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天才 藤井聡太(中村徹+松本博文)

藤井聡太が凄い、ということはもちろん誰もが認めるところだろう。しかし、じゃあ「どう凄い」のかと聞かれると、なかなか答えるのが難しい。もちろん、「前人未到の様々な記録を作った」という客観的な事実はあって、その事実に対して「凄い」と形容することは出来る。ただ、それが「どのぐらい凄いことなのか」を理解することはなかなか難しい。

やはりそれは、現役の棋士たちに語ってもらうのが一番いいのだろう。というわけでまずは、本書に載っていた、多くの現役棋士たちが「藤井聡太」について語った言葉を引用してみようと思います。

【今回の(朝日杯での)優勝は、たとえるなら中学生が五輪の陸上100メートルで金メダルを獲ったようなものでしょう】(中村太地)

【天才という言葉を使わないで藤井君について説明するのは難しいと思います】(渡辺明)

【今まで中学生で棋士になった人は五人いますけど、さすがに14~15歳の時だと、詰みはすぐ見えるけど序盤は苦手、というように、ここはすごく強いけど、ここはまだ弱点、ここは荒削り、という部分が必ずあります。みんな弱い部分を持ちながら年齢や経験を積んで修正し、全体として強くなっていく。でも、彼の場合は現時点で足りていない部分、荒削りな部分が全く見えません。あの年齢でそのような将棋を指していることは驚くべきことだと思います。だから勝っているんでしょうけど…と言っちゃうと身も蓋もないですね(笑)】(羽生善治)

【私は、将棋界の王者の系譜というものがあると考えているんです。(中略)
羽生さんの後の王座に座る事になるのが藤井君だと私は見ています】(森下卓)

【最近では、(詰将棋の回答能力で)誰が追いつけるのだろうというレベルにまで行ってしまいました。今は多分、僕の三倍ぐらいのスピードで解いています。僕が二問目を解き終わったときに、彼は六問目を解いている、そんな速さです。僕も(詰将棋解答選手権で)優勝した経験はあるので、彼の実力は桁違いだと思っていただいて良いと思います。間違いなく日本一、世界一のスピードでしょう。しばらくは抜ける人がいるのかな、というレベルです】(斎藤慎太郎)

【今、将棋界に二人以上、大天才がいると思います。年長の羽生先生が有名であり、年下の藤井聡太さんが有名であり。そういう狭間の世代ですよね。狭間の世代でいられることは幸運だなと思います。羽生先生の棋譜も拝見することができますし、藤井聡太さんの棋譜も拝見することができるということで。この両方を勉強できるというのは恵まれている世代になっているんじゃないかなと思います】(永瀬拓矢)

【4四桂は、何分か考えれば浮かぶ可能性も十分にある一手だと思いますけど、7七同飛成は正直すごかったですね。考えても浮かばないかもしれないし、浮かんでもリスクが高すぎて実際には指せないかもしれない】(渡辺明)

【不思議なんですよ。まず四段になろうと思ったら最低限の定跡やセオリーを知っていないと話になりません。それらを全て身に付けるには結構時間がかかります。将棋には矢倉、角換わり、相掛かり、横歩取り、中飛車、四間飛車、三間飛車といった多くの戦型があり、それぞれでフォローしなくてはならない定跡が山ほどあります。それらをきちんと押さえるだけで20歳ぐらいになっていてもおかしくないものです。ところが藤井さんは14歳でほとんど全てに対応している。ものすごいことです】(羽生善治)

本書に登場する棋士たちも、ものすごい人たちなのだ。羽生善治は誰もが知る棋士だろうが、例えば、「羽生世代」と呼ばれる黄金世代の牙城を崩すべく奮闘しているその下の世代にいる渡辺明なんかが、「自分には思いつかなかったかもしれないし、思いついても指せなかったかもしれない」と発言しているのは、なかなか衝撃的だ。

他にも本書には、藤井聡太の凄さを表す様々なエピソード・形容が登場する。

【(朝日杯の準決勝で藤井聡太が羽生善治と対戦した時のこと)(羽生善治の)劣勢が明らかになってくると、かつて誰も見たことのない現象が起き始める。着手する羽生の手先が震え始めたのだ。通常は勝利を確信した時に見られるシーンが敗勢の局面で現れているのだ。焦燥なのか屈辱なのか、何らかの感情が指先に宿ったのは確かだった】

【将棋界では400年の歴史のうちに、数々の名勝負がおこなわれてきた。その中にあって、藤井聡太が公式戦新記録の29連勝目をかけた対局は世間の注目という点においては、400年史で最大の一局であったかもしれない】

【実は彼は対局後の会見でも、決して対局相手を褒めません。凄かったとか、強かったとは口にしない。まだまだ自分が至らなかったとか、もっと実力をつけます、と必ず自分の事を話すんです。勝負の世界で、相手を褒めたり過剰に尊敬していては絶対その相手には勝てません。これまで羽生さんの軍門に降ってきた若手たちはみんなそれでやられているんです。
藤井君のその受け答えはホトホト感心しますね。】

【デビューから一年半に満たない短期間で三回昇段する棋士は異例中の異例である】

さてそんな風に、400年の歴史の中でも圧倒的な天才の登場に、棋界は様々な反応を見せていくわけなのだけど、羽生善治と渡辺明が、藤井聡太に対して似たような見方(というか、留保)をしている点が面白いと感じた。

【20代も強い棋士がたくさんいるので全く予想出来ませんが、10代の若い人たちがたくさん台頭することになれば、ソフトの世代的な恩恵になるでしょう。そうでなければ、藤井さん本人の個人的なポテンシャルの証明とも思えます。三年ぐらいすれば、そのあたりもかなり明確になるのではないでしょうか?】(羽生善治)

【今、奨励会の2級から初段くらいに小学生がたくさんいるんです。過去にこんなことはありませんでした。もしかしたら、羽生世代が出現した時みたいに(革新的な)何かが起きている世代なのかもしれないし、ソフトの影響とかで単純に仕上がりが早くなっているだけかもしれない】(渡辺明)

渡辺明のその発言を受けて、著者はこうまとめる。

【次世代において、藤井は唯一無二の存在で在り続けるか、新たに勃興する集団の先頭者にすぎないか。まだ計りかねる部分があるという見解を示す】

この視点は、非常に面白いし重要だ、と感じました。

確かに、僕らにはまだ「藤井聡太」しか見えていないけど、実は「ソフトの恩恵を受けた世代」の先頭であるというだけで、今後藤井聡太レベルの若手が続々と出てくる可能性だってまだある、と言っているのだ。確かに、その可能性はまだ否定は出来ないだろう。仮にそうであったとしても、藤井聡太の凄さが揺らぐことはないのだけけど、藤井聡太が先頭者である、という場合、また将棋界が激変を迎えることになるだろう。ちょうど「羽生世代」が将棋の常識を一変させたように。そうなれば、また将棋が面白くなっていくだろう。そういう変化が起こるのであれば、僕自身は将棋には特に詳しくはないのだけど、生きている間にその変化を見たいものだと思う。

中村徹+松本博文「天才 藤井聡太」

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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
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5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
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12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
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コミック

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2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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2011年の個人的ベストです
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1位 「「科学的思考」のレッスン
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)