黒夜行

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シャッター通りに陽が昇る(広谷鏡子)

僕は、地方で生まれ、ある程度長い期間都会(あるいは都会に近い場所)に住み、そして今また生まれ故郷とは違う地方で暮らしている。いわゆる、Iターンというやつだ。

今住んでいるのは、地方都市とでも呼ぶべき街であって、いわゆる「地方」と言った時にイメージするような町ではない。だから、地方に住んでいる者の立場から本書を語るわけにはいかない。とはいえ、やはり東京や大坂などと言った、いわゆる大都会とは違う環境であり、仕事や生活の中で、良い面も悪い面も、都会ではないと感じる場面もある。

大局的な視点で見れば、今後確実に人口は減っていくのだから、今の地方自治体の数がそのまま残り続けるなどということはありえない。人口の減少と共に、維持できなくなる自治体は加速度的に増えていくだろう。

つまり、地方活性化というのは、そういう大局的な視点で見れば、維持できなくなる自治体からの流入も見込んだ上で、潰れない自治体を目指す、ということになるだろう。

新幹線の駅があるとか、大きな港があるなど、地理的な要因から廃れにくい自治体もあるだろうが、そうではない、言ってしまえば「必要性・必然性があるわけではない自治体」の方が多いだろう。

そういう自治体がどう生き残っていくべきか。それは今、日本全国の様々な自治体が直面している大問題だろう。

僕は以前、「コミュニティデザインの時代」という本を読んだことがある。まさに、なんとかしようと思っている自治体やコミュニティを、コミュニケーションやデザインの力によってサポートをし続けている著者の本だ。その中で著者は、これからの「地方」の在り方について様々に語っている。

『それでは、どんな市町村がこれからの時代の先進地になり得るだろうか。都道府県の県庁所在地だろうか。きっとそうではないだろう。都道府県のなかでも中山間離島地域と呼ばれる不便な場所で、すでにここ何十年も人口が減り続けている市町村こそ、眼前にさまざまな課題が立ち現れ、その対応に追われてきた「人口減少エリート」たちが住む地域である。この人たちが発明する日々の工夫や対応策は、人口が減少する地域のなかで何をすべきなのか僕たちに教えてくれる』

『そんな開発型の利益モデルはほとんどの地方都市にとって参考にならない。むしろ、ゆるやかに人口が減っていく地方都市において、若者と高齢者の関係をうまくつなぎながら、あるいは地域の資源をうまく生かしながら、幸せに暮らしていく方法にこそ多くの人が興味を持ち始めている。人口が増えなければ利益が出ない、地域経済が成長しなければ豊かになれない、という発想ではなく、地域の適正人口規模を見据え、目標とする人口規模になったときに地域でどう暮らしていくのかを考え、それをひとつずつ実践することが重要なのである』

「地方」であるということをプラスに捉え、その中でどう生きていくかについて模索し続けることで、「地方」の未来が拓けてくるということを訴えかける本だ。

その中に、こんな文章がある。

『新たな活動を始めにくいということは、ほかならぬ地域住民が自身が一番よくわかっている。だから彼らはそのきっかけを待っている。ヨソモノが入ってきて、みんながやりたいと思っていることを堂々と語ってくれることを待っている。誘ってくれることを待っている。そこへ僕たちが舞い込むことになる。
当然、地域の人たちは僕たちをうまく利用しようとする。自分がいいたかったこと、やりたかったことを僕たちにいわせようとする。僕たちもそれを感じ取って、さらに多くの人たちに共感してもらえるようなカタチで表現しなおす、ここには暗黙の了解が成立していることが多い。「私がいうと角が立つから」「僕の口からはいえない」という言葉がワークショップの端々に出てくる。こうした意図を汲み取って、より多くの人たちが望んでいることを言葉にするのが僕たちの役割である』

本書も、ある意味で「ヨソモノ」たちの物語だ。ヨソモノだからこそ出来ることの強さみたいなものを、物語を通じて改めて実感させられた作品だった。

内容に入ろうと思います。
藤木英里子は、恋人の和生から別れ話を切り出された直後、実家の父が倒れたと母親が連絡があった。長年務めた、世間的には一流企業での仕事も、総務や事務の仕事ばかりであり、どうしても自分がやらなければならないというものでもない。色んなことが一気に吹っ切れて、英里子は実家のある瀬戸内の「さぬき亀山市」に戻ってきた。実家の「藤木フルーツ」は一旦閉めざるを得なかった。かつて賑わいを見せていた商店街は、他の地方と同様見事にシャッター街となっていて、寂しい姿を晒している。
旧友と再会したり、父の見舞いに行ったり、知り合いに誘われて謎の芸術家と顔見知りになってよく飲みに行ったり、亀山城でのラジオ体操で銀行員と知り合ったりと、故郷での生活を一から築こうとしている英里子だったが、ひょんなことから、亀山の商店街を復活させると意気込むことになってしまう。とはいえ、何が出来るということもない。ただ、英里子には唐突に感じられたあるチャンスが突破口となり、故郷ではあるが長年東京にいた「ヨソモノ」である英里子は、次第に大きなプロジェクトへと変貌していく、この商店街の再生に携わるようになっていく…。
というような話です。

いや、なかなか面白い話でした。思っていたよりも面白かったです。小説で描くには、「商店街の再生」というプロジェクトは大きすぎるために、どうしてもご都合主義的な部分は出てきてしまいます。いやいや、そんなうまくはいかんやろ、というような部分です。僕は、まあそれは仕方ないだろうと思います。本書で描きたかったのは、プロジェクト進展そのものではなくて、地方活性がどのように盛り上がっていくのかという部分のプロセスなのだろうと思いました。事態の進展自体はちょっと出来すぎていますが、そのプロジェクトの根幹を支える「地元民」と「ヨソモノ」の関係性みたいなものは、かなりちゃんと描いているんじゃないかなと感じました。

本書には、英里子だけではなく、他にも重要な役どころとして「ヨソモノ」が登場する。主に英里子を含めて3人だ。うち一人は市役所に勤めていて、もう一人はラジオ体操で知り合った銀行員だ。彼らは、この商店街再生のプロジェクトにおいて欠かすことの出来ない存在だ。彼らは適所で、「ヨソモノ」にしか出来ない形でプロジェクトを進展させていく。

しかし、やはり地方活性は「ヨソモノ」だけではどうにもならない。やはり「地元民」が立ち上がらなければならない。しかし「地元民」だけでは、正直どうにもならないのだ。本書ではそこまで明白には描かれないが、前述した「コミュニティデザインの時代」にあったように、「地元民」同士では、「私がいうと角が立つから」「僕の口からはいえない」というような、人間関係が深いが故の壁みたいなものが存在する。

本書では、英里子という「ヨソモノ」代表を主人公に据え、「地元民」と「ヨソモノ」がどんな風に関わり合いを持ち、どう打ち解けていき、その結果どんなうねりとなっていくのかという部分がしっかりと描かれていて、その部分が非常に面白いなと思った。

また本書では、商店街の再生がちゃんと描かれ始めるのは中盤に差し掛かってからだ。250ページ強の物語のさらに後ろ半分で商店街の再生に取り組むのだから、そりゃあ駆け足になってしまっても仕方ない。

じゃあ、前半では何が描かれるのか。もちろん、英里子が地元に戻ってきてから、いずれ商店街復興の立役者となる人たちと出会い関わり合いを持つようになる過程も描かれるのだけど、それと同時に、英里子が「故郷」であり、また「東京に出たことでずっと離れていた土地」でもある地元に戻ってくることで感じる様々な違和感や気付きみたいなものが描かれていきます。

『彼女たちと自分に大きな違いはないように見える。けれど、大学時代の友達や会社の同僚や、東京でできた一番の親友の麻由とかわす会話ほど、彼女たちとの会話はしっくりこない。それは地方と東京の差なのか、単に長く会ってなかったタイムラグのせいなのか、英里子にはわからなかった。そのタイムラグが埋まる気もしなかった』

『そして一つの事実を発見した。
田舎には敬語が存在しない』

『自分の生まれ育った田舎を、観念上の“田舎”としてとらえてきたのだと英里子は気づいた。
凝り固まったマイナスイメージとしての“田舎”。世界の事情に疎くて、いやそれどころか、日本の政治や社会情勢についてもさして興味がなく、関心のあるのはせいぜい自分の暮らす地域、半径二、三キロ程度の範囲の事で、東京のものはなんでもお洒落で高級と、意味もなくありがたがり、テレビに出ているヒトは偉く、お上や権威に弱くて、平日も休日も安っぽい格好をし、本物と偽物の区別もわからず、テレビのバラエティーを見て馬鹿笑いをし、朝早く起きて夜早く練る生活に何の不満もなく、いやもしあっても、週末に安っぽい居酒屋で飲んで騒げば容易に解消する程度の不満に過ぎず、人のプライバシーにどんどん踏み込む事もいとわない。そういうイメージとしての“田舎”。
そこは英里子が二十年前に抜け出したかった場所そのものだった。でもあのこと、英里子はいったいその場所の何を知っていたというのだろう』

英里子は、親の介護を理由に「仕方なく」地元に戻ってきたわけだが、正直なところ、都会的なものに未練があるわけでもなかった。恋人には振られたし、仕事もやりがいがあるわけではない。唯一の心残りは、近くにあった良いパン屋さんに通えなくなることぐらい。

それぐらい、都会に未練がない英里子だったが、しかしやはり長い間離れていた地方という日常にすんなり馴染めるというわけではなかった。英里子は物語の後半で、商店街の再生に邁進するのだけど、しかしそうなる前にまず、自らが亀山市民としてちゃんといられるようにならなければならなかった。その辺りの、地元なのだけど長年離れていたが故にもう一度溶け込む努力をしなければならない、というもどかしさみたいなものが背景としてきちんと描かれていたのが良かったなと思いました。

広谷鏡子「シャッター通りに陽が昇る」

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14位 朝井リョウ「世界地図の下書き
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
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11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

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2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
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9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
19位 原田マハ「楽園のカンヴァス
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
2位 森達也「A」「A3
3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
5位 クリストファー・チャブリス+ダニエル・シモンズ「錯覚の科学
6位 卯月妙子「人間仮免中
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13位 結城浩「数学ガール ガロア理論
14位 雨宮まみ「女子をこじらせて
15位 ミチオ・カク「2100年の科学ライフ
16位 鹿島圭介「警察庁長官を撃った男
17位 白戸圭一「ルポ 資源大陸アフリカ
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