あの頃、君を追いかけた(九把刀)
普段なら、たぶん読まない小説だろうなぁ、と思う。
読み終えた今も、やっぱりそう思う。
いや、別に作品が悪かったとか、つまらなかったとか、そういう話じゃない。
ただ、好んで読むタイプの小説ではなかった、ということだ。
僕は、乃木坂46の齋藤飛鳥が好きで、その齋藤飛鳥が主演を務めた同名の映画を見た。というか、映画を見てから小説を読もう、と思っていた。映画は、主演の齋藤飛鳥と、ヒロインの早瀬真愛のキャラクターが非常にフィットしていて楽しんで見ることが出来た。
その映画は、台湾で大ヒットを記録した映画のリメイク作であり、そしてその台湾で作られた本家の映画の原作が、本書の台湾語版というわけである。映画の監督も、この著者が務めている。台湾では、10人に1人が見たと言われるほどの空前の大ヒットだったという。二本に置き換えると、1000万人が見た、というようなレベルか。恐らく「君の名は」でも、そこまでは行ってないだろう。
本書はまた、著者の実話をベースにしているという。というか、結構変わった構成の作品で、「現在の著者自身の文章」というのが、小説の合間合間に挿入されるのだ。現在の「九把刀」が、当時の自分たちの記憶を振り返ったり、あるいは当時の仲間たちの最新情報を書いたりしている。うまく説明出来ないが、なかなか見たことがない構成の作品だ。これも、「後に小説家となった著者自身の過去の体験をベースにしている」からこそのものだろう。
本書の執筆には、相当の時間が掛かったという(という話も、あとがきとかではなく、小説内に書かれているのだ)。著者はネット小説出身で、書くのが早いようで、既に79作品も出版しているという。大体20年ぐらいで80作品と考えると、年間4作品ペースだ。結構な量産型だと言えるだろう。
その著者が、この作品には相当時間が掛かったという。理由はこうだ。
【しかし、この青春ドキュメンタリーは、リアリティのある空気で満たしたいがために、結末の決定打に欠けておち、このストーリーに「どのように呼吸させるのか」が俺は分からず、筆が遅々として進まなかった】
著者は、たくさん小説を書く中で、「こんな風に展開して、こんな風に伏線を置いていけばラストでうまくまとまる」という感覚がかなり身についたという。そして、そういう判断をベースにした時、実話を基にしたこの作品は、ラストのまとめ方に欠けていたというのだ。リアリティを何よりも重視しているから、嘘のエンディングにはしたくなかったのだろう。しかし、じゃあどこに落とし所を見い出せばいいのかは見えていなかった。そんな著者が、ダラダラと長い年月を掛けて書き続けてきた小説がようやくエンディングを迎えたのは、この小説のラストでもあるとある出来事が起こったからだ。それが何なのかは、是非読んでみて欲しい。
とりあえず、内容をざっと書いておこう。
柯景騰(コーチントン)は、彰化誠中学に通う男子生徒で、おふざけとマンガが得意な問題児。学校で問題行動を起こすブラックリストに常に載っていて、同じくブラックリスト入りしている仲間たちと、アホみたいなことをして過ごしている。もちろん、勉強は苦手。
ある日担任の教師から、「柯景騰は沈佳儀の前に座るように」と言われる。沈佳儀は、クラス一の優等生で、勉強ができて、人気もあって、女子が嫉妬を抱きようがないほどの女の子だ。しかし柯景騰は、フザケ倒している日々の言動を「幼稚」と言われるため、彼女のことを「天敵」と考えている。
しかし、突然クラス分けがあることが発表され、それに伴って勉強せざるを得ない状況が生まれた。というか、何故か沈佳儀が柯景騰に無理やり勉強させようとするのだ。彼女は毎朝早くから学校に来て一人で勉強しているのだが、彼も同じように勉強することになった。そして次第に、彼女に惹かれている自分に気づき、しかし、勉強以外にまったく興味がなさそうな彼女の迷惑にならぬよう、「一番仲の良い友だち」という役回りを完璧にこなすための作戦を日々練り続けることとなった。
その後、同じ高校に進学したが、文系と理系で分かれてしまい、普段の関わりはあまりない。それでも、猛勉強の末成績優秀者となっていた柯景騰は、沈佳儀とテストで勝負することに。そんな風にして、また少しずつ関わりを持つようになっていくが…。
というような話です。
先に見ていた映画と比べると、結構違う部分もあるな、と思いました。どう違うのか、ということはここでは触れないようにするけど、一番違うかな、と思ったのが沈佳儀のキャラクターでした。この原作に結構忠実に台湾版の映画が作られているとしたら(著者と監督が同じだからその可能性が高いと思うけど)、日本版の映画のヒロインは、主演の齋藤飛鳥のキャラクターに大分寄せたのかもなぁ、と思いながら読んでいました。
実話ベースらしく、そこでこういう展開にはならないんだな、と思う箇所が結構あって、リアル感があるな、と感じました。
凄く印象的だったセリフが2つあります。
一つは柯景騰のセリフ。
【恋において、知恵を振り絞って相手を打ち負かす策略を考えることも重要だが、より重要なのは自分らしくいることだ。
いや、もともとそれが一番重要なのかもしれない。
「もし最終的に沈佳儀が愛してくれた俺が本当の俺じゃなかったら、すべての行動に何の意味もなくなってしまう」俺は許博淳の肩を叩いた】
これはその通りだよなぁ、と思います。相手を振り向かせたり、ライバルを蹴落としたりすることも確かに必要かもしれないけど、一番大事なのは、その人の前で自分がこうありたいという自分のまま、相手の前にいられることだな、と。それが出来ないまま一緒にいられることになっても、辛いだけだからなぁ。分かるわぁ、と思いました。
もう一つは沈佳儀のセリフ。たぶんこのセリフは、ネタバレ的な観点から言うと引用しちゃいけないと思います。でも、なんか凄く良いセリフで、自分の中で記録として残したいなと思ってしまったので、ダメだろうなと思いつつ書いてしまいます。
【本当はこういうの良くないって私だって分かるんだけど、別れを切り出さずにはいられなかった。あなたみたいに私のことを好きでいてくれる人を知ったら、私のことを好きだという他の人の気持ちを、どうしてもあなたと比べちゃう】
これは凄いセリフですね。このセリフがどんな場面で発せられ、この後どうなっていくのかということには触れないけど、それらを合わせると、より凄いな、という感じのセリフです。凄くいいなぁと思いました。
小説として面白かったのか、というのは、正直うまく判断出来ないけど(小説を読みながら、映画のあの場面だな、とか思っていたので、純粋に小説としての評価はしにくい)、「これが実際に起こったことなのだ」と思いながら読むと、普段小説を読む時とはまた違った感じで物語を受け取れるのではないかと思います。
九把刀「あの頃、君を追いかけた」
読み終えた今も、やっぱりそう思う。
いや、別に作品が悪かったとか、つまらなかったとか、そういう話じゃない。
ただ、好んで読むタイプの小説ではなかった、ということだ。
僕は、乃木坂46の齋藤飛鳥が好きで、その齋藤飛鳥が主演を務めた同名の映画を見た。というか、映画を見てから小説を読もう、と思っていた。映画は、主演の齋藤飛鳥と、ヒロインの早瀬真愛のキャラクターが非常にフィットしていて楽しんで見ることが出来た。
その映画は、台湾で大ヒットを記録した映画のリメイク作であり、そしてその台湾で作られた本家の映画の原作が、本書の台湾語版というわけである。映画の監督も、この著者が務めている。台湾では、10人に1人が見たと言われるほどの空前の大ヒットだったという。二本に置き換えると、1000万人が見た、というようなレベルか。恐らく「君の名は」でも、そこまでは行ってないだろう。
本書はまた、著者の実話をベースにしているという。というか、結構変わった構成の作品で、「現在の著者自身の文章」というのが、小説の合間合間に挿入されるのだ。現在の「九把刀」が、当時の自分たちの記憶を振り返ったり、あるいは当時の仲間たちの最新情報を書いたりしている。うまく説明出来ないが、なかなか見たことがない構成の作品だ。これも、「後に小説家となった著者自身の過去の体験をベースにしている」からこそのものだろう。
本書の執筆には、相当の時間が掛かったという(という話も、あとがきとかではなく、小説内に書かれているのだ)。著者はネット小説出身で、書くのが早いようで、既に79作品も出版しているという。大体20年ぐらいで80作品と考えると、年間4作品ペースだ。結構な量産型だと言えるだろう。
その著者が、この作品には相当時間が掛かったという。理由はこうだ。
【しかし、この青春ドキュメンタリーは、リアリティのある空気で満たしたいがために、結末の決定打に欠けておち、このストーリーに「どのように呼吸させるのか」が俺は分からず、筆が遅々として進まなかった】
著者は、たくさん小説を書く中で、「こんな風に展開して、こんな風に伏線を置いていけばラストでうまくまとまる」という感覚がかなり身についたという。そして、そういう判断をベースにした時、実話を基にしたこの作品は、ラストのまとめ方に欠けていたというのだ。リアリティを何よりも重視しているから、嘘のエンディングにはしたくなかったのだろう。しかし、じゃあどこに落とし所を見い出せばいいのかは見えていなかった。そんな著者が、ダラダラと長い年月を掛けて書き続けてきた小説がようやくエンディングを迎えたのは、この小説のラストでもあるとある出来事が起こったからだ。それが何なのかは、是非読んでみて欲しい。
とりあえず、内容をざっと書いておこう。
柯景騰(コーチントン)は、彰化誠中学に通う男子生徒で、おふざけとマンガが得意な問題児。学校で問題行動を起こすブラックリストに常に載っていて、同じくブラックリスト入りしている仲間たちと、アホみたいなことをして過ごしている。もちろん、勉強は苦手。
ある日担任の教師から、「柯景騰は沈佳儀の前に座るように」と言われる。沈佳儀は、クラス一の優等生で、勉強ができて、人気もあって、女子が嫉妬を抱きようがないほどの女の子だ。しかし柯景騰は、フザケ倒している日々の言動を「幼稚」と言われるため、彼女のことを「天敵」と考えている。
しかし、突然クラス分けがあることが発表され、それに伴って勉強せざるを得ない状況が生まれた。というか、何故か沈佳儀が柯景騰に無理やり勉強させようとするのだ。彼女は毎朝早くから学校に来て一人で勉強しているのだが、彼も同じように勉強することになった。そして次第に、彼女に惹かれている自分に気づき、しかし、勉強以外にまったく興味がなさそうな彼女の迷惑にならぬよう、「一番仲の良い友だち」という役回りを完璧にこなすための作戦を日々練り続けることとなった。
その後、同じ高校に進学したが、文系と理系で分かれてしまい、普段の関わりはあまりない。それでも、猛勉強の末成績優秀者となっていた柯景騰は、沈佳儀とテストで勝負することに。そんな風にして、また少しずつ関わりを持つようになっていくが…。
というような話です。
先に見ていた映画と比べると、結構違う部分もあるな、と思いました。どう違うのか、ということはここでは触れないようにするけど、一番違うかな、と思ったのが沈佳儀のキャラクターでした。この原作に結構忠実に台湾版の映画が作られているとしたら(著者と監督が同じだからその可能性が高いと思うけど)、日本版の映画のヒロインは、主演の齋藤飛鳥のキャラクターに大分寄せたのかもなぁ、と思いながら読んでいました。
実話ベースらしく、そこでこういう展開にはならないんだな、と思う箇所が結構あって、リアル感があるな、と感じました。
凄く印象的だったセリフが2つあります。
一つは柯景騰のセリフ。
【恋において、知恵を振り絞って相手を打ち負かす策略を考えることも重要だが、より重要なのは自分らしくいることだ。
いや、もともとそれが一番重要なのかもしれない。
「もし最終的に沈佳儀が愛してくれた俺が本当の俺じゃなかったら、すべての行動に何の意味もなくなってしまう」俺は許博淳の肩を叩いた】
これはその通りだよなぁ、と思います。相手を振り向かせたり、ライバルを蹴落としたりすることも確かに必要かもしれないけど、一番大事なのは、その人の前で自分がこうありたいという自分のまま、相手の前にいられることだな、と。それが出来ないまま一緒にいられることになっても、辛いだけだからなぁ。分かるわぁ、と思いました。
もう一つは沈佳儀のセリフ。たぶんこのセリフは、ネタバレ的な観点から言うと引用しちゃいけないと思います。でも、なんか凄く良いセリフで、自分の中で記録として残したいなと思ってしまったので、ダメだろうなと思いつつ書いてしまいます。
【本当はこういうの良くないって私だって分かるんだけど、別れを切り出さずにはいられなかった。あなたみたいに私のことを好きでいてくれる人を知ったら、私のことを好きだという他の人の気持ちを、どうしてもあなたと比べちゃう】
これは凄いセリフですね。このセリフがどんな場面で発せられ、この後どうなっていくのかということには触れないけど、それらを合わせると、より凄いな、という感じのセリフです。凄くいいなぁと思いました。
小説として面白かったのか、というのは、正直うまく判断出来ないけど(小説を読みながら、映画のあの場面だな、とか思っていたので、純粋に小説としての評価はしにくい)、「これが実際に起こったことなのだ」と思いながら読むと、普段小説を読む時とはまた違った感じで物語を受け取れるのではないかと思います。
九把刀「あの頃、君を追いかけた」
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