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機龍警察(月村了衛)



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凄まじい作品だった。
これがデビュー作とは…。月村了衛、恐るべしである。


『世界中で戦争をしているんじゃない、世界中が戦場なのだ、と。
それがテロという名の憎悪が拡散した現在の戦争だ。いや、違う。戦争の現在形だ。』

「傭兵代理店」という単語を目にしたことがある。確か、小説のタイトルだ。詳しくは知らないが、要するに戦場に派遣する傭兵を調達する代理店なのだろう。

そう、戦争は今や、フリーの契約で動く「傭兵」によって成り立っている。その方面のノンフィクションをあまり読んだことがないので、聞きかじった情報でしかないが、恐らく間違いない。

かつて戦争は、何らかの意見や価値観の対立を持つ集団同士で起こっていたはずだ。その根底にあるのが宗教なのか、経済なのか、政治なのかは様々だろうが、戦争によって対立している集団は、その集団の中で同一の価値観を有している(あるいはそうみなされる)というのが大前提だったはずだ。

しかしいつの頃からか、その前提は大きく崩れてしまった。

現在の戦争も恐らく、戦争を始めるごく少数の者たちは、かつてと同じように何らかの意見や価値観の対立でまとまる集団なのだと思う。しかし戦争が始まってしまえば、後はビジネスとなる。どんな思想を持っているかによらず(完全に関係ないとは言えないだろうが)、強い兵士を金で引っ張ってきて戦わせる。今では、戦争によって対立している集団内で、戦争のきっかけとなった事柄に関する価値観が共有されているわけではない。彼らは、ただ契約に則って、ビジネスライクに戦争をするのだ。

『変わったのは法律だけじゃない、世の中です。世の中の犯罪と人の心です』

そんな世の中に生きていれば、人の在り方は大きく変わっていくだろう。幸いにも、日本はまだ具体的な「テロ」や「戦争」に巻き込まれてはいない。かつては国内で、全共闘運動に代表されるような思想の対立があり、「テロ」と呼ぶべき争いも多々あっただろうが、恐らく日本では、「地下鉄サリン事件」以降、「テロ」と呼ぶべき事態は起こっていないのではないかと思う。

しかし、もし「テロ」が日常茶飯事の世界に生きなければならないとしたら…。

僕達は、生活スタイルや人生に対する考え方を大幅に変える必要に迫られることだろう。

本書で描かれるのは、そうした世の中になる一歩手前の日本だ。「テロ」の危険性は常にあるし、実際「テロ」も起こる。しかし頻発しているわけではない。

その状況で、国を守る責務を負う警察は、どう立ち回るべきか。

本書では、僕らが近いうちに迎えるかもしれない、現在よりもさらに殺伐とした世界における「警察」の存在意義みたいなものを突きつけてくる作品だ。そういう意味で本書は、既存の警察小説とは一線を画する作品だ。

『警察内で孤立する特捜部の専従捜査員は、皆筆舌に尽くし難い苦労を強いられている。彼らは全国の警察から引き抜かれた刑事だが、元の同僚からしてみれば、裏切り者以外の何者でもない。それでなくても特捜部は警察内部の異分子と見なされている。偏狭な体質を持つ警察組織が、特捜部に滅多なことでは情報を渡そうとしないのも当然と言えた。
それだけではない。時には悪意に基づく情報を意図的に伝えてくることがある。明白な嫌がらせであり、捜査妨害である。特に公安部にその傾向が顕著であった。』

本書の設定では、警視庁に新たに「特捜部」という部署が出来たということになっている(ありそうな部署名だが、現在は存在しないという)。その「特捜部」は、既存の警察組織では不可能な組織運営と機動力を有しており、「今のままの警察組織ではマズイ」という考えを共有している。「特捜部」の存在や捜査手法を手放しで受け入れてもいいのか、そこは様々な議論があるだろうが、本書で描かれている社会まで世の中が進んでいってしまっているのならば、やむを得ないのではないか、という感じもする。

変革は、時代によらず、様々な場面で常に起こっている。問題は、変革の最中は、それが未来を良くするものであるのかどうか、誰にも判断できないということだ。だから多くの人は、それまでのやり方にしがみつこうとする。しかし、そういう在り方ではもう、国境など関係なく繋がってしまった世界の中で、スピード感のある変化には対応しきれない。時に「特捜部」のような、変革の最中には批判を浴びるようなやり方こそ、未来を切り拓いていく可能性を持つのだ。

本書は、「警察組織」という、世の中の組織の中でも最上級にお固い組織を舞台に、それを内側からぶち壊すかのような「特捜部」という設定を組み込むことで、変革と変革に付き物の抵抗を描き出す、そんな一面も持っている作品だ。

内容に入ろうと思います。
警察法、刑事訴訟法、警察官職務執行法の改正によって、警視庁内に特殊部局が設置されることになった。「特捜部」あるいは「SIPD(Special Investigators, Police Dragoon)」と呼ばれる、刑事部・公安部などいずれの部署にも属さない特殊セクションだ。「機龍警察」とも呼ばれている。日本警察の悪夢とも称される「狛江事件」により、警察内部の抵抗勢力は封じられ、通常ではありえないセクションが誕生することになった。
その特捜部を率いるのは、元外務省の官僚である沖津旬一郎だ。彼は全国の警察から優秀な、しかも特捜部の理念に共感する者を集めると同時に、警察外部の人間もリクルートしている。

姿俊之:その世界では非常に有名な、金で契約をして戦争に従事する傭兵
ユーリ・オズノフ:元モスクワ警察の刑事。かつて指名手配されていた経歴を持つ。
ライザ・ラードナー:最悪のテロ組織と名高いIRFに所属していた元テロリスト

警察組織が雇うにはあまりに拒絶反応が高そうな彼らの経歴は程よく隠されている。とはいえ、そもそも警察組織が外部の人間をリクルートする、ということそのものに拒絶反応を示す者も多い。警察内部では、特捜部は同じ警察組織の人間とは見なされず、探偵に毛嫌いされているのが現状だ。
ある朝、住民からの通報によりパトカーが向かった廃工場から、人体を模して設計された全高3.5メートル以上に及ぶ二足歩行型軍用有人兵器「機甲兵装」3機が現れた。後に「ホッブゴブリン(第二種機甲兵装「ゴブリン」の密造コピー)」であると判明した3機は街中を逃走。人々を混乱に陥れながら、地下鉄有楽町新線千田駅構内で、ちょうど到着した列車の車内にいた人間を人質にしながら立てこもった。警察は、SATの出動を決定。SATが所有する9機の機甲兵装で鎮圧する計画を立てた。特捜部は、SATの後方支援を命じられた。機能で言えば、機甲兵装よりも遥かに性能の高い「機龍兵」を所有する特捜部は、機龍兵搭乗要員である姿・ユーリ・ライザの三人に指示を出し、計画の進展を見守る。
しかし…事態は思いがけず最悪の展開を見せた。甚大な被害を被った警察は捜査を開始、特捜部も独自に情報を収集する。
千田駅で起こった最悪のテロ。その背後では巨大な組織がうごめいているが…。
というような話です。

凄い物語でした。月村了衛の作品は2作ほど既に読んでいて、そのレベルの高さを知っていたんですけど、デビュー作である本書からこれほどのクオリティだったのかと、改めて驚かされました。

著者がどういう経緯でデビューしたのかは知らないが(少なくとも経歴を読む限り、新人賞を受賞してのデビューではないようだ)、本書は最初からシリーズ化することが想定されて書かれている。かと言って、単体の作品として劣るかというとそんなことはない。本書は、シリーズ作品の1作目としても、単体の作品としてもレベルの高い作品だ。まずそのことに驚かされる。

作品は、近未来を舞台に、これまでの警察小説とはちょっと違う描き方をする物語だ。ロボットと組織の対立という意味で言えば、『エヴァンゲリオン』×『踊る大捜査線』みたいな作品、と言えるかもしれない。様々な登場人物の過去が、世界観や物語に複雑な影響を与えている、という意味でも、『エヴァンゲリオン』の雰囲気を感じさせもする。

解説によれば、著者は、【警察が傭兵(しかも一人はテロリスト)を雇う、という状況をリアルなものにするために、機甲兵装という設定を考えだした】と語っているという。ロボットが登場する警察小説を書きたかったわけではなく、警察が傭兵を雇う物語を書きたかった、ということだ。その設計思想一つ取ってみても、本書の凄さが分かろうというものだ。普通は、「警察小説にロボットを登場させよう」と発想するだろう。

警察が傭兵を雇う物語を描きたかった、というだけあって、「特捜部」という特殊セクションの設定や、「特捜部」がいかに警察全体から嫌悪されているのかという、「特捜部」を取り巻く環境の描写は見事だ。「特捜部」の面々は、自分たちのやり方でなければ対処不可能な犯罪が目の前にあり、だからそれに全力で取り組むべきだと考える。しかし旧来の警察組織は、体面や前例などを重んじ、組織のあらゆる常識から逸脱する「特捜部」を排除しようとする。どちらが正しいか、などという議論をするつもりはないが、個人的には「特捜部」に肩入れしたくなる。

「特捜部」がそういう厳しい環境に置かれているからこそ、「特捜部」に属する面々の人間性がより色濃く浮かび上がってくる。警察組織全体から疎まれながらも、志願して「特捜部」入りした面々は、自分たちの行動が未来の日本を良くすると信じている。もちろんそう思っているのは、「特捜部」以外の警察の面々もきっと同じだろう。とはいえ、迫害されているからこそ、その意思がより強固に発揮され、小さな集団の中で連帯感が生まれていく、ということはあるだろう。

しかし、かといって「特捜部」は、完全には一枚岩にはなれない。何故なら、「特捜部」内でも、外部から招聘した傭兵に対する考え方は様々だからだ。しかも、「特捜部」の切り札である「機龍兵」は、「特捜部」の創設と同時に存在していた。つまり、「機龍兵」を誰がどのように作ったのか、ということを知る者がほとんどいないのだ。「特捜部」内でも情報が秘されているという事実は、組織を一枚岩にしようとする上で大きな障害となるだろう。

先程も書いたが、本書はシリーズの第一作目だ。本書で出てくる様々な伏線は、本書内で回収されるとは限らない。姿・ユーリ・ライザの三人を始め、登場人物たちの様々な過去が描かれていく。例えば、「機龍兵」の整備責任者である鈴石緑は、彼らの内の一人と浅からぬ因縁がある。姿が所属していたという「ディアボロス」という奇跡と賞賛される組織についても謎だ。そもそも、何故沖津が外務省の官僚から「特捜部」の部長になったのかも不明だし、「フォン・コーポレーション」という、香港財閥系企業のCEOが何を狙っているのかも不明だ。そもそも、千田駅でのテロ事件の真相は、本書では明らかにならない。本書のメインであるはずの事件を解決に導かない、なんてことをデビュー作からやってのけてしまう、ということが、やはり凄まじいなと感じるのだ。

本書ではないが、本シリーズは「日本SF大賞」と「吉川英治文学新人賞」を受賞している。同一シリーズで、SFの賞とミステリの賞を受賞した例というのは、あまり多くないのではないか。ジャンルの区分けなどまるで意味をなさないほど縦横無尽に様々な要素が組み込まれる本作は、小説の新たな未来を切り拓いていく力を持つ作品なのではないかとも思わされた。

月村了衛「機龍警察」

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3位 浅野いにお「うみべの女の子
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5位 ニコ・ニコルソン「ナガサレール イエタテール

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感想は書いてないのですけど、実はこれがコミックのダントツ1位

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