黒夜行

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読書の価値(森博嗣)

非常に不遜なことだと分かっていて、こう書こう。

僕が「読書」について考えていることは、本書で森博嗣が書いていることをまったく同じだ。

「まったく」というのは、まあ言い過ぎかもしれないが、98%ぐらいは一致している、と思う。いや、ホントに、ビックリした。

ビックリしたというか、うん、やっぱり近い表現は、嬉しかった、となるだろう。凄く嬉しかった。僕にとって森博嗣という作家は、なんというか憧れに近い存在である。本人がそういう、憧れられる対象になることを嫌っていることももちろん分かっているし、そもそも僕は森博嗣に会っても、森博嗣に提供できる価値がまるでないので、会いたいと思わないようにしているが、何かの機会に、1時間でも30分でも話が出来たら幸せだろうな、と思う。

その森博嗣とまったく同じ風に思考している、というのは、やはり嬉しいことだ。物事の考え方に正解・不正解というのはないかもしれないけど、森博嗣と同じというのは、僕には凄く正解に近いことに思える。

さて、普段ならここで、森博嗣がどんな風に主張していて、それに僕がどんな風に共感するのか、ということを書いていくところだ。しかし、今回それをやってしまうと、ちょっとやりすぎるぐらいになってしまう。なにせ98%ぐらいは同じだ、と思える考え方なのだ。共通項に関してなら、書こうと思えばいくらでも書ける。

だから、今回は、森博嗣とどこが違うのか、という点について書こう。要約して提示するとすれば、「過去の時点での捉え方」「能力」「反応」となるだろうか。

「過去の時点での捉え方」というのは、子供の頃本というものをどんな風に見ていたのか、ということだ。森博嗣はこう書いている。

『この頃(※小学生の頃)の僕は、本というものを馬鹿にしていた。教科書もそうだが、課題図書などで読まされる本が悉くつまらなかったからである』

後半部分は共感できるのだけど、僕は決して本を馬鹿にはしていなかったな、と思う。小中高と、激しい偏りはありながらも本は読んでいたからだ。確かに、教科書とか課題図書なんかは死ぬほどつまらなかったけど、面白い本もある、とちゃんと思っていたと思う。

いや、森博嗣も、その小学生時代に本の凄さを体感することになるのだけど、それを実感した本というのが電磁気学の本なのだ。うん、なんというか、レベルが違うよなぁ。

「能力」というのは、以下のような発言に関係する。

『本で一度読んだことは、ほとんど忘れない。たとえば、僕はこれまでに読んだ小説のあらすじはすべて説明できる。二回読むことはない。一度読めば、もう読む必要がない』

『小説を読むと、僕は必ずその舞台でキャラクタが動くシーンを思い描く。こういった「展開」をしているから、読むのが遅くなるのだ。のちに小説家になり、気づいたことだが、多くの読者は、そういった「展開」をしないそうだ』

『僕の場合、概念のような抽象的なものを示す言葉も、図形でイメージしている』

まあ正直こういう部分は、脳みそが違い過ぎるのだ、と思うしかない。僕は、読んだ本はすぐ忘れるし、小説を読んでいても映像が浮かばないし、もちろん概念は言葉で捉えている。映像が浮かばない、という話で言えば、僕はたぶん脳に何か障害があるのだと思う。というのも、例えば「リンゴ」を頭に思い浮かべてください、と言われても、一切思い浮かべられないのだ。それが「犬」でも「自由の女神」でも「齋藤飛鳥(僕が好きな、乃木坂46のメンバーです)」でも、まったく映像を頭に浮かべられない。僕は昔からずっと人の顔が覚えられなかった。映像を頭に浮かべられない、というのはみんな同じだと思ってたから、みんなよく人の顔なんか記憶出来るな、と不思議に思っていたものだ。

まあこの辺りのことは、能力の問題なのでどうしようもない。

「過去の時点での捉え方」と「能力」については、価値観や考え方という部分とはちょっと離れているので、違うは違うのだけどその差異が重要だという感じはあまりしない。ただ最後の「反応」については、価値観や考え方の部分でちょっとズレるな、という感覚がある。

『ネットにおける読書体験のアウトプットは、他者に対して、「私はこれを読んだ」と伝えることが第一目的のようでもある。そうすることで、その本については話ができる、議論をする用意がある、と言っているのだ。同じ本を読んだ人に出会いたい、という希望も強いようだ。共感を求めているのである』

『たとえば、僕がたまたま手に取って素晴らしく面白い本があったとしよう。その場合、僕は「面白い本を読んだよ」とみんなに語るだろう。でも、その本がどんな内容で、何というタイトルで誰が書いたものなのかは言わない方が良いと考えている。何故なら、それは具体的なデータにすぎないからだ。』

こうしてブログで本の感想を書いている以上、この点に関しては森博嗣と大きく異なっている、と認めざるを得ない。

一応、僕の中には言い訳はある。僕自身も、無理矢理人に本を勧めようとは思っていない(ただし、仕事においては別だ)。ブログは、見たいと思う人が見ればいいと思っている。そもそも自分の中の言い訳としては、このブログは文章を書く練習のためであって、確かに公開はしているけど、誰かに見せるつもりで書いているのではない、という感じだ。誰かに本を勧めて欲しいと頼まれればもちろん引き受けるけど、「これが面白かった!」なんて押し売りするようなことはしない(繰り返すが、仕事においては別)。

とはいえ、実際にブログで本の感想を書いている、という事実は動かせないし、やはりどこかには、人に本を勧めたい、自分の文章を読んでもらいたい、という気持ちがあるのだろう。良い本に出会ったら、その本を他の人にも出会って欲しいと思う気持ちもある。こういう部分はまだまだ、森博嗣からは遠いなと思う。

書店員として、店頭で本を押し出すのは、僕にとっては仕事なので仕方ないと思っている。やるしかない。個人的には、店頭で本を勧めることに違和感を覚えることもある。正しいことをしているのか自信が持てないこともあるが、まあそれでも仕方ない、やるしかない。

さて、今挙げた点以外は、本当に、本当にまったく同じことを考えている、と思った。本をどう選ぶのか、どう読むのか、何のために読むのか、面白くない本などあるのか、知識を頭に入れる理由はどこにあるのか、文章を書けるようになるためには文章を書くしかない…などなど、僕が書いているのではないかと感じるくらい、僕が普段から考えていること、感じていることが書かれていた。

最後に。共感した部分でも、違う部分でもなく、なるほどそういう発想は(あまり)なかった、という部分に二つ触れてこの感想を終わろうと思う。

まずはこの部分。

『結局、本というのは、人とほぼ同じだといえる。本に出会うことは、人に出会うこととかぎりなく近い。それを読むことで、その人と知合いになれる。先生、友達、あるいは恋人と、本によってどんな「人」なのかという違いはあるけれど、ほぼ「個人」である。そして、多くの場合、それはその本の著者であり、またあるときは本の語り手(主人公)といえる』

『さて、そんな未来(※現在よりも電子書籍が普及し、発展した未来)において、「本」は、限りなく「人」に近づいているはずだ。一冊の本ではなく複数の本で、あるいは本以外のものを含めて、仮想の人格となって、ユーザの相手をしてくれるものになるだろう。これは、まさに未来の「友人」といえる』

確かに、「本」と「人」を同一視する見方は、非常に分かりやすいなと感じた。僕にはそこを繋ぐ発想がなかったけど、もう少し考えを突き詰めれば確かにそこに行き着くのが自然だっただろう、と思った。

もう一つはこんな文章だ。

『作家自体は、仕事として残る。これは、小説家に限らず、あらゆる分野のライタが、むしろ増加するはずである。そういったものが、人間に適した、残された職業といえるものだからである』

『そういった意味で、文章を書くこの職業は将来も不滅である、と僕は予想している。ほかのどの職業よりも人間に向いている、といえるかもしれない。おそらく、AIが作品を書くようになっても、それを隠し、人間の作者を装うだろう』

僕もぼんやりとではあるけど、文章を書く仕事は残るだろう、と思ってはいた。しかしなんというか、森博嗣が言うと、「正解」な気がするから、そこは僕の森博嗣に対する崇拝度が高いということだろう(笑)

これは僕にも実感があるが、「文章を書く」というのは決して「技術」の問題ではない。本書でも度々触れられているが、「何について書くのか」という視点・着想こそが「文章を書く」ということの本質なのであり、その点はAIに追いつかれることはないだろう、というのが森博嗣の主張(のはず)だ。よく「文章を上手く書くための方法」と言った本があるが、そういう本を読んだからと言ってどうなるものではない。大事なのは、切り取り方・見方・捉え方・視線の向け方・比較の仕方・距離の取り方などであって、まさにそれは人間に適した仕事だと言えるだろう。

あーしかし、なんというか、とても嬉しい読書体験だった。凄く嬉しい。

森博嗣「読書の価値」

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2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
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7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
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19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
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5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
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8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)