夜明けのカノープス(穂高明)
内容に入ろうと思います。
教師の道を諦め、社員30人ほどの教育系出版社・すこやか出版で契約社員として働き始めた映子。本作りに関わるわけではなく、日々雑用のような仕事ばかりであることに、少し倦んでいる。そんなある日、ひょんなことから会社で、あの人の名前を耳にした。安川登志彦。あなた、知らないわよね?と、見下されたように言われたのもあった。つい、勢いで、「遠い親戚です」と答えてしまった。
そうやって映子は、子どもの頃に両親が離婚して以来、久しぶりに父親と再会した。
とはいえ、何がどうなったわけでもない。親子らしい会話が突然始まるわけもなく、ぎこちなく敬語でやり取りをする。父親の担当をすることになったが、ただそれだけのことだ。息抜きに、若田先輩のライブに顔を出す。教員採用試験にチャレンジし続けているトマちゃんと一緒に見に行って、トマちゃんのガッツを羨ましく思う。中学で知り合った若田先輩は、今ではスタジオミュージシャンとして、アイドルに曲を提供したりアレンジもしたりするらしい。そんな若田先輩は、未だに昔の名前で呼んでくれるのだけど、でも、未だに若田先輩のことが好きな自分のことを、今では許せないほどだ。
絶望的なわけではないけど、すべてがうまくいかない…。そんな中で映子は、プラネタリウムの番組を作るという先輩に付き従っている内に、「カノープス」の存在を知る。全天で一番明るいことで有名なシリウスの次に明るい星なのに、北半球では地平線の近くにしか見えないから明るく見えない星。日常の中で、少しずつ色んなことが繋がっていって、やがて彼女は、その明るさを内側から取り戻していく…。
というような話です。
さらっと読むには良い小説だと思います。一人の女性が、日常的な事柄に悩む姿は、男女問わず、ごく一般的な生き方をしている僕らには共感しやすいと思います。
構成的には、なかなか上手さを感じました。作中で、細かく様々な人物やモチーフが絡み合っていきます。別にそれがストーリー上大きな意味を持つかというと、そうである場合とそうでない場合とあるんだけど、これだけ分量の短い小説の中で、色んな要素をつなぎ合わせていくのはなかなかだなと思いました。
なんというのか、大きな起伏がない、というのが、ある種の魅力だと思います。本書には、劇的な展開とか、一発逆転とか、そういう要素って全然ないんだけど、でもそれは、僕らの日常もまったく同じだと思うんですね。凄く下がりもせず、でも凄く上がりもせず。きっかけとなるはっきりとした出来事があるわけでもなく、色んな出来事が絡まりあって、そのごちゃごちゃの果てに、なんとなくの平穏を手に入れる、というような展開は、物語という意味では少し物足りなさもあるのだけど、より日常感を感じられて、より自分に引き寄せて読むことができるかもしれない、という意味で、なかなか良いんじゃないかなと思いました。
穂高明「夜明けのカノープス」
教師の道を諦め、社員30人ほどの教育系出版社・すこやか出版で契約社員として働き始めた映子。本作りに関わるわけではなく、日々雑用のような仕事ばかりであることに、少し倦んでいる。そんなある日、ひょんなことから会社で、あの人の名前を耳にした。安川登志彦。あなた、知らないわよね?と、見下されたように言われたのもあった。つい、勢いで、「遠い親戚です」と答えてしまった。
そうやって映子は、子どもの頃に両親が離婚して以来、久しぶりに父親と再会した。
とはいえ、何がどうなったわけでもない。親子らしい会話が突然始まるわけもなく、ぎこちなく敬語でやり取りをする。父親の担当をすることになったが、ただそれだけのことだ。息抜きに、若田先輩のライブに顔を出す。教員採用試験にチャレンジし続けているトマちゃんと一緒に見に行って、トマちゃんのガッツを羨ましく思う。中学で知り合った若田先輩は、今ではスタジオミュージシャンとして、アイドルに曲を提供したりアレンジもしたりするらしい。そんな若田先輩は、未だに昔の名前で呼んでくれるのだけど、でも、未だに若田先輩のことが好きな自分のことを、今では許せないほどだ。
絶望的なわけではないけど、すべてがうまくいかない…。そんな中で映子は、プラネタリウムの番組を作るという先輩に付き従っている内に、「カノープス」の存在を知る。全天で一番明るいことで有名なシリウスの次に明るい星なのに、北半球では地平線の近くにしか見えないから明るく見えない星。日常の中で、少しずつ色んなことが繋がっていって、やがて彼女は、その明るさを内側から取り戻していく…。
というような話です。
さらっと読むには良い小説だと思います。一人の女性が、日常的な事柄に悩む姿は、男女問わず、ごく一般的な生き方をしている僕らには共感しやすいと思います。
構成的には、なかなか上手さを感じました。作中で、細かく様々な人物やモチーフが絡み合っていきます。別にそれがストーリー上大きな意味を持つかというと、そうである場合とそうでない場合とあるんだけど、これだけ分量の短い小説の中で、色んな要素をつなぎ合わせていくのはなかなかだなと思いました。
なんというのか、大きな起伏がない、というのが、ある種の魅力だと思います。本書には、劇的な展開とか、一発逆転とか、そういう要素って全然ないんだけど、でもそれは、僕らの日常もまったく同じだと思うんですね。凄く下がりもせず、でも凄く上がりもせず。きっかけとなるはっきりとした出来事があるわけでもなく、色んな出来事が絡まりあって、そのごちゃごちゃの果てに、なんとなくの平穏を手に入れる、というような展開は、物語という意味では少し物足りなさもあるのだけど、より日常感を感じられて、より自分に引き寄せて読むことができるかもしれない、という意味で、なかなか良いんじゃないかなと思いました。
穂高明「夜明けのカノープス」
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