ブルックリンの少女(ギョーム・ミュッソ)
内容に入ろうと思います。
人気小説家であるラファエルは、婚約者であるアンナとの結婚式を3週間後に控え、南フランスで休暇を楽しんでいた。そこでラファエルは、アンナに再度同じ話を蒸し返すことになる。君の過去を教えて欲しい、と。
ラファエルは、結婚した女性とすぐに別れてしまい、その時の子どもを自分で育てるシングルファーザーだった。その時の経験がトラウマとなり、相手のことをより深く知りたいと思うのだが、アンナは、過去の自分のことを一切話さないのだ。
『それぞれの秘密があるから、個人が成りたつわけ。秘密は自分のアイデンティティーの一部、また自分の歴史、謎の一部を形づくっているんだと思う』
『二人の関係を脅かすようなことをわたしは隠していません。わたしを信じて!わたしたち二人はお互いを信頼するべきだと思う!』
アンナはそんな風に言ってラファエルからの追及を躱そうとするが、ついに観念し、彼の一枚の写真を見せる。
どんな過去が現れても受け入れるつもりでいたラファエルだったが、その写真があまりに衝撃的すぎて、彼女を置いて部屋から出ていってしまった。しかし、冷静になり、彼女の言い分も聞いてないじゃないかと思い20分後に戻ったのだが、部屋からアンナの姿は消えていた。
アンナを見つけられないまま自宅に戻った彼は、親友であり、組織犯罪取締班の元警部であるマルクに助けを求めた。そして、二人でアンナの行方を追うことにした。
細い細い糸を少しずつ辿っていきながら、アンナの過去を少しずつ掘り下げていく二人だったが、やがて彼らは、アンナに関するとんでもない過去を知ることになる。しかもそれが、ある巨大な存在とも繋がっていき…。
というような話です。
なかなか面白い話でした。というか、なかなか良く出来ている、と言った方が正確でしょうか。冒頭のカップルの喧嘩から、ちょっと想像出来ないようなところにまで話が展開していく感じは、「良く出来ている」という言い方が合っている気がします。
なかなか「面白い!」と言い切れないのには理由があって、ちょっと登場人物が多いんです。これは僕の得意不得意の話でもあるんで、登場人物が多くても特に気にせず読める人には問題ないと思うんだけど、僕は出てくる人物がどこの誰なのか、覚えるのが苦手なんですよね。文庫の袖のところに登場人物の一覧があるんですけど、そもそも人物名が出てきた時に「この名前を覚えるべきかどうか」というのを毎回考えるのが面倒に思えてくる、というところがあって、人物が多い小説には未だに苦手意識があります。
この作品の場合、アンナの過去というのが相当に強烈で、かつ辿りにくいものなんですね。それは、物語の設定上仕方ない。アンナの過去がすぐに辿れるようなものだったら、アンナが10年近くも過去を隠したまま生きていくのは難しかったかもしれないわけで、過去を辿るのが難しい、というのは確かにその通りなわけです。でも、そうであるが故に、アンナの過去を辿るためには結構な数の人物が出てこざるを得ない。しかも、細い糸を辿っているが故に、本筋にそこまで大きく関係してこない人物ってのも結構いるわけです。まあ、人物表にいない名前はそこまで気にしなければいい、という判断は妥当なんだけど、でも二度と出てこない保証はないし、人物表に載ってないってことは、万が一もう一回出てきちゃったら誰なのかを確認する術がない、という意味でもあるから、あっさりスルーしていいものかどうかも悩ましい。そもそも、人物表に載ってる人物も、大体毎回「誰だっけ?」って思うから、そこで一旦止まっちゃう感覚があって、スムーズに読むのが難しいなぁ、と思ってしまいます。
とはいえ、その点を除けば、非常に良かったと思います。とにかく、アンナの過去を遡っていくために、細かい細かい調査を積み上げていくんだけど、「そんなこと、関係ある?」みたいな、見逃してしまいそうになるような些細な部分が、実は次の糸を手繰り寄せるのに必要だった、みたいなことが何度も起こって、細かい部分まで精緻に構築してるんだなぁ、という感じがしました。色んな偶然のお陰で、簡単には解けない絡まりとなっているんだけど、その偶然が、人間の必死さの帰結である、ということが多いような感じで、「いやいや、そんな都合の良いことはそう起こりませんよ」と感じるようなものではなかった、というのも良かった、と思います。
初めはカップル間の問題だったはずなのに、いつしかとんでもない犯罪と繋がり、さらにはそれがもっとスケールのデカイものと繋がっていく過程はなかなかのもので、しかもそれがたった3日間の出来事である、というのも凄く濃密な感じがしました。
登場人物が多い、というのは、ある意味では本書のリアリティを担保する部分でもあるんだけど、やはりそれは諸刃の剣でもあって、読みにくさ的な部分はどうしても出てくるなぁ、と。そういう意味で、なかなかスパッとは勧めにくい作品ではあるなぁ、という感じはします。
ギョーム・ミュッソ「ブルックリンの少女」
人気小説家であるラファエルは、婚約者であるアンナとの結婚式を3週間後に控え、南フランスで休暇を楽しんでいた。そこでラファエルは、アンナに再度同じ話を蒸し返すことになる。君の過去を教えて欲しい、と。
ラファエルは、結婚した女性とすぐに別れてしまい、その時の子どもを自分で育てるシングルファーザーだった。その時の経験がトラウマとなり、相手のことをより深く知りたいと思うのだが、アンナは、過去の自分のことを一切話さないのだ。
『それぞれの秘密があるから、個人が成りたつわけ。秘密は自分のアイデンティティーの一部、また自分の歴史、謎の一部を形づくっているんだと思う』
『二人の関係を脅かすようなことをわたしは隠していません。わたしを信じて!わたしたち二人はお互いを信頼するべきだと思う!』
アンナはそんな風に言ってラファエルからの追及を躱そうとするが、ついに観念し、彼の一枚の写真を見せる。
どんな過去が現れても受け入れるつもりでいたラファエルだったが、その写真があまりに衝撃的すぎて、彼女を置いて部屋から出ていってしまった。しかし、冷静になり、彼女の言い分も聞いてないじゃないかと思い20分後に戻ったのだが、部屋からアンナの姿は消えていた。
アンナを見つけられないまま自宅に戻った彼は、親友であり、組織犯罪取締班の元警部であるマルクに助けを求めた。そして、二人でアンナの行方を追うことにした。
細い細い糸を少しずつ辿っていきながら、アンナの過去を少しずつ掘り下げていく二人だったが、やがて彼らは、アンナに関するとんでもない過去を知ることになる。しかもそれが、ある巨大な存在とも繋がっていき…。
というような話です。
なかなか面白い話でした。というか、なかなか良く出来ている、と言った方が正確でしょうか。冒頭のカップルの喧嘩から、ちょっと想像出来ないようなところにまで話が展開していく感じは、「良く出来ている」という言い方が合っている気がします。
なかなか「面白い!」と言い切れないのには理由があって、ちょっと登場人物が多いんです。これは僕の得意不得意の話でもあるんで、登場人物が多くても特に気にせず読める人には問題ないと思うんだけど、僕は出てくる人物がどこの誰なのか、覚えるのが苦手なんですよね。文庫の袖のところに登場人物の一覧があるんですけど、そもそも人物名が出てきた時に「この名前を覚えるべきかどうか」というのを毎回考えるのが面倒に思えてくる、というところがあって、人物が多い小説には未だに苦手意識があります。
この作品の場合、アンナの過去というのが相当に強烈で、かつ辿りにくいものなんですね。それは、物語の設定上仕方ない。アンナの過去がすぐに辿れるようなものだったら、アンナが10年近くも過去を隠したまま生きていくのは難しかったかもしれないわけで、過去を辿るのが難しい、というのは確かにその通りなわけです。でも、そうであるが故に、アンナの過去を辿るためには結構な数の人物が出てこざるを得ない。しかも、細い糸を辿っているが故に、本筋にそこまで大きく関係してこない人物ってのも結構いるわけです。まあ、人物表にいない名前はそこまで気にしなければいい、という判断は妥当なんだけど、でも二度と出てこない保証はないし、人物表に載ってないってことは、万が一もう一回出てきちゃったら誰なのかを確認する術がない、という意味でもあるから、あっさりスルーしていいものかどうかも悩ましい。そもそも、人物表に載ってる人物も、大体毎回「誰だっけ?」って思うから、そこで一旦止まっちゃう感覚があって、スムーズに読むのが難しいなぁ、と思ってしまいます。
とはいえ、その点を除けば、非常に良かったと思います。とにかく、アンナの過去を遡っていくために、細かい細かい調査を積み上げていくんだけど、「そんなこと、関係ある?」みたいな、見逃してしまいそうになるような些細な部分が、実は次の糸を手繰り寄せるのに必要だった、みたいなことが何度も起こって、細かい部分まで精緻に構築してるんだなぁ、という感じがしました。色んな偶然のお陰で、簡単には解けない絡まりとなっているんだけど、その偶然が、人間の必死さの帰結である、ということが多いような感じで、「いやいや、そんな都合の良いことはそう起こりませんよ」と感じるようなものではなかった、というのも良かった、と思います。
初めはカップル間の問題だったはずなのに、いつしかとんでもない犯罪と繋がり、さらにはそれがもっとスケールのデカイものと繋がっていく過程はなかなかのもので、しかもそれがたった3日間の出来事である、というのも凄く濃密な感じがしました。
登場人物が多い、というのは、ある意味では本書のリアリティを担保する部分でもあるんだけど、やはりそれは諸刃の剣でもあって、読みにくさ的な部分はどうしても出てくるなぁ、と。そういう意味で、なかなかスパッとは勧めにくい作品ではあるなぁ、という感じはします。
ギョーム・ミュッソ「ブルックリンの少女」
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