持たない幸福論(pha)
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本書の中で、僕にとって最も重要な部分をまずは抜き出してみよう。
『大切なのは、周りに流されずに「自分にとって本当に必要なのは何か」「自分は何によって一番幸せになるか」という自分なりの価値基準をはっきり持つことだ』
人生にとって最も大事なことはこれぐらいだろう、と僕も思う。
昔は僕も、生きているのがしんどいなと思っていた。今でもまったく思わないではないんだけど、ほとんどそう感じることはなくなった。自分の考え方を、長い時間を掛けて変化させてきたからだ。
そう、「幸せ」というのは案外、考え方の変化によって単純に手に入る。
著者は、
『今の日本は物質的にも豊かで文化も充実していて治安もいいのに、こんなに生きるのがつらそうな人が多いのはちょっと変じゃないだろうか』
と問題提起する。僕もそう思う。実におかしい。とはいえ、僕も昔はそういう人の中にいたので、気持ちは分かる。そう、生きるのは辛い。何よりも辛かったのは、自分が何故生きづらさを感じているのかがよく分からなかったからだ。
生きづらさを感じる理由を、著者はこう書く。
『要は、多くの人が普通にこなせないものを「普通の理想像」としてしまっているから、みんなその理想とギャップで苦しむのだ』
これも、まさにその通り。僕は徐々にそのことに気づくことが出来た。自分を苦しめているものの正体を見極めることが出来た。だからそこから逃げ出して、自分なりの生き方をゼロから組み立てることが出来るようになったのだ。
多くの人が「普通の理想像」として抱いている、普通にはこなせないものを挙げてみよう。
「正社員になる」「結婚する」「子どもを育てる」「子どもに良い教育をさせる」「老後の蓄えをする」「家を買う」「病気にならない」…などなど。
こういうものを皆、「自分の人生で出来て当たり前だ」と感じている。しかし、こうやって挙げたものすべてを実現できる人って、人口の何%ぐらいいるだろう?分からないけど、間違いなく半分以下だろうし、もしかしたら1/4以下かもしれない。
僕たちは、そういう「多くの人が実現できない未来」を「当たり前にやってくるはずの理想」と捉えている。何故なら、一昔前はそれが当たり前だったからだ。しかし、時代は凄まじい勢いで変化する。僕らは、親世代とはまったく違う社会を生きている。そういう中で、過去の価値観にしがみついて自分の人生を設計することは危険すぎるのだ。
まず僕たちは、そういう認識を持たなくちゃいけない。僕も、時間は掛かったけど、どうにか自力でそういう考えにたどり着く事ができた。
そして、その地点に立つことさえ出来れば、現代というは過去どんな時代よりも自由に満ちあふれていると感じる。
『今は、そうした「人を包括的に支える大きなメインシステム」は崩れて、何を頼ればいいかはっきり分からない時代になった。それは不安定でどう生きていったらいいかが分かりにくいということでもあるけれど、いろいろと試行錯誤しながらたくさんある選択肢の中から選ぶことができるようになったということでもある。不安定だけどそこには自由さがある。だから基本的に僕は今が今までで一番良い時代だと思っている』
凄くよく分かる。理解してもらうために、もう少し整理しよう。
一昔前は、先程挙げたような「普通の理想像」が、特に苦労しなくても実現できる時代だった。しかし同時に、その「普通の理想像」から外れた生き方はなかなか許容されにくい世の中でもあった。結婚しないと一人前ではないと思われていたはずだし、家も買うべきものだと捉えられていただろう。一昔前というのは、そういう「人を包括的に支えるメインシステム」に沿っていれば安定した人生を送ることは可能だったが、しかしそれ以外の生き方をする場合の抵抗力がもの凄く高い時代でもあった。
一方で現代は、「普通の理想像」は簡単には実現できない。一部の人にとっての特権的なものになっている。そういう意味ではとても厳しい時代だ。しかし一方で、「普通の理想像」が崩壊しているという感覚が徐々に共有されていくことで、「普通の理想像」ではない生き方をする流れが出てきた。頑張っても理想に辿り着けないなら、そんなの目指さないで好きにやるわ、というような人が少しずつ出てきたのだ。そうすることで、「普通の理想像」から外れた生き方をする抵抗力が低くなった。つまり、自分にとって快適で落ち着ける生き方を自分でデザイン出来る時代、ということなのだ。
そういう意味で現代は、非常に自由な時代だな、と僕は感じるのだ。
一昔前の当たり前だった「普通の理想像」が、今は手の届かない高い理想になっている、だからそこを無理して目指さない方が充実した人生を送れる可能性が高い、ということに気づくことが出来さえすれば、そこがスタート地点になる。そしてそこから、自分にとってどの方向が快適であるのかということを自問自答しながら、自分で道を作っていくようにして進んでいけば、自分にとって生きやすい人生を選びとることが出来る。
これが、冒頭で引用した、
『大切なのは、周りに流されずに「自分にとって本当に必要なのは何か」「自分は何によって一番幸せになるか」という自分なりの価値基準をはっきり持つことだ』
ということの意味だ。
『ただ、「こんな生き方やこんな考え方もありなんだ」という選択肢の多さを紹介することで、この社会に漂っている「人間はこう生きるべきだ」という規範意識のプレッシャーを少し弱らせて、みんなが自分自身の生き方にも他人の生き方にも少しだけ寛容になって、生きることの窮屈さが少しマシになればいいなと思いこの本を書いた。』
著者がまえがきで書いているように、本書は「こんな風に生きたらいいよ」という、読者が進むべき方向性を示してくれる作品ではない。そうではなく、「そんな風に生きない方がいいよ」ということを示すことによって、今まで読者の視界に入っていなかった様々な価値観や考え方に目を向けさせるための本なのだ。
だから、本書を読んでも、読んだ人間がどう生きるべきかは分からない。当たり前だ。「自分なりの価値基準」を持たなければならないのだし、そのためには自分で考える時間が絶対に必要だ。本書は、そうやって自分なりの生き方を考える動機や、どんな風に考えたらいいのかという指針を与えてくれる。
著者は、こうも書いている。
『僕が何故本やブログを書いているかというと「知識は人を自由にする」と思っているからだ』
『本というのは「自分がぼんやりと気づきかけていることをはっきりと言葉にして教えてくれるもの」だ。本を読んで知識を得ることで、頭の中が整理されたり、考え方の選択肢を増やすことができたり、自分の周りの世界で当たり前とされていることを相対化して観ることができるようになったりする。本を読むことで僕は生きるのが楽になった』
僕も、似たようなことを考えている。僕は、「知識」もだが、「考える力」も人を自由にすると思っている。「知識」と「考える力」というのは関係があって、僕の中では、「考える力」の土台や材料となっているものが「知識」だ。「知識」だけでは考えられないが、「知識」がなければ考えられない。本を読み、考えるということを繰り返してきたこれまでの膨大な時間が、僕を色んなしがらみから解放してくれたなと本当に実感する。
本書では様々な考え方が描かれる。「働かない」「家族を作らない」「お金に縛られない」の三つをベースとしながら、著者なりの考え方が書かれていく。本書を読む上で重要なのは、そういう著者自身の考え方そのものに共感できなくても構わない、ということだ。本書は、「読者が囚われている理想を目指す必要がない」ということを説く内容だ。決して、著者自身の考えに読者を誘導しようという本ではない。仮に著者の考え方に共感できなくても、本書を読めば、自分が今理想だと考えている生き方以外にも道はあるのだ、ということを体感できるだろう。そのことが、何よりも大事なのだ。
比較的自由に生きている僕の目から見ても、著者は自由すぎる(笑)。それで生きていられるのだから凄いと感じるけど、著者と同じことは出来ないしやりたくないなと思う。しかし、それで全然いい。むしろ、「著者がこう書いているんだから、自分もまったく同じことを実践しよう」と考える方が怖い。それは結局、「社会が要請する理想」ではなく「著者が提示する理想」を盲信すると決めたというだけの話であって、「自分なりの価値基準」はそこに存在しない。いかに「自分なりの価値基準」を持つか。本書を読んで、そのことの大事さを実感してほしいと思う。
pha「持たない幸福論」
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