黒夜行

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熟練校閲者が教える間違えやすい日本語実例集(講談社校閲部)

内容的には、まさにタイトルのまんま、という感じです。面白かった!

タイトルの話で言えば、本書の親本のタイトルは「日本語課外講座 名門校に席をおくな!」だったそうです。「席」の部分に赤丸がされていて、ここが間違っているよ、ということなんだけど分かりますか?答えは「籍」。これは、本書に登場する校閲者の一人が、かつて気づかずに通してしまった間違いだそうです。

で、こんなタイトルにしたばっかりに、書店で進学コーナーに置かれたりもしたそうです(笑)。まあそんな事情もあってか、文庫化に当たりタイトルが変わった、ということでしょうか。

【ていうかホント損ですよね、まず「お褒め」はなくて「お叱り」ですから。問題ないのが当たり前、減点主義で判断されるしかないですからね】

と書いている通り、なかなか大変なお仕事です。校閲者の一人は、かつて「いちぢく(本当は「いちじく」)」を作家に指摘したところ、現在では大家となったその作家は「校閲の分際でこんな生意気な赤字を入れおって」みたいなことを、読者の多い雑誌の座談会で言われて傷ついた、なんてことを書いています。いやはや、大変でございますね、ホント。

最近では、校閲がドラマになったし、あるいはかつて僕は「セブンルール」という番組で女性校閲者が採り上げられていたのを途中から見たこともありますけど、こんな風に「校閲」という仕事が以前よりは世間に認知されている、と言えるかもしれません。あくまでも憶測ですが、その背景には、ネット社会の広がりが関係しているんじゃないか、とも思います。かつて何らかの形で人目に触れる文章は、個人のガリ版刷りみたいなものを除けば、基本的には出版社などのものが主だったでしょう。それらはきちんと校閲されてから世に出るわけです。しかし、ネットが生まれ、SNSやブログが広がったことで、個人が発信できるルールが広がった。そのため、以前にも増して「言葉の取り違え」や「意味の転換」みたいなものが加速しているんじゃないか、と思っています。そういう背景の中で、「校閲」という仕事の重要さみたいなものが改めて認識されているのかもしれない、と思ったりもします。

本書でも、「昔とは違った使い方や表記をされることが多い言葉」が多々紹介されています。「耳ざわり」「棹さす」「ダンボール(段ボール)」「さぼる(サボる)」など、本来の意味や本来の表記から離れた言葉というのはたくさんあって、言葉は時代と共に変わっていくのだということがよく分かります。だからこそ彼らも、

【どちらにも解釈できるケースも多いわけで、どうしても引っ掛かる場合を除けば筆者の語感が尊重されるべきだ、というのが出版人の基本的なスタンスだね】

という形で仕事をしているようです。

もちろん悩むことも多いようで、

【ひとつのことば、ひとつの文章についてさんざん逡巡した挙げ句に思い切って「えいやっ」と直すケース、あるいは逆にためらい傷のように赤ペンをゲラに突いた跡を残しつつ直さなかったケース…、本来の用法と違うことを指摘したほうがよいのか、これも日本語の豊かさのひとつとして許容してよいのか…。校閲者が苦悩するさまは、この本のそこここに載っています】

だそうです。

というわけで、本書で紹介されている事例を様々に採り上げてみようと思いますが、まず本書を読んで一番衝撃的だった言葉から始めましょう。

それは「世間ずれ」です。

多くの人はこの言葉を、「世の中の考え方外れている」と解釈するでしょう。僕もその一人です。実際に文化庁が2014年に調査した結果でも、そう解釈する人が55.2%に上っていました。

しかしこの「世間ずれ」という言葉、「ずれ」を漢字に直すと「擦れ」、つまり「世間と擦れている」という意味なんだそうです。世の中でもまれたため純真さが薄れ、世知にたけている、というのが「世間ずれ」という言葉の本来の意味なんだそうです。そういう正しい捉え方をしている人が、先ほどの調査では35.6%だったとのこと。

いやぁ、これは知らなかったなぁ。本書を読んでて、とにかくこれが一番驚きました。分からないものですね。自分が「正しい」と思っていることが実は間違っている可能性がある、なんてことは、僕は普段から意識しているつもりですけど、まさか「世間ずれ」が間違っているとは思っていなかったので、衝撃でした。

他にも本書で扱われている間違いは色々あって、その中には、「説明されるまで何が間違っているのか分からなかったもの」も多々ありました。いくつか書き出してみます(書いたものが、間違った表記です)

「御頭付きの鯛」「悪どい」「寺小屋」「万事窮す」「写真の修正」

どうでしょうか?何が間違っているか分かるでしょうか?答えはここでは書きませんので考えて見てください。

また、意味をちゃんと理解していなかった言葉もありました。例えば、「一姫二太郎」とか「小春日和」です。「小春日和」って、何月のことを指しているか知ってますか?なんと11月頃だそうですよ。寒くなっていく時期に、時々春のように暖かい日が来ることを「小春日和」と言うんだそうです。ほぇ~。

また、言葉の切り方の無知もありました。例えば僕は、「間髪を入れず」を「間、髪を入れず」と読むことは知っていました。でも、「きら星のごとく」を「きら、星のごとく」、「習性となる」を「習い、性となる」と読むことは知りませんでした。どちらも、「きら星」「習い性」という単語があると思っていましたが、元々はそんな単語はないんだそうです。「習い性」っていうのは、今ではもう辞書に載ってるみたいですけどね。

あと面白かったのが、印刷の限界の話。例えば、「刺身」の「刺」という字と、「溌剌」の「剌」という字は、別の字だけど、文字の小さな印刷だと分からないからいいやと通したことがある、という話。また、究極だというのが「杮落とし(こけらおとし)」の「杮」という漢字。果物の「柿」という字と違う、ということも本書を読むまで知りませんでしたが、本書によると、「こけら」より「かき」の方が一画多いそうです。本書では、どこが違うのか教えてくれなかったですが、気になるなこれ。

また本書には、言葉の語源も色んなところに載っていました。一番へぇと思ったのが、歌舞伎界を指す「梨園」という言葉。これは、等の玄宗皇帝が梨を多く植えた庭園で楽土の子弟を自ら指導した故事にちなんでいるそうです。

そんなわけで、日本語に関する深い知識を学ぶことが出来る一冊です。

講談社校閲部「熟練校閲者が教える間違えやすい日本語実例集」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
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5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)