草紙屋薬楽堂ふしぎ始末(平谷美樹)
内容に入ろうと思います。
本書は、4編の短編が収録された連作短編集です。
まずは全体の設定から。
舞台は、薬楽堂という本屋。当時の本屋は出版も行っていて、薬楽堂には本能寺無念という戯作者が居候していた。時々店番をしながら戯作を書くのだ。そこへやってきたのが鉢野金魚(きんとと)という珍妙な名前の女。戯作を書いたから出版させてやろう、という、なかなか居丈高な女である。
この無念と金魚が、なんの因果か、近隣で起こるちょっとしたトラブルの解決に乗り出していく…、という物語です。
「春爛漫 桜下の捕り物」
薬楽堂に奉公する小僧である松吉が、ある夜お化けを見たと言って大騒ぎしている。それを小耳に挟んだ金魚は、松吉がお化けを見たという土蔵を検分する。そこには版木がしまわれている。最初から人間の仕業だと思っていた金魚は、本を刷る際にしか使わない版木を狙うような強盗がいるはずがない、と思った。盗もうとしたなら、何か理由があるはずだ…。
「尾張屋敷 強請りの裏」
戯作の筋が思いつかない無念は行きつけの飲み屋でばったり、同業である織田野武長と遭遇した。もちろん筆名であり、本名は加藤権三郎という。この加藤という男、実は勤番の尾張藩士であり、副業である戯作なんてやっててはいけない身分なのだ。
そんな加藤から相談を受ける。なんでも、自分が尾張藩士であることが誰かにバレたようで、父に知られたくなければ金を寄越せと強請られ、実際に何度も金を渡している、というのだ。無念に奢らせようとやってきた金魚が話を聞き、解決に乗り出すことになる…。
「池袋の女 怪異の顛末」
書肆藤田屋故山堂の主人である又兵衛は、自室で起こる怪異現象(今でいうポルターガイスト現象)に毎夜悩まされていた。ちょっとしたことからその悩みを見抜いた金魚は、さっそく調査に乗り出すことに。あやかしの仕業だと怯える無念に、人間がやっていることだと納得させた金魚は、無事下手人を捕まえることに成功するのだが…。
「師走の吉原 天狗の悪戯」
吉原でも格上である松本屋では、<呼出昼三>(女郎の最高位)である梶ノ鞠の絵を描いている者がいる。東雲夕月、新進気鋭の絵師だ。「華之吉原 傾城揃踏」とういう摺物絵のための絵なのだが、楼主の善助がちょっと目を離したスキに姿が消えてしまったのだという。それを、薬楽堂のご隠居である長右衛門のせいにしようとする八丁堀にそそのかされるようにして、無念と金魚は捜査を開始するが、いつもならノリノリで調べ始める金魚の腰が重い。どうやら吉原に行きたくないようだが…。
というような話です。
なかなか面白い話でした。とにかく物語がスタスタ進んでいく感じで、テンポが良いです。謎自体や謎解きそのものは、ミステリというほどの感じでもなくてそこまで強い魅力があるわけではないけど、金魚がなかなか良いキャラで読ませます。居丈高に振る舞って、怒涛の推理力で見事に謎を解決してしまうかと思えば、戯作を一向に出版してくれないことに悲しんだり、なかなかに苦しい過去と向き合わなければならない辛さなんかが出てきたりして、人物の面白さで読ませる感じです。無念も、長右衛門も短右衛門も、他にも色々出てくるけど、みんななかなか濃いキャラで良いです。
また、物語の流れの中で、当時の出版事情が垣間見れるのもまた良いなと思います。原稿料が幾らぐらいだとか、どういう仕組で出版されているのかとか。「重版」と言えば、今では初版が売り切れた時に増刷することだけど、当時は、版元や作者に無断で同じ内容の本を出版することを指して、それは重罪だったという。こんな小ネタも含めて、江戸時代の出版にまつわるあれこれを知ることが出来るというのもまた面白い点じゃないかと思います。
平谷美樹「草紙屋薬楽堂ふしぎ始末」
本書は、4編の短編が収録された連作短編集です。
まずは全体の設定から。
舞台は、薬楽堂という本屋。当時の本屋は出版も行っていて、薬楽堂には本能寺無念という戯作者が居候していた。時々店番をしながら戯作を書くのだ。そこへやってきたのが鉢野金魚(きんとと)という珍妙な名前の女。戯作を書いたから出版させてやろう、という、なかなか居丈高な女である。
この無念と金魚が、なんの因果か、近隣で起こるちょっとしたトラブルの解決に乗り出していく…、という物語です。
「春爛漫 桜下の捕り物」
薬楽堂に奉公する小僧である松吉が、ある夜お化けを見たと言って大騒ぎしている。それを小耳に挟んだ金魚は、松吉がお化けを見たという土蔵を検分する。そこには版木がしまわれている。最初から人間の仕業だと思っていた金魚は、本を刷る際にしか使わない版木を狙うような強盗がいるはずがない、と思った。盗もうとしたなら、何か理由があるはずだ…。
「尾張屋敷 強請りの裏」
戯作の筋が思いつかない無念は行きつけの飲み屋でばったり、同業である織田野武長と遭遇した。もちろん筆名であり、本名は加藤権三郎という。この加藤という男、実は勤番の尾張藩士であり、副業である戯作なんてやっててはいけない身分なのだ。
そんな加藤から相談を受ける。なんでも、自分が尾張藩士であることが誰かにバレたようで、父に知られたくなければ金を寄越せと強請られ、実際に何度も金を渡している、というのだ。無念に奢らせようとやってきた金魚が話を聞き、解決に乗り出すことになる…。
「池袋の女 怪異の顛末」
書肆藤田屋故山堂の主人である又兵衛は、自室で起こる怪異現象(今でいうポルターガイスト現象)に毎夜悩まされていた。ちょっとしたことからその悩みを見抜いた金魚は、さっそく調査に乗り出すことに。あやかしの仕業だと怯える無念に、人間がやっていることだと納得させた金魚は、無事下手人を捕まえることに成功するのだが…。
「師走の吉原 天狗の悪戯」
吉原でも格上である松本屋では、<呼出昼三>(女郎の最高位)である梶ノ鞠の絵を描いている者がいる。東雲夕月、新進気鋭の絵師だ。「華之吉原 傾城揃踏」とういう摺物絵のための絵なのだが、楼主の善助がちょっと目を離したスキに姿が消えてしまったのだという。それを、薬楽堂のご隠居である長右衛門のせいにしようとする八丁堀にそそのかされるようにして、無念と金魚は捜査を開始するが、いつもならノリノリで調べ始める金魚の腰が重い。どうやら吉原に行きたくないようだが…。
というような話です。
なかなか面白い話でした。とにかく物語がスタスタ進んでいく感じで、テンポが良いです。謎自体や謎解きそのものは、ミステリというほどの感じでもなくてそこまで強い魅力があるわけではないけど、金魚がなかなか良いキャラで読ませます。居丈高に振る舞って、怒涛の推理力で見事に謎を解決してしまうかと思えば、戯作を一向に出版してくれないことに悲しんだり、なかなかに苦しい過去と向き合わなければならない辛さなんかが出てきたりして、人物の面白さで読ませる感じです。無念も、長右衛門も短右衛門も、他にも色々出てくるけど、みんななかなか濃いキャラで良いです。
また、物語の流れの中で、当時の出版事情が垣間見れるのもまた良いなと思います。原稿料が幾らぐらいだとか、どういう仕組で出版されているのかとか。「重版」と言えば、今では初版が売り切れた時に増刷することだけど、当時は、版元や作者に無断で同じ内容の本を出版することを指して、それは重罪だったという。こんな小ネタも含めて、江戸時代の出版にまつわるあれこれを知ることが出来るというのもまた面白い点じゃないかと思います。
平谷美樹「草紙屋薬楽堂ふしぎ始末」
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