トップリーグ(相場英雄)
これは面白かったなぁ。
内容に入ろうと思います。
大和新聞の経済部所属の松岡直樹は、長年財務省の記者クラブである財政研究会への異動を希望していたが、突如政治部に異動させられることとなった。何でも大手新聞社が早期退職者募ったことで記者が足りなくなり、他社からかき集めたことで色んな不都合が生じているという。1年で経済部に戻すと言われ、松岡は仕方なく政治部記者として働くことになった。
まったく異質な環境で、仕事の流れも分からないままだったが、初日から、二人いるキャップを差し置いて、部長が強大な権力を行使している場面を見て驚いた。他の部署では、まずあり得ない光景だからだ。その阿久津部長は、「もっと癒着しろ。ネタさえ出せば、周囲にとやかく言われようが一切問題はない」と二人に発破を掛けていた。
そんな松岡は、総理番と呼ばれる、一日中総理の動向について回る仕事をすることになったが、その過程で、ひょんなことから、官房長官の阪義家に気に入られたようで、一部の記者しか参加が許されない「懇談」と呼ばれる場に参加が認められ、あまつさえ、阪から個人的に呼び出され、バーで話をする機会さえあった。松岡は、理由は判然としないが、いきなりトップリーグ(政治家に深くまで食い込んだ記者)入りを果たしたのだ。
一方、スクープやスキャンダルを得意とする週刊誌「週刊新時代」の記者である酒井祐治は今、他の記者がほとんど注目していない事件を追いかけていた。それは、東京オリンピック関連施設の建設地から、現金1億5000万円の入った金庫が見つかった、というものだ。酒井は、旧知の警察関係者から情報を引き出し、その金庫に入っていたのが「聖徳太子の
1万円札の束」だったこと、そして「日本不動産信用銀行(日不銀)の帯封」がついていたことを突き止めた。彼は日不銀の黒い噂を知っていた。だからこそ、これは突っ込んでみるべきネタだと判断し、取材を続けた。
すると取材の過程で、とんでもない話が飛び出してきた。もしかしたらあの金庫の金は、昭和50年代前半に日本の政財界を揺るがした一大疑獄である「クラスター事件」に関わるお金かもしれない。そうだとしたら、今の芦原恒三内閣は、確実に吹っ飛ぶ…。
というような話です。
これは面白い作品でした。扱っているテーマも面白いし、構成も良い。2017年に雑誌連載されていた作品で、その当時の世相みたいなものも結構反映されているんだと思う。政治に疎い僕でも、この人とこの人は実在のあの人だな、と分かる程度に現実をうまく小説の中に取り込んでいて、よく出来てると思いました。
まず、政治記者の日常みたいなものが面白かったです。普段ニュースなんかで見るような言葉や言い回しにどんな意味があるのか(例えば、「政府首脳」というのは官房長官のことだそうです)
や、何が重要なのか(関係者の車のナンバーを記憶するのは絶対だそうです)、どんな仕事をしているのか(総理番は一日中総理に張り付いているなど)などなど、知らなかったような生態(なんて言い方はおかしいかもですけど)を知ることが出来ました。
さらに、「トップリーグ」という、政治家たちに食い込んだ記者の存在も面白いと思いました。もちろん本書は小説で、どこまで現実を引き写しているのかの判断は出来ないけど、こういう存在は実際にいるんだろうし、そんな風にして政治の報道が出来上がっていくんだなぁ、というのが面白いと思いました。
官房長官のトップリーグに上り詰め、一気に安定したネタを引っ張ってこれるようになった松岡と違って、酒井の方は週刊誌らしい泥臭い取材をひたすらやっている。その対比もいいなと思います。実は松岡と酒井は大和新聞の同期だったのだけど、色々あって酒井が大和新聞から週刊誌に移ってしまった。でも二人には浅からぬ関係があったり、色々と絡みがあったりして、特に後半、二人の関わり合いが重要になって来ます。
そして、酒井が追っているネタもまた面白いんですね。1億5000万円が入った金庫が、しかもオリンピック関連施設の建設中に出てくる、という導入はうまいと思ったし、そこからクラスター事件に繋げていく過程、それから丹念な取材で真相を解き明かしていく流れなんかは面白く読めました。松岡と酒井の物語が途中で交わる展開も自然だし、松岡や酒井が直面するなかなかしんどい現実は、彼らが追っていたネタを勘案すればあり得ることだろうなぁ、と思ったりもします。特に最後、松岡が直面させられる究極の選択は、提示した側の老獪さが見事だな、と感じたりもしました。
ただ、一点だけ不満があります。それは、最後の最後の終わらせ方です。僕としては、ちゃんと決着をつけて欲しかった。この終わらせ方は、ちょっとナシだなぁ、と思ってしまいました。どういう決着をするかによって、松岡という人物像が決するわけだから、決着させないという終わらせ方は個人的にはちょっと無いなぁ、と思ってしまいました。まあ、「ある程度予想出来るっしょ」という感じで提示しているんだと思うんだけど、そこは確定させて欲しかったです。その点を除けば、個人的にはかなり良い作品だったんだけどなぁ。
最後の最後だけ不満がありましたけど、全体的にはメチャクチャ面白い作品でした。
相場英雄「トップリーグ」
内容に入ろうと思います。
大和新聞の経済部所属の松岡直樹は、長年財務省の記者クラブである財政研究会への異動を希望していたが、突如政治部に異動させられることとなった。何でも大手新聞社が早期退職者募ったことで記者が足りなくなり、他社からかき集めたことで色んな不都合が生じているという。1年で経済部に戻すと言われ、松岡は仕方なく政治部記者として働くことになった。
まったく異質な環境で、仕事の流れも分からないままだったが、初日から、二人いるキャップを差し置いて、部長が強大な権力を行使している場面を見て驚いた。他の部署では、まずあり得ない光景だからだ。その阿久津部長は、「もっと癒着しろ。ネタさえ出せば、周囲にとやかく言われようが一切問題はない」と二人に発破を掛けていた。
そんな松岡は、総理番と呼ばれる、一日中総理の動向について回る仕事をすることになったが、その過程で、ひょんなことから、官房長官の阪義家に気に入られたようで、一部の記者しか参加が許されない「懇談」と呼ばれる場に参加が認められ、あまつさえ、阪から個人的に呼び出され、バーで話をする機会さえあった。松岡は、理由は判然としないが、いきなりトップリーグ(政治家に深くまで食い込んだ記者)入りを果たしたのだ。
一方、スクープやスキャンダルを得意とする週刊誌「週刊新時代」の記者である酒井祐治は今、他の記者がほとんど注目していない事件を追いかけていた。それは、東京オリンピック関連施設の建設地から、現金1億5000万円の入った金庫が見つかった、というものだ。酒井は、旧知の警察関係者から情報を引き出し、その金庫に入っていたのが「聖徳太子の
1万円札の束」だったこと、そして「日本不動産信用銀行(日不銀)の帯封」がついていたことを突き止めた。彼は日不銀の黒い噂を知っていた。だからこそ、これは突っ込んでみるべきネタだと判断し、取材を続けた。
すると取材の過程で、とんでもない話が飛び出してきた。もしかしたらあの金庫の金は、昭和50年代前半に日本の政財界を揺るがした一大疑獄である「クラスター事件」に関わるお金かもしれない。そうだとしたら、今の芦原恒三内閣は、確実に吹っ飛ぶ…。
というような話です。
これは面白い作品でした。扱っているテーマも面白いし、構成も良い。2017年に雑誌連載されていた作品で、その当時の世相みたいなものも結構反映されているんだと思う。政治に疎い僕でも、この人とこの人は実在のあの人だな、と分かる程度に現実をうまく小説の中に取り込んでいて、よく出来てると思いました。
まず、政治記者の日常みたいなものが面白かったです。普段ニュースなんかで見るような言葉や言い回しにどんな意味があるのか(例えば、「政府首脳」というのは官房長官のことだそうです)
や、何が重要なのか(関係者の車のナンバーを記憶するのは絶対だそうです)、どんな仕事をしているのか(総理番は一日中総理に張り付いているなど)などなど、知らなかったような生態(なんて言い方はおかしいかもですけど)を知ることが出来ました。
さらに、「トップリーグ」という、政治家たちに食い込んだ記者の存在も面白いと思いました。もちろん本書は小説で、どこまで現実を引き写しているのかの判断は出来ないけど、こういう存在は実際にいるんだろうし、そんな風にして政治の報道が出来上がっていくんだなぁ、というのが面白いと思いました。
官房長官のトップリーグに上り詰め、一気に安定したネタを引っ張ってこれるようになった松岡と違って、酒井の方は週刊誌らしい泥臭い取材をひたすらやっている。その対比もいいなと思います。実は松岡と酒井は大和新聞の同期だったのだけど、色々あって酒井が大和新聞から週刊誌に移ってしまった。でも二人には浅からぬ関係があったり、色々と絡みがあったりして、特に後半、二人の関わり合いが重要になって来ます。
そして、酒井が追っているネタもまた面白いんですね。1億5000万円が入った金庫が、しかもオリンピック関連施設の建設中に出てくる、という導入はうまいと思ったし、そこからクラスター事件に繋げていく過程、それから丹念な取材で真相を解き明かしていく流れなんかは面白く読めました。松岡と酒井の物語が途中で交わる展開も自然だし、松岡や酒井が直面するなかなかしんどい現実は、彼らが追っていたネタを勘案すればあり得ることだろうなぁ、と思ったりもします。特に最後、松岡が直面させられる究極の選択は、提示した側の老獪さが見事だな、と感じたりもしました。
ただ、一点だけ不満があります。それは、最後の最後の終わらせ方です。僕としては、ちゃんと決着をつけて欲しかった。この終わらせ方は、ちょっとナシだなぁ、と思ってしまいました。どういう決着をするかによって、松岡という人物像が決するわけだから、決着させないという終わらせ方は個人的にはちょっと無いなぁ、と思ってしまいました。まあ、「ある程度予想出来るっしょ」という感じで提示しているんだと思うんだけど、そこは確定させて欲しかったです。その点を除けば、個人的にはかなり良い作品だったんだけどなぁ。
最後の最後だけ不満がありましたけど、全体的にはメチャクチャ面白い作品でした。
相場英雄「トップリーグ」
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