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エスケープジャーニー 1・2(おげれつたなか)

『太一とは、「恋人」じゃダメだった。なら「友達」に戻れば、またうまくいくのだろうか。俺と太一は、どんな名前だったらうまくいくんだろう』

あぁ、すげぇ分かるなぁ、と思う。

僕は、数少ない恋愛経験から、「恋人」という名前だとうまく行かないことが分かった。相手のことがどれだけ好きでも、「恋人」になるとダメ。僕はそのことに、色んな理屈をつけて自分を納得させようとしてるんだけど、どうしてそうなってしまうのか、本当のところはよく分からない。

そういう人は、男女限らず結構いるだろう。例えばちょっと話はズレるかもしれないが、「好きな人なのに、相手に好きになられると、気持ち悪いと感じてしまう現象」には「蛙化現象」という名前がついており、論文も存在する。論文が存在することと、論文の内容が正しいことは、決してイコールではないけど、「蛙化現象」と呼ばれる現象に近いことは、僕にも理解できる。僕も、その人のことが好きなはずなのに、相手が自分のことを好きになってくれると、相手への関心を失ってしまう。自分でも、どうしてそうなるんだかイマイチ分からないのだけど、どうしてもそうなってしまうんだからしょうがない。

でも、男女の恋愛をテーマに、この「蛙化現象」を描くのは、ちょっと困難だろう。論文になんて書かれているのかは知らないが、少なくとも「蛙化現象」はまだ一般的な概念ではないだろうし、であればその現象を理解してもらうために様々な説明や状況設定が必要になる。決して少なくない人間が「蛙化現象」を感じているはずだろうに、それを表現するのにはなかなか困難だろう。

そして、もう少し話を拡大して、「蛙化現象」に限らず、「恋人になるとうまくいかなくなってしまう」というのを男女の恋愛で描き出すのは、結構難しいように思う。男女の恋愛の場合は、恋人になったことそのものではなくて、何らかの外的要因とか、お互いの内面の変化など、そうだよねそれなら恋人としてうまくやっていけないよね、と思ってもらえるような何かを用意しないと、なかなか描きにくい。

でも、男同士の恋愛であれば、それをうまく描ける。

『女の子は友達、恋人、それから結婚して家族になる。でも俺と太一は恋人がゴールで最後だった』

男女ではうまく説明できない「恋人になったらうまくいかない理由」を、この作品では、「男同士だと家族になれないから、恋人が関係性の執着だ」という描き方をすることで提示する。そこに、この作品がBLである必然性があって、そういう作品は好きだ。

『どうなったらゴールなのかも分かんねえ』

「好きだ」ということを描くだけなら簡単だ。喧嘩して、仲直りして、トラブルを乗り越えて、セックスして、そういう二人のやり取りを眺めるだけで楽しい、という人もいるだろう。でもこの作品のように、男同士の関係性をリアルに突き詰めてみるのも面白い。

「家族」なんて概念は、時代によって変わる。時代の都合に合わせて、特に為政者にとって分かりやすい価値観に押し込められるだけのことだ。そんな押し付けられた「家族」って概念なんて、さっさと捨てればいい。

『男2人ってやっぱり、ご近所の目とか物騒だと思われたりするんですよ。何より偏見がありますからねぇ…大家さんにもよるんですけど』

社会は、簡単には新しいものを受け入れない。いや、別に男同士の関係は、新しいもの、というわけではないか。やはりこう言うべきだな。多数派は、簡単には少数派を受け入れない。だから、多数派の論理についていけないと思ったら、多数派の論理なんか捨てるしかない。

『こえーんだよ。なんか…なんでもいい。名前がつかないと。友達とか恋人とか…家族とかさ』

名前が付けられたって、そこに自分たちの関係を押し込めているだけなら意味がない。2巻目は、彼らにその自覚を促す展開だった。

僕は、なるべく名前の付かない関係性を目指している。窮屈に生きるより、全然マシだ。

内容に入ろうと思います。
高校時代付き合っていた太一と直人は、酷い別れ方をして、疎遠になった。驚異のコミュ力で大学入学早々男女ともにすぐに仲良くなってしまう直人は、あちこち声を掛けている時に驚いた。
同じ大学に、太一がいたのだ。高校時代、文系だった直人と理系だった太一。大学が被るはずないと思っていたけど、まさかここで会うとはね。
直人は、気まずさを抱えながら太一と一緒にいるが、次第に分かってくる。
太一とは「恋人」ではいられなかっただけで、「友達」としては凄く楽しい、と。好きになりさえしなければ大丈夫、余裕だ。
そう思っていたのに、やっぱりダメだった。結局また太一と関係を持ち、付き合うことになってしまった…。
というところから物語が始まっていきます。

本書の核となる部分については冒頭で触れたので、あと僕が書きたいことは2つ。

一つは、本書には珍しく「女子」が登場する、ということです。もちろん、モブ的な感じで女子が登場するBLはあるでしょうけど、本書では、恋愛対象者として女子が登場します。これは、水城せとな「窮鼠はチーズの夢を見る/俎上の鯉は二度跳ねる」でも同様でしたけど、物語の展開のさせ方としては、恋愛対象者として女子が登場すると圧倒的に難しくなります。だって、「男」と「女」を比較させて、「男」を選ばせなければいけないわけですから。それを、ごく自然にやるのは凄く難しいと思うので、そういう意味でも本書はなかなか凄いなと思います。

あともう一つ。本書は、直人が超チャラ男で、作品全体の雰囲気はその直人の雰囲気に引きずられる形で超チャラい感じになっています。でも、作品全体のテーマとしては、「男同士でも家族になり得るか」というかなり真剣なもので、そのギャップが結構良い効果を出していると思います。あとがきで著者が、「今時の若者言葉の難解さにも苦しみましたが」と書いているように、学内で展開される会話にたまについていけないこともあるぐらい、「今時の若者感」全開って感じでしたけど、それでも真剣な場面ではびっくりするぐらい真剣で、その緩急が凄くいいなぁ、と思いました。

2巻では、仁科京っていう新キャラが登場して物語をかき回しますが、さてさてこの後太一と直人がどうなっていくのか、楽しみでございますね!

おげれつたなか「エスケープジャーニー 1・2」



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3位 浅野いにお「うみべの女の子
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感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

水城せとな「チーズは窮鼠の夢を見る」「俎上の鯉は二度跳ねる」

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1位 倉本圭造「21世紀の薩長同盟を結べ
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7位 瀬名秀明「科学の栞 世界とつながる本棚
8位 イケダハヤト「年収150万円で僕らは自由に生きていく
9位 速水健朗「ラーメンと愛国
10位 倉山満「検証 財務省の近現代史

小説以外

1位 朝日新聞特別報道部「プロメテウスの罠」「プロメテウスの罠2
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3位 デヴィッド・フィッシャー「スエズ運河を消せ
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