黒夜行

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モナリザ・ウイルス(ディボール・ローデ)

昔から僕には、疑問に思っていることがある。「夕日を美しいと感じるのは何故か?」というものだ。

より本質的な問い方をすれば、「夕日を美しいと感じるのは先天的なものなのか、あるいは後天的なものなのか」ということだ。世の中に美しいものは様々あるはずだが、その中から何故夕日を選んだのかというと、人種や地域に関係なく、地球上に住む多くの人たちがそれを「美しい」と感じるのではないか、と想像しているからだ。

僕は、いつから夕日が綺麗だと思うようになったのか、記憶がない。絵本や学校の授業で、「夕日は綺麗なものなのだ」という教育をされたのかもしれない。そうであるなら、「夕日は美しい」と感じるようになったのは後天的だということになる。でも、僕の中ではその説明は、あまりしっくりこない。本当だろうか?と思ってしまう。人間はそもそも、夕日を見たら美しいと感じるようにプログラムされているのではないか、と感じている。

そう感じる根拠は、はっきり言ってどこにもない。僕の憶測だ。これを確かめる実験はきっとデザイン出来るだろう。既に行われていたりするだろうか?

人類は「美しさ」というものに、一つ答えを出している。それが「黄金比」だ。これは、美しいとされているものの中に多く存在する比率である。美人の顔のパーツの随所に黄金比は現れ、また自然界や建築物など様々なところで黄金比が登場する。

黄金比の状態にあるものを「美しい」と感じる、というのは、一つ答えとして分かりやすい。しかし恐らく、夕日は黄金比とは関係ないだろう。では何故美しいと感じるのか。

進化論的な説明をするならば、「夕日を美しいと感じる遺伝子が生き残ったのだ」となるかもしれない。しかし、うーん、しっくり来ないな。

美しさというのは、なかなか難しいものだ。

内容に入ろうと思います。
神経美学の寵児として脚光を浴びる研究者であるヘレンは、ある日知らない男からの電話を受ける。パトリックと名乗ったその男は、ヘレンの娘であり、治療のために遠く離れたクリニックで療養しているマドレーヌに言及した。なんでもパトリックによれば、パトリックの父が何週間も失踪しており、家からヘレンの電話番号と、マドレーヌの名前が書かれた紙が見つかったというのだ。すぐにクリニックに連絡を取ると、マドレーヌはいなくなっているという。ヘレンはすぐにパトリックと接触した。そこで彼女は、パトリックの父・パヴェルの狂気に触れることになる。そこから、ヘレンの長い長い忍耐の時間が始まっていく。
一方、FBIのミルナーは、メキシコで起こった誘拐事件の捜査をしていた。ミス・アメリカ候補たちを乗せたバスが襲撃され、乗っていた美女たちが行方不明になっているのだ。またミルナーは、ミツバチの失踪の捜査もしていた。アメリカ全土で、恐るべきスピードでミツバチがいなくなっているという。ミツバチは地球上の様々な植物の受粉に関わっており、食糧の30%はミツバチがいない受粉出来ない。あのアインシュタインはかつて、ミツバチがいなくなったら人類は4年しか生きられない、と言ったという。
そしてやがて世界は、後に「モナ・リザ・ウイルス」と名付けられるコンピュータウイルスの被害にさらされることになる。写真や動画のありとあらゆる人の顔が恐るべき醜さに歪められていくのだ。また、世界のどこかで断続的に、美しい建造物が破壊される。犯行現場にはミツバチのマークが残されており…。
というような話です。

まあまあ面白い作品でした。展開がスピーディーで、そういう点ではなかなか読ませます。ただ個人的には、もうちょっと何かあって欲しかったなという感じの物足りなさもありました。

群像劇、という感じで、様々な人物を主人公にした断片的な描写が、場面転換を頻繁にしながら続いている、という感じの構成です。主に、神経美学研究のヘレンと実業家の息子であるパトリックの物語と、FBI捜査官のミルナーの物語で占められていますが、それ以外にも様々な人物や描写が登場します。中には、1500年代を舞台に、レオナルド・ダ・ヴィンチや愛弟子であるサライを描くものもあります。それらが、「美しさ」というテーマで繋がっていく感じです。

で、その全体の構造がちょっと弱いかなぁ、と思ってしまいました。物語の早い段階で、「美」をターゲットに様々なテロを仕掛けていることが明らかになる、というのは良いと思います。その一点を伏せて最後まで引っ張るというのは、物語の分量的にも現実的ではないでしょうし。でも、とはいえ、もうちょっと奥行きが欲しかったなとも思いました。「美」をターゲットにする、「黄金比」を標的にする、という描写で、パヴェルの目的の大半を説明できてしまいます。もちろん、ラストの方で細々とした展開はあります。なるほどなぁと思う部分もありました。けど、パヴェルが何をしたいのか、という部分は、かなり早い段階で明らかになってしまうので、そのさらに奥の何かがない、というのがもったいない気がしました。

とはいえ、黄金比に目をつけて、黄金比を改変することで美を破壊するウイルスという発想は秀逸だなぁ。さらにそこにレオナルド・ダ・ヴィンチやモナ・リザが絡んでくる。ミツバチはちょっと関連が薄いなぁと思ってしまったけど、何にせよ、一人の狂気がこれだけの事態を引き起こしたのだ、という部分を納得させるようなパヴェルの造形と、ヘレンが巻き込まれることになるあまりに荒唐無稽な計画のスケールのデカさがなかなか面白かったです。

ディボール・ローデ「モナ・リザ・ウイルス」



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2013年の個人的ベストです。

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8位 舞城王太郎「ディスコ探偵水曜日
9位 松家仁之「火山のふもとで
10位 辻村深月「島はぼくらと
11位 彩瀬まる「あのひとは蜘蛛を潰せない
12位 浅田次郎「一路
13位 森博嗣「喜嶋先生の静かな世界
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15位 花村萬月「ウエストサイドソウル 西方之魂
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新書

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5位 山田真哉+花輪陽子「手取り10万円台の俺でも安心するマネー話4つください
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8位 更科功「化石の分子生物学
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小説・新書以外

1位 門田隆将「死の淵を見た男 吉田昌郎と福島第一原発の五〇〇日
2位 沢木耕太郎「キャパの十字架
3位 高野秀行「謎の独立国家ソマリランド
4位 綾瀬まる「暗い夜、星を数えて 3.11被災鉄道からの脱出
5位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠 3巻 4巻 5巻
6位 二村ヒトシ「恋とセックスで幸せになる秘密
7位 芦田宏直「努力する人間になってはいけない 学校と仕事と社会の新人論
8位 チャールズ・C・マン「1491 先コロンブス期アメリカ大陸をめぐる新発見
9位 マーカス・ラトレル「アフガン、たった一人の生還
10位 エイドリアン・べジャン+J・ペタ―・ゼイン「流れとかたち 万物のデザインを決める新たな物理法則
11位 内田樹「下流志向 学ばない子どもたち 働かない若者たち
12位 NHKクローズアップ現代取材班「助けてと言えない 孤立する三十代
13位 梅田望夫「羽生善治と現代 だれにも見えない未来をつくる
14位 湯谷昇羊「「いらっしゃいませ」と言えない国 中国で最も成功した外資・イトーヨーカ堂
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18位 大崎善生「赦す人」 19位 橋爪大三郎+大澤真幸「ふしぎなキリスト教
20位 奥野修司「ねじれた絆 赤ちゃん取り違え事件の十七年


コミック

1位 古谷実「ヒミズ
2位 浅野いにお「世界の終わりと夜明け前
3位 浅野いにお「うみべの女の子
4位 久保ミツロウ「モテキ
5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

番外

感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

2012年ベスト

2012年の個人的ベストです
小説

1位 横山秀夫「64
2位 百田尚樹「海賊とよばれた男
3位 朝井リョウ「少女は卒業しない
4位 千早茜「森の家
5位 窪美澄「晴天の迷いクジラ
6位 朝井リョウ「もういちど生まれる
7位 小田雅久仁「本にだって雄と雌があります
8位 池井戸潤「下町ロケット
9位 山本弘「詩羽のいる街
10位 須賀しのぶ「芙蓉千里
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14位 森博嗣「実験的経験 EXPERIMENTAL EXPERIENCE
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16位 朝井リョウ「何者
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18位 池井戸潤「ルーズベルト・ゲーム
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新書

1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
2位 木暮太一「僕たちはいつまでこんな働き方を続けるのか?
3位 瀧本哲史「武器としての交渉思考
4位 坂口恭平「独立国家のつくりかた
5位 古賀史健「20歳の自分に受けさせたい文章講義
6位 新雅史「商店街はなぜ滅びるのか
7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
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3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
4位 國分功一郎「暇と退屈の倫理学
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番外 「困ってるひと」(諸事情あって実は感想を書いてないのでランキングからは外したけど、素晴らしい作品)