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新装版 ココ・シャネルという生き方(山口路子)

【「多くのアメリカ人にとってフランスとはあたしのことだった」】

凄いことを言うもんだなぁ、と思う。でも、確かにそれぐらいのことを言い放ってもいいのかもしれない。なかなか、凄い生き方をした女性だ。毀誉褒貶は様々だったようだし、僕も近くにいたらうんざりしてしまうのかもしれないけど、基本的には、凄く好きなタイプの人だ。

【「女に対して、あたしは友情のひとかけらも持っていない。ミシアだけが例外だった。なぜなら女たちは面白くないからだ」】

女性に向けたファッションを生み出しているデザイナーなのに、凄いことを言う。しかし、まあそうだろう。シャネルから見れば、全女性が退屈に思えるだろう。

例えばシャネルは、「イミテーション・ジュエリー」というものを生み出した。要するに、偽物の宝石である。何故こんなものを生み出したのか、その理由はこうだ。

【これは宝石好きの女たちに対する挑戦状でもあった。なぜならシャネルは彼女たちのことを苦々しく思っていたのだ。夫の富のもとでしか存在しようとしない女たちをシャネルは嫌った。
「首のまわりに小切手をつけているようなものだ」
「もし宝石が何かの記号であるなら、それは卑しさの、不正の、または老いの記号でしかない」
夜会で、他人の宝石が気になってしかたのない女たち、宝石によって自分の価値が左右されるかのように考えている愚かな女たちを、シャネルは軽蔑した。
「価値ある宝石をつけたからといって、それで女が豊かになるわけではない」】

素晴らしい理由ではないか。こんな風にシャネルは、その時々の上流階級の人間を軽蔑しながら、デザイナーとして成功した。シャネルが生み出した「イミテーション・ジュエリー」に上流階級の女性は夢中になり、こぞって偽物をつけはじめた。
そして、そんな中、シャネルは本物だけをつけて微笑むのだ。その理由も素晴らしい。

【「宝石はそれをつける人にふさわしく役立つ。あたしは宝石をいっぱいつけるけど、それは、あたしがつけると全部偽物に見えるからだ」】

「偽物に見えるから本物の宝石をつける」という歪んだ発想は最高だなぁ。こういう人は大好きなんである。

他にも、「コピー」に対する考え方も凄く好きだ。シャネルは著作権(デザインの場合は、意匠権というらしい)にまったく興味がなかったという。その理由は明快で、自信に溢れる者の考えだ。

【「時代の空気をいち早くつかまえるのがデザイナーの役目だとしたら、他の人たちが同じことをしたって不思議ではない」】

【「魅力ある束の間の創作ではあるけれども、永遠の芸術作品ではない。モードは死ななければいけない。それもできるだけ早く。そうでなければビジネスにならない」
もともとモードはうつろいやすいものであり、うつろわなければ、モード産業は成り立たない。
「本質的にうつろいやすく、死に絶えやすいものを、どうやって守ろうというのか」
これがシャネルの言い分だった】

【「コピーあれることは賞賛と愛をうけとること」
つまり、「成功の証明」そのものだった。このコピーに対する考え方は、次の信条にもつながる。
「よくできた服は誰にでも似合う服である」
誰にでも似合う服なのだからコピーされるのだ。ということは自分が作り出した服は「よくできた服」なのだ。喜んで当然だ】

当時のデザイナーは、意匠権を守ろうと動いていたらしいが、シャネルはその動きに同調しようとしなかった。そのことで嫌われたりもしたらしいが、そんなことお構いなしである。特にシャネルの発言で素晴らしいのは、「時代の空気をいち早くつかまえるのがデザイナーの役割」という捉え方だ。時代というのは、常にうつろうものだ。だから、それに合わせて作ったデザインを後生大事に取っておいたって仕方ない。これは、「私はいつだって、その時代の空気を掴んでみせる」という意思の表れであり、ここからも、ものすごい自信を感じるなぁ、と思うのだ。

他にも、芽が出る前の天才の見抜いていち早く投資したり(しかも、そういう才能にお金をつぎ込んでいることを黙っているように強要したという)、所有することにお金を使わなかったり、上流階級からお呼びがかかる(当時は、商人が上流階級のパーティーに呼ばれるなんてありえなかった)ようになったにも関わらず、招待を受けてもなるべく顔を出さなかったりと、その生き方はなかなかクールである。まあ、かなり暴君だったようで、一緒に働いていた人は大変だったろうと思うけど、女性が社会に出ることが今よりも遥かに困難だった時代に、孤児院出身の彼女が、時代の象徴として君臨するストーリーは見事だと思うし、どれだけ評判が悪くても、彼女が成した功績は否定できない。なにせ、以下のものはすべてシャネルが生み出した、というのだから。

黒いワンピース、セーラーカラー、プリーツスカート、ツィード、ジャージー、パンタロン、イミテーション・ジュエリー、ショルダーバッグ、リップスティック…。

女性のファッションには詳しくないが、そんな僕でも、ショルダーバッグやリップスティックぐらいは分かるし、他のものだってなんとなく聞いたことぐらいはある。そういう、ファッションの「当たり前」を築き上げた功績は見事だと思うし、時代を読む力が圧倒的だったのだろうなと思う。

さて本書には、「なぜ、彼女はウエディングドレスを拒んだのか?」という、副題(?)がついている。これに対する明確な答えが載っているわけではないが、本書では、生涯独身を貫いたシャネルの恋愛遍歴も結構描かれる。そういう記述にはほぼ興味はないのだが、しかし、結婚を意識した相手が不慮の死を遂げる、ということが何度かあったと書かれている。運命、みたいな言葉は使いたくないが、しかしシャネルが結婚という選択をしなかったことは、何らかの運命だったのではないか、と思わせるような雰囲気もある。もし、結婚していたら、今とはまた違った評価になっていたことだろう。少なくとも、本書に描かれているいくつかに重要なエピソードは存在しなかったに違いない。

女性が社会の中で生きていくということは、現代においても様々な困難を伴うだろうけど、今以上に困難だったはずの時代に、これだけのことを成し得た女性というのは、やはり凄いなと感じさせられた。

山口路子「新装版 ココ・シャネルという生き方」

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3位 浅野いにお「うみべの女の子
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番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

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