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さよならの夜食カフェ マカン・マラン おしまい(古内一絵)

内容に入ろうと思います。
本書は「マカン・マラン」シリーズの4作目です。実はシリーズ作だと気付かずに4作目だけ読みました。読んでいく中で、なるほどきっとこの人はレギュラーの登場人物で、きっと前の巻でなんかあったんだろうな、と思うことが度々あって、案外順番通り読まなくても面白く読めるんじゃないかと思います。

先にざっと大まかな舞台設定を。
「マカン・マラン」というのは、不定期に夜だけ営業しているカフェ。昼間、ダンスファッションの専門店をやっているシャールという「おかま」(本人は“ドラァグクイーン”と称している)が、お針子さんたちの賄いとして始めたものがスタートだ。そこには、シャールとかつて同級生だった理科教師や、元ヤンキーのおかま、ライターや翻訳者や料理人など、様々な縁を得て引き寄せられてきた人々が集う。
そんな「マカン・マラン」にまた一人、また一人と、何かを抱えた人が引き寄せられていく。

「さくらんぼティラミスのエール」
秋元希美は、幼い頃に母を喪い、父と二人暮らし。亡き母が少女時代に憧れていた、この界隈では“お嬢様”が通う女子校に編入し、友達も出来た。ビーズ細工が好きな希美は、近くのビーズ専門店で買ってきたビーズで色んなものを作り、友達にあげていたが、最近その友達との関係が微妙になっているように感じている。理由は、希美にはよく分からない。日々の鬱憤はインスタに吐き出しながら、今日もビーズと戯れるが、ある日いつものビーズ専門店でちょっとやらかしてしまった。見慣れぬ男の人に「誘われている」と思い込み、ビーズをぶちまけたまま立ち去ってしまったのだ。また別のある日、とある理由で消沈している希美は、色んなことが嫌になって捨てたビーズ細工を拾い、褒めてくれた男性についていくことになったが…。

「幻惑のキャロットケーキ」
料亭「ASHIZAWA」の若きオーナーシェフである芦沢庸介は、4年連続世界一のレストランの称号を得た、サンパウロの「ジパング」で修行したことがあり、その経歴を引っさげて東京で華々しく成功しようとしている。インフルエンサーを招待したクラウドファンディング形式のパーティを頻繁に行い、また見た目もいい庸介がテレビなどに積極的に出演することで、常に予約で一杯という状態を維持出来ている。「体験を与えること」を何よりも大事だと考え、無理をしてでも走り続けた。
しかし、SNSでの不注意な発言と、テレビでの不運が重なり、「ASHIZAWA」は窮地に追い込まれることになる。そんな時、思い出したのが、同じく「ジパング」で修行をした香坂省吾だ。久々に会いに行くと、「開いてるかどうか分からないカフェ」に行こうと誘われ…。

「追憶のたまごスープ」
平川更紗は、投資会社の経営者の妻という「トロフィーワイフ」に収まるという“セレブ婚”を勝ち取った。容姿と大きな胸に恵まれていた更紗は、読者モデルからグラビアアイドルになり、そこからタワーマンションに住む生活へとステップアップした。自分は無事「ゴール」したのだし、満足なはずだ。しかし結局、同じマンションに住む暇なマダムたちと、くだらない会話と気を使う人間関係に明け暮れている。私はこんな人生を望んでいたんだろうか?
夫は2度の離婚歴があり、子どもは4人いる。「25歳を過ぎたら、女は終わりだな」という夫の言葉を結婚前に聞いた20歳の更紗は、自分が25歳を超えるなんて想像出来なかった。
夫には、女の影がある。気づいてはいるけど、何か出来ることがあるわけではない。
そんな時に思い出したのが、小学校からの友人であり、今では疎遠になっているノブちゃんだ…。

「旅立ちのガレット・デ・ロワ」
シャールは年の瀬が迫った街を歩いている。美しくて可愛いものが好きな自分は、しかし普通にしていれば長身の男だ。子どもの頃から、女の子らしいものに憧れながら、そういうものを好きでいてはいけないのだと理解していた。証券会社で働くようになって、自分の衝動は押し殺せていたつもりだったが、大病を患ったことで吹っ切れた。誰もが、女装したシャールを見ると驚き、目を反らすが、そんな視線にももう慣れた。
たった一人で始めた店に、こんなにたくさんの人が集まるなんて想像も出来なかった。自分が生きていてもいい、と思えるような経験が少しでもあったから自分もこうして生きていられるし、そういう感覚を与えられる場が作れているなら素敵だと思う。
イベント事は、節操がなくても楽しむ主義。年の瀬は色々イベントが目白押しだ。そんな中、元ヤンキーのジャガが、「シャールが美男子と会っていた」とわめいている。どうやら嫉妬しているらしいが、シャールは、「みんなが知ってる人だよ」とたしなめる…。

というような話です。

なかなか面白い作品でした。僕は料理にはまるで興味がないので、料理を作ってたり食べてたりするシーンは割とすっ飛ばしちゃうんだけど(読んでもイメージできないから)、「マカン・マラン」を中心とした人間関係はとてもいいなと思いました。

僕がいつも感じていることは、「どんな立場の人だって、悩んでいることがある」ということだ。悩みが外側に伝わりやすい人と伝わりにくい人というのはいる。例えば、例としては不適切かもしれないけど、身体的な障害のある人は、悩みが伝わりやすい人と言えるだろう(何故不適切かと言えば、障害があるからといって必ずしも悩みがあるとは限らないからだ)。逆に言えば、美しい女性とか、大金持ちとか、そういう恵まれているように見える人は、悩みが伝わりにくい人だと感じる。

このシリーズを4作目しか読んでいないのでなんとも言えないけど、本作だけ読んだ限りでは、物語の登場人物たちは比較的「悩みが外側に伝わりにくい人」なんだろうと思う。秋川希美は、母親を亡くして父子家庭だが、容姿は整っていて羨ましがられるレベル。芦沢庸介も成功者の仲間入りを果たそうとしているし、平川更紗は分かりやすい成功を掴んだ女性と見られるだろう。

しかしどんな立場の人にも、その立場なりの悩みがある。それを丁寧に描き出しながら、対極的に、その悩みを吐き出したり解消したりする相手は、悩みが伝わりやすいだろうシャールだ。いや、シャールは既に突き抜けているので、シャール自身には悩みはないと言っていいかもしれない(もちろんまったくないわけではないが)。そんな、「悩みがなさそうなのに実際は深く悩んでいる人」が、「悩みがありそうなのに実際はそこまで悩んでいない人」に癒やされる、という構図なのかなぁ、という感じがしました。

僕も昔は、頭がグルグルするほど悩みまくったことがあったけど、悩んでいる時というのは、世界中で自分が一番不幸であるかのように感じられるものだ。自分より不幸な人間なんて山程いる、というのは、冷静な時であれば容易に想像が出来るのだけど、いざ自分が悩みの渦の中でグルグルしている時には、そんなことにも気づけなくなっている。そこから自力で抜け出すのは、本当に大変だ。そういう時、シャールみたいな存在がいると、凄く心強いだろうなぁ、と思う。

日本は昔からだけど、今世界全体を見ても、「違い」を許容できない風潮が加速しているように思える。トランプ大統領がその引き金を引いたのか、それとももっと何か原因があるのかは分からないけど、人種や国境など何らかの形で線引をし、その内側と外側を明確に区別することで力を得ようとする動きが頻発しているように思う。またSNSの発達により、自分が抱いている考えや価値観がどれほど少数派・異端であっても、共鳴する人を簡単に見つけ出せるし、共鳴できる人だけと関わる環境を容易に作り出せるから、その考え・価値観がすべてであるような錯覚に陥りやすい時代にもなっている。そういう社会は、非常に小さなまとまりに分断しながら、同時に多様性は許容しないという、非常に窮屈なものになっていくと僕は考えている。

個人的には、多様性を許容することが自由の本質だ、と考えている。自分自身が自由であるためには、ある一定以上のレベルまで自分と異なる価値観を許容しなければならないと思う。僕は、自分がそんな風に振る舞えるよう、普段から意識しているつもりだけど、正直、結構意識しなければ取り込まれてしまうぐらい、世の中の圧力が強くなっているようにも感じている。嫌だなぁ。

「マカン・マラン」の凄いところは、異なる価値観を持った人間が狭い空間の中に共存し、多様性が確保されていることだ。僕にとっては、とても理想的な環境だ。こういう場所はきっと、世の中にもひっそり存在しているだろうけど、ネットの検索やSNSなんかからじゃたぶんたどり着けない。そうやって、簡単には見つからない場所にひっそりと存在する以外に、こういう多様性が許容されないとしたら、それは凄く哀しいことだよなぁ、なんて本書を読みながら考えていた。

古内一絵「さよならの夜食カフェ マカン・マラン おしまい」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
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4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
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10位 原田マハ「キネマの神様
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)