黒夜行

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ののはな通信(三浦しをん)

僕には、うまく理解できない感情がある。
「嫉妬」だ。

「嫉妬」にも色々あるから、すべての「嫉妬」を理解できないのかというのは分からない。ただ、ここで僕が書きたいことは、恋愛における「嫉妬」だ。

恋愛における「嫉妬」は、基本的に排他律を前提にしている。

排他律というのは、「AでなければB。BでなければA」というタイプの理屈だ。白と黒のボールしか入っていない箱の中から何か一つ取り出した時、「白でなければ必ず黒」だし、「黒でなければ必ず白」だ。「白でもないし黒でもない」とか「白でもあり黒でもある」などということはあり得ない。

恋愛における排他律はこうなる。「私のことが恋愛的に好きなら、私以外の人のことは恋愛的に好きではない」「私以外の誰かのことが恋愛的に好きなら、私のことは恋愛的に好きではない」

僕には正直、この理屈がよく分からないのだ。白と黒のボールの話ではあり得なかった可能性は、こちらの場合では充分にあり得る。「私のことも、私以外の誰かのことも恋愛的に好き」ということも、「私のことも、私以外の誰かのことも恋愛的に好きではない」ということもあり得る、と僕は考えている。

恋愛的な「嫉妬」というのは、この排他律を前提にしなければ成立しないはずだ。何故なら、「私以外の誰かに恋愛的な好意を示している」=「私のことは恋愛的に好きではない」という判断をするからこそ、「嫉妬」という感情が生まれるのだと思う。

僕は、少なくとも恋愛においては排他律を採用するつもりがない。だから、「嫉妬」というのがよく分からない。「嫉妬」に似た感情が生まれるケースもある。例えば、自分が好意を抱いている人が、「僕には好意を示さない」が「僕以外の人には好意を示している」という状況なら、「嫉妬」に近い感情を抱くこともある。しかし、「僕にも好意を示している」し「僕以外の人にも好意を示している」という状況なら、「嫉妬」に似た感情は生まれない。排他律を採用しない僕は、両者は共存しうるのだ。

「この人を独占したい」という感情が、誰かを想う強さのバロメーターとして標準化されているのだろう、と感じる。しかし、本当にそれが想いの強さを測るバロメーターとして正しいのかどうか、僕にはうまく判断出来ない。「本物の愛」とか「運命の出会い」とか、そういう言説は世の中に様々に存在するし、あると認めていいのかどうかも分からないそういう存在を目指して誰かを想うのも自由だと僕は思うのだけど、けれど、そういう形でしか「本物」「運命」を感じられないとしたら、またそれはそれで寂しいんじゃないかな、という気もしてしまうのだ。

内容に入ろうと思います。
横浜のミッション系のお嬢様学校に通う二人の少女、野々原茜(のの)と牧田はな。二人は大の親友であり、携帯電話などまだない時代に、時間を惜しんでは手紙を送り合ったり、授業中にメモを回したりして、濃密なコミュニケーションを取り続けてきた。同じ高校の女子生徒が、男性教師と付き合っているという噂があって、その真偽に翻弄されたり、お互いのなんてことのない日常の報告や、勉強の手助けなど、少女らしいやり取りを続けていく。
しかしやがて二人は、友情以上の関係になっていく。お互いがお互いの存在なしには立っていられないような、片時も離れていたくないような感情のほとばしりを常に感じている。
しかしやがて二人の関係は激変を迎えることになる…。その時から、二十数年に及ぶ二人の関わりを、書簡のみによって描き出す小説。

三浦しをんらしいなぁ、と感じました。三浦しをんはBL(ボーイズラブ)が好きで、そういう意味で同性愛的なものに親しんでいるし、三浦しをん自身(確か)結婚していないはずなので、彼女たちの関係性や発言などに、自分の来し方を織り交ぜている部分もゼロではないだろう、と思います。

正直な感想はこうなります。たぶん凄く良い作品だと思う、けど僕には合わなかった。

何故そう感じたか。主人公が女性であるとか、同性愛が描かれているとか、そういう部分は別にどうでもよくて、やはり僕は、冒頭で書いたように、「嫉妬」(特に恋愛における「嫉妬」)がうまく理解できないからだろう、と思う。

僕の中には、ののやはなの中にある「激しさ」はない。それを「情熱」と呼ぼうが「愛」と呼ぼうが「欲」と呼ぼうが何でもいいのだけど、「相手のことをすべて知りたい」「相手を独占したい」「自分以外の誰かに心を向けないで欲しい」というような感覚が僕の中にあまりにもないので、彼女たちの切実さみたいなものをうまく捉えられなかった。

少なくともこの点において、僕は特殊な人間だと思っているので、本書を読んで僕のように感じる人間はほとんどいないだろうと思います。だから恐らく、ごく一般的な人が本書を読めば、彼女たちの辛さ、悲しさ、必死さみたいなものがきっと理解できるのだろうし、そうであれば、膨大なやり取りを通じてお互いを深く深く知ろうとする彼女たちの高潔な関係性に非常に強いものを感じるのではないか、と思います。

読んでいて印象的だったのは、往復書簡の設定が非常にリアルだったこと。こういう形式の小説をそこまでたくさん読んだことがあるわけではないのだけど、大体の場合、物語を成立させるために、「本来であれば二人のやり取りの中に絶対入るはずのない読者向けの記述」みたいなものが紛れ込んでしまうことが多いと思います。ただ本書の場合、注意深く読めば色々出てくる可能性はあるけど、基本的にはそういう「読者向けの記述」だと感じる箇所はほとんどありませんでした。二人が実際に何らかの書簡でやり取りしている場合、こういうペース、こういう記述、こういう記述のなさになるよな、と想定出来るような感じになっていて、その辺りはさすがだなと感じました。

三浦しをん「ののはな通信」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
20位 福澤徹三「東京難民


新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
12位 西加奈子「円卓
13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
17位 長澤樹「消失グラデーション
18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
2位 「武器としての決断思考
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6位 「もうダマされないための「科学」講義
7位 「自分探しと楽しさについて
8位 「ゲーテの警告
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1位 「死のテレビ実験
2位 「ピンポンさん
3位 「数学ガール 乱択アルゴリズム
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)