黒夜行

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本の読み方(平野啓一郎)

内容に入ろうと思います。
本書は、小説家であり、【実は私も、長年、「速読」に憧れていた一人だった】と語っている平野啓一郎が、本の読み方を伝授する、という内容の一冊です。

「小説家による本の読み方」というと、国語の読解のような堅苦しいものをイメージするかもしれません。まあ実際本書には、夏目漱石の「こころ」とか三島由紀夫の「金閣寺」などを「読解する」というページもあるので、そういう側面がないわけではありませんが、しかしそれは、本書で提唱する「スロー・リーディング」を実践すると、自分の場合はこうなるよ、という実例の提示に過ぎません。「読解」が「スロー・リーディング」の本質、というわけではないので、心配しないでください。

本書では、「速読」と対比させる形で「スロー・リーディング」の話を展開していきます。正直これは、ちょっと著者の主張が誤って伝わりやすい構図だな、という印象を受けました。何故なら、本書で直接的には書かれていませんが、あたかも読書には「速読」と「スロー・リーディング」しかないような印象を与えかねないからです。というかもう少し正確に言うと、「スロー・リーディング」をしていない人はみな「速読」をしている、というような印象を与えかねないな、と感じました。

もちろん著者としてはそんなつもりはないだろうし、話を分かりやすくするために、敢えて対抗軸を「速読」に絞ったのだと思います。ただ、元々理系で国語の授業が大嫌いだった僕からすると、「ゆっくり読んだからって分かるもんでもないんだよなぁ」という気持ちはあったりするわけです。

【決して、私に特別な能力ではない。ただ、本書で書いたようなことを気をつけながら、ゆっくり読めば、誰でも自ずとそうなるのである】

本書にはこう書いてあるんですけど、僕はちょっと「むむむ…」と思ってしまいました。僕は「読む」ということに若干コンプレックス的なものがあって、「本をちゃんと読める人と比べてどうして自分はあまりうまく読み込めないんだろう」と思うことは結構あります。特にそれは小説に対して感じることが多くて、例えば多くの人が絶賛するような本を面白いと感じられない場合、もちろんそこには価値観の差もあるわけですけど、「深く読めてないってことなんだろうか」と思ったりもします。僕の中では、ちゃんと本を読み始めたのは大学時代からで、子どもの頃は、読んではいたけど自分の中で「本を読んでました」ってのにカウント出来るレベルではないんで、そういうのもあって、「読解力コンプレックス」みたいなものは未だにあります。

そんな僕からすると、「速読みたいにパッパパッパ読んでるわけではないんだけど、でもわかんないんだよなぁ」という感じはあるわけです。確かに、「精読」してるかと言われれば、してません。でも「速読」ってわけでもない。本書では、そういう中間的な本の読み方をしている人(割とそういう人多いんじゃないかと思うんだけど)のことがスポっと抜けてしまっているような印象を抱いてしまって、恐らくそれは著者の意図通りではないだろうから、ちょっともったいない気はしました。

とはいえ、著者の主張は多々理解できます。

【本を読むためには、料理を作ったり、車を運転したりするのと同じで、それなりに技術が必要であり、ちょっとした工夫しだいで、読書は何倍も楽しくなる】

【スロー・リーディングは、本を読む習慣のある誰にとっても重要であるだけでなく、本質的には本を読まない人にとっても重要である。なぜならそれは、言葉を深く理解する技術だからである】

【本を読む喜びの一つは、他者と出会うことである。自分と異なる意見に耳を傾け、自分の考えをより柔軟にする。そのためには、一方で自由な「誤読」を楽しみつつ、他方で「作者の意図」を考えるという作業を、同時に行わなければならない。】

【スロー・リーディングの有効な技術の一つとして、人に話すことを想定して読むというのがある。読後に誰かに説明することを前提に本を読んでいくと、分からない部分は読み返すようになり、理解する能力も自然に高まっていく】

【序章でも引用した作家の大江健三郎さんは、『私という小説家の作り方』の中で、こんなことを書いている。

「読書には時期がある。本とジャストミートするためには、時を待たねばならないことがしばしばある。しかしそれ以前の、若い時の記憶に引っかかりめいたものをきざむだけの、三振あるいはファウルを打つような読み方にもムダということはないものなのだ」

本を繰り返し読むことの意義は、ほぼこれに集約される】

こういうような話は、非常に理解できる。僕も長いこと「読書」ということを続けてきたし、読み終わったら毎回こんな風に感想を書くことを自分の中のルールにしている。「読む」という作業ももちろんだけど、この「書く」という作業は、僕にとって非常に重要だった。【読後に誰かに説明することを前提に本を読んでいく】というのは、本当に僕がこの15年間ぐらいずっとやり続けてきたことで、「読み終わった後で文章が書けないような読み方はしない」というのが、僕の中の読み方の大きな基準になっている。こういうルールを課すことで、「読む」段階でかなり意識できるようになったし、読みながらずっと、「これをどう伝えようか」ということを考えているので、理解度も高い。小説はなかなか覚えていられないのだけど(それはつまり、ちゃんと理解できてないってことなんだと思うんだけど)、数学や物理の本なんかだと、もちろん元々知識があるってこともあるんだけど、一回読めば大体人に説明できるぐらいまで理解できるようになった。また、その時々の自分の文章が15年分残っているので、読み返す時間はそこまでないけど、振り返ろうと思えば当時の自分を振り返ることが出来る。そういう意味でも、「読んだ本について文章を書く」というのをやり続けてきてよかったな、と思う。

本書の表現で面白かったのが、これだ。

【当時の日本人は、材料の制約もさることながら、見様見真似で、「カステラ」を作ってみたわけだが、これは一種の「誤読力」であり、その結果が、「ビスコチョ」や「パン・デ・ロー」と同じではないからといってカステラを否定する人は誰もいない】

著者は小説家として、どう読むかは読者次第だ、と考えている。もちろん、著者なりの意図や解釈はある。しかし、それ通りである必要はない。昔の日本人が、外国の焼き菓子を見て、それになんとか近づけようとして「カステラ」が生まれたように、読む人ひとりひとりがそれぞれの解釈をすればいい。「カステラ」を偽物だという人がいないのと同じで、本の解釈に偽物も本物もない。国語の授業で、さも読解には正解があるかのような思い込みを植え付けられているので、「正しく読まなければならない」と思ってしまいがちだが、そんなことはない。それより遥かに大事なことは、「その本を読んで何を感じ、何を考えたのか」だ。これ以上に重要なものはない。

さらに著者はこう書く。

【だから、読み終わって感じたことに対しては、「今の自分にとっては、こう感じられた、でも、数年経ったら、また変わるのかな」というくらいの「かりそめ感」をいつも持っていたい】

これも、非常に分かる。僕は同じ本を読み返すことはあまりないが、たまにそういう機会があると、感じ方の違いに驚くことはある。昔面白いと思った本がまったく面白く感じられなかったりするし、その逆もまた然りである。だから、つまらないなと思った本でも、そこで評価を確定させない方がいい。その本を読み返すことは、ないかもしれない。ただ、「今の自分には合わないだけだったのかな」と捉えることはいつだって可能だ。僕は、つまらないなと思う本に出会った時は、なるべくそういう風に思うようにしている(まあ、明らかに「稚拙!」としか思えない本もありますけどね 笑)

国語に関しては、こんな記述もある。

【そこで、あるときから私は、本文と設問とを一続きに文章として読むことにした。本文として小林秀雄の文章があり、それを読解することが、設問を通じて求められているというのではなく、問題制作者が、小林秀雄を引用しながら彼の主張をしている、と発想を転換したのである。これに気がついてから、私の国語のテストの成績は、瞬く間に上昇した。】

大人になってから、こういうような考え方を知るようになったんだけど、学生時代に知りたかったなぁ。ずっとホントに、「何でそれが『主人公の気持ち』だなんて言えるんだ!」ってイライラしてたからなぁ。国語ほど理解できない授業はなかったし、未だに殺意しかない(笑)

【環境面から言えば、私たちが日常的に処理している情報量はますます増え、そのアクセシビリティも格段に上がっている。それはそれで、好むと好まざるとに拘らず、私たちがつきあっていかねばならない現実だが、だからこそ、他方では意識的にゆっくりと本を読み、思索する時間を待つ必要が、かつてないほどに高まっている。さもなくば、私たちは日々の情報の渦中で翻弄され、その全うな取捨選択や真偽の判断さえ不可能となり、また“SNS疲れ”とよく言われるように、くたびれ果ててしまうからである。
「フェイクニュース」という言葉が、このところ世界中で飛び交っているが、本書が刊行された頃に比べて、ネットのデタラメな情報に、社会が翻弄される懸念は一層強まっている。】

そんな時代だからこそ、やはり本を読むということが大事になってくると思う。もちろん、本が万能だなんて思っているわけではない。それでも、じっくりと本を読む、という時間を確保することが、未来の自分のためになるはずだと思う。「速読」が明日の自分のための読書だとしたら、そういう読書ではなくて、5年後10年後の自分のためになる読書をしよう。その指南をしてくれる一冊です。

平野啓一郎「本の読み方」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)