」という前に、様々な大きさ・金具のコンテナが使われはじめていた。各社とも、それぞれの規格に合わせて、船を改造したり、システムを組んでいる。既に自社が採用している規格でないものに決まれば、すべてを変えなければならない。この争いが、非常に厄介だった。しかも、規格が決まった後も、実はその規格に不具合があることが分かったりなどすったもんだの騒動を繰り返すことで、ようやく規格問題に決着がつく形となる。

「コスト」というのは、大型船の建造コストの話だ。コンテナというのは、一度に大量に運べば運ぶほどコストが下がるのだから、当然、船が大きければ大きいほどいいということになる。そしてそんな巨大船の建造コストは、莫大なものとなった。

【第二世代のコンテナ船建造費は、大手でもたじろぐほど巨額だった。あるコンサルタントが後に計算したところによると、1967~72年に全世界で投じられたコンテナリゼーション関連の支出総額は100億ドル近いという。現在のドルにすれば400億ドル前後になる。ヨーロッパの船会社が、一社ではとても投資の負担に耐えられなかった。なにしろ66年の時点では、イギリスの船会社37社の税引後利益を合計しても、600万ポンド(1億7000万ドル相当)に届かなかったのだ】

マクリーンがコンテナ輸送を始めた頃は、政府から格安で提供されるオンボロ船を改造してコンテナ船に仕立てあげていたから、そこまでコストはかからなかったが、だんだんそうも行かなくなってきた。このコストを掛けるという判断をしなければならないし、その判断はなかなかしんどかっただろう。これも、コンテナの普及の障害となった。

しかし、それらの障害を乗り越え、コンテナは世界を激変させることとなった。最も大きな変化は、「立地の経済」を覆したことだろう。

【長年にわたりニューヨークしは、全国展開する企業や海外進出を果たす企業に輸送コストが安いというメリットを提供してきた。市内に工場を持てば港はすぐそこだから、たしかに輸送費はかからない。だがコンテナは、「立地の経済」を覆した。狭いブルックリンやマンハッタンに何階建てもの工場を建てるにはおよばない。ニュージャージーかペンシルベニアに安上がりな平屋の工場を建てればよういのだ。あちらは税金も電気代も安い。そして製品をコンテナ詰めしてポートエリザベスに送れば、その方がずっと安く済む】

【港は背後に控える内陸部と経済的に密接に結びついており、内陸部は港の「属国」だという地理学者もいたほどである。
だがコンテナ時代には、属国は存在しない。もはや港は通過地点にすぎず、貨物を堰き止める障害物はなく、大量のコンテナはほとんどとどまることなく通りすぎて行く】

またコンテナは、「何を運ぶか」も劇的に変えた。

【だが20世紀末に起きたグローバリゼーションは、だいぶ性質がちがう。国際貿易の主役は、もはや原料でもなければ完成品でもなかった。1998年のカリフォルニアに運ばれてきたコンテナの中身をもし見ることができたら、完成品が三分の一しか入っていないのに驚かされるだろう。残りはグローバル・サプライチェーンに乗って運ばれる、いわゆる「中間財」である】

またコンテナは、トヨタの「ジャストインタイム」という仕組みを生み出すきっかけにもなった。

【ジャストインタイムのすばらしさは、当初は日本国内でしか知られていなかった。だが1984年、トヨタがカリフォルニア州でゼネラルモーターズと合弁の現地生産を始めたとき、アメリカで俄然注目されるようになる。その年のうちにジャストインタイムに関する論文が34本も業界誌に掲載され、86年になるとその数は81本に達し、世界中の企業がトヨタのめざましい成功を見習うようになった。87年には、フォーチュン500にランクされる米企業の五分の二がジャストインタイムを採り入れている】

本書を読むまで、「コンテナ」というものに注目する機会はなかったが、このように歴史を概観すると、その威力がよく伝わってくる。非常に刺激的な一冊だった。

マルク・レビンソン「コンテナ物語 世界を変えたのは「箱」の発明だった」

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