黒夜行

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鍬ヶ崎心中(平谷美樹)

内容に入ろうと思います。
時は明治元年。盛岡藩にある鍬ヶ崎村は、小さな港町でありながら、盛岡藩有数の花街だった。そこに住む千代菊、26歳は、3~4番手の格となる妓楼・東雲楼で長いこと女郎として生きている。東雲楼で一番年上の女郎であり、12歳で売られてから15年、既に実家で暮らした年月よりも長くここにいる。
来年になったら年季が明ける―そのことだけを思って日々をやり過ごしていた千代菊だったが、楼主の弥右衛門に難癖のようなことを言われ、年季が明けるまであと数年掛かると分かった。
あらゆる苦しみに傷つけられた心と身体は、鈍麻していると思っていたが、まだまだ痛みを感じるのだと知った。
ある日、侍が東雲楼にやってきた。髭の男は、東雲楼の3階にある隠し部屋を通年で貸してくれという。七戸和磨という密偵をそこに匿え、ということのようだ。盗み聞きしていた千代菊は一計を案じ、押し問答の末、なんと和磨に身請けしてもらうという形で話をまとめた。しばらく隠し部屋で、足の悪いこの侍の世話をしなくちゃいけないが、そんなことは大した問題ではない。千代菊は、自由になった身の上を喜んだ。
お礼にとばかりに、身体で奉仕しようとする千代菊だったが、和磨に「そんなことはしなくていい」と言われてしまう。うまく距離感も掴めないまま、和磨に見捨てられたら生きていく場所がなくなるとばかりに必死で関わりを持とうとする千代菊だったが、やがて和磨から、ここに至るまでの厳しい道のりを聞き、次第に千代菊は「七戸和磨」という男への気持ちを高まらせていく…。
というような話です。

内容紹介には書けませんでしたが、本書は史実である「宮古湾海戦」をベースにしている物語です。正直僕はこの海戦のことは知りませんでしたが、新政府軍と旧幕府軍のギリギリの攻防が行われていた頃のことだそうです。

さて本書は僕にはちょっと難しかったです。「難しかった」というのは、内容が高尚であるとかそういうことではなくて、単に僕が歴史の知識に疎い、というだけのことです。平谷美樹の作品は時々読みますが、僕がこれまで読んだ作品は、舞台や設定こそ史実をベースにしながらも、史実そのものを描いているわけではない作品が多かったのでまだついていけました。

でも本書は、確かに七戸和磨と千代菊という人物は虚構なんでしょうが、描かれているのが「宮古湾海戦」を中心とした明治維新に至るまでの史実で、だからこそ僕にはちょっとハードルが高かったです。物語のベースは、和磨と千代菊の関わり合いなんですが、その背景にはきちんと歴史の流れがあって、僕にはその歴史の流れがうまく捉えきれなかった。会津藩がどうした、盛岡藩がどうした、佐幕と倒幕がなんちゃら、どっち側の人間だったかちゃんと覚えられない人物たちがあーだこーだした、みたいな描写が結構多くて、正直、歴史が嫌いで歴史の知識がこれっぽっちもない僕には、結構読むのに苦労する作品でした。途中で、背景的な部分を理解するのを諦めてしまいました(だから、後半は、和磨と千代菊がどう動いているか、という部分にだけ注目して読みました)。

和磨が抱えている鬱屈と、それを知ってしまった千代菊の、どうすることも出来ない歯がゆさは、良かったなと思います。和磨は武士としてしか生きられず、千代菊は、女郎ではなくなったけど、とはいえ12歳から女郎しかしてこなかったのだから、世間のことなどほとんど分からない者としてしか生きていけない。大きく世の中が変わった時代に生きている僕らからすれば、千代菊の葛藤はともかく、和磨が抱えている「戦って死ななければ」という焦燥みたいなものは馬鹿馬鹿しく感じられてしまう。でも、そういう時代だったのだから仕方ないのだろう。和磨は、武士としてのプライドさえ捨てることが出来れば、いくらでも生きていく道があっただろう。しかし和磨は、武士であることに、そして武士として死ぬことにしか価値を見出すことが出来なかった。読んでいて、その点へのやりきれなさみたいなものは強く感じた。

千代菊の、自由を希求していたのに自ら囚われたような生き方に固執してしまうような感じは、傍から見て良いとか悪いとか言いにくいものがあるけど、千代菊としてもそう生きる以外になかった、という切実さは感じ取ることが出来ました。自分を囚えるものが変わっただけで、結局窮屈な生き方をせざるを得なかった千代菊は、しかし、和磨を好きだと自覚することで、ほのかな自由を感じることが出来たのかもしれない、と思います。和磨はプライドさえ捨てれば別の生き方はあっただろうけど、千代菊の場合は、ちょっと難しかったかもしれません。和磨をだしにして身請けされた形を取ったことで、結局千代菊の生き方は狭められてしまった。それでも、それまでの人生より遥かにマシだっただろうとは思いますが。

歴史的な記述に僕はついていけませんでしたが、歴史の知識がごく一般程度にある人には、面白く読める小説なんじゃないかなと思います。

平谷美樹「鍬ヶ崎心中」

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2013年の個人的ベストです。

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1位 宮部みゆき「ソロモンの偽証
2位 雛倉さりえ「ジェリー・フィッシュ
3位 山下卓「ノーサイドじゃ終わらない
4位 野崎まど「know
5位 笹本稜平「遺産
6位 島田荘司「写楽 閉じた国の幻
7位 須賀しのぶ「北の舞姫 永遠の曠野 <芙蓉千里>シリーズ」
8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
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新書

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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
6位 小阪裕司「「心の時代」にモノを売る方法
7位 渡邉十絲子「今を生きるための現代詩
8位 更科功「化石の分子生物学
9位 坂口恭平「モバイルハウス 三万円で家をつくる
10位 山崎亮「コミュニティデザインの時代


小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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16位 百田尚樹「「黄金のバンタム」を破った男
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
11位 中脇初枝「きみはいい子
12位 久坂部羊「神の手
13位 金原ひとみ「マザーズ
14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
15位 宮下奈都「終わらない歌
16位 朝井リョウ「何者
17位 有川浩「空飛ぶ広報室
18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
20位 相沢沙呼「ココロ・ファインダ

新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
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7位 ジュディ・ダットン「理系の子
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10位 ヨリス・ライエンダイク「こうして世界は誤解する
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
18位 高瀬毅「ナガサキ―消えたもう一つの「原爆ドーム」
19位 二村ヒトシ「すべてはモテるためである
20位 平川克美「株式会社という病

2011年ベスト

2011年の個人的ベストです
小説
1位 千早茜「からまる
2位 朝井リョウ「星やどりの声
3位 高野和明「ジェノサイド
4位 三浦しをん「舟を編む
5位 百田尚樹「錨を上げよ
6位 今村夏子「こちらあみ子
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8位 笹本稜平「天空への回廊
9位 地下沢中也「預言者ピッピ1巻預言者ピッピ2巻」(コミック)
10位 原田マハ「キネマの神様
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新書
1位 「「科学的思考」のレッスン
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7位 「ぐろぐろ
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9位 「孤独と不安のレッスン
10位 「月3万円ビジネス
番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)