乃木坂46の背骨から、一人のアイドルへ・生駒里奈
生駒里奈は最初から、「乃木坂46」を背負わされていた。
今、名実ともに乃木坂46を背負っていると誰もが感じるのは、白石麻衣と西野七瀬だろう。しかしこの二人は、結成時からそんな存在だったわけではない。どちらも、乃木坂46としての活動を積み上げていく中で、自信や決意を持てるようになり、その延長線上に今がある。
しかし生駒里奈は違う。センターに選ばれることで、最初から、問答無用で、乃木坂46を背負わされたのだ。
彼女自身の自覚がどうなのかは分からない。「背負わされた」なのか「背負った」なのか、あるいは「背負っているつもりなどなかった」なのか。時と共に変化もするだろうし、外側から見ているだけでは分からない。しかし、外から見る限り、乃木坂46を背負っている格好に見えてしまう生駒里奈には、多くの人が様々な問いをしてきた。
「乃木坂46はどこを目指すのか?」
「AKB48との関係は?」
「乃木坂46の次の目標は?」
「乃木坂46は今どの辺りにいると思うか?」
「乃木坂46は何故◯◯が出来たか?」
…などなど。
センターに選ばれ、代表者として様々な問いかけをされ続けることで、生駒里奈は、乃木坂46について思考し、どうあるべきか志向し、様々なことを試行し続けた。その姿は、今でも変わらない。
【―3年連続の紅白、そして東京ドーム。「乃木坂46も来るとこまで来たな」みたいな実感があるんじゃないですか?
ここまで来たってよりも、私たち6年間やってきたんだなっていう方が大きいです。東京ドームに立つことよりも、東京ドームに立った時に恥ずかしくないものを作ることを考えてやって来たので、この6年間でここまで成長できたんだなっていう方が、大事なことだと思います
―なるほど。ということは、東京ドームのパフォーマンスには満足している?
足りないところもあったかもしれないですけど、ちゃんといまの自分たちができるものが、しっかり全部出せたなっていう時間でした。】「BUBUKA 2018年1月号」
これを読んで、さすが生駒里奈だな、と感じた。「東京ドームのパフォーマンスには満足している?」と問われたら、普通のメンバーなら「まだまだです」「手応えはありましたけど反省すべき点もありました」というような返答をするだろう。しかし生駒里奈は違う。100点満点をつけた、という回答ではもちろんないだろうが、自分たちがしてきたことを総合的に捉え、客観的に見て及第点をつけられる、という判断をしている。生駒だからこそ出来る発言とも言える。
【―東京ドームを良い意味で特別なものとして扱いすぎないのは、乃木坂46らしくて良かったと思います。生駒さん自身も東京ドームを特別なものとして捉えなかった?
私は感じなかったです。なぜなら、私たちにとっては神宮が特別だから。(中略)そういう神宮でみんながやってきた経験があるから東京ドームに立てているので。神宮のおかげで東京ドームが全く怖くなかった】「BUBUKA 2018年1月号」
これも生駒らしい返答だ。「東京ドームを特別だと感じなかった」という発言は、他のメンバーもインタビューで口にしていたが、その理由を「神宮」に求める意見は初めてだ。普段から、自らに様々なことを問いかけ答え続ける習慣を持っていなければ、こういう返し方は出来ないだろう。
【―そうしてたどり着いた東京ドーム。生駒さんはここを「到達点」だと思いますか?それとも「通過点」?
どちらでもないと思います。ここを目指してやってきたわけでもないし、そもそも武道館で何人埋めましたとか、さいたまスーパーアリーナで何人動員しましたとかが目録になってしまいがちですけど、私はそれが大事だとは思わないので。それよりもそういう勲章に恥じないグループになっていることが大事だと考えています。】「BUBUKA 2018年1月号」
これは、問いそのものが良くないと僕は感じる。生駒が「到達点」と返すわけがないと分かっていて、「通過点」という返答をさせようとする誘導的な質問にしか感じられないからだ。しかし、さすが生駒である。「通過点」という返答をせずに、どちらでもないと返しながら自分の意見を言う。問いかけられて初めて答えを考えるのではなく、予め考えている事柄だからこそこういうことが出来るのだと思う。
こんな風に生駒は、宿命的に乃木坂46というものについて考え続けている。正直に言えば彼女は、以前ほど注目される存在ではなくなっているはずだ。白石麻衣・西野七瀬という二大巨頭が乃木坂46を牽引し、齋藤飛鳥や衛藤美彩など、アンダーから這い上がって人気を獲得するメンバーも出てきた。秋元真夏、松村沙友理、高山一実と言った安定的に人気を得続けているメンバーもいるし、そういう中にあって、どうしても生駒里奈の存在感は、センターをやり続け乃木坂46をその小さな身体全体で背負っていた頃と比べれば、小さくなってしまっていると感じる。
恐らくそれは、彼女自身も理解していることだろう。かつて雑誌のインタビューで、もう一度センターに立ちたいと宣言したことがあった。そこで、【私はいまの乃木坂46を取り巻く状況、乃木坂46の中で起きていること、全部じゃないかもしれないけど、理解してるつもりだし、いまの私がそこにいけない理由、センターになれない理由もわかっています。】「BRODY 2017年6月号」と発言している。直接的な言及ではないにせよ、彼女が、今の乃木坂46の中で、自分がセンターにいる必然性がないと感じていることが、自身の立ち位置を認識しているのではないかと僕が考える理由だ。
そういう現状をどう感じているのか、それが分かるような発言は僕の視界には入ってこないが、彼女の決意が伝わるこんな発言はある。
【安定も名誉もいらない。私は常に崖を登っていたい】「BUBUKA 2018年1月号」
乃木坂46における「安定」や「名誉」が何を指すものなのか、僕にははっきりとは分からないが、「常に崖を登っていたい」という意志は、生駒らしいと感じる。アイドルとしての彼女の在り方は、常に「崖を登る」ようなものだった。何も分からない状態からのセンター、センターなのに「プリンシパル」で選ばれない辛さ、AKB48との兼任など、常に生駒里奈は乃木坂46において、道なき道を進んできた。「生駒の生来の性格」と「アイドル」というのは対極にあるもので、だからこそアイドルであり続けることは彼女にとっては常に挑戦だった。挑戦する意志が、彼女をここまで連れてきたのだ。
そんな生駒里奈は今、ステージ上に自分の居場所を見出そうとしている。
【アイドルは向いてなくて本当に申し訳ないって思っているけど、ダンスをやっている時は楽しかったし、キラキラできる自分を見つけられて、これからもそれでお金をもらいたいって思ったから。きっとステージ上の自分は誰かを幸せにできると信じて、そこは自信を持ってやってきたし、これからもやっていきたいです。それを見つけられた人生で本当に良かった】「BUBUKA 2018年1月号」
僕は乃木坂46のライブを見たことがないので、ステージ上で彼女がどんな風でいるのか知らない。しかし僕にとってこの発言は、ホッとさせるものだった。何故なら冒頭で書いたように、生駒里奈は乃木坂46を背負わされた人だったからだ。
これまでは、自分の身を削るようにして、乃木坂46のためにどうすべきかを考え行動してきたはずだ。もちろん、今だってその気持ちを捨ててはいないだろう。しかし、乃木坂46が大きくなり、比較的広く認知されたことで、彼女が身を削ってまで乃木坂46に奉仕しなければならない状態は終わったのかもしれない。個々に力がついてきて、一人一人が乃木坂46を代表できるような存在になってきているし、その循環がうまく行っている。それ故に、生駒里奈の負担が減った、というか、彼女自身がそう思えるようになった、ということなのではないかと思うのだ。
そうなってみてようやく彼女は、アイドルとして自分がどうありたいかを考えられるようになったのではないだろうか。だからこそ、前述したような「センター宣言」も飛び出したのだろう。もちろん、自分がセンターになることが乃木坂46のためになると考える部分もあるだろうが、「今まではなりたいと思ってセンターになったわけじゃないけど、今度はなりたいと思ってセンターをやりたい」という、自分の希望もそこには含まれているのだろうと思う。
とはいえ、生駒里奈にとって「アイドル」とはなかなか複雑な存在だ。
【アイドルをしている瞬間は最高に楽しいんですよ。そこに自分の素を求められたりすると、あたふたしちゃうんですけど】「anan No.2066」
そう言ったかと思えば、
【―アイドルって難しいですか?
はい。アイドルって矛盾だと思っています。私はそこが理解できないから難しい。芸能人は人気商売なところもあるので、その人を好きになってもらわないといけない部分はあるけど、私は私自身ではなくて、私が何かやってる時のその時間が好き、空間が好きって思ってもらいたいんです】「BUBUKA 2018年1月号」
と言ったりもする。これも僕は、解放から来る戸惑いなのだと思っている。今までは、「アイドルとして自分がどうありたいか」という問いなど、自分の内側に存在しなかったのだろう。「乃木坂46の生駒里奈としてどうあるべきか」という問いと奮闘し続けてきたはずだ。だから、少し肩の荷が下り、一人のアイドルとして振る舞えるようになった今、「アイドルとしてどうありたいか」という、多くの1期生が既に通り抜けただろう問いに囚われているということだろう。それはある意味で、彼女にとっては幸せなことなんだと思う。
アイドルとしてどうありたいかと悩む彼女も、やりたいことは明確だ。
【別に私のことを好きになってもらわなくても構わないから、私を見たその時間だけは「うわっ!」と思ってもらいたいんです】「BUBUKA 2018年1月号」
彼女は、自分のパフォーマンスで観客を驚かせたい。乃木坂46を一身に背負っていた少女が、自分の願望を口に出し、ステージ上で生きようと決意する。生駒里奈がそんな決断が出来るくらいに乃木坂46は大きくなったのだな、としみじみしてしまった。
東京ドームのステージで、彼女はこんな風に語った。
【今、こうして乃木坂46で東京ドームのステージの上に立って、昨日と今日、ここまでやってきて、すごく実感したことがあるんです。それは、「自信を持つということはこういうことなんだな」っていうことです。「自信は、ステージの上に立つ人間は必ず持たなきゃいけないもの」と初期のころに言われて、メンバーにも、スタッフさんにも、ファンの皆さんにも、「自信を持って頑張って」って言われてきました。それがずっと自分には持てなくて、その言葉が一番キライだった時期もありました。
でも今、分かったような気がします。ここでみんなで笑顔で歌って踊ること。そのことが、「自信を持つ」ということなんじゃないかなと思いました。それを気づかせてくれたメンバーのみんなと、そしてファンの皆さんに感謝を伝えたいなと思います。本当にありがとうございます。】「月刊AKB新聞 2017年11月号 東京ドームコンサート特集」
スクールカーストの最底辺にいていじめられており、自信がなく、オーディションに猫背で登場した田舎の少女が、東京ドームのステージで「自信」について語る。小さな身体で乃木坂46を支え続けてきた少女が、ステージ上でパフォーマンスする喜びを語る。人気者がゴロゴロ育った乃木坂46の中で、少しずつ存在感が後退してしまっている現状を彼女自身がどう捉えているのかは推し量りようがないが、ここでなら生きられるという場所を見定められた人間は強いはずだ。すぐにとは言わないから、生駒里奈がまたセンターに返り咲く日が来るといいと切に願う。
「乃木坂46の背骨から、一人のアイドルへ・生駒里奈」
今、名実ともに乃木坂46を背負っていると誰もが感じるのは、白石麻衣と西野七瀬だろう。しかしこの二人は、結成時からそんな存在だったわけではない。どちらも、乃木坂46としての活動を積み上げていく中で、自信や決意を持てるようになり、その延長線上に今がある。
しかし生駒里奈は違う。センターに選ばれることで、最初から、問答無用で、乃木坂46を背負わされたのだ。
彼女自身の自覚がどうなのかは分からない。「背負わされた」なのか「背負った」なのか、あるいは「背負っているつもりなどなかった」なのか。時と共に変化もするだろうし、外側から見ているだけでは分からない。しかし、外から見る限り、乃木坂46を背負っている格好に見えてしまう生駒里奈には、多くの人が様々な問いをしてきた。
「乃木坂46はどこを目指すのか?」
「AKB48との関係は?」
「乃木坂46の次の目標は?」
「乃木坂46は今どの辺りにいると思うか?」
「乃木坂46は何故◯◯が出来たか?」
…などなど。
センターに選ばれ、代表者として様々な問いかけをされ続けることで、生駒里奈は、乃木坂46について思考し、どうあるべきか志向し、様々なことを試行し続けた。その姿は、今でも変わらない。
【―3年連続の紅白、そして東京ドーム。「乃木坂46も来るとこまで来たな」みたいな実感があるんじゃないですか?
ここまで来たってよりも、私たち6年間やってきたんだなっていう方が大きいです。東京ドームに立つことよりも、東京ドームに立った時に恥ずかしくないものを作ることを考えてやって来たので、この6年間でここまで成長できたんだなっていう方が、大事なことだと思います
―なるほど。ということは、東京ドームのパフォーマンスには満足している?
足りないところもあったかもしれないですけど、ちゃんといまの自分たちができるものが、しっかり全部出せたなっていう時間でした。】「BUBUKA 2018年1月号」
これを読んで、さすが生駒里奈だな、と感じた。「東京ドームのパフォーマンスには満足している?」と問われたら、普通のメンバーなら「まだまだです」「手応えはありましたけど反省すべき点もありました」というような返答をするだろう。しかし生駒里奈は違う。100点満点をつけた、という回答ではもちろんないだろうが、自分たちがしてきたことを総合的に捉え、客観的に見て及第点をつけられる、という判断をしている。生駒だからこそ出来る発言とも言える。
【―東京ドームを良い意味で特別なものとして扱いすぎないのは、乃木坂46らしくて良かったと思います。生駒さん自身も東京ドームを特別なものとして捉えなかった?
私は感じなかったです。なぜなら、私たちにとっては神宮が特別だから。(中略)そういう神宮でみんながやってきた経験があるから東京ドームに立てているので。神宮のおかげで東京ドームが全く怖くなかった】「BUBUKA 2018年1月号」
これも生駒らしい返答だ。「東京ドームを特別だと感じなかった」という発言は、他のメンバーもインタビューで口にしていたが、その理由を「神宮」に求める意見は初めてだ。普段から、自らに様々なことを問いかけ答え続ける習慣を持っていなければ、こういう返し方は出来ないだろう。
【―そうしてたどり着いた東京ドーム。生駒さんはここを「到達点」だと思いますか?それとも「通過点」?
どちらでもないと思います。ここを目指してやってきたわけでもないし、そもそも武道館で何人埋めましたとか、さいたまスーパーアリーナで何人動員しましたとかが目録になってしまいがちですけど、私はそれが大事だとは思わないので。それよりもそういう勲章に恥じないグループになっていることが大事だと考えています。】「BUBUKA 2018年1月号」
これは、問いそのものが良くないと僕は感じる。生駒が「到達点」と返すわけがないと分かっていて、「通過点」という返答をさせようとする誘導的な質問にしか感じられないからだ。しかし、さすが生駒である。「通過点」という返答をせずに、どちらでもないと返しながら自分の意見を言う。問いかけられて初めて答えを考えるのではなく、予め考えている事柄だからこそこういうことが出来るのだと思う。
こんな風に生駒は、宿命的に乃木坂46というものについて考え続けている。正直に言えば彼女は、以前ほど注目される存在ではなくなっているはずだ。白石麻衣・西野七瀬という二大巨頭が乃木坂46を牽引し、齋藤飛鳥や衛藤美彩など、アンダーから這い上がって人気を獲得するメンバーも出てきた。秋元真夏、松村沙友理、高山一実と言った安定的に人気を得続けているメンバーもいるし、そういう中にあって、どうしても生駒里奈の存在感は、センターをやり続け乃木坂46をその小さな身体全体で背負っていた頃と比べれば、小さくなってしまっていると感じる。
恐らくそれは、彼女自身も理解していることだろう。かつて雑誌のインタビューで、もう一度センターに立ちたいと宣言したことがあった。そこで、【私はいまの乃木坂46を取り巻く状況、乃木坂46の中で起きていること、全部じゃないかもしれないけど、理解してるつもりだし、いまの私がそこにいけない理由、センターになれない理由もわかっています。】「BRODY 2017年6月号」と発言している。直接的な言及ではないにせよ、彼女が、今の乃木坂46の中で、自分がセンターにいる必然性がないと感じていることが、自身の立ち位置を認識しているのではないかと僕が考える理由だ。
そういう現状をどう感じているのか、それが分かるような発言は僕の視界には入ってこないが、彼女の決意が伝わるこんな発言はある。
【安定も名誉もいらない。私は常に崖を登っていたい】「BUBUKA 2018年1月号」
乃木坂46における「安定」や「名誉」が何を指すものなのか、僕にははっきりとは分からないが、「常に崖を登っていたい」という意志は、生駒らしいと感じる。アイドルとしての彼女の在り方は、常に「崖を登る」ようなものだった。何も分からない状態からのセンター、センターなのに「プリンシパル」で選ばれない辛さ、AKB48との兼任など、常に生駒里奈は乃木坂46において、道なき道を進んできた。「生駒の生来の性格」と「アイドル」というのは対極にあるもので、だからこそアイドルであり続けることは彼女にとっては常に挑戦だった。挑戦する意志が、彼女をここまで連れてきたのだ。
そんな生駒里奈は今、ステージ上に自分の居場所を見出そうとしている。
【アイドルは向いてなくて本当に申し訳ないって思っているけど、ダンスをやっている時は楽しかったし、キラキラできる自分を見つけられて、これからもそれでお金をもらいたいって思ったから。きっとステージ上の自分は誰かを幸せにできると信じて、そこは自信を持ってやってきたし、これからもやっていきたいです。それを見つけられた人生で本当に良かった】「BUBUKA 2018年1月号」
僕は乃木坂46のライブを見たことがないので、ステージ上で彼女がどんな風でいるのか知らない。しかし僕にとってこの発言は、ホッとさせるものだった。何故なら冒頭で書いたように、生駒里奈は乃木坂46を背負わされた人だったからだ。
これまでは、自分の身を削るようにして、乃木坂46のためにどうすべきかを考え行動してきたはずだ。もちろん、今だってその気持ちを捨ててはいないだろう。しかし、乃木坂46が大きくなり、比較的広く認知されたことで、彼女が身を削ってまで乃木坂46に奉仕しなければならない状態は終わったのかもしれない。個々に力がついてきて、一人一人が乃木坂46を代表できるような存在になってきているし、その循環がうまく行っている。それ故に、生駒里奈の負担が減った、というか、彼女自身がそう思えるようになった、ということなのではないかと思うのだ。
そうなってみてようやく彼女は、アイドルとして自分がどうありたいかを考えられるようになったのではないだろうか。だからこそ、前述したような「センター宣言」も飛び出したのだろう。もちろん、自分がセンターになることが乃木坂46のためになると考える部分もあるだろうが、「今まではなりたいと思ってセンターになったわけじゃないけど、今度はなりたいと思ってセンターをやりたい」という、自分の希望もそこには含まれているのだろうと思う。
とはいえ、生駒里奈にとって「アイドル」とはなかなか複雑な存在だ。
【アイドルをしている瞬間は最高に楽しいんですよ。そこに自分の素を求められたりすると、あたふたしちゃうんですけど】「anan No.2066」
そう言ったかと思えば、
【―アイドルって難しいですか?
はい。アイドルって矛盾だと思っています。私はそこが理解できないから難しい。芸能人は人気商売なところもあるので、その人を好きになってもらわないといけない部分はあるけど、私は私自身ではなくて、私が何かやってる時のその時間が好き、空間が好きって思ってもらいたいんです】「BUBUKA 2018年1月号」
と言ったりもする。これも僕は、解放から来る戸惑いなのだと思っている。今までは、「アイドルとして自分がどうありたいか」という問いなど、自分の内側に存在しなかったのだろう。「乃木坂46の生駒里奈としてどうあるべきか」という問いと奮闘し続けてきたはずだ。だから、少し肩の荷が下り、一人のアイドルとして振る舞えるようになった今、「アイドルとしてどうありたいか」という、多くの1期生が既に通り抜けただろう問いに囚われているということだろう。それはある意味で、彼女にとっては幸せなことなんだと思う。
アイドルとしてどうありたいかと悩む彼女も、やりたいことは明確だ。
【別に私のことを好きになってもらわなくても構わないから、私を見たその時間だけは「うわっ!」と思ってもらいたいんです】「BUBUKA 2018年1月号」
彼女は、自分のパフォーマンスで観客を驚かせたい。乃木坂46を一身に背負っていた少女が、自分の願望を口に出し、ステージ上で生きようと決意する。生駒里奈がそんな決断が出来るくらいに乃木坂46は大きくなったのだな、としみじみしてしまった。
東京ドームのステージで、彼女はこんな風に語った。
【今、こうして乃木坂46で東京ドームのステージの上に立って、昨日と今日、ここまでやってきて、すごく実感したことがあるんです。それは、「自信を持つということはこういうことなんだな」っていうことです。「自信は、ステージの上に立つ人間は必ず持たなきゃいけないもの」と初期のころに言われて、メンバーにも、スタッフさんにも、ファンの皆さんにも、「自信を持って頑張って」って言われてきました。それがずっと自分には持てなくて、その言葉が一番キライだった時期もありました。
でも今、分かったような気がします。ここでみんなで笑顔で歌って踊ること。そのことが、「自信を持つ」ということなんじゃないかなと思いました。それを気づかせてくれたメンバーのみんなと、そしてファンの皆さんに感謝を伝えたいなと思います。本当にありがとうございます。】「月刊AKB新聞 2017年11月号 東京ドームコンサート特集」
スクールカーストの最底辺にいていじめられており、自信がなく、オーディションに猫背で登場した田舎の少女が、東京ドームのステージで「自信」について語る。小さな身体で乃木坂46を支え続けてきた少女が、ステージ上でパフォーマンスする喜びを語る。人気者がゴロゴロ育った乃木坂46の中で、少しずつ存在感が後退してしまっている現状を彼女自身がどう捉えているのかは推し量りようがないが、ここでなら生きられるという場所を見定められた人間は強いはずだ。すぐにとは言わないから、生駒里奈がまたセンターに返り咲く日が来るといいと切に願う。
「乃木坂46の背骨から、一人のアイドルへ・生駒里奈」
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