黒夜行

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abc予想入門(黒川重信+小山信也)

久々に、「何が書いてあるのかさっぱり分からない本」だった!(笑)
でも、分かったこともあった。
とりあえず、一番理解できたことは、「abc予想は、僕には理解不能である」ということです。

さて、本書の内容に入る前に、僕が「abc予想」というものをどのように知ったのか、という話から始めようと思います。

最初は確か、何かの記事をネットで見かけたんだったと思います。そこには、「宇宙際タイヒミュラー理論」という、謎めいた単語が踊っていました。ネット上の反応でも、「宇宙際タイヒミュラー理論って名前はかっこよすぎだろ!」みたいな反応があって、確かに僕も、このワードセンスはなんか凄いなぁ、と思って興味を持ったのでした。

で、この「宇宙際タイヒミュラー理論」というのが、2012年に京都大学の望月新一教授が自身のHPに発表した、「abc予想」への解答だったわけです。より正確に言えば、望月教授は、「abc予想」を証明するために、「宇宙際タイヒミュラー理論」という新たな理論を作り上げた、ということです。

そこから、「abc予想ってなんだ?」と思った僕は、ちょっと調べてみたんですけど、これがなかなか面白いんです。

一番凄いなと思ったエピソードが、2012年に望月教授が「宇宙際タイヒミュラー理論」を発表した当時は、世界でも数人しかその内容を理解できなかった、的なものです。もちろん、これがどこまで事実なのかは分かりませんが、もし本当だとすれば、世界中にいる、数学の天才中の天才でも、ほぼほぼ理解できない理論だった、ということになるわけです。これは凄いな、と思いました。僕がその「宇宙際タイヒミュラー理論」の話題を目にしたのは、確か2017年頃でしたが、その頃には世界中で500人ぐらい理解者がいる、という状況になっていたようです。

2012年に発表したものが何故2017年に話題になったのかというと、「宇宙際タイヒミュラー理論がどうやら正しいみたいだぞ」という憶測が出たからです。2012年に発表した時点では、まだ「望月教授による仮説」以上の何者でもありませんでした。数学や科学の論文などは、ここから第三者によるチェックを受けて、「正しい!」というお墨付きをもらうことで正式に認められるわけです。

で、そのチェックに5年近く掛かってるわけですね(とはいえこれは、数学や科学の世界では、ままあることだと思います)。で、そのチェックの感触から、「なんか正しいっぽい!」っていう感じになって、2017年に再び話題になったというわけです。

さて、「abc予想」について調べていく中で、もう一つ興味深いことを知りました。それは、「abc予想が正しいことが証明されれば、フェルマーの最終定理が10行くらいで証明できる」ということです。

「フェルマーの最終定理」というのは、恐らく数学の問題としては最も有名なものでしょう。300年近く前、フェルマーというアマチュア数学者(本業は法律家だったかな?)が遺した数多くの「予想」の中から、最後の最後まで正しいことが証明されないまま残ってしまった予想のことを「フェルマーの最終定理」と呼んでいたのでした。この予想は、1995年にイギリス人数学者のワイルズが証明し、一躍時の人となりました。しかしその論文は、500ページを超える膨大なもので、楕円関数という特殊な関数の知識をフル活用して成し遂げられました。

しかし、もし「abc予想」が正しいことが証明出来たら、「フェルマーの最終定理」はあっさり証明できてしまう、というのです。ネットで見たその10行の証明は、僕にも理解できるもので、僕はその記事を読んだ時、「abc予想が証明される前にフェルマーの最終定理を証明できて良かったね、ワイルズ」って思いました。

とはいえ、本書を読んだことで、僕のこの認識(の一部)は誤りであることが分かりました。その辺りのことは後で触れたいと思います。

さて、そんな風にして僕の目に飛び込んできた「宇宙際タイヒミュラー理論」と「abc予想」のことをもっと知りたい!と思ったんですけど、本としてまとまってるものがほぼない。唯一本書だけが出版されてたんですけど、既に品切れだったんですね。なので中古で買って読むことにしました。

しかしまあこれが難しい!始めの方はまだ読み進められましたけど、中盤から後半に掛けては、ほぼほぼ何を書いているんだかさっぱり理解できない、という感じでした。こんなに難しい本を読んだのは久々でした。これ、いくらサイエンス系とはいえ、新書で出す内容じゃないと思う…。

さて、本書を読んで僕が理解したことのいくつかについて触れてみたいと思います。

まずは、「abc予想」がどのようにして生まれたのか、ということです。ここには、「整数」と「多項式」の関係があります。

「整数」というのは分かるでしょうけど、「多項式」というのは聞き覚えのない人もいるかもです。僕も正確な定義は書けませんけど、要するに、

「x+1」「x^2(←これはxの2乗のこと)+a」「x^2+y^3/z^7」

みたいな、関数みたいなものだと思えばいいと思います(たぶん)。

で、昔から、「整数」と「多項式」の関係が研究されていました。「整数」で成り立つ理論が「多項式」でも成り立ったり、その逆もあったりするわけです。例えば、今「数論」(「整数」を扱う分野)において最も重要な「リーマン予想」と「ラングランズ予想」は、「多項式」の場合は既に証明済みなんだそうです。

で、元々は「多項式版abc予想」というものがあって、早い段階で解決されていました。それで、だったら同じことが「整数」でも成り立つんじゃないか、と考えられて「abc予想」が生まれた、ということのようです。

じゃあ「abc予想」ってどんなのなんだ?という話なんですけど、ここにはちょっとややこしい話が出てきます。これが、「abc予想が証明されればフェルマーの最終定理が10行で証明できる」という話と絡んでくるわけです。

まず、「多項式版abc予想」から導かれる「abc予想(願望)」を書いてみます。

【a,b,cを互いに素な整数でa+b=cを満たすものとすると、
max{|a|,|b|,|c|}<(rad(abc))
が成立する】

この「abc予想(願望)」というのは、(願望)と書いてあるだけあって、実際には成り立ちません。しかしそもそも、この式の意味が分からないでしょうから説明します。

まず【max{|a|,|b|,|c|}】というのは、「a,b,cの中で、絶対値が一番大きなもの」という意味です。「絶対値」というのは、「マイナスの数はプラスにして考える」みたいに思ってもらえればOKです。例えば、「a=3,b=-25,c=8」とすると、数字として一番大きいのは「8」ですが、絶対値というのはマイナスをプラスの数字だと思って考えるので、このa,b,cにおいて【max{|a|,|b|,|c|}】を考えると、|b|=25となるわけです。

今度は【rad(abc)】についてです。こっちはちょっと説明しにくいんですけど、「rad」というのが「a,b,cの素因子の積」となります。

具体例で説明しましょう。
「a=8,b=6,c=15」とします(今、a+b=cという条件は無視しています)。それぞれ因数分解すると、「8=2×2×2」、「6=2×3」、「15=3×5」となります。つまり、この三つの数a,b,cに使われている「素因子」は、「2」「3」「5」ということになります。なので、これら三つの数を掛け算して、rad(abc)=30となるわけです。

もう一つ、別の例です。
「a=30,b=14,c=1」としましょう。これも素因数分解すると、「30=2×3×5」、「14=2×7」なので、「素因子」は「2」「3」「5」「7」。よって掛け合わせると、rad(abc)は210となります。

これで大体、【max{|a|,|b|,|c|}<(rad(abc))】の意味は理解できると思います。

ただ残念ながら、この「abc予想(願望)」は、実際には成り立たないわけです。そこで今度は、「abc予想(たぶん成り立つだろう)」(本書では実際は、「abc予想」(☆)と表記されています)が考えられました。それがこちら。

【a,b,cを互いに素な整数でa+b=cを満たすものとすると、
max{|a|,|b|,|c|}<(rad(abc))^2
が成立する】

先程説明したように、「^2」は「2乗」を表します。「a=8,b=6,c=15」の例では、rad(abc)は30だったので、(rad(abc))^2は30×30=900となります。

この「abc予想(たぶん成り立つだろう)」は、恐らく正しいと思われているんですが、実は望月教授が証明したと主張しているのはこれではありません。それでは、望月教授が証明したと主張している「abc予想(望月教授)」を書きましょう。

【任意のε>0に対して、ある正の定数K(ε)≧1が存在して、次を満たす:
a,b,cを互いに素な整数でa+b=cを満たすならば、不等式、
max{|a|,|b|,|c|}< K(ε) (rad(abc))^1+ε
が成立する】

こうなってくるともう何がなんだか分かんないって感じで、僕も正確に理解できているわけではないんですけど、式を見れば分かる通り、「abc予想(望月教授)」で、K(ε)=1、ε=1とすると、「abc予想(たぶん成り立つだろう)」になります。

さて、「フェルマーの最終定理」との関係はここからです。「abc予想が証明されればフェルマーの最終定理が10行で証明できる」と言う時の「abc予想」というのは、「abc予想(たぶん成り立つだろう)」のことです。もし、「abc予想(望月教授)」が証明されることで、「abc予想(たぶん成り立つだろう)」が証明されるのであれば、「abc予想が証明されればフェルマーの最終定理が10行で証明できる」という主張は正しいことになります。

しかし、そうは行かないのです。仮に「abc予想(望月教授)」が正しいと証明されても、「abc予想(たぶん成り立つだろう)」が正しいことにはならないのです。

何故か。

「abc予想(たぶん成り立つだろう)」は、「abc予想(望月教授)」における「K(ε)=1、ε=1」の場合の表現です。しかし望月教授は、論文の中で、「εが1の時、K(ε)の値が1になる」ということを示していないわけです。というか、論文の中でK(ε)に明確な値を与えていないので、仮に「abc予想(望月教授)」が証明されても、「abc予想(たぶん成り立つだろう)」が証明されたことにならず、つまり「abc予想が証明されればフェルマーの最終定理が10行で証明できる」という状況にもならない、ということなのです。

意味分かりましたでしょうか?

まあそんなわけで、僕が本書を読んで理解できたのはここまでです。これ以上のことはさっぱり分かりませんでした。いやー、ハイパー難しかったなぁ。「abc予想」のもう少し易しい解説書が出てくれることを祈るばかりである。

黒川重信+小山信也「abc予想入門」

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