黒夜行

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1秒でつかむ「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術(高橋弘樹)

本書を読んでて、一番「なるほどな!」と思ったのは、「何故著者は本書を書いたのか」という動機の話だ。

著者はテレビ東京で、「家、ついて行ってイイですか?」を始めとする、数々の番組を生み出してきた人物だ。そんな代表作とも言える「家、ついて行ってイイですか?」にはなんと70人ものディレクターがいる。

著者いわく、一番組のディレクター数で言えば世界一だろう、と。あの24時間テレビでさえ、ディレクターは20~30人だという。

「銀河系一ショボい」テレビ東京で何故そんなことが可能なのか、というのは、本書の「バランス崩壊力」の中で説明されるので是非そこを読んでほしい。ここで伝えたいことは別にある。

それは、著者には管理(という言い方は適してないだろうが)すべきディレクターが70人もいる、という点だ。

本書では、著者がこれまで「面白い番組を作るために全力を注いできた技術論」が詰まっている。そして著者は、それを自分の番組を担当するディレクターたちにも共有したい、と思っている。しかし、なんせ70人もいる。一人ひとり伝えていたら日が暮れる。かと言って、マニュアルを作るといってもめんどくさい。

そんな時、ダイヤモンド社から、「何か本を出しませんか?」と連絡が来た。その時著者は、

【なんと、金をもらえてマニュアル作りができる!】

と思ったそうだ。

つまり、著者が本書を書く一番の動機はこういうことになる。

【ぼくは自分の番組のパフォーマンスを上げるために、金をもらって、「自分の仲間にわたす武器作り」がしたかった。
これが、まず動機の第一歩なんです。
これが、世にあるビジネス本との決定的な違いです。】

この点は、非常に面白いと感じた。なるほど、そういう動機であれば、著者が本書に全力を注ぐことも理解できるだろうし、読めばすぐに使える実践的な内容であることも期待出来るだろう。

とはいえ、こんな疑問も湧いてくる。だとすると、本書は、テレビ制作にしか使えない、ニッチな技術なのではないか?と。

その点についても、著者はちゃんと本書の中で説明している。それを伝えるために、また「家、ついて行ってイイですか?」の話に戻ろう。

「家、ついて行ってイイですか?」という番組は、著者のこんな妄想から生まれた。

「夜中に人妻のすっぴんが見たい!」

著者が最初に提出した企画は、まさにこれだったそうです。とはいえ、この企画がダメなことも分かっていた。何故ならこれでは、世の中の半分である女性がまったく興味を持てない。

そこで著者は、「夜中に人妻のすっぴんが見たい!」という動機の純度をなるべく下げないまま、どのようにしたら一般の人にも関心を持ってもらえる企画になるかを考え続けた。そしてその結果、「終電を逃した人の部屋に行く」という企画になったわけです。

この話は「自分の欲望肯定力」として本書に登場します。自分の欲望を出発点にして、しかしいかにして一般に向けたものにするか。「欲望」が根底にあるからこそ、その企画はより良いものになる、と言います。

そしてまさにこの話は、本書の成立過程そのものでしょう。「マニュアルを作りたい!」という自らの動機を、いかにして一般向けに調整していくか。本書は、そういう感覚を持つ著者が書いているので、もちろん実例はほぼすべて映像の話になっていますが、書かれていることを自分なりにきちんと咀嚼すれば、企画・営業・広報・ものづくりなど、あらゆる分野で武器になるのではないか、と思います。

さらにもう一つ、本書には特異な点があります。それは、「体験」を与える本だ、ということです。これは本書の中では、「サウナ力」として書かれています。

本書では、「結果を体験させるには、原因も体験させるしかない」というようなことが書かれます。この詳しい説明は是非本書を読んでほしいのだけど、まさに本書は、それを実感させる作品になっています。

本書を読んでいると時々、「ん?」と感じる描写があります。そういう文章は、ご丁寧に波線が引かれているのでわかりやすいのだけど、その違和感が、実は後で説明されます。で、何故「ん?」と思ったのか、という話から、そういうやり方は避けるべきだ、という説明になるのです。

つまり本書は、読みながら「ん?」という違和感を得るという体験をさせ、それを利用して後から重要な説明をする、という構造になっているのです。確かに、ただ言葉で「説明」だけされても納得できないことが、本書の場合は「体験」という形で与えられるので、納得しやすくなります。なかなおか面白い形に作ってあるな、と感じました。

しかし、500ページを超える本書を読んで、僕が強く実感したことは、

「やっぱり自分で努力して身につけないといけないよなぁ」

ということです。いや、僕は割とそういうことについては認識が出来ているので、本書を読んで「やっぱりそうだよな」と思ったんですけど、本書を読んだ人の中には、がっかりする人もいるんじゃないかと思います。確かに色んな技術について書かれているけど、でもこれって、めっちゃ頑張らないと無理じゃん、と。

そうなんですよね、めっちゃ頑張らないと無理なんです。本書には「1.5倍力」っていう項目もあるんですけど、要は、何か一分野でいいから、他人と比べて突出しろ、ってことなんです。他にも、「「1年=15ヶ月」力」では、どうやって時間を生み出し、生み出した時間で自分を高める努力するかが、「限界突破力」では、べらぼうな量の企画書を出した経験が、「全部ひとり力」では「分業」を止めてできるだけ全部自分でやれという話が、「ルーティン本気力」では全力で細部にこだわる経験をすることで力を得た話などが書かれています。

こういうのは、色々書いてるんだけど、要するに「メッチャ頑張れよ」ってことなんです。で、そりゃあそうなんですよ。だから本書は、「頑張り方を教えてくれる本」なんですね。そういう意識で読まないと、全然使えないと思います。「頑張らなくてもなんとかなる方法」じゃなくて、「どのポイントをどういう風に頑張ったらいいかという方法」が書かれているんで、そもそも頑張りたくない人はお呼びじゃないということなんです。当たりまえっちゃあ当たりまえなんですけど、この点をちゃんと理解しておく必要があると思います。

本書で紹介されている方法についてはあまりあれこれ書きませんが、なるほどなと感じるものが多いと思いました。「人間の魅力を引き出すためにはまず自分自身を理解しろ」とか、「わかりにくさをいかに無くせるか」とか、「設定がすべてだ」とか「分かる人には分かる要素は入れるが、分からない人の邪魔になってはいけない」とか、コンテンツを生み出したり、何かを誰かに届けたりする時に意識しておくべき注意が描かれているな、と感じました。

最後に、テレビ東京について書きましょう。テレビ東京について著者は色々書くんだけど、やっぱり面白い企画を生み出せる組織だよなぁ、と感じました。一番そう感じた記述はこれです。

【テレビ東京というのは本当にバカっぽい組織だと思います。視聴率が悪くても、見たことない新しい番組なら、翌日上司が「もう1回やる?」と平然と言ってくる謎の会社です。でも、だからこそ、テレビ東京には「スベってもいいから新しいものを作り続けよう」という性癖ともいうべき根強い思想信条が、社員に蔓延しているように思います】

僕は、アイデアというのは本当に組織の雰囲気によって出る・出ないが変わってくると思っています。いくら才能のある個人がいても、組織がアイデアを生み出すのに相応しい環境になっていなければ、アイデアが出てくることはないでしょう。そのことを、強く実感させてくれる作品でもありました。

また本書には、

【「制約」と「批判」は、革命の母です】

という記述があります。これも分かるなぁ、と感じます。「制約がある」ということが、アイデアを生み出す端緒になる、という経験は僕自身結構したし、「批判」を想定したり、実際に「批判」されることが、アイデアに繋がることもありました。そして「制約」と「批判」が革命の母だと気付かされたのも、テレビ東京のお陰だと著者は書きます。

王者には王者の戦い方があるでしょうが、世の中のほとんどの人は「王者側」には回れないでしょう。であれば、王者ではない戦い方を身に着けなければなりません。そういう意味で本書はうってつけの作品といえるでしょう。本書を読んで、身の丈にあった戦い方を学習しましょう。

高橋弘樹「1秒でつかむ「見たことないおもしろさ」で最後まで飽きさせない32の技術」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)