黒夜行

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女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?(村松秀)

なるほど、こんな番組があることは知らなかったし、っていうか凄すぎる!

何が凄いかって、「大学進学を考えているわけではない中高生アイドル」が、「現役東大生」や「現役京大生」に勝ってしまっているのだ。
しかも、「体力」とか「画力」などの勝負ではなく、純粋に「知力」の勝負でだ。
これはとんでもなく凄いことだし、何故そんなことになったのか説明したくもなるだろう。
というのが本書の誕生した理由である。

さてでは、中高生アイドルが現役東大生に勝ったバトルの話を書こう。本書では、これが冒頭に書かれている。

アイドル(彼女たちは番組名から「すイエんサーガールズ」と呼ばれている)チームと東大生チームは、それぞれ3人ずつで、ある課題を与えられる。初回のバトル(実は、東大・京大のみならず色んな大学でバトルしている)の課題は「ペーパーブリッジ対決」。これは、A4の紙15枚を使って、「橋」状の構造物を作り(他に使えるのは、ハサミとスティックのりのみ)、その橋におもりを載せた時、より重いおもりに耐えられた方の勝ち、というものだ。

紙は、切っても折っても丸めても何をしてもいい。15枚の紙をどんな風に使ってもいい。とにかく、ルールの範囲内で、より重いおもりに耐えられた方が勝ち、というものである。

どうだろうか、結構「ガチンコ」な勝負だと感じないだろうか?そう、なかなかガチンコの勝負なのだ。もちろん、スマホなどは使えないし、チームメンバー以外の人間に頼ったりも出来ない(実は、すイエんサーガールズの方にだけヒント的なものが用意されていたようなのだが、ヒントを提示するよりも前に、東大生チームを凌ぐ構造物を作り上げていたので無意味だった、という記述がある)。

さて、あなただったらどんな構造物を作るだろうか?

この対決ですイエんサーガールズたちは、東大生チームの3倍以上のおもりに耐える構造物を作るという、圧勝だったのだ。「すイエんサー」のスタッフたちは当初、東大生たちの胸を借りるつもりで、つまり、当然東大生たちが勝つだろう、と考えていたのだが、誰もが予想しなかった、すイエんサーガールズの圧勝という結果になったのだ。

その後も東大生チームとは対戦し、最終戦績は2勝1敗。なんと勝ち越しているのだ!これで、すイエんサーガールズたちの「知力」がまぐれではないことが証明された。その後も、北海道大学や東北大学などと計9回のバトルをし、5勝4敗とすイエんサーガールズは勝ち越しているのだ。

もう一度言うが、ティーン誌のモデルを務めるすイエんサーガールズたちは、いわゆる学校のお勉強が得意なタイプではない。しかしそれでも、「はっきりとした答えがあるわけではない課題」において抜群の強さを発揮したのは何故なのか?

その理由が、「すイエんサー」という科学(?)番組にある(「科学」の後の「?」は、著者が意識してつけているものであり、僕も追従することにする)。すイエんサーガールズたちが出演しているこの番組は、普通の科学番組ではない。

すイエんサーガールズたちは収録の日、打ち合わせを一切しないまま集められる。当然、彼女たち用の台本も存在しない。そしていきなり、科学なのか?と思えるような課題を与えられるのだ。

課題の例は、こんな感じだ。

・バースデーケーキのロウソクの火を一息だけで消したい!
・パスタを食べるときにソースの飛び跳ねをなくしたい!
・あっち向いてホイで絶対に勝ちたい!
・超カンタンに足を速くしたい!
・スイカの種がまったく入らないようにカットしたい!
・茶柱を立てたい!

すイエんサーガールズたちはこれらの課題に対して、全力でぶつかる。番組に関わる大人たちは、彼女たちにまともな形でヒントや答えを出さない。すイエんサーガールズたちは、あーでもないこーでもないと、自分の頭で必死に考えなければいけないのだ。なんとこの収録、彼女たちが自力で答えに辿り着くまで終わらないという。番組の途中で、「これは一体なんの関係があるんだ?」というようなシュールな展開が繰り広げられる。例えば、「バースデーケーキのロウソクの火を一息だけで消したい!」の回では、体育館で突然ゾンビに追いかけ回されるのだ。意味が分からない。しかしこれが、一応ヒントになっている。そうやって、分かるんだか分からないようなヒントを与えられながら、彼女たちはひたすら考えて答えに辿り着くのだ。

この一連の行動を、本書では「グルグル思考」と読んでいる。

すイエんサーガールズたちは、番組を通じて普段からこの「グルグル思考」を続けていた。「答えがあるのかどうかもよく分からない」「どこから考えたらいいのかも分からない」ような、それでいて日常的で割とみんなが興味を持てるような課題に対して、色んな方向から突っついてみるのだ。そしてこの「グルグル思考」こそが、東大生や京大生を打ち倒した原動力である、と本書では考えるのだ。

というわけで本書では、これまで番組で取り上げた課題から19本をセレクトし、それらを紹介しながら、「グルグル思考」の7つの要素について説明していく。

という本なのだけど、肝心のその7つの要素の説明は、正直そこまで面白くなかった。

面白くないと感じた理由は2つある。

一つ目は、本書に責任はない。僕の問題だ。本書で描かれていることが、なんとなく自分では理解できているし、なんとなく日常的に実践していることだからだ。全部理解できているとは言わないし、全部実践できているとも言わないけど、概ね僕は、本書で描かれているような思考法を日常的に意識して出来ているように思う。僕の場合は、科学的な実験ではなくて、本をどう売るのかというアイデアとして考えるわけだけど、本書で言う「グルグル思考」みたいなものを自分の脳内でやっているようなイメージはある。それが出来るように、自分の頭の中を常に混沌とさせておく必要性についても感じているし、そういう環境を継続して作り出せるように意識しているつもりだ。だから、本書に新鮮味を感じなかった、ということがある。

そしてもう一つは、本書の「7つの力」の分け方が、雑というか、ちょっとそれは無理があるんじゃないかなぁ、というようなものだったからだ。つまらなかった理由は、こちらの方が大きいと思う。

7つの力を書くとこうなる

・疑う力
・ずらす力
・つなげる力
・寄り道する力
・あさっての方向を向く力
・広げる力
・笑う力

この内、「疑う力」と「つなげる力」は分かる。でも、「ずらす力」は、本書の説明を読むと(著者自身も書いていたと思うけど)「疑う力」と「つなげる力」の中に含めることが出来そうだし、後の4つの力については、ちょっと無理がある。「寄り道する力」というのは、「すイエんサー」の番組内で、課題とは関係のないことをしてみることから話を展開していて、汎用性がない。「課題を一旦忘れてみる」というくくりであれば、「寄り道する力」と「あさっての方向を向く力」を一緒にして、もう少し汎用性のある感じにしたらいいように思う。「広げる力」は、これも著者自身が書いていることだけど、「課題解決」のための力ではない。他の6つの力が、説明はともかく曲がりなりにも「課題解決」のための力であるのに対して、「広げる力」は「課題を解決した後」に必要となる力だ。別にそれについて触れてもいいけど、他の6つの力と同列に扱っていることに違和感があった。最後の「笑う力」については、ちょっと無理やりというか、これは無理でしょって感じで、これが7つの力の中に入っている意味が正直良くわからないなぁ、という感じだった。

そんなわけで、この7つの力の説明が、僕としてはあまりしっくり来なかったので、うまく本書を受け入れることが出来なかった。もう少し違う風に書けるんじゃないかなぁ、という気もしたんだけど、本書を中高生向けに書いているのだとしたら、まあ仕方ないのかもしれないなぁ、という気がする。ただ、この「すイエんサー」という番組は、著者曰く子どもを持つ親世代にも認知度は高いようだし、講談社現代新書から出版されていることから考えても、本書は「親向け」に書かれているのだと僕は感じる。だとすると、ちょっと今ひとつかなぁ、と感じられてしまう。

しかし、本書で扱われている、東大生や京大生とのバトルは素晴らしいし、すイエんサーガールズたちが身につけている「グルグル思考」も最高だと思う。実際「すイエんサー」流の学習法は、教育現場でも注目されているらしく、著者も方方で講演の声が掛かるのだという(言うのを忘れていたが、本書の著者は「すイエんサー」のプロデューサーだ)。「正解」を「暗記」するような勉強法が社会で有用さをはっきりする時代もきっとあっただろう。しかし、時代は大きく変わってしまった。現代は、「あるかどうかも分からない正解」を「試行錯誤によって探す過程」に力を発揮できる人が強みを発揮できるのだと思う。とにかく考えてトライしてみる、繰り返し試してみることで気付きを得る。そういう中で、「知識」や「計算力」ではたどり着けないような発想を得る。そういう訓練は、これから益々必要とされるだろう。

「すイエんサー」は別に、東大生に勝とうと思って企画された番組ではない。日々の疑問を、ユルく楽しく解決していく科学(?)番組でしかない。しかしそれによって、「グルグル思考」の有用さを図らずも証明できてしまった!これを活かさない手はない、と感じました。

村松秀「女子高生アイドルは、なぜ東大生に知力で勝てたのか?」

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2013年の個人的ベストです。

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6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
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1位 千早茜「からまる
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5位 百田尚樹「錨を上げよ
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)