黒夜行

左脇のプロフィールにある「サイト全体の索引」から読みたい記事を探して下さい。

ウルトラマン誕生(実相寺昭雄)

内容に入ろうと思います。
本書は、ウルトラシリーズの第一弾である「ウルトラQ」で脚本家として関わり(実際、「ウルトラQ」内では形にならなかったが)、その後のウルトラシリーズで演出や監督を務めた著者が、かつての円谷プロの周辺にいた人々を取材したり、自分の経験を振り返ったりして、ウルトラマンというヒーローがどう生み出され、その陰にどんな努力があったのかを描き出す作品です。元々「ウルトラマンのできるまで」と「ウルトラマンに夢見た男たち」という2冊の本だったのを1冊にまとめ、改題した作品です。

僕はウルトラマンには特段の思い入れはないんだけど、職人たちの物語は好きなので、結構面白く読めました。

そう、職人たちの物語なのです。

『SFXと特撮は別ものなんだ。日本の特撮は伝統芸能なんだ』

確かにそう言いたくなるほど、現場の人間がありとあらゆる工夫をして、普通には作り得ない映像を作り上げていく過程は、職人芸という感じがしました。

そんな特撮を世界を支えているのは、こんな人達なのです。

『特撮ななんて、夢を見ようとしなかったら、スタッフのやってることなんかバカバカしいかぎりですよ。でも、すばらしいのは分別ざかりのおとなが、バカバカしいことに夢中になってるってことなんです。もし、そういうことで冷めちゃうような人だったら、特撮はやらない方がいい…』

作り上げた映像を見れば素晴らしいが、それを生み出す現場の人間たちは、冷静になってしまうと(なんで俺こんなことしてるんだろ…)と感じるようなものばかりでしょう。身近にあるありとあらゆるものを試しながら、ストーリーや展開の条件に合いつつ、映像的にも満足の行くものを作り上げる。しかもそれを毎週の単発のシリーズでやっていくのだ。並大抵の苦労ではないだろう。

でも読んでて、面白そうだな、と思ってしまった。

『これからも特撮をやろうとする人たちが、とにかく軽い気持ちと柔軟な頭で、いろいろと発見してくれることを願いますね。とてつもないことを思いついたり、そのアイディアで失敗しても、とにかく円谷英二(おやじ)さんは決して怒りませんでしたよ。“そうか、そうか”ってニコニコしてね。とても楽しそうだった』

『そうなんだ。特撮では“こんなこと笑われちゃうかな”といった思いつきの中に宝石が転がっている。その宝石の数々を、スタッフとつかみどりすることが、特撮のよろこびでもあるだろう』

現代であれば、時間と労力とお金さえ掛ければ、CGなどで求めている映像などすぐ作れてしまう。しかし、どんなにそれが綺麗な映像でも、作ってる方は面白みがないんじゃないかなぁ、と思ってしまう。それよりは、CGなんて使わずに、それでいてどうやって求めている映像を撮るのか試行錯誤する方が楽しいだろう。クリストファー・ノーランという映画監督は、確か、CGをほぼ使わない人だったと思うのだけど、映像を見ると、CGを使ってないなんてとても想像できないような場面の連続で、こういう映像をどうやって撮っているんだろう?と考えるのは楽しい。

本書には、ウルトラシリーズに関わった様々な人間たちの苦労が描かれていくのだけど、やはり印象的なのは怪獣に関する記述だ。

まず、毎週新しい怪獣を生み出さなければならない。ただぬいぐるみを1体作ればいい、というのではない。撮影状況などによって大中小のぬいぐるみを作るし、拡大パーツなんかが必要な場合もある。名前も考えなければならない、中に入る人は動きを作り上げなければならない。登場シーンを考えたり、中に入る人の居住性も考えなければならないのだ。

そんな中で、結構大変だったのが「声」だそうだ。怪獣の発する声によって、その怪獣の大きさや重さを表現しなければならない。

『具体的に音をつくる自分を納得させられれば、百パーセント近く、クレームがつくことはなかったですね。時間切れで、自分でも納得しないまま出しちゃった音なんかの場合、やはり、こちらの自信のなさが出ちゃうのか、監督をはじめとして周囲を納得させることはできませんでしたけどね』

未知の怪獣であるのだから、見た目から設定から何から何までゼロから作らないといけないのだけど、その中でも声は、どこから考えていけばいいか非常に分かりにくいものだろう。苦労も人一倍だったのではないかと思う。

「声」に関しては印象的だった話が他にも2つある。

まず、ウルトラマンの「シュワッチ」という声についてだ。「シュワッチ」に行き着くまでに相当苦労を重ねたようで、声を担当してくれた劇団の人とあーでもないこーでもないとやりながら、ウルトラマンのイメージにある掛け声を考えたという。

もう一つは、円谷英二の長男・一氏のエピソードだ。

『そのときしきりとつぶちゃん(※円谷一氏のこと)は“怪獣だって泣くんだよ、…怪獣だって泣くんだよ”と繰り返していたんだ。きっと、金ちゃん(※金城哲夫氏)が脚本を書く新しい怪獣キャラクターのことが頭にあったんだろう。“おれは怪獣を泣かせたいんだよ、金ちゃん…”とうったえるようにいってたのが印象的だったなあ。』

特撮というとどうしても映像の方ばかりに意識が向いてしまうが、実は音にもかなりこだわって作られていたのだ、ということが分かる。前述の円谷一氏はこうも言っている。

『開口一番“怪獣は人間と同じって考えてよ。喜怒哀楽も全部あるんだ。怪獣って人間の鏡なんだからね”って、いったんだよ。“怪獣はいかめしくて、グロテスクなだけの存在じゃないんだから、音楽もかたちにとらわれないでよ”って注文だった』

本書の中には、日本の特撮の始祖である円谷英二氏の価値観もたぶんに散りばめられている。

『「きたならしいものはだめだよ。見ていてヘドの出るようなものや、残忍なものや、暴力だけがまかりとおるものや、気持の悪いものや、血まみれを売りものにするようなものはね」
円谷さんは、繰り返しスタッフたちに説いていた。
「やはり見終わって夢が残るものじゃなきゃだめだよ。きたならしいもの、目をそむけちゃいけない現実、社会問題…それは別のリアリズム映画がやってくれる。特撮っていうのはね、だれもが見たくても見られない光景や視点をつくりだすためにあるんだよ。どんな巨大怪獣を出そうが、ミクロの細菌の世界に潜入しようが、日ごろ見られない夢を見せるようにしなきゃだめなんだよ」』

『円谷英二さんの教育というか、理念とういうか、考え方は徹底していましたね。第一には、お化けはつくらない、ということです。そして第二に、人間の体、皮膚を破壊したものはつくらない、ということでした。その理念にはぼくも共鳴したし、その円谷さんの強い意思があったからこそ、怪獣たちも、人びとに愛される存在になったんじゃないでしょうか。』

『カラー万能になって(中略)怪獣も血を出せ!(中略)と撮影所長のほうから命令がきましてね、円谷さんは悩まれたんです。(中略)円谷さんはそのことに相当抵抗されたんですよ。血を流すとか、首が飛ぶ、というようなことにね。子どもが見るんだから、子どもの間隔を刺激したくないといって。…それでも抗し切れず、たしかゴロザウルスって怪獣だったと思うけど、切られて血を流すところをとうとう撮られたんです。でも円谷さんはそのとき、血の色をグリーンにしたんですよ。しかもすきとおったような、きれいなものにね。その色の選択を見ていて、何か円谷さんの特撮をつらぬく思想にふれた思いがしましたね』

多くの人が「特撮」に夢を見て、バカバカしいと思えるようなことに全力を注いだからこそ、ウルトラマンは長く愛されるキャラクターになったし、「特撮は日本の伝統芸能」と言うくらいの技術的蓄積がもたらされることになった。数ページに1つは必ずイラストがあるような構成だし、当時特撮に関わった、知識のある人が読めばそれこそ重鎮たちばかりであろう人々が登場する本書は、歴史を作り出した貴重な証言だろうと思う。僕自身もそうだが、ウルトラマンにはさほど興味がない人でも十分楽しめる一冊ではないかと思う。

実相寺昭雄「ウルトラマン誕生」

関連記事

Comment

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

Trackback

http://blacknightgo.blog.fc2.com/tb.php/3615-2c3d649f

 | ホーム | 

プロフィール

通りすがり

Author:通りすがり
災害エバノ(災害時に役立ちそうな情報をまとめたサイト)

サイト全体の索引
--------------------------
著者名で記事を分けています

あ行
か行
さ行
た行
な行
は行
ま行
や行~わ行

乃木坂46関係の記事をまとめました
(「Nogizaka Journal」様に記事を掲載させていただいています)

本の感想以外の文章の索引(映画の感想もここにあります)

この本は、こんな人に読んで欲しい!!part1
この本は、こんな人に読んで欲しい!!part2

BL作品の感想をまとめました

管理人自身が選ぶ良記事リスト

アクセス数ランキングトップ50

TOEICの勉強を一切せずに、7ヶ月で485点から710点に上げた勉強法

一年間の勉強で、宅建・簿記2級を含む8つの資格に合格する勉強法

国語の授業が嫌いで仕方なかった僕が考える、「本の読み方・本屋の使い方」

2014の短歌まとめ



------------------------

本をたくさん読みます。
映画もたまに見ます。
短歌をやってた時期もあります。
資格を取りまくったこともあります。
英語を勉強してます。













下のバナーをクリックしていただけると、ブログのランキングが上がるっぽいです。気が向いた方、ご協力お願いします。
にほんブログ村 本ブログへ
にほんブログ村

アフィリエイトです

アクセスランキング

[ジャンルランキング]
本・雑誌
9位
アクセスランキングを見る>>

[サブジャンルランキング]
和書
6位
アクセスランキングを見る>>

アフィリエイトです

サイト内検索 作家名・作品名等を入れてみてくださいな

メールフォーム

名前:
メール:
件名:
本文:

月別アーカイブ

Powered By FC2ブログ

今すぐブログを作ろう!

Powered By FC2ブログ

ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード

QR

カウンター

2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
19位 松崎有理「あがり
20位 大沼紀子「てのひらの父

新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
3位 「街場のメディア論
4位 「デフレの正体
5位 「明日のコミュニケーション
6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
9位 「メディア・バイアス
10位 「量子力学の哲学

小説以外
1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
4位 「消された一家
5位 「マネーボール
6位 「バタス 刑務所の掟
7位 「ぐろぐろ
8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)