黒夜行

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鈴木成一デザイン室(鈴木成一)

『しかしながら、この手の、装丁の方向に必然性が見出だせない場合―つまり明快な「手がかり」や「口実」が見つけられない場合、何をやっても良い反面、「これはマズイのではないか」という、自由と自主規制がせめぎ合うため、それをどう克服するかが大問題になります。だいたいは締切によって克服されます(笑)』

あぁ、分かるわー、と思う。いや、こんな著名な装丁家と同等だ、などと主張したいわけでは全然ないんだけど、言ってることは凄く共感できる。

僕も、日々何かアイデアを考えている人間だ。本書の著者ほどではないが(著者はこれまで30年間で10000冊の装丁を手がけてきたそうだ。常軌を逸してるだろ)、色んなことをあーでもないこーでもないとこねくり回しながら、何かを考えている。

その時に大事なのは、なんでもいいからとっかかりがあることだ。とっかかりは「ある」ではなく「自分で作る」でもいいのだけど、とにかく何かとっかかりが欲しい。

著者は鴻上尚史の劇団のポスターやチラシをずっと担当していたらしいのだけど、それがいかに大変か、こんな風に書いています。

『この仕事が辛かった最大の原因は、宣材物作成時にまだその芝居を見ることができない、という一点に尽きます(当たり前なのですが…)。ほとんどの場合、台本すら出来ていない。あるのはタイトルぐらいで、一応制作サイドから「概念」的なものの説明はあるのですが、具体的なものがまったくわからないなかで、ビジュアルを作らなければならないのです。』

『それこそアーティストであれば、ちょっとした情報だけでいろいろ遊んじゃうと思いますが、私にはそれは本当に苦痛で仕方がなかった(笑)』

確かに、まだ中身がまったく決まっていないものを「宣伝する」ためのポスターやチラシを作らなければならない、というのも相当難しい話ですよね。これほどとっかかりのない仕事もなかなかないかもしれません。

『そういうわけで、自分はあくまで原稿のある装丁の世界が向いているという、そのことを心からわからせてくれたのも鴻上さんだった、とも言えるようです』

本書は、著者(この本には著者名が書いてないんですけど、鈴木成一が著者であることは明白なので、著者と書きます)がこれまでに装丁を手がけてきた本の中からいくつかをピックアップし、本の内容や装丁の意図、当時の苦労話などが書かれたエッセイです。

内容紹介的にはそれで済んでしまうような感じです。別に物足りないとかそういうことではなくて、カラーの写真で装丁した時の意図も含めてデザインを見れるというのは、本の中身を読むのとはまた違った形で作品を楽しめる感じがしました。

個々の本についてあれこれ書くことはしませんが、印象的なエピソードは色々ありました。<主人公の顔を出すか出さないか問題>に悩んだり、国会議事堂の写真を使うのに東武ワールドスクウェアに行ったり、文字だけの装丁には勇気がいるんだと書いてみたり、学生時代に見た「定価=2200円」から始まる装丁に度肝を抜かれたりと、興味深い話は色々と出てきます。

それらはまあ読んでもらうとして、「装丁」という行為全般について示唆的な文章についていくつか触れてみたいと思います。

『ただ、装丁にとって大切なのは、書店で「出会いがしらの発見」が起こることです』

著者は、イラストコンペの審査員などを引き受けることもあるそうですが(ってか、どこにそんな時間があるんだ?)、その時選ぶ基準は、『えっ!なんだこれ、見たことない』という点だけだそうです。本書の中でも、「この本のイメージに合うのはこれしかないと思った」とか「イメージに合う絵や写真がないかとあれこれひっくり返していた時にこれを見つけて衝撃を受けた」みたいな表現が結構随所にあります。著者自身も、驚きをベースに様々な作品を触れているので、それを装丁というステージにも持ち込みたい、という気持ちなのでしょう。

ただ、著者が作っているものは「作品」ではない、という認識のようです。

『あくまで仕事として、「これをいついつまでに作ってくれ」と言われて請け負う。そしてせっせと作る――それだけです。町工場みたいなもので、決して「作品」を作っているわけではなく、大量生産の商品の一端を担っているという意識のほうが強いように思います』

著者自身も、自分で何か作ったり、自分で写真を撮ったりすることもあるようですが、基本的には、誰かに何かを作ってもらったり、誰かに撮ってもらったりすることが著者の仕事です。最終的に形にまとめるのは装丁家である著者ですが、組み合わせるためのパーツを著者が作り出していることは少ない。そういう意味で、スティーブ・ジョブズみたいな立ち位置なのかもしれませんね。スティーブ・ジョブズも、自身では何も生み出さなかった、というようなことを言われますが、既存のものを組み合わせながら、世の中にないものを生み出した。著者の「装丁感」は、そういう感じに近いみたいです。

『本は、ポスターのように遠くから眺めるものでもなく、スマホやタブレットで眺めるデジタルのデータでもなく、あくまでリアルな物です。それをデザインする際も、パソコンは大いに活用しますが、まず何より優先したいのは「物」としての「驚き」や「感動」です。それには人の手による実感が何より大切です。
パソコンを使って作るようになっても、最終的には「本」という物体――手に取られる「物」を作るということに変わりはありません。「物」としての存在感や、手に取ったときの迫力、ゾクゾクする感じ、物理的な感触が大事なわけです』

僕自身も本屋で働いているので、「物」である本というものを日々扱っているわけです。著者とは関わり方が違うとはいえ、電子書籍なども台頭している今、やはり「物」であるということにいかにこだわるか、ということを日々模索しなければならないな、と感じています。装丁家が本を「物」という形に落とし込む人であるとするならば、書店員はその「物」をこの社会に定着させる一助を成すと言えるでしょうか。紙の本の存続がなかなか難しい時代になっていますけど、僕も自分に出来ることをやってふんばろうと思います。

あと、装丁とはちょっと違う話なんだけど、なるほどと感じた話があったので、それを引用して感想を終わりにしようと思います。

『イラストレーター全般に言えることですが、イラストレーターという職業は、基本的に発注されたものを描くわけです。つまり対象=「意味」を基に描くわけですが、往々にして絵に「意味」を与えようとする過度な使命感から、自分のスタイルをなくしてしまう人がいます。
仕事となれば緊張もするし、それがまじめな態度と言えなくもないんですが、「自分」以上に「相手」を優先させるため、確かに「答え」にはなっていますが、ぜんぜん面白くない、ということになってしまいます。その人の絵本来の魅力が置き去りにされているわけです。
デザインにも言えることですが、それは結局意味を「読み取られる」前に、一瞬にしてまず「見られてしまう」ことにどれだけ自覚的であるかが問われているんだと思います。「目を惹く」ことがイラストレーターに課された第一義的なミッションであるべきなのです。
<独自のスタイル>と<発注内容>をしなやかに両立させ続ける者がやはり生き残るのではないでしょうか』

仕事と芸術(個性)をいかに両立させるか――それは著者自身の仕事も同じでしょう。『ある程度無責任でなければこの仕事はやり続けられません』と書いているように、締切によって終わりの時間が決まっているからこそ生み出せるものがある、というのも、装丁の面白さの一つなのかもしれないと思いました。

鈴木成一「鈴木成一デザイン室」

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2013年ベスト

2013年の個人的ベストです。

小説

1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
16位 藤谷治「世界でいちばん美しい
17位 神林長平「言壺
18位 中脇初枝「わたしを見つけて
19位 奥泉光「黄色い水着の謎
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新書

1位 森博嗣「「やりがいのある仕事」という幻想
2位 青木薫「宇宙はなぜこのような宇宙なのか 人間原理と宇宙論」 3位 梅原大吾「勝ち続ける意志力
4位 平田オリザ「わかりあえないことから
5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
15位 国分拓「ヤノマミ
16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
17位 山田ズーニー「半年で職場の星になる!働くためのコミュニケーション力
18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
7位 ジュディ・ダットン「理系の子
8位 笹原瑠似子「おもかげ復元師
9位 古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち
10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
11位 石井光太「遺体
12位 佐野眞一「あんぽん 孫正義伝
13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
7位 辻村深月「オーダーメイド殺人クラブ
8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
11位 有川浩「県庁おもてなし課
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13位 宮下奈都「太陽のパスタ 豆のスープ
14位 辻村深月「水底フェスタ
15位 山田深夜「ロンツーは終わらない
16位 小川洋子「人質の朗読会
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18位 飛鳥井千砂「アシンメトリー
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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1位 「死のテレビ実験
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8位 「自閉症裁判
9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)