薊/錆びた夜でも恋は囁く/恋愛ルビの正しいふりかた/はだける怪物 上(おげれつたなか)
【俺、これ以上ひどい奴になりたくない。なのにダメだ。このままじゃお前にもっと酷いことしちまう。俺達そのうち、楽しかった頃もきっともう思い出せなくなる。でも、今ならまだ間に合うんだ。
助けてくれ】
恋愛になると、どうもうまく行かなくなる。そうしたいなんて思っていないのに、相手に嫌なことをしてしまう。相手を傷つけなくちゃ、自分を守れないと思ってしまう。相手との距離が縮まれば縮まるほど、僕は嫌な自分になる。
【俺は…追いつめられりゃ、何するか分かんねぇような奴だ。だから大事だって思う人もつくりたくない。傷付けるのも離れることになるのも分かってる】
自分は悪くないって思い込むために、ずっと相手のせいだと思っていたんだけど、あぁそうじゃないんだなって途中で気づいた。僕の問題なんだなぁ、って。だから、「大事だって思う人もつくりたくない」ってのは、凄く分かる。自分が大切にしたいと思えば思うほど、その人には近づかない方がいいんだろうな、と感じてしまう。
【あの人といると「理想」でいられなくなる】
距離が縮まれば縮まるほど、「こんな風には振る舞いたくない」という自分に近づいてしまう。その度に、嫌だなと思う。またここにたどり着いてしまうのか、と思う。うんざりする。そういう自分に気づきたくないから、もういいや、と思う。恋愛も家族も、僕には向いてない。
それに、大事な人が出来ると、自分が弱くなる。
【真山さえいなければ、僕は自分の思った通り立っていられるのに、真山といるとひとりじゃ立っていられなくなりそうになる。】
誰かの存在を希求することは、そう、一人では立っていられなくなることだ。それは怖い。
【全て見せてしまったとして、真山がいなくなったらどうする?】
一人で立っていられない自分にはなりたくない。
【真山のことがこわい。ひとりで立っていたい】
一人で立っていられないことは、寄りかかっている存在がいなくなった時の自分へのダメージも怖いけど、それ以上に、相手への負担が気になる。自分が一人で立っていられないということは、相手に支えてもらっている、ということだ。
支えたいと望む人も、世の中にはいるのだろう。でも、僕自身がそういう人間ではないから、そういう気持ちをうまく想像できない。想像できないから、なかなか信じることが出来ない。信じることが出来ないから、相手への負担になっているのではないかという懸念を捨てきれない。
だから、遠ざけたくなるし、傷つけたくなる。
【俺はただ、惨めでいたくない。都合よく扱われても、酷くされても、俺は自分をかわいそうだと思いたくない。だから俺は、自分がかわいそうにならないために、泣かなかったし、誰にも頼らなかったんだ。自分のために笑ってただけ。それで良かった。なのに、お前がただひとり、俺をかわいそうな奴にする。お前が一番、俺を傷つけんだよ】
弱くなりたくなくて、虚勢を張る。一度弱くなってしまったら、二度と一人では立ち上がれないと知っているから、差し伸べられた手をはねのける。一度優しさを受け入れてしまったら、その優しさを当然のものとして扱いたくなる自分が嫌で、優しさを拒絶したくなる。
【この手を取っちゃだめだ。この手を取ったら、全部終わる】
すべては、自分のことを信用できない弱さが生み出している。
【傷つけることしかしてこなかったから、今も…分からなくなる。お前のこと、大事にできてんのかどうかって】
「怪物」が、自分の中にいる。目を覚まさせてはいけない。起きてしまえば、自分ではもう制御出来なくなってしまう。だから、自分の感情をコントロールする。
誰も傷つけないために。
内容をそれぞれ紹介するのではなくて、全体の設定をざざっと書いておきましょう。
弓とかんちゃん(かんのすけ)は、高校の同級生。かんのすけは高校を卒業して働きに出る。妹の学費を稼ぐためだ。でも、そこは壮絶なブラック企業だった。でもかんのすけはそこから離れられない。学歴のない男に、行き先などないからだ。そんな鬱憤を晴らすかのように、かんのすけは弓を殴るようになる。その衝動を抑えきれない。
弓はアルバイト先で、中学時代の同級生・真山と再会する。卒業後ケータイを水没させて、ずっと連絡を取れないでいた相手だ。弓は、真山に近づいてはいけないと思う。思うのだけど、なんとか会う理由を探している。弓は時々、殴られた姿でバイト先に顔を出す。真山はそれを見て、弓を心配するが、真山が差し伸べる手を、弓は素直に掴むことが出来ない。
林田は、強面の顔で社内で恐れられているが、イケメンの後輩である秀那をセフレにしている。飲み会の後、酔いつぶれた林田を介抱しつつ、先に手を出してきたのは秀那の方だ。これまで女性からモテまくってきた秀那だが、男も悪くないと、林田とヤッてみて思う。林田は、秀那とセックスが出来ればいいと思っているが、秀那は次第に林田にのめり込んでいく。林田の部屋に貼られた写真のせいもある。高校時代、付き合っていた彼氏だそうだ。
付き合って欲しいと言った秀那に対し、林田は、かつて付き合っていた相手を殴っていたと告白するが…。
というような話です。
「恋愛ルビの正しいふりかた」だけ単体で読んでいたのだけど、正直その時は、あまり良い作品だとは思いませんでした。でも今回、一連の作品を読んで林田の背景を知ったことで、印象がガラッと変わりました。
今回読んだ一連の作品は、僕が好きなタイプのBLとはちょっと違います。僕が好きなBLは、「ゲイがノンケを好きになって、そのノンケとどう恋愛関係に持っていくのかゲイが葛藤する」というものです。今回の作品は、元々ゲイなのかどうかはともかく、男同士が付き合ったりセックスしたりすることに抵抗のない者同士の話で、僕がBLに求める葛藤が描かれているわけではありません。
ただ、彼らは別の形で葛藤を抱えていて、それが自分が抱える葛藤に近いと感じられました。
「怪物」という表現が本当に適切だと思うんだけど、自分の内側に「怪物」を抱えている者が、自分の振る舞いに自信が持てずに怯える。それは、凄くよく分かる。自分ではどうにも出来ない「怪物」が出て来るかもしれないと怯えながら生きていくのは、正直めんどくさい。めんどくさいから、その可能性を断ち切っちゃえばいい、と思うんだけど、まあなかなかそうもいかない。その辺りの葛藤は、すげぇ分かるなぁ、と思った。
もう一つ、これも冒頭で書いたけど、大事な存在が出来ることで自分が弱くなってしまうことの怖さみたいなものも、分かるなぁ、って感じでした。弓は、殴られている自分の状況に対して苦痛を感じない。僕も、殴られたことはないから正確には分からないけど、気持ちは分かるはず。誰かの悪意や衝動が、自分だけに向けられているなら、たぶん耐えられるんじゃないかなって思う。自分で立っていられているような感じがするから。
でも、自分で立っていられないような感じがするのは怖い。
この作品ではそれを、自分の弱さを理解しようとする男への恐怖として描かれている。それも分かる。僕は他にも、悪意や衝動が、自分の大事な人に向けられる怖さ、みたいなのもあると思う。自分の大事な人が傷つけられる様を見せられるのは、自分で立っていられないような感じに近いような気がする。
「怪物」と「弱さ」、抱えている葛藤の質は違うのだけど、どちらの葛藤も、あぁ分かるなぁ、という感じだった。
そして、これはこれで、BLの方が描きやすいものなんだろう、と感じた。
「殴る」というのは、男女間ではあまりにもバランスが取れなさすぎる。男が女を殴るのは、葛藤として描くにはあまりにもアンバランスだ。その点、男同士なら、「喧嘩の延長だよ」なんてごまかしたり出来る程度にはバランスが取れる。しようと思えば抵抗だって出来るはずなんだから、暴力を続けるのも受け入れるのも、見方次第では本人の選択とも取れる。これはBLならではだな、と思う。
また、相手の弱さを理解しようとする、というのも、男女間だと「哀れみ」が際立ちそうだ。真山が男だからこそ、弓を心配する気持ちは純粋なものとして受け取りやすいけど、もし真山が女で同じことをしていたら、「哀れみ」が先に立って心配する気持ちを素直に受け取れない可能性もあるかもしれない。そういう意味でこれも、男同士だからこそ描きやすいのかもしれない、と思う。
こういう、BLであることに必然性を感じさせてくれる作品は良いと思う。
おげれつたなか「薊/錆びた夜でも恋は囁く/恋愛ルビの正しいふりかた/はだける怪物 上」
助けてくれ】
恋愛になると、どうもうまく行かなくなる。そうしたいなんて思っていないのに、相手に嫌なことをしてしまう。相手を傷つけなくちゃ、自分を守れないと思ってしまう。相手との距離が縮まれば縮まるほど、僕は嫌な自分になる。
【俺は…追いつめられりゃ、何するか分かんねぇような奴だ。だから大事だって思う人もつくりたくない。傷付けるのも離れることになるのも分かってる】
自分は悪くないって思い込むために、ずっと相手のせいだと思っていたんだけど、あぁそうじゃないんだなって途中で気づいた。僕の問題なんだなぁ、って。だから、「大事だって思う人もつくりたくない」ってのは、凄く分かる。自分が大切にしたいと思えば思うほど、その人には近づかない方がいいんだろうな、と感じてしまう。
【あの人といると「理想」でいられなくなる】
距離が縮まれば縮まるほど、「こんな風には振る舞いたくない」という自分に近づいてしまう。その度に、嫌だなと思う。またここにたどり着いてしまうのか、と思う。うんざりする。そういう自分に気づきたくないから、もういいや、と思う。恋愛も家族も、僕には向いてない。
それに、大事な人が出来ると、自分が弱くなる。
【真山さえいなければ、僕は自分の思った通り立っていられるのに、真山といるとひとりじゃ立っていられなくなりそうになる。】
誰かの存在を希求することは、そう、一人では立っていられなくなることだ。それは怖い。
【全て見せてしまったとして、真山がいなくなったらどうする?】
一人で立っていられない自分にはなりたくない。
【真山のことがこわい。ひとりで立っていたい】
一人で立っていられないことは、寄りかかっている存在がいなくなった時の自分へのダメージも怖いけど、それ以上に、相手への負担が気になる。自分が一人で立っていられないということは、相手に支えてもらっている、ということだ。
支えたいと望む人も、世の中にはいるのだろう。でも、僕自身がそういう人間ではないから、そういう気持ちをうまく想像できない。想像できないから、なかなか信じることが出来ない。信じることが出来ないから、相手への負担になっているのではないかという懸念を捨てきれない。
だから、遠ざけたくなるし、傷つけたくなる。
【俺はただ、惨めでいたくない。都合よく扱われても、酷くされても、俺は自分をかわいそうだと思いたくない。だから俺は、自分がかわいそうにならないために、泣かなかったし、誰にも頼らなかったんだ。自分のために笑ってただけ。それで良かった。なのに、お前がただひとり、俺をかわいそうな奴にする。お前が一番、俺を傷つけんだよ】
弱くなりたくなくて、虚勢を張る。一度弱くなってしまったら、二度と一人では立ち上がれないと知っているから、差し伸べられた手をはねのける。一度優しさを受け入れてしまったら、その優しさを当然のものとして扱いたくなる自分が嫌で、優しさを拒絶したくなる。
【この手を取っちゃだめだ。この手を取ったら、全部終わる】
すべては、自分のことを信用できない弱さが生み出している。
【傷つけることしかしてこなかったから、今も…分からなくなる。お前のこと、大事にできてんのかどうかって】
「怪物」が、自分の中にいる。目を覚まさせてはいけない。起きてしまえば、自分ではもう制御出来なくなってしまう。だから、自分の感情をコントロールする。
誰も傷つけないために。
内容をそれぞれ紹介するのではなくて、全体の設定をざざっと書いておきましょう。
弓とかんちゃん(かんのすけ)は、高校の同級生。かんのすけは高校を卒業して働きに出る。妹の学費を稼ぐためだ。でも、そこは壮絶なブラック企業だった。でもかんのすけはそこから離れられない。学歴のない男に、行き先などないからだ。そんな鬱憤を晴らすかのように、かんのすけは弓を殴るようになる。その衝動を抑えきれない。
弓はアルバイト先で、中学時代の同級生・真山と再会する。卒業後ケータイを水没させて、ずっと連絡を取れないでいた相手だ。弓は、真山に近づいてはいけないと思う。思うのだけど、なんとか会う理由を探している。弓は時々、殴られた姿でバイト先に顔を出す。真山はそれを見て、弓を心配するが、真山が差し伸べる手を、弓は素直に掴むことが出来ない。
林田は、強面の顔で社内で恐れられているが、イケメンの後輩である秀那をセフレにしている。飲み会の後、酔いつぶれた林田を介抱しつつ、先に手を出してきたのは秀那の方だ。これまで女性からモテまくってきた秀那だが、男も悪くないと、林田とヤッてみて思う。林田は、秀那とセックスが出来ればいいと思っているが、秀那は次第に林田にのめり込んでいく。林田の部屋に貼られた写真のせいもある。高校時代、付き合っていた彼氏だそうだ。
付き合って欲しいと言った秀那に対し、林田は、かつて付き合っていた相手を殴っていたと告白するが…。
というような話です。
「恋愛ルビの正しいふりかた」だけ単体で読んでいたのだけど、正直その時は、あまり良い作品だとは思いませんでした。でも今回、一連の作品を読んで林田の背景を知ったことで、印象がガラッと変わりました。
今回読んだ一連の作品は、僕が好きなタイプのBLとはちょっと違います。僕が好きなBLは、「ゲイがノンケを好きになって、そのノンケとどう恋愛関係に持っていくのかゲイが葛藤する」というものです。今回の作品は、元々ゲイなのかどうかはともかく、男同士が付き合ったりセックスしたりすることに抵抗のない者同士の話で、僕がBLに求める葛藤が描かれているわけではありません。
ただ、彼らは別の形で葛藤を抱えていて、それが自分が抱える葛藤に近いと感じられました。
「怪物」という表現が本当に適切だと思うんだけど、自分の内側に「怪物」を抱えている者が、自分の振る舞いに自信が持てずに怯える。それは、凄くよく分かる。自分ではどうにも出来ない「怪物」が出て来るかもしれないと怯えながら生きていくのは、正直めんどくさい。めんどくさいから、その可能性を断ち切っちゃえばいい、と思うんだけど、まあなかなかそうもいかない。その辺りの葛藤は、すげぇ分かるなぁ、と思った。
もう一つ、これも冒頭で書いたけど、大事な存在が出来ることで自分が弱くなってしまうことの怖さみたいなものも、分かるなぁ、って感じでした。弓は、殴られている自分の状況に対して苦痛を感じない。僕も、殴られたことはないから正確には分からないけど、気持ちは分かるはず。誰かの悪意や衝動が、自分だけに向けられているなら、たぶん耐えられるんじゃないかなって思う。自分で立っていられているような感じがするから。
でも、自分で立っていられないような感じがするのは怖い。
この作品ではそれを、自分の弱さを理解しようとする男への恐怖として描かれている。それも分かる。僕は他にも、悪意や衝動が、自分の大事な人に向けられる怖さ、みたいなのもあると思う。自分の大事な人が傷つけられる様を見せられるのは、自分で立っていられないような感じに近いような気がする。
「怪物」と「弱さ」、抱えている葛藤の質は違うのだけど、どちらの葛藤も、あぁ分かるなぁ、という感じだった。
そして、これはこれで、BLの方が描きやすいものなんだろう、と感じた。
「殴る」というのは、男女間ではあまりにもバランスが取れなさすぎる。男が女を殴るのは、葛藤として描くにはあまりにもアンバランスだ。その点、男同士なら、「喧嘩の延長だよ」なんてごまかしたり出来る程度にはバランスが取れる。しようと思えば抵抗だって出来るはずなんだから、暴力を続けるのも受け入れるのも、見方次第では本人の選択とも取れる。これはBLならではだな、と思う。
また、相手の弱さを理解しようとする、というのも、男女間だと「哀れみ」が際立ちそうだ。真山が男だからこそ、弓を心配する気持ちは純粋なものとして受け取りやすいけど、もし真山が女で同じことをしていたら、「哀れみ」が先に立って心配する気持ちを素直に受け取れない可能性もあるかもしれない。そういう意味でこれも、男同士だからこそ描きやすいのかもしれない、と思う。
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